ワイン表現は“ちゃんと伝わる”が、結局いちばん大事。2017/06/15
それでは今回も『ワイン表現』についての話題を続けていきましょう。
前回のコラムでは、
「ワインを表現する時には正しい/間違いはなく、プロのテイスターでも表現内容にはバラツキが出る」
という話を、実際に3人の著名テイスターが一つのワインについて記述したコメントを基に理解戴きました。
どうでしょう、ご自身がワインの味わいを言葉にする時の緊張感みたいなものが、
ちょっとでも少なくなったのなら書いた甲斐があったというものです(^u^)
では、今回はそこからもう1歩進んでみましょうか。
前回のコラムで最後に書いたこと、もう一度思い出してみてください。
ワインを表現する時に大切なことは、
正しい/間違いといった正当性や、ボキャブラリーの多さではなく、
「他の人が聞いた時に、たとえ飲んだことが無くてもそのワインのことを思い浮かべられること。
そして、美味しそうだから自分も飲んでみたいと思えて、
実際に飲んだ時には“確かに、○○さんの言った感じだな”、とある程度納得してくれること」
というのが僕の考え方だとお伝えしました。
ここでいちばん大事なのは、
『そのワインを飲んだことのない人が聞いても、そのワインの香りや味を思い浮かべられる』
というところです。
それさえ出来ればワインを“表現する”ことのいちばんの目標は達成できていますよね。
それは、話し手/伝える相手がプロであろうがビギナーであろうが同じはず。
だから、そこで使われるべき表現は「ある程度共通認識になっているもの」ということが条件になります。
僕がワインスクールに通っていた20代の頃、クラスの同級生があるワインの表現を発表する時に
「このワインは、僕のおばあちゃんの家の香りです。
想い出の香りで、すごく懐かしくあったかい感じがしました。」
というような表現をしたことがありました(正確ではないかもしれませんが)。
なかなか“そそられる”表現ですよね。
ちょうどソムリエを題材にしたコミックが流行り出していた頃で、
登場人物の思い出のワインを、香りの記憶などをヒントに探す、
なんていうエピソードが良く出て来ました。
僕もそんなコミックを愛読していたので、
同級生のコメントに「ロマンティックで素敵なコメントだなあ・・・」と感じました。
でもその時にスクールの先生は
「その表現だと、自分一人にしか分からないですよね?
僕には、残念ながらどんなワインだったのかさっぱり分からず、何も伝わらなかったです。」
という厳しい評価をしました。
確かにその通りです。
僕は自分もそのワインを一緒に飲んでいたからなんとなくイメージできたように錯覚しただけで、
実際にはその人のおばあちゃんの家の香りなんて全く知らないし想像も出来ないんですから 笑
共通認識をベースにしていない“伝わらない表現”というのは、こういうことです。
実際にこのワインがなんのワインだったかは全く覚えていませんが、
おそらく日本家屋に特有の木や乾いた土・落ち葉のような香り、
そこに、時間の経過を感じさせる茶色系のスパイスの乾いた香ばしい香りなどがしたんだろうな・・・
と今なら推察できます。
(だから、ワインはたぶん、やや熟成したメルロ種主体のボルドー等じゃなかったのかな、と。)
上記のような、木や土、スパイスなどの言葉を使ってワインを説明したあとに、
「おばあちゃんの家みたいで、懐かしいワイン」と表現したら、
ワインの香りや味わいのイメージがイメージしやすく伝わり、
しかも聞いた人がぐっと興味をそそられる表現になっていた訳ですね。
ある時から、
ワインの感想を言う時には、ロマンティックで詩的な表現の「上手さ」が大事、
というちょっとした誤解が世の中に生まれてしまった気がします。
批判する訳じゃないですが、ソムリエを題材にしたコミックやドラマが誇張したワイン表現が、
「こういうものなんだ」とねじ曲がって定着してしまったのでしょう。
でも実際には一番大切なことはいつもシンプル。
『ちゃんと伝わって、興味を持ってもらえる』ことです。
表現が技術的に上手か下手か、詩的かどうかなんてたいしたことじゃありません。
ワインを飲んで、「このおいしさを誰かに伝えたい!」と思ったら、
カッコ良く表現しようとするよりも、
これなら相手が分かってくれるだろうな、という言葉を選んで伝えましょう!!
と言いつつ僕も、このコラムを書きながら改めて自身のCLUB30動画コメントを見直さなきゃな、と反省しました。
これから、もっと分かりやすいワイン解説をするよう努力します!
Firadis WINE CLUB 店長 五十嵐 祐介
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