スペイン出張報告 ~スペイン最大級のワインフェア“Fenavin”で、リアス・バイシャスの白ワインを探してきました (営業 寺坂 和也)
皆さん、こんにちは。スペイン担当の寺坂です。 5月に初めてスペインに行き、2年に1度シウダ・レアルで開催されるスペイン最大規模のワインフェア“Fenavin”でリアス・バイシャスのワインを集中的に試飲してきました。
何故リアス・バイシャスなのか?
今年4月、私同様スペイン担当である戸谷のニュースレターにて、リアス・バイシャスを始め、リベイロ、リベイラ・サクラと、ガリシア地区全体の説明をさせて頂きました。リアス・バイシャスはアルバリーニョを中心とした白ワインを、リベイロはトレイシャドゥーラを中心とした白ワインを、リベイラ・サクラはメンシアを中心とした赤ワインをそれぞれ生産しています。今回の目的はあくまで白ワインなので、リアス・バイシャスとリベイロ中心の試飲となりました。
特にリアス・バイシャスに関しては、ここ 20年で産業としてのワイン生産が発展し、産地全体の品質が向上してきています。フィラディスも優位性の高いスペインの白ワイン産地としてこれまでずっと注目してきました。しかしながら、リアス・バイシャスのワインでいいな、と思うものは、他の産地に比べ価格が高めのものがほとんど、反面、価格が安いものは水っぽくてうすいワインが多く、何度か検討したのですが、価格に見合ったコストパフォーマンスの高いワインを見つけることが出来ませんでした。しかし近年、生産量の著しい増加に伴い、生産者たちは、よりいいワインを競争力のある価格で販売しようとする傾向になり、価格の適性化がもたらされました。最近のスペインの経済事情の悪化も価格が下がってきた要因になっているようです。そのような訳で、ようやくフィラディスが、コストパフォーマンスに優れた、スペイン白ワインとして最も注目すべき“リアス・バイシャス”のワインをお客様にご紹介出来る日が来たのです。
少しおさらいになりますが、ガリシア州は大西洋に面したリアス式海岸沿いにあり、古代より漁業が盛んな地域です。その中で最も海に近い産地のリアス・バイシャスのワインは全体的に塩味が強く、グラニテ(花崗岩)土壌のため、石灰由来ではないやわらかいミネラルから“海のワイン”とも言われています。この塩味、土壌由来のやわらかいミネラルと美しい酸、そして優しさと強さを兼ね備えたリアス・バイシャスの白ワインが、魚介類と相性がいいのは言うまでもありません。天ぷらなどの和食との相性も最高です。島国で生まれ育った私たち日本人に欠かせない食材である魚介類。『スペイン最高の白ワインであるリアス・バイシャスのワインを、是非とも魚料理と一緒に楽しんで頂きたい!』という思いを胸に、いざ試飲です。
Fenavin(フェナビン)とは??
元々、スペインワインの見本市と言えば“アリメンタリア”が有名です。アリメンタリアは、 2年に1度スペインのバルセロナで開催されるスペイン最大級の食品展で、開催回数は20回にも及びます。(ちなみにスペインで開催されない年は、ポルトガルで開催されます。)対して、今年でまだ7回目の開催となるフェナビンは、ラマンチャ地方のシウダ・レアルで 2年に1度、アリメンタリアがスペインで開催されない年に開催されるスペイン最大規模のワインフェアです。フェナビンは開催の初期から、「国際視野を広め、世界でも重要なワイン市場にスペインワインを供給していこう。」という国際ビジネスを主たる目的としています。スペイン全土から沢山の生産者が集まり、現在出展数は 1,200を越え、世界54カ国からバイヤーが訪れます。今回私たちは、出展されていたリアス・バイシャスとリベイロのすべてのワインを試飲しました。
リアス・バイシャスのテロワールと近年の成長
リアス・バイシャスは年間の平均気温 14℃、年間平均降水量1500mmと、スペインの中では最も涼しい産地です。また、内陸のカスティーリャ・イ・レオン州や地中海に面したカタルーニャ州など、他の有名なスペインのワイン産地に比べると、リアス・バイシャスは年間を通じて雨量に恵まれた産地なのです(地中海性気候であるカタルーニャ州でも年間平均降水量は1000mmです)。リアス・バイシャスのワインは、そのほとんどがアルバリーニョから造られる白ワインです。アルバリーニョは非常に香り高く、酸が豊かでミネラル感が強いという特徴を持っており、スペインの白ワイン用ブドウの中では最も高貴な品種とされています。
このアルバリーニョの生育には、ある程度の雨が必要とされている為、雨量に恵まれたリアス・バイシャスの気候が良く適しているのです。さらに前述した通り、リアス・バイシャスは基本的に土壌のほとんどがグラニテ(花崗岩)土壌であるため、土壌に保水性がなく、根はグングンと地下深くまで伸び、ミネラルを多く含むワインを生み出します。このリアス・バイシャス特有の気候とグラニテ土壌により、アルバリーニョの個性が存分に引き出されて、花のように芳しく瑞々しいワインとなるのです。世界的に見ても、アルバリーニョという品種がほとんどこの地域でしか生産されていない理由がここにあります。ちなみにリアス・バイシャスから続く、国境を越えたポルトガルでもアルバリーニョは栽培されており、一部の高級ヴィーニョ・ヴェルデに使われています。
