イタリア出張報告② ~本当に巨人だったエンツォ・ポントーニ (営業 青山 マルコ)
ゆるやかな時間の中で生きる男、エンツォ・ポントーニ トスカーナ訪問後、一路カンパーニャへ。その後フリウリへ移動し、今回の出張で最も楽しみにしていたフィラディス取扱い生産者、クロアットでお馴染みのミアーニ当主エンツォ・ポントーニ氏に会って感じたことをお伝えしたいと思います。
ミアーニと言えばイタリアワインの中でカルト的な存在として有名であり、地元ブットリオ在住の人でも、容易に手にすることはできない幻のワインの一つとして知られています。今回のアポイントを入れるにあたって、間を取り持ったクル・チャーレのクリスチャンからも、「畑作業を第一に考えているエンツォと約束を取り付けるのは容易じゃないよ」と言われていました。ポントーニ氏は時期・天候によっては畑から動かないのだそうです。
アポイントの時間ぴったりにワイナリーに到着し、待つこと30分。大きな音を立てて爆走する一台の白のランボルギーニが私たちの前に現れました。一人乗り用のランボルギーニ…??
それは紛れもなくランボルギーニ社製の耕運機ではないですか!この耕運機は、かなり前から生産されていません。車重が現在のものと比べ軽く、畑に負担を掛けないと言う事で、昔の耕運機を好んで使っている生産者は多いのですが、ポントーニ氏もその内の一人だったのです。
耕運機を降りた彼に挨拶をしようと近づくと、「畑仕事で手が真っ黒だから洗ってくる」と言いそのまま隣接する自宅へ。数分後、戻って来て挨拶のため差し出された手を見ると、噂に聞いていた通りのまさにグローブの様な大きな手で、親指一本とっただけでも私の3倍はありました。さらに言うと、身長に至っては優に190センチオーバーの大男です。
そして洗ってきたはずの手は黒く、長年畑仕事に没頭している結果、手を洗うぐらいでは取れない泥が、割れた爪の中やひび割れた皮膚に入り込んでいて、手を洗う前とほぼ代わり映えしていませんでした。そんな彼は多くを語りません。声は低く、しゃべり口調は大らかでゆっくりとしています。俗世間には全く興味がない、我が道をひたすらマイペースに歩む芸術家のようで、本人から発せられる独特の存在感は強烈なオーラとなり、そのオーラは、私の口からあれこれと質問が出てくるのを遮ったしまったほどです。
ワイン雑誌の記事で、ミアーニのセラーの写真を見た事がある方はご存知だと思いますが、彼のセラーは決して立派なセラーではありません。機能性だけを極限まで追及した簡素なセラーで、1階部分は狭い部屋に無理やり詰め込まれた醸造設備と、隣の部屋にワイン造りには到底使いもしない何やら大量の工具や旋盤機などの工作機械が置かれているだけ。地下セラーに至っては、平積みされた十数個のバリックが置いてあるだけでボトリングされたワインひとつ置いていない有様でした。
私は、装飾もされていなければ、ワインボトル1本さえも置いていないワイナリーを訪問したのは言うまでもなく初めてです。話を聞くと、彼はワインを売ったお金は全て、良い畑を買い足すことにひたすら注ぎ込み、大好きな畑仕事に明け暮れる毎日を送っているそうです。ワイナリーにあった大量の工具も、セラー造りを職人に頼むとお金が掛かるので、自分で建てるために買い揃えたものだそうです。
最後に印象に残ったことをひとつ。ポントーニ氏とクリスチャンの会話の中で聞こえてきた事なのですが、クリスチャンの「昨日までずっと雨が降り続いて仕事にならなくて大変だよ。今年は良い年になるかね」との問いに、ポントーニ氏は、「毎年同じだよ」とゆっくり答えていました。
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