シャンパーニュ出張報告 ~シャンパン消費国それぞれのお国柄 (営業 田中 琴音)

シャンパーニュ出張報告 ~シャンパン消費国それぞれのお国柄 (営業 田中 琴音)

7月のシャンパーニュ出張の際、“Les Expeditions de Vins de Champagne en 2012”というシャンパーニュの出荷に関する様々なデータが記載されている興味深い資料を入手しました。シャンパーニュ委員会が生産者向けに発行している資料で、国別の輸出量とそのランキングだけでなく、いろいろな角度からシャンパーニュの輸出数量をデータ化しており、実際の数値から世界のシャンパーニュ市場の動向を見ることが出来ました。


まず始めに目にとまったのが、過去10年間のメゾン、レコルタン、協同組合の出荷比率です。<表①>で2003年から2012年の10年間のメゾン、レコルタン、協同組合別の出荷量とそれぞれの割合を見ることが出来ます。

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この10年間に日本ではレコルタンへの注目度が徐々に高まってきたので、世界的にも同じような傾向にあり、元詰めを始める生産者も少しずつ増えているのではないかと期待しましたが、出荷本数ベースで見る限りメゾン、レコルタン、協同組合のそれぞれの占める割合は10年間でほとんど変化が見られません。やはり世界中で引き合いの多いシャンパーニュは元詰めをしなくとも、栽培家は比較的高値でブドウを売り、毎年安定した収入を得られる環境下にあることと、通常のワインよりも長い熟成期間が必要な為、金銭的負担も大きいことが影響し、リスクを冒してまで元詰めを始める生産者はごく僅かしかいないということなのでしょう。

更に国別輸出量をもとに分析していくと、世界各国の近年の傾向が見えてきます。

 

国別輸出量

<表②>は2012年のシャンパーニュ輸出先上位12ヶ国への輸出本数と前年比です。

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輸出先としていちばん量が多いのはイギリスで2位のアメリカとの差も大きく開いています。日本は2011年よりランクを1つ上げて第4位、上位6カ国の中で唯一前年増です。この輸出量をもとに成人1人あたりの消費量を算出したところ、上位6ヶ国は以下の通りとなりました(※生産国のフランスはランキングには含まれていません)。

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1人あたりの消費量1位はベルギー、次いでイギリスとなりました。シャンパーニュだけでなく、ワイン全体の消費量は10位以下にランキングされるベルギーとイギリスですが、シャンパーニュ消費量においては3位ドイツと大きく差が開き、突出したシャンパーニュ消費国だと言えるでしょう。輸出量で2位のアメリカと4位の日本は1人あたりの消費量に換算すると大きな差はなく、僅かに日本が上回っていました。

更に各国の輸出平均単価を割り出したところ、6ヶ国の中ではアメリカがいちばん高く、2番目に単価の高い日本よりも10%程度高くなっています。1人あたりの消費量上位3ヶ国(ベルギー、イギリス、ドイツ)はどの国も単価には大きな違いはなく、日本よりも25%前後安いのですが、イタリアだけは日本と殆ど差がなく、ヨーロッパ各国の中では単価が高くなります。

イタリアは自国スパークリング・ワインの生産も盛んなので、シャンパーニュにはより上級のものが求められているのでしょう。1人当たりの消費量の多いベルギー、イギリス、ドイツの平均単価が低めなのは、日本やアメリカに比べるとより日常的にシャンパーニュが飲まれる傾向にあると考えられます。

<表③>、<表④>にロゼ、プレステージ別に輸出量をランキングしたグラフがあります。

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プレステージのグラフを見ると、アメリカそして日本がシャンパーニュ輸出総数1位のイギリスを上回っています。国ごとのシャンパーニュの輸出量全体からプレステージの割合を出してみると、イギリス、ドイツは僅か2%、ベルギーに関してはランキング外です。イタリア6%、アメリカ8%、そして日本は11%と高い割合です。日本においてはドン・ペリニヨンをはじめとするナイトマーケットが大きく影響していることが容易に推測できます。

