「天然きのこの魅力に迫る! 」後編:天然きのこにマリアージュするワインとは?(広報 浅原有里)
- 2020.12.07
- マリアージュ
- マリアージュ,キノコ
先月のニュースレターでは天然きのこの種類の豊富さやきのこ狩りの雰囲気を少しでも感じていただけましたでしょうか?今月号では、満を持して天然きのことワインのマリアージュ検証会の結果をお伝えします。
天然きのこについて
世界中で広く食べられており様々な調理法で料理されるきのこですが、今回は天然きのこそのものの味わいを理解して合うワインを見つけるために、まずはシンプルなサラダオイルでのソテーとバターソテーで検証しました。その後、応用編として、フレンチやイタリアンを想定してビネガー/サバイヨンソース(卵黄に水やお酒を加えて泡立てて作るソース)/赤ワインソースという3つのバリエーションを組み込んだフルコースをご用意いただき、更に深くマリアージュするワインを探しました。
お料理は全て長野県蓼科のオーベルジュ・エスポワールさんに作っていただきました。
まず天然きのこを食べて感じたのは、食感が力強く、香りや味わいもとても強いこと。特に爆発するような旨味は凄まじかったです。そのため、いつも食べている人工栽培のきのことは比べ物にならないくらい食べごたえがありました。味わいは種類によってさっぱりしていたりバターのような風味が感じられたり苦味が強かったりぬめぬめしていたりと非常に個性的でした。
*時期によって採れるきのこは違いますが、訪問したのは10月10日だったので、その時期に収穫が可能なきのこを使用しています。
マリアージュの判断方法
「ボリューム」「テクスチャー」「フレーバー」「五味(甘味・酸味・塩味・苦味・旨味)」について、以下のマリアージュポイントを参考にしながら分析する。
同調 (ワインと料理の個性の一部が寄り添うことで双方を高め合う)
中和 (お互いの個性を中和させて味わいのバランスをとる)
補完 (ワインと料理の双方が揃うことで、足りなかったものを補完する)
※マリアージュ理論の詳しい内容は以下よりご覧ください
https://firadis.net/column_pro/201312
【結果:サラダオイルソテー/バターソテー 】
ワイン | サラダオイルソテー | バターソテー | ||||
シャンパーニュ | 1 | NV Table Ronde / Lancelot Pienne 仏、シャンパーニュ シャルドネ100% |
◯ | アタックは良く、ワインの旨味と同調していた。若干シャンパーニュの酸とミネラルが強く気になった。 | ◎ | バターのまろやかさとワインのふんわり感が同調し、サラダオイルの時に気になった酸とミネラルもまとめてくれた。秀逸なマリアージュ。 |
2 | NV Blanc de Noirs / Etienne Lefevre 仏、シャンパーニュ ピノ・ノワール100% |
◯ | きのこの香りとコクを引き出した。ただし、シャンパーニュの酸とミネラルが強く気になる。 | ◯ | サラダオイルよりも更に良くはなったが、やはりワインの骨格の力強さが若干勝っていた。 | |
白ワイン | 3 | 2018 Menetou Salon Blanc Morogues La Tour Saint Martin / Minchin 仏、ロワール ソーヴィニヨン・ブラン100% |
△ | 香りの方向性が異なる上に、ワインの酸がきのこの旨味と合わず厳しい結果に。 | △ | ソーヴィニヨン・ブランの香りとバターソテーが合わない。ワインの酸も気になる。 |
4 | 2016 Gruner Veltliner Purus /Weszeli オーストリア、カンプタル グリューナー・フェルトリーナー100% |
△ | きのこを美味しく食べることはできるが、ワインの良さが全く出ない。 | △ | 方向性が異なりバラバラの印象に。サラダオイルと同様にワインの良さが出てこなかった。 | |
