カリフォリニア出張報告 ~ナパヴァレーの今~ (営業 加藤 武)
今年に入ってようやくフィラディス初のニューワールドワインをリリースする事が出来ました。 新世界のピノ・ノワールやシャルドネでありながらエレガントさを併せ持つこれらのワインは、お蔭様で発売から大変ご好評を頂いています。そしてこれらのワインのご案内を始めた時から、たくさんの方々に「カベルネはやらないの?」というお言葉を頂きました。
前回はフランス、特にブルゴーニュの価格高騰をきっかけに、ブルゴーニュを多く扱うフィラディスからの新しいご提案として、カリフォルニア、オレゴンのワインをご紹介するに至りましたが、皆様のお言葉から改めてアメリカに対する期待を感じるようになりました。
もともとピノ・ノワールの次はカベルネもご案内したいと考えていましたが、多くのご期待になるべく早く応えたいと思い、今回そのカベルネを探しに再度カリフォルニアに行ってきました。最近はワシントン州でも優れたカベルネが多く造られていますが、まずはカリフォルニア。その中でも絶対に外せない産地となるのが、やはり世界的にも高い評価を受け多数の傑作を生み出すナパヴァレーです。よって今回はナパヴァレーに集中してワイナリーを回ってきました。
今回はナパヴァレーの一大イベントである『プレミア・ナパヴァレー』というイベントにあわせて訪問、A.V.A.毎に行われる試飲会に参加し、かなりの数のワインを試飲することが出来ました。またワイナリーを回るだけでは掴みづらいA.V.A.毎の違いを、大枠ながら私なりに掴む事が出来たのは大きな収穫でした。
ナパヴァレーってどんなところ?
カルトワインで有名なナパヴァレーですが、実際はどんな所なのか私が見てきた印象をお話したいと思います。
日本でも既に多くのナパワインが輸入され、世界中のワイン産地の中で最も有名な産地のひとつと言っても過言ではないナパヴァレーですが、ワイン産地でありながら観光地としての顔も併せ持ち、年間500万人近くの観光客を集めるカリフォルニア州ではディズニーランドに次ぐ人気エリアなのです。それぞれのワイナリーも立派で豪華なテイスティングルームを設けて観光客を迎え入れており、平日でもテイスティングルームは観光客で賑わっています。どの町もリゾート感がありゆったりとした雰囲気を醸し出し、有名なレストランやスパを備えた高級ホテルも多く、観光客を飽きさせません。
出張中は隙なく真面目に仕事のみをしていた私ですが、そんな雰囲気の中で気持ちだけは少し優雅になりました。さらにナパヴァレーでは観光価値を守る為、自然保護政策を施行し過剰な開発をしないようにしているところからも、観光への力の入れようが伺えます。また町として社会貢献やチャリティーへの意識の高さもナパヴァレーの特徴の一つです。アメリカで初めてチャリティーオークションを催したのもナパヴァレーで今回のイベントの一環として、プレミアム・オークションが行われましたが、今では世界最大のチャリティーオークションになっているそうです。私はこれまでワインオークションを見学したことがなかったので、もっとクラッシックで荘厳なオークション会場をイメージしていたのですが、そこはやはりアメリカで、というかナパヴァレーのオークションだからなのか、陽気でノリの良い音楽が鳴り響き、まるでクラブのような空間だったのには驚かされました。
そんな明るい雰囲気の中、驚くほどの高額で次々とワインが競り落とされていくのには自分の目を疑いました。まるで別世界です。最後まで見ることは出来なかったのですが、僅か200ロット程の短いオークションで落札総額が304万ドル、日本円にしておおよそ3億もの金額があのノリで動いていたことを知り、100円で悩む自分が悲しくなりました。
最高峰のワイン産地ナパヴァレー
ここからが本題、ワイン産地としてのナパヴァレーについてです。
