【フィラディス実験シリーズ第4弾】 『液面の高さ』はどこまでが許容範囲なの? (営業 山口 要)
実験シリーズ第4弾となる今回は、日頃オールドヴィンテージのワインを多く取り扱う弊社ならではの実験として、ワインの液面低下をテーマに『液面の高さ』はどこまでが許容範囲なのかを検証したいと思います。
皆さまもオールドヴィンテージのワインを購入される際に、あまりに液面が低いと液漏れや状態不良の可能性を心配するとともに、どの程度まで気にするべきなのか悩んだ経験があるのではないでしょうか。
液面低下の理由
そもそも、なぜワインの液面が低下するのでしょうか。
一般的に経年変化として、10年で1cm程度目減りするとされています。目減りの理由としては、「瓶詰めされたワインはコルクを通して酸素を取り込み、ゆっくりと熟成していく」というルイ・パストゥールの言葉が長らく信じられてきましたが、現在ではこの考え方は誤りであり、コルク栓は空気に対して完全なる密閉状態であることが分かっています。密閉状態であるにも関わらず、時間の経過と共にワインが目減りする理由は3つ考えられます。
1つは、コルクがワインを吸収するためです。何十年も経ったコルクを見ると、少し重みを感じる程にワインが全体に染み込んでいるのが分かります。2つ目は、コルクの弾力が失われたことで、ボトルとコルクの間に微妙な隙間が出来てしまい、水の分子がすり抜けてしまうことが考えられます。水の分子はとても小さく、その大きさは酸素の半分です。そのため、長期間経過して弾力を失ったコルクの場合、空気に対しては密閉状態であっても、水の分子はボトルとコルクの僅かな隙間を通り抜けてしまうのです。ちなみにワインのエチルアルコールの分子も酸素と同じくらいの大きさなので、目減りしたワインでもアルコール総含有量は変化しないそうです。そして3つ目は、熱が入ったことやコルクの劣化による液漏れです。この場合は、ワインが劣化している可能性は非常に高くなります。
このように液面低下の理由はいくつかありますが、これは一定量のワインが均一に瓶詰めされていることを前提にしています。しかし、特に小規模な生産者のブルゴーニュワインでは、このような説明は必ずしも成り立ちません。ドメーヌによって瓶詰する量も違いますし、同一のワインであっても液面が均一に揃えられていないため、一定の基準で画一的に判断することは出来ないのです。
検品時には以上のことを全て念頭に入れ、ラベル、色調、キャプセル周りなども入念にチェックした上で、総合的に判断しています。
※検品についての詳細は、2012年3月のニュースレターで詳述しております。 ぜひご覧ください。
さて、上記を踏まえた上で、液面の低下はどの程度であれば問題ない範囲内、あるいは劣化している可能性が高いと言えるのでしょうか? 今回は、銘柄・ヴィンテージが同じで、液面の高さが違うワインを飲み比べるという大実験を行いました。
Firadisの液面判断基準
弊社では状態不良のワインは全て交換対応を行っておりますが、お客様に状態の悪いワインをお届けしてしまうリスクを極力避けるため、弊社倉庫に入庫する際には検品のプロが1本1本厳格に判断しています。検品では、ラベル、液面、色調、キャプセル周りを総合的に判断するのですが、その際に大きなファクターとなるのが液面の高さです。弊社では、ボルドーワインとその他のワインで分けて、図①のように基準を設けています。
その上で、図②のように、90年代、80年代、70年代、60年代以前と年代毎に液面の状態について明確な判断基準を設けております。ヴィンテージの古いワインについては、一般的な経年変化を考慮し、許容範囲内であれば問題ないとして記載しません。「出荷停止」としている部分は、販売できないレベルだと考え、基本的には出荷停止とします。「備考記載/出荷停止」については、色調やキャプセル周りなども含め総合的に判断して販売するか否かを決定します。
Firadisの液面判断基準
今回の実験のティスティングは、銘柄とヴィンテージは告知するものの、液面の高さについてはブラインドで行いました。評価基準は、ズバリ“劣化していると感じるかどうか”です。代表の石田と営業メンバーの18名で審査を行い、劣化していると感じたワインに挙手をしました。その後、色調、香り、味わいなど一般的なティスティング項目を話し合い、最後に液面の高さを公開してディスカッションを行いました。
実験に使用したワイン
今回用意したのは1970、1980年代のブルゴーニュ、ボルドー、イタリアワインです。かなり贅沢なラインナップですが、正確に実験するため同一ロットの同一商品というだけでなく、同一の環境下で保管されていたオールドヴィンテージの中から液面差があるものを探したため、数年をかけてコツコツ集めていきました。
