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ワイン表現に「正しい/間違い」はあるのか?2017/06/12

さて、今回のワインコラムは前回の続き。

ただ、ちょっとだけ脱線してみようかなと思います。

ここまでテイスティング表現の用語をたくさん紹介してきましたが、

それを消化して戴けなければ意味がありませんので・・。

ということで、今回は皆さんの「テイスティングって難しそう」という気持ちを、

少しでも和らげたいな、と思って書かせて戴きます。

 

今回のテーマは、

「テイスティング表現に“正しい/間違い”はあるのか?」というテーマについてです。

 

ワインセミナーの講師をさせて戴いていて、良く出会う場面があります。

例えば教材にした一つのワインについて、

皆さんに試飲をして戴いた後で僕が次のような喩えを使って表現したとします。

『苺やラズベリー、サクランボなど赤系果実のニュアンスに、

少しだけカシスのような黒系ベリーの香りも感じます。

 そこに、紅茶やシナモン、菫の花のイメージもあります。』

(*今は適当に用語を並べて書いただけです。)

 

セミナーにご参加下さった方々皆さんは再度このワインの香りを取ってみて、

「紅茶の香りが見つからないのですが・・・」

「苺はなんとなく分かるんですが、私はサクランボの香りを感じないです」

という形でご質問やコメントを下さいます。

『正しいテイスティングコメント』に辿り着くために、

ご自身の嗅覚を最大限に使って、僕と同じ香りを感じ取ろうとして下さるわけですね。

 

でも、このように「何かの香りが自分には見つからない」なんていうのは、当たり前のことです。

人それぞれ嗅覚は異なっているし、香りの感じ方・イメージの仕方だって、十人十色なんですから。

僕がたまたま講師をしているから上記のコメントが「模範解答」のようになってしまいますが、

このコメントだって、僕という一個人が勝手に感じて思うがままに言葉にしただけ。

その正当性なんて正直って怪しいものです・・・。

 

もうちょっと具体的に事例を挙げましょうか。

日本にはまだありませんが、海外には著名なワインについてプロのテイスターが書いたコメントを、

集約して掲載し比較出来るようなウェブサイトがあります。

そこには、あるワインの特定のヴィンテージについて、テイスティングしてコメントを書いた時期も含めて

掲載されており、そのワインがある特定の時点でどんな状態だったか、を見ることができます。

 

1本のワイン×3人のワインテイスター、コメントはどうなる??

 

 

さて、それではある有名ボルドーワインの2010年ヴィンテージを、

2013年の初頭に飲んだ3人のテイスターが選んだ香りの用語を比較してみましょう。

ほぼ1カ月以内に投稿された記事ですので、熟成による状態の差などは考慮しなくて良いと思える例です。

テイスターは3人とも「超」のつく有名ジャーナリスト、

香り表現に使った用語だけを、全て抜き出しています。

 

テイスターA:

「クレーム・ド・カシス、森の下草、リコリスと花の香り、そこにブラックベリーとエスプレッソ、桑の実」

 

テイスターB:

「ブルーベリー、石墨、幾つかの柑橘系フルーツに、ブラックベリー」

 

テイスターC:

「スグリの実、ブラックベリーに軽いスパイス、少しだけヘイゼルナッツ、濡れた土」

 

・・・どうでしょう??

何も知らずにこのコメント3つを見て、1本のワインについての表現だと思うでしょうか。

そんなことはないですよね。

 

唯一共通して入っているのが『ブラックベリー』ですが、

これはボルドーの赤ワインだったら必ず入っていると言っても過言では無い要素です。

以前、赤ワインのコメントはまず「黒系果実か、赤系果実か」から入るのがセオリー、

なんていうことを書いたと思いますが、

この『ブラックベリー』は、最初に「このワインはこっちの方向性ですよ」ということを示すために

象徴的に入れている表現と思って下さい。

 

このコメント3つを見ながらワインを飲んだとして、

上記の香り要素を全部見つけることが出来る人はいないと思います。

せいぜい「言われてみればそんな香りかもしれない」と感じるくらいじゃないでしょうか。

僕だって、桑の実の香りなんて全然分からないですから。。。

 

皆さまがワインを表現する時に、正しい言葉/間違った言葉は基本的にはありません。

自由に、ロマンティックな表現の海を泳いで戴ければ良いと思います。

でも、大事なことはその表現が、

「他の人が聞いた時に、そのワインのことを思い浮かべられること。

そして、美味しそうだから飲んでみたいと思えて、実際に飲んだ時にある程度納得してくれる」

ということじゃないでしょうか。

それさえ出来ていれば、ワイン表現は全てが「100点の正解!」だと思いますよ。

★ちなみに、プロフェッショナルが共同で同じワインを評価する公式の場では、一定の基準で正・誤があります。

 

それでは、また次のワインコラムで!!

 

Firadis WINE CLUB 店長 五十嵐 祐介