日本でもさまざまな書籍やウェブサイトで各A.V.A.の土壌や気候、主要品種、ワイナリーについても詳しい情報が出ています。ですがまだA.V.A.毎の味わいについて書かれている物は少ないですし、あるとしてもナパの中心地についての情報が多いようです。今回はせっかく大量に、しかもA.V.A.毎に分けて試飲をすることが出来たので、私の視点からではありますが、各A.V.A.の味わいのイメージを中心にお伝えしたいと思います。
とはいえ、まずはナパヴァレーの概要をサッとおさらいです。
ワイン産地として知名度の高いナパヴァレーですが、実はカリフォルニア全体の4%の生産量しかありません。しかし高級産地としても知られるナパヴァレーはそのたったの4%でカリフォルニア州全体の 20%以上の売上げ額を占めるそうです。
南北に約 50 キロ、幅 8 キロのエリアに 400 軒ほどのワイナリーが存在します。
東側のヴォカ山脈と西側のマヤカマス山脈との間に、ナパ・リヴァーが侵食して出来た渓谷底部エリア(ヴァレーフロア)が存在し、大きく分けて渓谷底部エリア、東側山脈エリア、西側山脈エリアの 3 つのエリアで構成されています。
簡単にまとめるとポイントは3つ、土壌、海の影響、斜面の向きです。
土壌について語られることが少ないエリアですが、火山性や沖積土、シルト、粘土等とても多くの土壌が入り組んでいて、何と全世界の土壌の半分もの種類がナパヴァレーで確認されているそうです。エリアごとに大まかに言うと、特徴は以下の通りです。
●渓谷底部エリア・・・ナパリヴァーによる沖積土
●東側山脈エリア・・・強い火山性土壌
●西側山脈エリア・・・火山性土壌と花崗岩他の土壌が混ざる
よって、山脈エリアの方がミネラル感が強く感じられるワインになります。
また、気候は地中海性気候ですが、山脈と海の影響を受け南と北では気候が異なります。サンフランシスコ湾からの冷たい風、発生する霧によって各地で微妙に変化が起きますが、大雑把に言えば南のサンフランシスコ湾と西側の大平洋に近い方が寒くなる為、通常とは逆で南より北に向けて暖かくなっていきます。
斜面の向きという点では、
●西側山脈エリア(東向きの斜面)・・・日の出から午前中の間に柔らかい日射しを浴びる
●東側山脈エリア(西向きの斜面)・・・午後から夕方にかけて強い日射しを受け、日照量が多い
で味わいに差が出ます。ナパヴァレーの中でもカルトワインを多く輩出するA.V.A.のオークヴィルやラザフォードは北側の暑さや、南からの冷たい空気の影響が調和した、私たちのイメージするナパヴァレーらしさを持つ素晴らしいエリアとなります。
またこのナパヴァレーでも、前回ピノ・ノワールやシャルドネを探す時に感じたのと同様、勧められるカベルネに涼しさを感じるものが増えてきました。パワフルさを全面に出すナパワインは今でも愛されていますが、カベルネにもエレガントさが求められ始めているということではないでしょうか。生産者との会話の中にも”エレガント”という言葉が度々登場しましたし、ピノ・ノワールが植えられ最も涼しいロス・カーネロスに近い南側の大変涼しいエリアで、2011 年に新しく制定されたA.V.A. Coombsville(クームスヴィル)のワインが注目を集め、今回も多く勧められたことなどからも、ひとつの新たな流れが動き出しているように思えます。
A.V.A.毎の味わい
ここからは、“いろいろと情報は有るけど、実際にそれぞれのA.V.A.ってどんな味なの?”という事を、私がA.V.A.別の試飲会で感じたカベルネの特徴に絞ってまとめていきたいと思います。
渓谷底部エリア 南から
■Coombsvile クームスヴィル■
