若手ソムリエ応援プロジェクト『テイスティングとヴィンテージの考え方』セミナーを大公開!(講師 大越 基裕氏)
フィラディスでは、2013年の創立10周年を機に【若手ソムリエ応援プロジェクト】を立ち上げ、未来のワイン業界を担う若手の育成に力を入れています。 今回は、プロジェクトの一環として昨年実施した『ソムリエ基本スキルUPコース』の中から、『テイスティングとヴィンテージの考え方』セミナーの内容をご紹介します。 講師は、ワインテイスターとして活躍中の大越基裕氏です。
【Ⅰ. テイスティング】
ソムリエにとってテイスティングとは、何となく・・・といった曖昧なものではいけない。なぜ余韻が長いのか、何故酸が高いのかをロジカルに考え、ワインの味わいを明確にお客様に伝える必要がある。
こうしたロジカルテイスティングは、「タンニン量が○○だから、△△の厚さで□□の脂のお肉に合う」といったように、マリアージュをまとめ上げる際にも役立つ。第三者の人に分かりやすく説明するには、自信を持ってロジカルに話が出来ることが大切になる。そのためには、比較対象となるワインの情報を仕入れられるだけ仕入れ、経験値として自分の中に持たねばならない。ソムリエにはワインのチェックという素晴らしい機会が与えられているので、絶対に活かすべきである。
以下では、ロジカルテイスティングを行うにあたって、必要な要素を解説していく。
① 外観
ワインの外観を見れば、そのワインが重そうなのか、軽そうなのか、酸化熟成傾向にあるのか、アルコールが高そうなのか、残糖がありそうなのか、濁っているからノンフィルターワインではないか、といったように、想像できることは非常に多い。
② 香り
香りの強さや印象を、様々な形容詞で表現する。
「ベリー香」だけをとっても、カシス・ブルーベリー・ブラックチェリーといった果物から、フレッシュ・熟している・コンポート・コンフィチュール・ドライといった、その果実の状態の表現も付け加えることが出来る。
香りには、「果実系」「スパイス系」「焦臭系」「土系」「植物系」「花系」「化学系」「乳製品系」など様々な分野があるので、一つの分野を複数羅列するよりも、幅広い分野で香りのバリエーションを説明するとより理解しやすくなる。
また、それらの香りが何に由来するものかを紐付けられると非常に役立つ。マロラクティック発酵(MLF)は例として分かりやすい。MFLはその反応の副産物としてダイアセチルというワインに発酵バターや杏仁豆腐の様な香りを与えることが特定されている。ワイン中の香りは何百も存在するが、それぞれの香りの由来など、まだ解明されていないことが沢山ある。
③ 味わい
<味わいの基本構成>
広義な意味では、五味(酸・甘・塩・苦・旨)、刺激(渋・辛)、フレーバー を差す。
ワインのテイスティングにとって特に重要なのは、酸味、甘味、渋味、フレーバーだが、近年は塩味の表現も世界的によく使用される。
塩味: 海からの風の影響、土壌からの影響は断定できない、引き締まっている構成のワインに見られることが多い
苦味: 酸味が控えめなブドウから造られる白ワインに見られることが多い Ex.) ゲヴュルツトラミネール、ミュスカ、ヴィオニエ、ルーサンヌ、マルサンヌ等
旨味: 熟成したワイン、シュール・リーによって澱の自己溶解により旨味成分であるアミノ酸がワインに溶け込む
<ワインにおける味わいの違い>
◇ クリマの違い
クリマとは、AOC、AOPで定められた場所の名前のこと。リューディーという言葉もよく使われるが、これは昔から言われている区画の名前や行政区画を差す。例えばLa Tacheは、クリマはAOC La Tacheだが、リューディーはLa TacheとLes Gaudichotsの2つに分かれる。
・ミクロクリマ…土地による細かな違い
・マクロクリマ…もっと大きな、国や地域の違い
↓
◇ ブドウのポリフェノールの熟度や、糖、酸の量に大きく影響
↓
◇ アロマや味わいの骨格とフレーバーに違いが出る
<ワインのフレーバーの違い>
特に果実感には大きな違いが現れる。
・冷涼なクリマ ⇒ フレッシュな果実感が生じる、品種や年によってグリーンノートが残ることもある
・温暖なクリマ ⇒ 熟したニュアンスやコンポート・コンフィチュールの果実感(甘いニュアンス)、スパイス感が生じやすい
④ 骨格
残糖の甘み、アルコール度数の高さ、酸、タンニン、塩味 によって、味わいのストラクチャーバランスが決まる。
◇ 厳しさ(ストラクチャーを与えるもの)…酸味、タンニン、塩味
◇ やわらかさ(ストラクチャーを柔らかくするもの)…糖、アルコールに加え、旨みも影響する
⑤ 醸造的特徴
例えば、2014VTなのに既にレンガ色がかっている赤ワインがあるとする。外観と香りから酸化熟成していると推測するが、香りや味わいは意外にフレッシュ。タンニンもまだしっかりしている。ここから考えられる事はいくつかある。
樽で1カ月熟成させて、瓶で数年置いたものであったら考えられない色素の酸化速度である。ということは、樽の中に長く入っていたのではないだろうかという風に推察できる。タンニンの多さからも長期樽熟成による酸化によって、タンニンの結合(重合)をはかり、滑らかにする狙いがあることが伺える。
このように、色や香りから醸造的な特徴を推察することができる。全房発酵、低温浸漬、マセラシオンカルボニック法等それぞれに異なる特徴がある。どんな醸造を行えばどのような特徴が出るかを理解すると、見えてくることが沢山ある。
⑥ BLICC
果実感や骨格を理解しても、残念ながらそれだけでは概要を分かっているに過ぎず、ワインの質を理解することは出来ない。1er CruとGrand Cruの違いといったワインの質を見極めるには、BLICCが必要。