5 | 2018 Gewurztraminer / Tramin 伊、アルト・アディジェ ゲヴュルツトラミネール100% |
✕ | ゲビュルツの香りがきのこの香りをかき消す。アフターの苦味が目立ち、難しい。 | ✕ | ゲビュルツの香りがきのこの香りをかき消す。アフターの苦味が目立ち、難しい。 | |
6 | 2018 Coteaux du Loir Blanc L’Effraie / Belliviere 仏、ロワール シュナン・ブラン100% |
◯ | 悪くはないが、アフターにシュナン・ブランの甘さがネガティブな方向に残ってしまった。 | ◎ | バターの濃厚さとワインの甘やかさが心地よく同調し、質感のなめらかさも抜群に合った。香ばしいきのこの香りをより引き立てていた。 | |
7 | 2010 Riesling Zeltinger Sonnenuhr Auslese** Trocken / Markus Molitor ドイツ、モーゼル リースリング100% |
◎ | リースリングのほのかな甘さがきのこに寄り添い心地よくマリアージュした。ワインの酸の強さが若干気になるが、ドレッシングをかけたような補完の効果できのこのコクを引き出し、楽しませてくれた。 | ◯ | サラダオイルの時よりも酸とリースリング特有の甘やかさが目立つようになってしまった。とはいえ方向性は合っているので悪くはない。 | |
8 | 2017 Bourgogne Blanc / Francois Carillon 仏、ブルゴーニュ シャルドネ100% |
◯ | ハタケシメジのような味わいがシンプルなきのこにはワインが勝ってしまったが、香りが強いキンチャヤマイグチやコウタケにはよく合った。驚きはないが、方向性が合っていて口の中で違和感なくまとまった。 | ◎ | バターとワインの樽感が同調するため、サラダオイルの時より更に良く合った。五味や香り、酸やミネラルなどそれぞれの要素がバランス良くまとまって素晴らしいマリアージュとなった。 | |
9 | 2002 Puligny Montrachet / Louis Carillon 仏、ブルゴーニュ シャルドネ100% |
△ | 熟成ブルゴーニュなので期待したが、酸が高いワインだったため悪目立ちしてしまった。 | △ | 熟成香ときのこの香りがとても合うが、シャープな酸が噛み合わず。イガイガしたアフターが残ってしまった。 | |
赤ワイン | 10 | 2017 Marsannay Echezots / Ch. de Marsannay 仏、ブルゴーニュ ピノ・ノワール100% |
◎ | きのことワインの旨味が相乗し、非常に長く心地よい余韻が続いていく。満場一致の美味しさ! | ◯ | 味わいのバランスは整っている。ただ、サラダオイルで秀逸だった余韻がバターコーティングされることで良さを殺されてしまった。 |
11 | 1999 Volnay Ronceret / Jean Marc Boillot 仏、ブルゴーニュ ピノ・ノワール100% |
△ | タンニンが目立ち、アフターの渋みが厳しい印象に。ワインの香りがきのこの香りを邪魔してしまった。 | ◎ | バターがクッションになってきのことワインをまろやかにまとめてくれた。ワインの熟成香ときのこの香りの方向性やボリューム感も合った。これぞ熟成ブルゴーニュの真骨頂! | |
12 | 2015 Chianti Classico / Castell’in Villa 伊、トスカーナ サンジョヴェーゼ100% |
✕ | タンニンがぼそぼそして野暮ったい印象になってしまった。アフターにアンモニア臭のような好ましくない香りが出てきた。 | ◯ | タンニンは気になるものの、バターがきのことワインをまとめてくれるため、サラダオイルと比べて格段に合うようになった。 | |
13 | 2015 Barolo Serralunga / Luigi Pira 伊、ピエモンテ ネッビオーロ100% |