 

次に<表⑤>で日本への過去10年間の輸出量推移を見てみましょう。

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2003年から2007年までは順調に輸出量が増えています。2008年のリーマンショックで2009年にはかなりの落ち込みがありますが、その後回復し、2012年には2003年の180%増になっています。どの国にもリーマンショック後の落ち込みは共通して見られましたが、2012年の輸出量は2003年とほぼ変わらず、輸出量上位6カ国の中で日本だけが飛躍的に輸出量を増やしています。日本のシャンパーニュ市場はこの輸出量の推移を見ても、まだまだ拡大の可能性が見込める段階にあると思います。

さて、やはり中国は気になる存在ではないでしょうか。2012年の輸出量では前年より5ランクアップの12位、10年前の輸出量の27倍近い数字でした。しかし、現時点では輸出量だけを見ても日本の45%にとどまります。成人人口8億人に対して輸出量は200万本なので、1人あたりの消費量は0.0025本と日本の0.086本と比べてもごく僅かです。日本の10倍の人口を有する中国が更なる需要により数年の間に上位に名を連ねることは確実でしょうが、経済成長の鈍化に伴い、現在のような著しい成長は徐々に減速化していくのではないでしょうか。

また、前年比で中国の次に伸び率が高いのが経済成長を続けるアフリカ主要国のナイジェリアです。輸出量では22位ですが、<表③>のロゼだけで見るとなんと6位にランキングされていました。輸出本数は88万本で輸出平均単価は日本よりも40%も高く、UAE(アラブ首長国連邦)よりも高額でした。総輸出量が多くないのでランキングには入っていませんでしたが、高い割合でプレステージも輸入しているはずです。ちなみに中国の平均単価は日本よりも30%近くも安く、高額ワインの買い占めによりボルドー、ブルゴーニュと、ワインの価格上昇の根源となった中国ですが、シャンパーニュには今のところ、その兆しは見られませんでした。シャンパーニュまでも急激な価格高騰なんてことにならないことを願います。

 

レコルタン率から見る各国の需要

輸出量上位6ヶ国のレコルタン率を比較したところ、イギリス 1.6%、USA 4.2%、ドイツ 2.9%、日本 7.7%、ベルギー 8.1%、イタリア9.2%とりました。

1人あたりの消費量が最も高く、シャンパーニュ先進国ともいえるベルギーではレコルタンが好まれているようです。他にイタリアと日本でレコルタン比率が高いことがわかりました。

また、今回のデータとは別の話になりますが、グラン・クリュの小規模生産者を訪問していると、ベルギーからの個人客がバカンスを兼ねて直接シャンパーニュを買いに来るという話を良く聞きます。シャンパーニュも飲み慣れてくると求めるのはやはりグラン・クリュで、ベルギーの上級者はレコルタン、グラン・クリュの味わいに対するコストパフォーマンスの高さを良く理解しているということだと思います。日本のレコルタン率も7.7%とベルギーに次ぐ数字で、比較的成熟したシャンパーニュマーケットがあると言えるのではないでしょうか。

輸出量でメゾン、レコルタン、協同組合を比較するとメゾンとレコルタンでは生産量自体に大きな差がある為、レコルタンが数軒増えたとしても輸出量の数字としては表れてきません。そこで軒数ベースでも見てみることにしました。下記の表はそれぞれの出荷元軒数と前年比を記しています。

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日本とアメリカではメゾン, レコルタン, 協同組合全てにおいて増加が見られ、中でもレコルタンが最も増加しています。イギリス、ドイツ、ベルギー、イタリアではメゾンは減少、協同組合はほぼ変わりなく、レコルタンのみ増加しています。輸出量ベースでは見えてきませんでしたが、各国とも共通してレコルタンの軒数が増えているということは、冒頭で申し上げた日本でのレコルタンへの注目度の高まりは、その他の国にも見られると言えるでしょう。

 

えっ、こんなところにもシャルドネの優良産地が!!

