オーストリア出張報告(営業 古川 康子)
フィラディスの正規代理店ワインに、2018年より新たにオーストリアの3生産者が加わることとなりました。冷涼で大陸性気候のオーストリアは、ブルゴーニュと緯度は同じですが、より降水量も少なく寒暖差も激しい為、クリアで凝縮度の高いワインを生み出します。合わせて、土壌は極めて多彩でテロワールの表現に富んでいます。 フィラディスでは、土着品種であるグリューナー・フェルトリーナー(以下、GV)のユニークなキャラクターにポテンシャルを強く感じ、5年前からリサーチを重ねてきました。今回は、最終候補決定の為に訪れたオーストリアの出張報告も織り交ぜ、GVの魅力についてお話しします。
【何故グリューナー・フェルトリーナー】
口の中でふわっと広がる柔らかなミネラル、しっかりと旨みが出て、染みいる美味しさ。こんなワインがいつも飲み手に驚きと発見を与えます。一見主張がないようで、料理と合わせた途端、想像を超える力を発揮して感動を与える、まさにワインにしか成しえないマリアージュを教えてくれるのです。そんなとき、人はえもいわれぬ幸福感に包まれます。
冷涼で高貴なイメージを持ったオーストリアワインが素晴らしいからというだけの理由ではありません。30種超の土着品種があり、いま注目を集めているブルゲンラントの赤ワインにも素晴らしいものもありますが、タンニンがガッチリしてパワフルなキャラクターを持つワインは、このオーストリアならではの優位性は感じません。この場所、ここでしか生まれることのできない優位性と独自性を持つのが、オーストリアのGVなのです。
【いざ最終選定へ】
2年に一度、6月にウィーンで3日間開催されるオーストリアワインの展示会VieVinum。ホフブルク宮殿に500を超える生産者が出展し、国内外より多くのワイン関係者が集まります。エントランスを入った瞬間受ける熱気に、世界的な注目度の高さを感じます。既に絞っていたワイナリーの確認に加え、これまでテイスティングをしていないワイナリーを徹底的に潰し、最終候補地及び生産者を決定しました。
私たちには求めるGVがありました。保水性が高く、軽くて柔らかいワインを生み出す、ロス土壌(氷河期に削られた土壌が風で運ばれ、堆積した黄土)に由来するGVです。何故なら、食事と楽しんだ時、素材に浸み込んで、決して切るのではなく、じわじわと美味しさを出してくれる、料理もワインもともに昇華させてくれるワインだからです。
そのロス土壌を主体とする産地の中で、最終候補に残ったのがニーダーエステライヒ州カンプタルとクレムスタル。ロス土壌の厚さでいけばより東側に位置するヴァグラムが勝ってはいますが、どうしても強さに欠けます。またオーストリア最大産地のヴァインフィアテルも力不足で、テロワールの限界が否めませんでした。
【いざワイン産地へ】
ウィーンから車を走らせること1時間、まずは、カンプタルを目指します。オーストリアは家族・小規模経営の生産者が中心であり、自然に対して特別な敬意を払った意識の高さを感じます。訪問した生産者も、自然との共生に本気で取り組んでいる様が、いきなり連れていかれた畑で理解できました。「ワインは畑から出来るもの」、ワインの説明はカーヴではなく、畑の説明そのものでした。一年中50種以上の緑が生えていたり、絶滅しかけた鳥を繁殖したり、小鹿の保護に取り組んだりと、そんな自然の中に存在するブドウ畑は、他ではなかなか見ることが出来ないほど活き活きとしています。そこに居るだけで、人間もまた自然に溶け込み、エネルギーが湧いてくるようでした。「自然派ワイン」という言葉が世にありふれていますが、 本当の意味で、どれだけのワインが自然派なのか? そう改めて疑問に思う、畑を知ることができました。
【カンプタルとクレムスタル】
ロス土壌を主体とした産地として絞ったこの2エリア。前者は、東のパンノニア平原(ハンガリー)からの暖風と北西からの冷風がダイレクトにぶつかることで、風通しが良く、寒暖差も生まれます。それにより、ドライ&クリーンなブドウができ、冷涼な渓谷で育ったワインは繊細なフィネスを持ち、優美さを奏でてくれます。
