アメリカ出張報告 ~コストパフォーマンスに優れたカベルネを探してワシントン州へ (営業 加藤 武)
昨年のアメリカ出張では良質なカベルネ・ソーヴィニヨンを探しにカリフォルニアのナパ・ヴァレーを訪れた結果、その価格の高さに撃沈されそうになりながらも、ナパらしさを十分に備えながら価格を抑えたバーロウや、セントラルコーストのテート・ドック等を見つける事が出来、皆さまにご紹介して参りました。 カリフォルニアだけでみれば十分にコストパフォーマンスに優れたワインを見つけられたかなと思っておりますが、カリフォルニアにこだわらず広い視点で探すことで、より幅広く皆さまの現場で活躍出来るワインを見つけられるのでは・・・との思いを胸に、今回はアメリカ第2位のワイン産地ワシントン州に行ってきました。
テーマはよりコストパフォーマンスに優れたカベルネです。カリフォルニアにもまだまだ未開拓のワインは沢山あると思いますが、今回は幅広いお客様にご利用頂ける価格帯のワインを探すことが目的という事で、“アメリカのカベルネ×コストパフォーマンス=ワシントン”というイメージがあるワシントン州に乗り込みました。
【ワシントン州の概要】
今回の出張ではワシントン州の中心産地、ワラワラ・ヴァレーとヤキマ・ヴァレーを中心に回ってきましたが、最初に色々なワイナリーで聞いた情報も含めワシントン州全体を簡単におさらいしておきます。
ワシントン州はアメリカ第2位のワイン産地です。1位は当然カリフォルニアで、アメリカのワインの約90%を産出してお
り、2位ワシントン州が4%、3位ニューヨーク州が3%と第2位の産地と言っても生産量はカリフォルニアの20分の1以下です。ワイナリー数は740件、AVA数は13、緯度はボルドーとブルゴーニュの中間、夏期の平均日照時間は17.4時間とカリフォルニアよりも2時間程も長いエリアです。白ワインと赤ワインの比率は白55% 赤45%となっており、主要品種のカベルネ、メルロ、シラー、リースリング、シャルドネを中心に30種類以上の品種が栽培されています。
また、ワシントン州はカスケード山脈によって東西に分断されるため、山脈の東側と西側で大きく気候が変わります。海に近い西側は海洋性気候でソノマ等と同じく寒流の影響で非常に涼しいのですが、東側はカスケード山脈がその寒気を遮るため暖かく雨量の少ない乾燥したエリアとなります。大陸性気候で、夏は長い日照時間で暖かく、冬はカナダ側から寒気が流れ込むため凍結を警戒する程寒くなります。ブドウは気温が35℃を超えると生育を止めてしまうので、夏に暑い日が続けば続くほど収穫は遅くなります。私が訪問した10月初めでやっと白品種の収穫が終わり、赤品種の収穫が始まった時期でした。
今回、西側にあるポートランドから車で東側のワラワラ・ヴァレーへ向かったのですが、カスケード山脈を越えるまでの道は木々が生い茂り緑豊かな美しい景観でしたが、山脈を越えると徐々に木々が少なくなり乾燥した茶色い崖と半砂漠状態の土地が延々と拡がっており、ほんの1・2時間の距離にも関わらず山脈が遮る湿度と気温の違いで光景がこうも違うのかと驚かされました。
ワシントン州のワイン産地
ワインの産地としては東側が中心となり、ワシントン州とオレゴン州の州境に流れるコロンビア川の周りにワラワラ・ヴァレーやヤキマ・ヴァレー、そしてワシントン州のAVAのほとんどを覆う巨大なコロンビア・ヴァレーなど有名な産地が集まっています。
東側エリアは更に南北に産地が広がっており、北に位置するAVAレイク・シェランやエンシェント・レイクスはカナダから下りてくる寒気によって比較的涼しいAVAとなるため、リースリングやピノ・グリ、ゲヴェルツトラミネール等白品種を中心に多様な品種が植えられています。南に位置するAVAでは、ヤキマ・ヴァレーの東寄りやホース・ヘブン・ヒルズ、レッド・マウンテン、ワルーク・スロープが最も暖かく、内陸寄りのヤキマ・ヴァレーやワラワラ・ヴァレーは次に暖かいAVAとなり、カベルネやメルロ、シャルドネが多く栽培されています。
また、冷たい空気は重いので低い土地に流れ込むため、東側エリアでは標高が高い場所の方がカナダからの寒波を免れる事になり、暖かくなります。
ワシントンの土壌とミズーラ洪水
ワシントンのワイナリーを訪問し、土壌の話をすると必ず出てくるのが氷河期終盤に起こった氷河湖決壊による洪水の話です。まさか土壌について話すなかで氷河期の洪水が出てくるとは予想もしていなかったので、始めに聞いた時はハテナが浮かびました。
約1万4千年前、モンタナ州の氷河湖ミズーラ湖(氷河湖:氷河がダムの役割をしてつくる湖)の氷河が溶解し、世界的に見ても過去最大級の洪水と言われるほどの大洪水が発生しました。この洪水によってワシントン州やオレゴン州のコロンビア川流域の産地に大量の沖積土が運ばれ、沖積土を中心に洪水で流されてきた川石、玄武岩、ローム、火山性の砂などが層になる複雑な土壌を形成しています。
【ワラワラ・ヴァレー、ヤキマ・ヴァレーを訪問して 】
今回はワシントン州のAVAの中で最も有名な産地ワラワラ・ヴァレーとヤキマ・ヴァレーのワイナリーを訪問してきました。
山側と平坦地で味わいが変わるワラワラ・ヴァレー