これまでは、スペインと言えばリオハやリベラ・デル・ドゥエロ等のテンプラニーリョ主体の赤ワインが有名でしたが、近年のリアス・バイシャスは商業的にも大幅に成長してきています。1987 年には栽培農家数 500 軒・ボデガ数14 軒・総生産量60 万ℓであったのが、現在では栽培農家数 4200 軒・ボデガ数130 軒・総生産量5500 万ℓとなっています。生産者数は約 10 倍、生産量はなんと 90 倍以上です。リアス・バイシャスの優位性を考えればこの成長は必然ではないでしょうか。
さて、一口にリアス・バイシャスと言っても、実は生産地域が大きく5 つのリージョン(小地区)に分けられおり、それぞれの地区によって味わいにも違いがあります。南から「オ・ロサル」、「コンダード・ド・テア」、「ソウトマイオール」、「バル・ド・サルネス」、「リベイラ・ド・ウリャ」です。今回はこれら 5 つのリージョンの味わいの違いについても注目してみました。
リアス・バイシャスの5 リージョンの違いとは?
それでは、リージョン毎の違いについて説明していきます。
まずは、“バル・ド・サルネス”です。北部リアス式海岸沿いのバル・ド・サルネスは代表的な産地とされており、リアス・バイシャスの総生産量の 2/3 を占めている非常に重要なリージョンです。大西洋から潮風の影響を強く受けている為、味わいに塩味を伴うワインが多く、また、土壌中のグラニテ比率も高い為、非常にミネラル豊かでストラクチャーのしっかりとしたワインが生まれます。全体的に中心的でアルバリーニョの特徴を活かした、バランスのとれた味わいのワインが多く見られます。
続いては“リベイラ・ド・ウリャ”です。リベイラ・ド・ウリャは、バル・ド・サルネスよりは雨が多く、グラニテ比率が低めで沖積土壌が多いため、他の産地に比べるとミネラル感が穏やかで果実感を良く感じる事が出来ます。雨が多い産地であるが故に、仕立ては棚仕立てを採用しているところが多く、害虫からの被害を防いでいます。他に棚仕立てにする理由としては、風通りを良くする効果があることで、大西洋から吹いてくる風のメリットを最大限に活かすことができるようになります。また、冷涼な気候のためブドウが完熟しにくいという問題を解決するために、ブドウの葉が太陽にあたる面積を最大に広げられる仕立てでもあるのです。反面、機械によって収穫することが出来ず、全て人の手で収穫するため、多大な労力が必要となってしまいます。しかしその分得られるブドウの品質は向上するので、より高品質な味わいのワインが生まれるのです。リベイラ・ド・ウリャは、黄桃や杏などの丸い果実が豊かで、ふくよかな味わいのワインです。今回の試飲会でもバル・ド・サルネスの次に出展数が多く、全体的に味わいのクオリティーが高かったということを考えると、今後注目されるべきリージョンだと思います。
次は、5 つのリージョンの中で最も暖かい“コンダード・ド・テア”についてです。コンダード・ド・テアは、海岸から最も離れた内陸にあり、強いミネラルがワインの中心軸となっている為、芯がしっかりとしたパワフルなワインとなります。南国系のバナナを思わせるようなトロピカルで厚みのある果実もみられ、非常にスケール感の大きい、力強い味わいのワインです。
4 つ目は、南西端に位置し大西洋に流れるミーニョ河の河口周辺にある“オ・ロサル”です。最も南に位置する産地である為、果実の熟度は高く、バル・ド・サルネスに比べると酸が穏やかで、柔らかな味わいのワインが生まれます。リアス・バイシャスの中では他のエリアと比べると酸が細く感じますが、全体的なバランスは良く、特有の柔らかな味わいは、他のリージョンには無いアルバリーニョの新たな魅力があるともいえます。
最後に“ソウトマイヨール”ですが、非常に小さなリージョンであり、今回の試飲会でもまだ出展している生産者が無かったので、特徴を比較することが出来ませんでした。今後試飲する機会が欲しいところです。
リアス・バイシャスのワインは全体的にクオリティーの高いものが多いですが、各リージョンや生産者の個性によってその味わいは大きく変わってきます。リージョンごとのイメージは、『塩味・ミネラル感のバル・ド・サルネス』、『果実味豊かでふくよかなリベイラ・ド・ウリャ』、『力強く、スケール感が大きいコンダード・ド・テア』、『酸が穏やかで柔らかなオ・ロサル』という印象です。
これまでリアス・バイシャスの中心であったバル・ド・サルネス以外のリージョンの成長も、リアス・バイシャス全体の品質の底上げに繋がっていて、今後のリアス・バイシャスはまだまだ成長が期待出来る産地であると確信しました。価格も幅広く、すばらしいワインを見つけられましたで、フィラディスが選ぶスペイン最高峰の白ワインにご期待下さい!
