Saint Prefert(サン・プレフェール) オンラインワイナリーツアー レポート
- 2021.03.11
- コラム
- ワイン,ローヌ,シャトーヌフデュパプ
シャトーヌフ・デュ・パプの女神 ~ イザベル・フェランド物語 ~
サン・プレフェール当主イザベルとの出会い
弊社がサン・プレフェールの正規代理店としての取り扱いを開始したのは、2005年ヴィンテージからです。シャトーヌフ・デュ・パプのサン・プレフェールというワイナリーが、当主が変わってとても良いらしいという噂を耳にした代表の石田が興味を持ち、すぐにワイナリーの訪問を決めました。
フィラディスでは輸入するワイナリーを選ぶ時には必ずそのワイナリーを訪問して、どういう環境でどんな方がワイン造りをしているかを確かめるのですが、サン·プレフェールに訪問したのは収穫が終わって醸造が佳境を迎えた非常に忙しい時でした。本来ならこの時期の訪問は避けるのですが、収穫のタイミングが変わってしまったためにこのタイミングで伺うことになってしまいました。
その時のイザベルは、目の下に黒々としたクマをつくって、鬼気迫るオーラをまとっていました。まだワイナリーを設立して間もなく、昼も夜も関係なく発酵の様子を見に行き、一瞬たりとも心が休まる時間がなかったのです。押し寄せる不安に膨大なパワーで立ち向かっていることがイザベルの姿から見て取れ、彼女の造るワインは間違いなく素晴らしいものになると石田は確信しました。彼女がワイナリーを買い取って初めてワインを造った年が偶然にも弊社の創業と同じ2003年だったことにも不思議な縁を感じ、すぐにその場で、絶対に私たちにワインを売らせてほしいと口説き落としたのでした。
その後、2007年にはロバート·パーカーの評価で100点を獲得するという偉業を成し遂げ、その後も常に高評価を得るような素晴らしいワインを生み出し続けています。
今回のニュースレターでは、2020年12月20日に行ったオンラインワイナリーツアーでのお話を元に、ロバート・パーカー氏に「イザベル・フェランドは偉大な伝説だ。」と云われた彼女の物語を紐解いていきたいと思います。イザベルのほとばしる情熱を感じていただければ幸いです。
輝かしいキャリアを捨て、ワイン生産者となったイザベル
プロヴァンス、カルパントラ村で生まれ育ったイザベルですが、彼女のルーツを遡っても一人もワイン生産者はおらず、彼女自身もワインとは全く縁のない生活を送りました。フランスの大手銀行で10年間働き、シニアマネージャーとして輝かしいキャリアを積んでいましたが、ワイン生産者への融資を担当したことで人生が大きく変わっていきます。仕事柄多くの生産者と知り合う機会に恵まれたイザベルは、彼らとの交流を通して次第にワインの魅力に取りつかれるようになるのです。
1997年、出産を経た彼女が銀行でのキャリアを投げ打ち 「ワインを造る農家になりたい」と家族に打ち明けた時、 彼らの反応は雷に打たれたかのようでした。しかし、イザベルは心の中に燦然と輝くワインへの情熱を抑えることができず、家族を説得し、ワイン生産者になる道を選びました。
どこでワインを造るのかは、既に決まっていました。 故郷に程近く、幼い頃から感じてきたプロヴァンスの香りに満ち、それをワインに表現することができる神に祝福された土地、シャトーヌフ・デュ・パプです。自らのルーツが詰まったこの場所以外に選択肢はありませんでした。
しかし情熱だけではワインは作れません。ワイン造りと無縁で畑もセラーも持たないイザベルが一体どうやってワインメーカーになるというのでしょうか。
それは本当にゼロからのスタートでした。故郷カルパントラ村に戻って農業学校に通いますが、理想のワインを造るための畑探しは困難を極め、ようやく畑を手に入れたのは2002年のことでした。翌2003年にワイナリーを設立し、ファーストヴィンテージのリリースに至りました。
この間、一心不乱に夢を追う彼女の情熱に触れ、 心を動かされた人物がいました。生きる伝説として、シャトーヌフの最高峰に君臨していた 巨匠アンリ・ボノー氏です。この偉大な醸造家と交流を深め、イザベルはワイン造りの真髄を学んでいきます
アンリ・ボノー氏の教え
農業学校では1週間学校に通い、1週間ワイナリーで修行をするという形式を取っており、そのワイナリー修行の師として彼女を受け入れてくれたのがアンリ・ボノー氏でした。
彼が教えてくれた最も大切なことは、シャトーヌフ・デュ・パプという地、そしてサン・プレフェールというワイナリーのテロワールを理解し、どのようにワインに映し込むかということ、そして「レス・イズ・モア(Less is More)」という考え方でした。
畑でベストを尽くし最高のブドウを育てることに注力し、そのブドウをワインに転換する際には人の手の介入は最小限にとどめる。そうすることで、テロワールを表現し、ピュアな果実味を持ったワインが生まれます。こうしたワイン造りにおいて最も重要な哲学を授けてくれました。