ワラワラ・ヴァレーはワシントン州で最も東に位置し、南に隣接するオレゴン州に跨るためオレゴン州のAVAとしても存在します。コロンビア川から少し内陸部に入ったところに位置し、車で走っていると砂漠しか見えないような乾燥した暑いエリアですが、冬は雪が降り恐ろしく寒くなります。有名なワイナリーも多くあり、日本で見かけるワイナリーも少なくありません。
ブドウ畑はワラワラの町からそう遠くない平坦地のエリアと南の山側エリアに存在します。山側の畑は火山性の砂やローム、玄武岩の上に砂が重なった土壌が多く、山全体が砂漠で覆われた様な場所になります。平坦地の畑は洪水が大きく影響しており流れ着いた沖積土や川石が混ざった土壌になります。
栽培される品種はカベルネやシラーが中心です。山側の畑には標高が高くなる為、前述したように寒波から逃れられるという利点がありますが、平坦地には川石が非常に多く溜まったエリアがあり、そこの畑から取れるワインには山側には出せない美しいミネラル感があるワインになります。シラーで有名な生産者カユース・ヴィンヤードに訪問しましたが、カユースの畑はこの平坦地にありシャトー・ヌフの様な石がゴロゴロした土壌で、ワラワラのワインの中でも際立ったミネラル感で非常に美しいワインでした。
カユース・ヴィンヤードでは、平坦地の畑にとって脅威となる極寒の冬を乗り越える仕立ての技を教えてくれました。冬、雪が積もる前に翌年活かす枝を畑にある石を積み上げて埋めておくと言うのです。そうすることで雪や凍結からブドウの木を守ってくれるそうです。
ちなみに、ワシントン州とオレゴン州に跨るワラワラ・ヴァレーですが、醸造所の多くはワシントン州にあり、オレゴン州にはブドウ畑が広がります。多くの生産者がオレゴン州で収穫したブドウをワシントン州へ運んでワインを作っているそうです。
ワラワラのワイナリーを周ってテイスティングを重ね感じたのは、「美味しいシラーが多いな」ということでした。カユースが飛び抜けていた事は置いておいても、どのワイナリーもシラーの完成度が高く、青さも無く十分に熟しキレイに広がって抜けていく感じがとても良いのです。確かにシラーが良い事は本などにも書いてありましたが、え!シラー!という驚きがありました。
しかし、今回の目的はカベルネだったはず・・・たくさんのカベルネも試飲しましたが、惚れ込むようなものはなく、納得できる品質且つコストパフォーマンスに優れたワインには出会えませんでした。シラーの好印象に押し負けた訳では無く、ブドウは熟してはいるし、十分すぎる寒暖差を感じるエレガントさもあるけど、どこか軽く、複雑味も欠けており、余韻もフワッとしていて(火山性だから納得ではありますが)、もう少しだけ強く押して欲しい!と感じてしまったのです。
ワシントンワイン好きの方にはもっとしっかり探せ!と言われてしまいそうですが、勿論素晴らしい可能性もたくさん見つけてきました。
カベルネを探す旅で見つけた素晴らしい可能性とは?
ワラワラ・ヴァレーを後にして向かった先はヤキマ・ヴァレー。ワシントン州のAVAで最も古くにAVAに指定されたエリアで、AVAレッド・マウンテン、AVAスナイプ・マウンテン、AVAラットル・スネークも含めてワシントン州のブドウ栽培面積の1/3以上を誇る中心エリアです。
このエリアのワイナリーでもシラーが存在感を発揮していましたが、ワラワラ・ヴァレーから2つ目のエリアに移り、確信した事が有りました。実はワラワラにいた時から薄々気付き始めていた事でもあったのです。それは『カベルネ・ブレンド』が良いという事です。カベルネに、メルロやカベルネ・フラン等をブレンドして作られるワインの方が、カベルネ100%のワインより味わい的にも価格的にも納得感があったのです。
そしてもう1つブレンドして欲しいもの、それはAVAです。例えば、ワラワラ・ヴァレーのブドウだけで作られるワインより、もっとあたたかい果実を出してくれるAVAヤキマ・ヴァレーやAVAワルーク・スロープを混ぜたり、骨格を作ってくれるAVAレッド・マウンテンを混ぜたりする事で、ワラワラのエレガントさが活きたワインに仕上がっていました。道理でワインのラベルに書かれているAVA名が巨大なコロンビア・ヴァレーだったり、更に大きなワシントンと書かれていたりする事が多かった訳です。
ある生産者に何故表記を巨大AVAにするのかを尋ねた時、ヤキマやワラワラがまだあまり有名ではないからだと言っていました。それもあるでしょうが、実は裏にもっと大きな意味が有ったのかもしれないと後で気付かされました。その答えを聞いた時に「良い産地なんだし、もっと前出て行こうよ!」などと勝手に思っていた自分が浅はかでした。その後、他の生産者からも元々ワシントンはブレンドの産地だから巨大AVAでOKなのだという話を聞き、更に納得。出発前にもっと調べておくべきだった・・・と勉強不足を痛感しました。が、最後の巻き返しとばかりに、シアトルのワインショップで日本には輸入されていない良さそうな物を買い漁り、最終日にも飛行機の出発ギリギリまでワシントンワインテイスティングを重ねて、冷静にワインだけと向き合いながら最後の最後まで粘り強く探してきました。
最後の巻き返しが功を奏し(?)、直ぐにとはいかないかもしれませんがまたアメリカらしく楽しいワインを御案内できる日が来るはずだと願って失礼いたします。
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