一方、後者クレムスタルは、カンプタルより南に位置し、渓谷が開けてややなだらかな丘陵もあります。そのため、大柄かつフルーティーな味わいとなり、ロス土壌のトロピカルフルーツ的な熟した果実のニュアンスをより感じることができます。
やはり、このエリアのGVには懐の深さがあります。柔らかな果実、軽やかで華やかなミネラル感は、まさに食事のためのワインと言えるでしょう。食事をしながら、ついつい杯を重ねてしまい、応用範囲も広く毎日飲んでも飽きない。汎用性の高いグルメなGVと言えるでしょう。
【偉大な産地ヴァッハウ】
もう一つ忘れてはならない産地、ヴァッハウ。オーストリア全ブドウ産地の3%に過ぎませんが、GVの魅力を語る上で、この世界的銘醸地を欠かすことはできません。ドナウ川に沿って主に川の北側に広がる、岩がごつごつと鋭く切り立った南向きの急斜面に続く段々畑、その光景から偉大なワインの風格が伝わってきます。
川に沿って東西に20kmほど続く産地において、東部エリアは前述のとおりパンノニア平原からの暖気の影響を受けるために温暖で、凝縮感や力強さのある味わいが特徴となります。斜面下部には砂利や砂、ロス土壌が多くみられますが、最上とされる畑は標高の高い斜面にあり、表土が薄くグナイス(片麻岩)を主体とする原生岩が主体。味わいはミネラリーで塩気も強く、ガッチリとしたパワフルなワインが生まれます。一方、西部エリアは川の蛇行によって東からの暖風の影響は弱まり、そこに高山からの冷風が吹くことにより、冷涼でフローラルな、繊細なワインが生まれます。
エリアによって味わいにもその違いが特徴として表れますが、そこに畑ごとに斜面の向きや高低、土壌、さらに品種が掛け合わされることで、他に類を見ない変化にとんだ豊かなワインが生まれます。ブルゴーニュよりも複雑で、地図無しではこの産地を語ることなどできません。そして最上のものは、驚くほどの熟成能力を持った白ワインとなるのです。
まさに、偉大で高貴なワイン。ピュアさとふくよかさ、ふんわり感と力強さを兼ね備えた唯一無二の存在です。その研ぎ澄まされたワインをじっくりと味わうのも良し、美食の友として精緻なマリアージュを楽しむのも良しと、単体での魅力とガストロノミーを併せ持ったワインなのです。
【日本での現状と近い将来】
知れば知るほど魅力に取りつかれるGV。一般的には、決してメジャーな品種ではないのが実情です。しかし、周りを見渡してみると、既に20年以上前からグラスワインに必ず採用するワインバー、スペシャリテにGVをペアリングに添えるトップフレンチ、グラスワインはGVというワインで牽引する焼鳥店や寿司屋。分かっている人には、すでに当然のこととなっています。知ってしまうと、無くてはならない存在となるワインなのです。
また、これだけテロワールが複雑でありながら、ざっくりとした産地割りや品種の打ち出しがされており、品質の優劣が分かりにくい現状もあります。しかし、志の高い次世代の生産者が活躍し始め、それに続き、産地呼称や格付け制度の動きも進みつつあります。GVとリースリング、ヴァッハウくらいしか分からなかったオーストリアワインも、じきに選びやすくなり、価値に相応しいものを選択する時代がやってくるでしょう。
「鮨にはGV」「焼鳥にはGV」「天ぷらにはGV」*等や、多様性を理解いただき「困ったらGVだよね」とレストランでも普通に聞こえてくる時まで、この魅力を余すことなくお伝えして参ります。
※マリアージュを検証したこれまでのニュースレターは以下よりご覧ください。
〇 鮨とワイン: https://firadis.net/column_pro/201812
〇 焼き鳥とワイン: https://firadis.net/column_pro/201803
〇 天ぷらとワイン: https://firadis.net/column_pro/201810
-
前の記事
【フィラディス実験シリーズ第21弾 】鮨とワインのマリアージュ決定版(広報 浅原 有里) 2018.12.05
-
次の記事
若手ソムリエ応援プロジェクト 『ペアリング理論セミナー』 最新の講義内容を公開します!(広報 浅原 有里) 2019.02.04