実験結果
<ひとつとして同じ味わいはないヴィンテージワインの面白さ・難しさ>
まず全体を通じて非常に印象的だったのが、同じヴィンテージ、同じ環境下で保管されたワインでも、1 つ 1 つのボトルが全て違う味わいを持っているということでした。劣化している/していないという違いはもちろん、問題ないと判断したワインも全て味わいは異なっており、ひとつとして同じものはありません。これこそがヴィンテージワインの面白さや楽しみ方なのだと実感すると同時に、扱う者にとっての難しさだとも思いました。
<液面4~4.5cmがヴィンテージブルゴーニュの境界線>
No.1 から 6 までのブルゴーニュワインについては、かなりはっきりとした傾向が見られました。[記載なし]のワインが明らかに劣化してしまっていたGhislaine Barthodは除いて考えると、液面 3.5cmまでは問題ないレベルですが、4cm~ 4.5cmになると一気に劣化だと感じるようになります。たった 1cmでそんなに違うの?と疑問に思われるかもしれませんが、ブルゴーニュワイ
ンの瓶は下に広がる形状ですので、液面が下がるほど容量は大きく変わります。そのため、液面 3.5cmと 4.5cmではそのインパクトはかなり違うのだと考えられます。
とても興味深かったのは、[記載なし]のワインと 3.5cmのワインを比べると、3.5cmのワインの方が美味しいと感じる者が多かったこと。サンプルの数が少ないのではっきりとは言いきれませんが、液面が高ければいいというものでもないのか?と新たな疑問が湧き上がりました。
<ポテンシャルの高さを見せつけたキャンティ・クラシコ>
No.7 のキャンティ・クラシコは、私たちの予想を完全に裏切ってくれました。今回は長期熟成してからの真価が問われるリゼルヴァを使用したのですが、液面差云々ではなく、どちらも驚くほど強さと凝縮感のある味わいでとても 80年代のワインだとは思えませんでした。やはり「イタリア、キャンティ・クラシコは強し!」ですね。ただ今回は 1 種類しか検証できなかったので、今後更に掘り下げた実験をしてみたいと思います。
<液面は適度に下がっている方が美味しい?!>
No.8 から 10 はボルドーワイン。80 年代のワインも 70 年代のワインも今回実験したようなレベルの液面低下くらいでは明らかに劣化を感じるものはありませんでした。
サンプル数が少ない中ではありますが、少しだけ見られた傾向としては、トップ、アッパーショルダーの方が、若い時は屈強な硬さの1975年のワインでも飲み心地の良いものに変化していたこと。むしろ、[記載なし]のワインはもう少し寝かせて待つことも可能なのでは?と感じました。ここでもブルゴーニュと同じく、「液面が適度に下がっていた方が美味しい」という仮説が当てはまる面白い結果となりました。
実験を終えて
瓶詰めされたワインがコルクを通して呼吸するというのが間違った考え方であるとすると、瓶内では正常であれば還元的熟成が進んでいきます。還元的熟成が進む際に、ある程度の範囲を超えてしまうとワインとしてのバランスや味わいになんらかの形で支障が出てきてしまうのではないかという考えに辿りつきます。
そして、その支障が出るか否かの範囲ですが、今回の実験から導かれることは、図②で示した弊社の基準表の出荷停止レベルのものは、実際に品質的にも劣化している可能性が高いということではないでしょうか。ブルゴーニュは明らかな結果となって出ましたし、ボルドーでは液面差と劣化の関連性を見られなかったのは出荷停止レベルのワインがなかったためだと言えるかもしれません。弊社の基準表は、長い時間をかけて経験を蓄えながら作成してきたものであり、それが今回の実験で肯定されたことで社員一同安心しました。
また、必ずしも液面の高さが低くなればなるほど劣化するのではないことも証明される結果となりました。今回のAlbert BichotやCh. Calon Segur、Ch. Pichon Lalandeのように、液面が低下してもヴィンテージに応じた範囲内であれば、きれいに熟成が進んでいることも大いにあります。ただ、液面だけで判断するのは危険です。色調やキャプセル周り、ラベルなども含めて総合的に判断する必要があります。
ワインは嗜好品ですので味の好みはそれぞれ違いますし、ヴィンテージワインはひとつとして同じ味わいがないということ自体を楽しんで頂くものだと思いますが、今回の実験結果を今後の皆さまのワイン選びにお役立ていただけたら幸いです。これからも状態の良いオールドヴィンテージワインをベストな状態でお届けできるように頑張ってまいります。
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