今回の出張では今まで訪問したことのなかった村で新たな発見がありました。

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Montagne de Reims には北向き斜面のMailly、Verzenay、北東向きのVerzy、そして南向き斜面のAmbonnay、Bouzy、と優良なピノ・ノワールの産地として名高いグラン・クリュが軒を連

ねていますが、その北向きから南向きに斜面を変える東向き斜面にVillers Marmery、 Trepailといったプルミエ・クリュがあります。そのプルミエ・クリュも当然主要品種はピノ・ノワールだと思っていたのですが、訪れてみたらそこはシャルドネの産地だったので驚きました。理由を生産者に尋ねたところ、Montagne de Reimsの南西コート・デ・ブランから Ambonnayのあたりを通ってVillers Marmeryまでは同じ地層が続いているとの返答。コート・デ・ブランのシャルドネに適した地層は北東に向かったライン上に、Montagne de Reims の東側まで続いていることを初めて知りました。

北向き斜面のMailly、Verzenayのあたりは表土が厚いのでエレガントで重厚感のあるピノ・ノワールが採れます。そして Verzyの東に向かうところからは表土が浅くなりはじめます。一方、南向き斜面はAyから東に向かってBouzy、Ambonnayと続き、こちらではリッチで芳醇なピノ・ノワールが採れます。Bouzyの表土は厚い粘土でAmbonnayの表土はBouzyに比べると浅くな
ります。北向き斜面、南向き斜面とも東に向かうと表土が浅くなり、東向き斜面にあたるVillers Marmery、Trepailのあたりは完全に表土が薄く、石灰が強いので、ピノ・ノワールよりシャルドネが適した産地というわけです。

表土の浅さともう一つ良いシャルドネが取れる要因がVillers Marmeryにはありました。シャンパーニュの土壌はドーバー海峡から続く海底が隆起して出来た石灰質土壌、その中でもMontagne de Reimsのいちばん東端に位置するVillers Marmeryは、その隆起の際の衝撃を受け土壌が砕けているそうです。シャンパーニュでは唯一砕けた石灰質土壌を有する土地で、ブドウの根が奥まで入り込み、ミネラル豊富な質の高いブラン・ド・ブランが出来るのだそうです。

Villers Marmeryの作付面積はPN5%, CH95%で、ピノ・ノワールが採れるのは240haあるうち東南東向きの僅か10haのみ、しかし1910年くらいまではPNとCHの作付け比率は半々だったそうです。現在この村の畑の10%を所有するヴーヴ・クリコがシャルドネを推奨して、そのクオリティーの良さが広まって現在の比率になったそうです。一方TrepailはAmbonnayに続く南東向きの斜面も多少ある為、ピノ・ノワールの作付面積はVillers Marmeryよりやや高く、PN13%、CH87%です。

また、もうひとつ今回新たに聞き知ったことがあります。訪問したVillers MarmeryのRM(レコルタン・マニピュラン)生産者の所有畑はシャルドネのみだったのですが、RMラベルでロゼも造っていたので不思議に思い聞いてみたところ、Verzenyの生産者のピノ・ノワールと自分のシャルドネを交換して造っているとのことでした。その割合は年により異なるのですが、RM規定では自社以外のブドウが使用可能だということです。ちょっとびっくりの新事実でした。

 

CTA-IMAGE ワイン通販Firadis WINE CLUBは、全国のレストランやワインショップを顧客とするワイン専門商社株式会社フィラディスによるワイン直販ショップです。 これまで日本国内10,000件を超える飲食店様・販売店様にワインをお届けして参りました。 主なお取引先は洋風専門料理業態のお店様で、フランス料理店2,000店以上、イタリア料理店約1,800店と、ワインを数多く取り扱うお店様からの強い信頼を誇っています。 ミシュラン3つ星・2つ星を獲得されているレストラン様のなんと70%以上がフィラディスからのワイン仕入れご実績があり、その品質の高さはプロフェッショナルソムリエからもお墨付きを戴いています。 是非、プロ品質のワインをご自宅でお手軽にお楽しみください!