DRCより高値で販売されていた辛口ドイツワイン??(営業 寺坂 和也)
今年から正規代理店として扱うワイナリーを選定するため、フィラディスでは2016年3月・8月・11月と3度にわたってドイツに赴き、候補を絞ってまいりました。
辛口→甘口→辛口?ドイツワインの味わいの変遷
まず、ドイツワインと聞いて皆様が思い浮かべるイメージはどのようなものでしょうか?馴染みのない言葉の羅列が苦痛でソムリエ試験では諦めてしまった・・・なんて方も多いのではないでしょうか。かく言う私も試験では苦手意識が強く、“捨てて”しまいました(笑)
きっと最も多いのが「甘口の白ワイン」というイメージではないでしょうか。しかし現在のドイツは、意欲的な生産者の出現による栽培技術の向上、更に地球温暖化の影響もあり、以前より容易にブドウを完熟させることが可能になりました。そのため、糖度の高いブドウからワインを造ることができ、ブルゴーニュのような概念でテロワールにもこだわった辛口の白ワインを造る優良生産者が多くなってきています。
ドイツ屈指の銘醸地モーゼルでは、とある生産者から興味深い話を聞きました。「ドイツ=甘口の白ワイン」という図式は第二次世界大戦以後に飲み手の好みが変化するなかで生まれたもので、それ以前は辛口のドイツワインの方が主流だったのだそうです。つまり、ドイツワインの根源は辛口の白ワインにあったわけです!
戦前はモーゼルワインを始めとするドイツワインが高値で取引されており、フランスの有名なトップワイナリーよりも高額でオンリストされることも多かったそうです。下の写真は1941年のニューヨーク、リッツカールトンのワインリストの抜粋ですが、ロマネ・コンティやシャトー・ディケムよりもモーゼルやラインガウのワインが高値で販売されていたことがわかります。
その後、戦後には甘口ワイン全盛の時代を迎えますが、この時代のワインの優劣の判断基準は「ブドウの熟度」でした。そのため畑の優劣は語られずテロワールには重きを置いていませんでした。更に優れたテロワールを持つ畑の多くは急斜面にあって機械が入れないため、ブドウ栽培は過酷でした。敢えてそんな苦労を負おうという生産者はおらず、優良畑の価格は非常に安かったのです。
そのような背景によって、まだ甘口ワインが主流であった90年代に表れた意欲ある若手が、新たに畑を購入するのはさほど難しいことではありませんでした。加えて、テロワールの表現にこだわり、ブドウのポテンシャルを最大限発揮させるワイン造りの世界的なブームに後押しされ、ドイツでも辛口ワインを造るという新たな試み(歴史的に言えば、正確には原点回帰ですが・・・)が拡大してきたのです。
辛口ワインの格付け V.D.P(ファウ・デー・ペー)
ドイツ国内に目を向けると、テロワールを重視した辛口ワインの生産者グループが中心に制定するV.D.P(ファウ・デー・ペー)と呼ばれる格付が定着してきていました。現在加盟している生産者は約200軒(醸造所)ですが、優良生産者の多くが加盟しており、公的格付けではないものの基準となってきています。加盟生産者の栽培面積はドイツワイン全体の約4%、生産量は約2.5%でありながら、全ドイツワインの販売金額の約12%を占めています。
V.D.Pの格付けは、フランスのブルゴーニュと同様にテロワールの優位性によってランク分けされており、このグループがテロワール志向であることを示しています。
現地の生産者は当たり前のようにV.D.Pの格付けで話を進めることが多く、中にはエアステ・ラーゲやグローセ・ラーゲのとは言わず、プルミエ・クリュ、グラン・クリュを使う生産者もいました。 実際にブルゴーニュで言うところのACブルゴーニュクラスからグラン・クリュクラスまで順に試飲を行っていくと、その味わいのレベル感の差は歴然で、非常に解りやすいものでした。私自身はドイツ訪問は初めてでしたが、全体的に非常にレベルが高いことにとても驚きました。
命の危険まで感じるモーゼルの急斜面
今回、全部で5つのエリアを訪問しました。急斜面に優れたテロワールを数多く有する辛口ドイツワインの最優良産地「モーゼル」。輸出量が最も多く、リースリングの栽培面積比率ナンバーワンの「ラインガウ」。近年若手の有力な生産者が増えて品質が向上してきているドイツ最大のワイン生産地「ラインヘッセン」。同じく近年レベルが上がってきており、温暖なエリアならではのふくよかでボリューミーな味わいが特徴の「ファルツ」。ボックスボイテルのボトルが有名でシルヴァーナーの品質が極めて高い「フランケン」。それぞれ土壌や気候も異なるため独自の個性があります。
特に今回はモーゼルを中心に巡ったのですが、文献等にモーゼルは急斜面が多く、機械での作業が難しいと書かれていて想像はしていたのですが、実際に畑を見せてもらうと、その想像をはるかに超えていて立っているのが困難なほどの急斜面!非常に驚きました。土壌がスレート土壌のため表面がつるりとした石が多いこともあり、気を抜くと滑り落ちてしまいます。機械での作業が出来ないことは一目瞭然ですし、人の手で作業を行うにも莫大な労力と命の危険さえ伴います。こんな苦労をしてまでこの地にこだわる姿勢に、「良いワインが出来ないはずがない!」と思わされました。
ドイツの生産者の気質とは・・・
生産者を訪問するなかで、もう一点大変驚き感動した事は、訪問したほとんどのワイナリーで私たちが来るのを心待ちにして下さり、商談室にグラスや資料が人数分きっちりと準備されていた事でした。こんなことはフランスやスペインではあり得ません!ドイツには真面目で厳格なイメージがありましたが、まさにその通りでとても嬉しく感じました。一件あたりの商談時間も非常に長く、ワイナリー側の思いを熱心に丁寧に話してくださる方が多かったことも印象的でした。
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現在日本にも数多くのドイツワインが輸入されています。しかしながら、実際に現地を訪れて驚いたことは、土壌にこだわり熱心にワイン造りを行う最高品質の辛口白ワインを造る世界的なトップ生産者が、日本へはまだほんの僅かしか輸入されていないということでした。
今回はそんな高品質にもかかわらず日本には入っていないワイナリーばかりを訪問してきました。今後、その中からどのワイナリーを取り扱うかを検討していくわけですが、フィラディスとして自信を持ってお勧めできる生産者を皆様へご紹介できる日が今から非常に楽しみです。
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