樹齢 140 年の古樹に出会いました!
今回のスペイン出張では、D.O.トロのワイナリーであるEternum Vitiのワイナリーにも訪問し、樹齢140 年のプレフィロキセラの古樹に出会いました。
D.O.トロと言えば、スペインの中でモダンな造りのティンタ・デ・トロ(テンプラニーリョ)のワインで注目を集めている産地です。現在のトロのブドウ栽培面積は 5500haを超え、約40 のワイナリーがあり、1000 人以上のブドウ栽培者がいます。トロは、カスティーリャ・イ・レオン州の中でも最も気温が高く乾燥した地域である為、トロで栽培されたブドウは素晴らしい成熟を成し得るのです。19 世紀には、フィロキセラにより深刻なダメージを被ったフランスへかなりの量のワインが輸出されました(トロの畑はフィロキセラの害を受けていません)。また、近年ではステンレス製設備が普及したことにより、ワイン造りの管理が改善され、品質が劇的に向上している産地です。
1999年にスタートしたEternum Vitiのワイナリーは、総面積は65ヘクタールで、その内の25ヘクタールが自社畑、自社畑の内3 ヘクタールは樹齢がなんと 140 年以上の古樹だそうです。もちろん、プレフィロキセラです。ワイナリーが所有する畑も、気温が高く非常に乾燥した産地であるが故に、昔から害虫がよりつかず農薬も使用する必要が無いので、全てオーガニックで栽培されています。基本的には株仕立て(ゴブレ)で、極めて低い仕立てなのですが、水はけの良い砂質の土壌である為、新たな害虫も寄りつきません。仕立てが低いということは地面からの熱を受けることも出来、より完熟したブドウを収穫することが出来ます。また、古樹1 本 1 本の間隔も十分な為、栄養も十分に取ることが出来るので、140 年という高樹齢の樹であってもブドウの実を付けることができるのです。140 年の樹齢の古樹からは、弊社取り扱いのLos Colmillosが生産されており、非常に高樹齢であるが故、収量は非常に少なく、1 本の樹から 1 本のワインが生み出されます。
こんな樹に出会うことができて感激のひとことなのですが、実は今回の訪問でいちばんの驚きは超高樹齢の古樹よりも、とてもきれいな砂質土壌でした。歩くとその足跡が綺麗に残る程で、表面はまるで砂浜のように柔らかでした。砂質土壌の 5 メートル下は粘土石灰の土壌になっています。そのためここでは、粘土石灰由来のパワフル且つミネラリーで、そこに古樹の強さと複雑さが加わり、尚且つ砂質由来の柔らかさと軽やかさが複雑に交じり合うワインが出来るのです。Eternum Vitiや Los Colmillosが、トロらしいパワフルな一面をもちながら、最大の魅力である“エレガントさ”を持ったワインとなっている由来を理解することが出来ました。
さて当日、現地のレストランで、牛肉を煮込んだ濃厚な味わいのトロの伝統料理とEternum Vitiを合わせてみました。パワフルな味わいの牛肉の煮込みに、現地トロのワインを合わせて相性が良いのは当然と思うのですが、Eternum Vitiとのマリアージュは特に最高なのです!味わいのアタックでは牛肉の濃さ、パワフルさにEternum Vitiのパワフルさがマリアージュし、中盤は牛肉の柔らかさと旨みにEternum Vitiの果実の柔らかさとミネラル感、芯の強さがきれいに混ざり合います。また、煮込みの複雑な味わいに、 Eternum Vitiの複雑で奥行きある味わいが相乗効果を生み出し、さらに余韻の香り、味わいの部分で Eternum Vitiの最大の魅力であるエレガントさがより引き立っていて、正にベストマリアージュでした。『煮込み系の肉にはトロのワイン』は間違いありません。
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