アンリ・ボノー氏とは「Chateauneuf du Pape Blanc Vieilles Clairettes」というキュヴェを巡ってユニークな思い出があります。
2006年のある日曜日、イザベルの家族とランチを食べるためにボノー氏がイザベルの家にやってきたのですが、手にはとても古い一本のワインがありました。ワインを開けると、ボノー氏は涙を流しながら「このワインは非常に特別なものだよ。私の父が1947年にクレレット100%で造ったワインで、最後の一本なんだ。」と話してくれました。1947年とは思えないほどにフレッシュでピュアなそれはそれは素晴らしい味わいに衝撃を受けるイザベルに対し、「あなたの畑にはとりわけ美しいピンク色のクレレットがあるのだから、あなたも同じようにスペシャル・キュヴェを作るべきだよ。」とアドバイスを贈ったボノー氏。それを伝えるために、特別なワインを持って来てくれたのです。この出逢いによって、マグナムしか生産されない、 クレレット100%の個性的なワインが誕生しました。
畑仕事に全力を尽くす
現在、イザベルはシャトーヌフ・デュ・パプに24ha、コート・デュ・ローヌに8haの畑を所有しています。栽培は全てオーガニックで、除草剤は一切使用せず、全て彼女のフィロソフィーに沿い手作業で手入れを行います。オーガニック栽培で土中のミクロな生物たちを守ることで、ブドウがミネラルを保持し、それによってサン・プレフェールの畑が持つアイデンティティをワインに伝えることができると考えています。また、従業員の健康を守るためにも重視されています。
ブドウの木の平均樹齢は60年を超えるため、収量は自然と低くなり、その結果非常に質の高いブドウが収穫できます。更に、夏季選定(グリーンハーヴェスト)を行い、その果実にテロワールのエッセンスを凝縮させています。
宝石のように大切に扱われた輝くブドウは全て、暑さで傷まないよう朝にのみ手摘みで収穫。一粒一粒のブドウと向き合い完熟した粒だけを摘むために綿密な観察と共に、4週間もの長い時間を費やすという徹底ぶりです。
「偉大なワインは偉大なブドウからでき、その姿はまず畑に現われる。セラーでの仕事を1とするなら畑での仕事にはその4倍の労力をかける」
と言う彼女の信念は常に一貫しています。
ワイン造りの哲学
セラーでは重力フローの利用と発酵時の温度管理のみと非常にシンプルな方法でワイン造りを行います。サン・プレフェールの畑からのブドウのみ、そしてセラー内の酵母を使用し、外からのものは一切使用しません。
赤ワインの発酵には主にコンクリートタンクとオークの大樽を、白ワインでは発酵・熟成ともに樽を使用します。完璧に茎まで熟したブドウを収穫するため、基本的には除梗は行いません。ステンレスタンクではなくコンクリートタンクを使うのは、ステンレスと比べ穏やかに温度管理ができること、また適度に空気が透過するためワインに酸素を与えることができるという2つの理由があります。
熟成はブドウ品種とブドウの出来によって、コンクリートタンク、バリック(新樽または古樽)などを繊細に使い分けます。
全ての作業・工程をシンプルに、複雑なことは行いませんが、「シンプルでありながらバランスの取れたワイン造り」を目標にしており、「エレガントでシルキー、しっかりとしたストラクチャーを持つフレーバー豊かなワイン」を目指しています。
シャトーヌフの最高峰へ
イザベルのワインは、2007年ヴィンテージで「将来伝説となる」という最高の賛辞と共にパーカーポイント100点を獲得します。それは設立からわずか4年という異例のスピードでの快挙でした。そして2010年ヴィンテージでも再び100点を獲得。その後現在までコンスタントにあらゆる評価誌でハイスコアを連発し続けています。
短期間にこのような素晴らしい成功を収めた理由を問うと、イザベルは3つのキーポイントを答えてくれました。1つ目は、幸運にも素晴らしいテロワールを持つサン・プレフェールというワイナリーを所得できたこと。2つ目は、ワイン業界に参入した2003年当時、ワイン業界も評論家も世間も、全員が新しい空気を求めていたため、別業界から転身した女性醸造家であるイザベルが好意的に受け入れられたこと。そして3つ目は、サン・プレフェールのワインに、イザベルが家族やスタッフ、関係者、お客様、畑への“愛”を込めていることが、世の中の皆さんに共感してもらえたのではないかとのこと。まさに彼女の生き方や情熱がワイン業界を動かしたのだと言えるのではないでしょうか。
2020年ヴィンテージについて
2020年は非常に素晴らしい年でした。1つは満足のいく収量だったこと。もう1つは、とてもバランスが取れたブドウが収穫できたこと。
フレッシュさと酸、糖度、タンニンのバランスが優れていて、素晴らしいワインになっていくだろうと予想しているそうです。
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