Balance(バランス)、Length(余韻の長さ)、Intensity(強さ)、Complexity(複雑性)、Concentration(凝縮度)
これらが分かってはじめてテロワールの理解に近づける。バランス良さや複雑性をもったワインの味ががより質の高いものとして評価される。
————————————–
①~⑥まで全て理解した上でマリアージュを造るのが一番の理想。ソムリエは基本的にはワインに料理を合わせるのではなく、料理にワインを合わせる。1つの料理に対してどんなアプローチをするのか、ロジカルテイスティングが可能になれば、より精度の高い推測が出来る。
【Ⅱ. ヴィンテージが与えるもの】
① ブドウの熟度
・フィジカル的成熟: 時間の経過とともに糖が上がって酸が下がる
・フェノール的成熟: タンニン、アントシアニン(色調)、香り成分などの成熟度合い。
フェノールには様々な種類があり、成熟するとアントシアニン等は増えるが、香りも密接な関係があり、熟した時は熟したフレーバーをもたらす。栽培条件や品種で大きく変化するため数値化は困難。
栽培では、フェノール的成熟を捉えることが重視されている。収獲タイミングをブドウの種の味わいで決めるという造り手がよくいるが、種をかじってその味わいでフェノール類の熟度を見ている。
カベルネ・フランは青ピーマンのようなグリーンノート(メトキシピラジン)を持っているが、これは本来カベルネ・フランの特徴ではなく、ブドウが熟成していないから出るもの。熟していなければ、カベルネ・ソーヴィニヨンだろうがシャルドネだろうがグリーンノートは出る。ブドウだけでなく、イチゴだろうがトマトだろうが植物には若い時分にこの香りを持つものが多い。ロワールは冷涼なので熟しづらいだけであり、カベルネ・フランをどう造るかの話。つまり、品種ではなく、テロワールに影響している。
② ミルランダージュ(結実不良)
ブドウの房は通常コンパクトにぎっしり実がつくが、房にバラバラにしか実がつかないことがある。理由は様々で、主に春に天候が悪かったり(雨、寒)、花ぶるいによっても結実不良は起こる。これによって収量が減る。
ブドウにとって一番大切なのは、ヴェレゾン(色付き)以降どれだけ日光を浴び、効率よく光合成を行えるかである。フィジカル的、フェノール的双方の成熟に関わるため、味わいに大きく影響する。ミルランダージュによって、皮が厚くなり、果汁に対しての皮や種の割合が多くなる。そのため、ミルランダージュで造るワインは味が濃くなる傾向がある。果汁に対して、皮や種といった物質量の比重が大きくなるので、色合いやタンニンもしっかりする。なので、通常ライトボディのワインが造られるブルゴーニュでは、ミルランダージュが発生すると喜ばれることも多い。
③ ワインの凝縮度、果実味、タンニン、酸
酸と糖のバランスがどの状態の時に収獲するかで変わる。
また、タンニンについてはその量や質を見極める必要がある。タンニンの量が多くなっても渋くなるとは限らない。カリフォルニアのCSとボルドーのCSを比べてみる。カリフォルニアの方が日照量が多くブドウは確実にボルドーより熟しているはずなのに、なぜカリフォルニアの方が渋くないと感じるのか?その理由は、一つは果実味が強いので、渋味を中和しているから。もう一つは、タンニンはその分子が単体の状態が一番渋いが、タンニンの分子はゆっくりとした酸化熟成によって重合(分子同士が結合)する。そうなると渋さが滑らかさへと変化する。そしてこの重合がブドウが熟すと実の内部でも起きるからである。
タンニン分子がまだ単体の状態にあって若く強い赤ワインは、樽に入れて熟成させ滑らかにすることが多い。例えばバローロはタンニンが強すぎるため5年も大樽で熟させている。ただ、近年は栽培技術の向上によってよりブドウを熟させることができるようになり、タンニンをそれほど抽出しない醸造方法も選択できるため、酸化熟成させずに果実味が豊富なモダンなスタイルのバローロが生まれている。
また、フランス南西地方マディランで開発されたミクロ・オキシジェナシオンという醸造技術は、貯蔵・熟成中の赤ワインに微量の酸素を吹き込んで酸化を促進し、タンニンの重合を促進するというもの。マディランではタナーという品種からとてもタンニンの強いワインを造っているが、それを早くから飲めるようにするために生まれた技術である。
タンニンの重合はいつまでもずっと続くわけではない。分子量が大きくなりすぎると水に溶けなくなり、澱となる。そのため、年を経たボルドーは渋く感じなくなる。
④ 熟成の進度
ヴィンテージの弱い年は凝縮度や様々なポリフェノールが少ないので、熟成の進度は早くなる。
————————————–
尚、ブドウは花が咲いてから収穫まで100日と言われるが、必ずしも花は一斉には咲かない。暖かい場所は比較的一斉に咲くが、寒い場所や雨が降った年はバラバラになりやすい。それでも収獲タイミングは同じなので、異なった葡萄の熟度レベルがワインの味わいに対して影響を与えると考えられる。
しかし、昨今は選果の技術が非常に上がっており、優れたブドウのみを選別してワインを生産することも可能である。この場合ヴィンテージの個性はやや少なくなるのではないかと予想できる。
-
前の記事
フィラディス実験シリーズ第14弾『オマールエビにマリアージュする白ワインとは?!』(営業 池松 絢子) 2017.04.06
-
次の記事
<フィラディス繁盛店インタビューNo.7>トラットリア・築地パラディーゾ 久野 貴之オーナー 2017.05.02