船便VS航空便、本当はどっちがいいの? ~比較実験してみました! (営業 古川 康子)
ワインに携わる以上、コンデションにこだわらない人は、おそらくいないはずです。私たち輸入業者がそこに徹底してこだわることは当然のことです。私たちも日頃、「航空便はやっぱりコンディションがいいよね」等々お話を伺うことはよくあります。もちろん反対の意見の方もいらっしゃるわけです。
Firadisニュースレター2011年11・12月号において輸入担当の鈴木から、ワイナリーからフィラディス倉庫までの輸送の流れを説明しましたが、知っているようで「へ~~~」と思われたことは多いのではないでしょうか?
ワインの輸送手段には、船便と航空便があるわけですが、弊社も状況に応じて両方の手段を使っています。現在では輸入量も増え、コスト面でも圧倒的に優位な船便がメインですが、私が入社したころは、取り扱いも高額なファインワインのみで輸入量も尐なかったため、ほぼ航空便での輸送でした。余談ですが、社長以下全社員3名(!)で成田空港まで検品を兼ねて、輸入者シールを毎回貼りに行っていたことは、今では良い思い出ですし、貴重な経験となっています。
味わいにどう影響するの?
では果たして、この2つの輸送手段によるワインのコンディションの違いはあるのでしょうか?それぞれの味わいに影響すると考えられるポイントを整理すると、
船便:①輸送温度は15度前後(全行程に於いて温度指定可)でワイナリーからフィラディス倉庫までの一貫した温度管理が可能 ②海上輸送期間5週間、現地での集荷から日本で出荷可能になるまでは、トータルで8週間 ③高度変化による気圧の変化は無し。
航空便:①飛行機内の温度は約4~10度(温度指定不可)、駐機してからなど飛行時間以外の場所での温度変化は避けられない。またコンテナに入っていない為、外気温の影響も受けやすい ②空輸時間は12時間、トータルで5日間 ③高度変化による気圧の変化が有る。
船便は温度管理という意味で圧倒的に優れている半面、輸送期間の長さ故、ワインの味が荒れる可能性が考えられます。一方航空便は、ワインの味の荒れは短時間の移動で最小限に抑えられそうですが、飛行機内での温度が低すぎる上、温度管理の面で不安定です。また、上空での気圧の変化により、液漏れやコルク沈みのリスクがあります。
いよいよテイスティング
頭で考えていても仕様がないので、実際に現物を比べてみたら、いったいどのくらい違うんだろう???ということで、輸入業者にしか出来得ないであろう条件下のもと、フィラディス大実験に挑んだのです!
<題材ワイン>
1999 Ch.Haut Batailley / Pauillac
1998 Ch. Haut Plantey / St. Emilion
1998 Ch. Leoville Barton / St. Julien
1997 Ch. Malescot St. Exupery / Margaux
1995 Ch. Giscours / Margaux
1995 Ch. 1995 Trottevielle / St.Emilion
リリースからヨーロッパ内で保管された状態の良いもので、且つ同一のオリジナル木箱に入っていた(すなわち全く同じ保管条件)のものを、フィラディス倉庫への入庫日が近くなるように船便と航空便で各6本ずつに分けて出荷。お客様の手元へ届くであろう時間を想定し、約2か月間休ませてのテイスティングです。
どちらが船か飛行機かは伏せています。また、様々な人の意見を総合的に聞くため、全社員(営業、事務、倉庫、システム)が出席。魅力的なワインの数々に、思わず通常のワインテイスティングをしてしまいそうになります。「バルトンいいですね~」なんて言ってしまったり(苦笑)。
おそらく全然違うのだろうな~と臨んだのですが、どうも似ている…(同じワインですから!)。どうにか違いを探し出そうと、皆だんだんと真剣度が増してきます。そうすると、少しずつ見えてくるものがあります。そして本数を重ねていくうちに、何となく共通した違いがあることに気づいてきました。しかし、どちらが良い悪いがあるわけではありません。どちらがコンディションが良いと思うかと意見を聞いても、ほぼ半々の人数になるものも多く、完全に偏るものもありませんでした。
いざ結果発表!
船便か航空便かを明かされて、「なるほどね~~~」と溜息交じりで各々が口々に感想を言いだします。そして最終的なまとめに入ります(ゴホン!)
船便は、ワイン全体が柔らかく伸びがあります。果実味の甘さを穏やかに感じ、強い酸はありますが突出したようには感じません。腰の据わったタンニンが背景にあります。若干ですが熟成が進んでいます。対して航空便、香り味わいともにフレッシュでタイト。立体的な構成でかっちりとしています。酸は鋭角的に出ていますが、非常に各要素の緻密さを感じ、芯がしっかりとしており、そこから全体へ広がります。船便に比べ、やや縮こまった印象でしょうか。
こう言ってしまうと、全く別々のワインのように聞こえてしまいそうですが、前述した通り、あくまでテーマに沿って細かい分析をしたものです。どちらに軍配が上がるということはなく、実際どちらのワインにも支持する人間がいるわけです。
本当に肝心なことって
この結果を通じて、3つのことがみえてきました。
①きちんと管理された輸送手段によるコンディションの差はそれ程大きくなく、結局はもともとのワインのコンディションが圧倒的に重要であること。
②ヴィンテージやワインの特徴に応じて、相性のよい状態があるのではないか。例えば、タイトな印象のワインである1995年などは、船便の柔らかい味わいに出た方が、より美味しさを感じやすいのではないか。逆に緩いヴィンテージであれば、航空便のタイトな味わいに出た方が、全体が引きしまって緊張感を持つことができるのではないか。
③ワインは嗜好品であり、人間の味覚も好みも様々。プロとして欠陥を見極める能力をもち、自身の基準をしっかり持って判断することが重要。他人が言っていることを鵜呑みにすることは危険である。
あなたなら、どちらのワインを買います?
私なら、断然船便のワインですね。コンディションの優劣がなく、なお且つより安く購入することが出来るのですから。輸送コストは、どの価格帯のワインにも一律にかかってきます。何十万もするワインならその差は小さいものかもしれませんが、それでも1円でも安く買えるに越したことはないですもの。ただ、急ぎでプレゼントしたいワインがあるなど特別な状況においては、そんな輸送費など全く気にならないのかもしれませんね。時は金なりです(笑)
以上、フィラディスの実験による私の拙い見解でございます。様々なご意見もあるかと存じますが、皆さまのワインライフに尐しでもお役に立てれば幸いでございます。皆さまに安心してワインをお求めいただくために、今後もフィラディスは、仕入れ、輸送、管理、配送と、お客様のお手元にワインが届くまで、徹底して品質を重視して参ります。
※2021年1月8日 記事を動画にしました。
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