ロス・カーネロスの右上、オークノルの右下のエリアに 2011 年に新しく制定され注目されているA.V.A.。気候的にも大変涼しく味わいにもその涼しさがそのまま表れる。試飲したのがカリフォルニアでは例外的に涼しいとされる 2010 年ヴィンテージが多かったせいもあり、カベルネでも線が細い味わい。一般的にナパのカベルネに期待されるレベルの果実のボリューム感はあまり感じられず、ナパヴァレーのカベルネですと出されたらちょっと物足りなく感じる事になりそう。他にも様々な品種が植えられていて、日本でも有名なコングスガードのザ・ジャッジの畑がある。
■Oak Knoll District オークノル・ディストリクト■
もともとはメルロで有名だったエリア。ナパヴァレーの谷間エリアの中では南に位置し、海からの冷たい風の影響も感じ取れる。やはり涼しい年には青さが出る可能性が高い。テクスチャーは柔らかく、味わいも中位のボリュームと全体的にしなやかで女性的な印象で細かさがある。あまり有名なワイナリーは多くない。
■Yountville ヨーントヴィル■
フレンチ・ランドリー等の有名なレストランが立ち並ぶエリア。オークノル程ではないが海の冷たい風の影響も感じる。日中の気温は大分高くなる。
全体的にドライでタイトな印象のワインが多くトーンは高めに感じ、やや軽めの味わい。しっかりと熟していればボルドー的なタンニンと果実のバランスがとれる。試飲会では青さを感じるワインやタンニンが熟し切っていないワインもあり、定番で扱うには少し難しいA.V.A.に感じた。ドミナス、キャプサンディが有名。
■Stags Leap Distrct スタッグス・リープ・ディストリクト■
ヨーントヴィルの東側に位置するA.V.A.。個人的にはいちばん好きなA.V.A.で、熟したチェリーの果実が強く感じられ、味わいの各要素がしっかりとありながら全体として大変しなやかでジューシー。ナパヴァレーの中では南に位置することによる涼しさが上品さを表現しつつ、力強い果実とのバランスで際立ったスタイルを持つのが特徴。スタッグス・リープ・ワインセラー。シェーファーが有名。
■Oakville オークヴィル■
ナパヴァレーで最も有名で、名声の高い高級カベルネの産地。
全体的にバランスがとれ安定感が高い。西側にはハーラン、オーパス、東側にスクリーミング・イーグルやダラ・ヴァレがある。味わいの印象は丸く柔らかくバランスが良くわかりやすい。熟し方も涼しさや暑さどちらも無く中間的。黒く、ゆっくりと熟した密度感のある果実が中心でナパヴァレーのカベルネのイメージのど真ん中かつ基準になるような味わい。
■Rutherford ラザフォード■
ナパヴァレーの中心部に位置する。ここまで北に上がってくると海の影響は少ない。オークヴィルと土壌は良く似ているが、ラザフォードの方がより温暖なので、味わいは男性的で骨太で力強い。タンニン量が非常に多く、トーンは中位の高さでストレートに伸びていく印象。良いものはスタートのタンニンの後にすぐ果実が追いかけて、バランスが取れてくる感じがした。最後まで力強さとタンニンが存在感を示すものが多い。ケイマス、スローンが有名。
■St. Helena セントヘレナ■
ナパヴァレー北エリア中心の町があり、ハイツやベリンジャー、エイブリュー等有名なワイナリーも多い。ラザフォード以南では感じる事の無かった少し過熟感を感じるが、良く熟していると言える程度の範囲で、タンニンも良く熟しているので味わいがまろやか。一般受けしそうな味のスタイル。
■Calistoga カリストガ■
2009 年に制定された新しいA.V.A.のひとつ。ナパヴァレー最北部のA.V.A. で最も暑いとされるエリアだが、夜間はその上のナイツ・ヴァレー(ソノマエリア)から涼しい風が吹き抜けてくるため寒くなる。ワインの味わいも暑さからくる過熟感と、涼しさからくる冷たさが共存する。冷蔵庫に入れておいた冷たいドライレーズンを食べるようなイメージ。A.V.A.としては新しく、最上級のワインは少ないがシャトー・モンテリーナやアロウホ等有名ワイナリーも結構ある。
■マヤカマス山脈エリア Diamond Mt.、Spring Mt.、Mount Veeder(ダイヤモンドマウンテン、スプリングマウンテン、マウントヴィーダー)■
大平洋に近いことから東側の山に比べて大分涼しい山々で、土壌は火山性が多いがバリエーション豊か。東向きの斜面で柔らかい朝日があたる。海と夏場の霧の影響でヴァレーフロアに比べて昼間涼しく、夜は暖かくなる。
スプリングマウンテンがこのエリアでは心地よくボリュームがでる印象で、ダイヤモンドマウンテンは少し荒く、マウントヴヴィーダーはより寒く引き締まった感触がある。主にスプリングマウンテンの印象になるが、果実は全体的に柔らかく、ボリュームが出る。独特のフワフワしたソフトな感触で、味わいは親しみやすく分かりやすい。オークヴィルをソフトにして、後半は火山性からくる上に抜ける感覚がある。スプリングマウンテンではメルロも有名でプライドマウンテン、ニュートン、等がありマウントヴィーダー ではヘス・コレクションが有名。
■ヴォカ山脈 Howell Mt.、 Pritchard Hill、 Atlas Peak(ハウエルマウンテン、プリチャードヒル、アトラスピーク)■
西側に比べて全体的にパワフルでボリューム感が高い。西向きの斜面で日中は真上から、強い夕陽も長時間当たるエリアになり、日照量が非常に多い。そのために味わいは非常に力強いのだが、同時に強い火山性の影響で抜けが良いので重いだけの味わいにならない。果実は取り易く、スケールが大きくパワフルでありながらしっかりした太めのミネラル感が全体を引き締めバランスを取り、熟成も期待できる印象。
プリチャードヒルはA.V.A.ではないが、ブライアント・ファミリーやコルギン等、既にカルトワインが存在し、オークヴィルにも負けない程レベルは高い。男性的で骨格はラザフォード、中身は山の強さとボリューム感を注ぎ込んだイメージ。プリチャードヒルはセレブ風のワイナリーばかりで、ワインも高級な物ばかりだった。アトラスピークはトスカーナのアンティノリが最初にワイナリーを作って始まったエリア。他に比べ岩が多く少しタンニンの堅い印象、高地は非常に寒くボリューム感が出にくいイメージ。香りは他に比べて濃く感じる。
まとめ。ナパってやっぱり高かった。
皆様に喜んで頂けるようなアメリカのカベルネを探しにナパヴァレーへ行ってきましたが、訪問を重ねるにつれ強くなった思い、それは・・・ここまできて今さら言うのも何ですが、
『価格が高い!』
確かにレベルが高く美味しいワインが多かったのですが、これはと思うワインは殆ど日本でご紹介するとなると、いまいちコストパフォーマンスに欠ける感じがします。これはナパヴァレーのワインの値付けがブランディングに大きく左右される事が原因のひとつと思っています。訪問したある生産者の言葉が印象的でした。
「安く値付けし過ぎて売りづらいので、来年から値上げすることにした。」
特に品質を上げる訳でもなく、です。良い物をより安くとか、コストパフォーマンスという概念より、自身のブランドをどの高さに位置付けるかが重要だと考えられているのです。
という訳で、とても良いものもありましたが、さらに精度の高い、コストパフォーマンスに優れたものをご紹介すべく、次回はナパ以外の産地にも目を向けます。再度現地に赴き、本当にフィラディスが皆さまにご紹介すべき、これぞというカベルネを見つけてきたいと思っています。この夏にはご案内できるようカベルネ・プロジェクトは進行中です!
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