◎ | 適度に熟成感のあるワインだったため、きのこの香りと同調してよく合っていた。特に醤油出汁のような香りのあるコウタケにはワインの出汁感と旨味が素晴らしく同調&相乗した。 | ◎ | サラダオイルは香りを楽しむマリアージュだったが、バターはボリューム感があり、複雑さや構成を楽しめる食べごたえのあるマリアージュを見せてくれた。 | |
14 | 2011 Rioja Reserva / Valenciso 西、リオハ テンプラニーリョ100% |
◯ | きのこの香りとワインのふわっと上方向に抜けるような香りが合った。タンニンが細やかで繊細なテンプラリーニョなためバランスも取れていたが、タンニン豊富な場合は厳しくなるかも。 | ✕ | バターの油分とワインが合わず、一気に厳しい印象に。ワインの酸が少し目立ち、タンニンが残ってイガイガしてしまった。 | |
15 | 2018 Crozes Hermitage / Domaine des Lises 仏、ローヌ シラー100% |
✕ | ワインの果実味の甘やかさが全てを覆い隠してしまい、悪目立ちする結果に。 | △ | バターが入ることでサラダオイルよりは良いが、果実の甘やかさが重く感じる。 | |
赤ワイン |
16 |
2016 Chateauneuf du Pape / Clos St. Jean 仏、ローヌ グルナッシュ75%、シラー15%、ムールヴェードル 4%、サンソー 3%、ヴァカレーズ 2%、ミュスカルダン 1% |
✕ | ワインの骨格の強さ、果実のボリューム感がきのこに勝ってしまう。タンニンがエグみとなって中盤からアフターにかけて支配的。 | ✕ | 果実の甘さが重々しく、タンニンが支配してしまうため非常に厳しい組み合わせとなった。 |
17 | 2016 Petite Marquise 仏、ボルドー、St. Julien カベルネ・ソーヴィニヨン61%、メルロ38%、カベルネ・フラン0.5% |
✕ | 青さや土っぽさが出る上に酸が目立つ。アフターにシダやメンソールの香りが残る。 | △ | やはり青っぽさや酸が際立ってしまうが、バターが全体をまとめてくれるのでサラダオイルよりは好印象。 | |
18 | 2004 Ch. Branaire Ducru 仏、ボルドー、St. Julien カベルネ・ソーヴィニョン70%、メルロ22%、カベルネ・フラン5%、プティ・ヴェルド3% |
◯ | ワインの熟成香がきのこの香りと同調していきいきと楽しませてくれるが、アフターにタンニンが若干残って旨味を切ってしまう。 | △ | 湿ったようなネガティブな香りが出る上に、タンニンが残るため難しい。 |
一番驚いたのは、こんなにシンプルな調理法なのに白にも赤にも合わせられる天然きのこの懐の広さです!
これまで様々な食材でマリアージュ実験を行ってきましたが、こんな食材はありませんでした。
シャンパーニュについては、若干酸やミネラルが気になるものの、きのこにも合わせやすいことがわかりました。
白ワインでは、酸とミネラルが突出しているもの、すっきりフルーティーなもの、香りが個性的すぎるものは難しく、果実の丸みや樽のニュアンスがあるものがよく合いました。期待していた熟成ブルゴーニュは振るいませんでしたが、シャープな酸が目立つワインだったため、より落ち着いたワインであれば可能性はあったと思います。
赤ワインはやはりと言うべきか、ブルゴーニュとバローロが素晴らしいマリアージュとなりました。きのこの豊富な旨味とワインの旨味が同調しながらお互いを引き立て合い相乗していたのはさすがです。ローヌやボルドーはワインが強すぎて難しかったですが、ソースやスパイスなどを使ったお料理だったらもっと合うようになると思います。
全体を通じて感じたのは、重心が高く上方向に伸びるようなワインがより合うということです。きのこだけを食べた時には重心の高さはそれほど感じませんが、一緒に味わうとワインとともにふんわり上に広がっていくような心地良さが感じられました。
【結果:応用編フルコース】
①天然きのこのラビオリ フリカッセ仕立て 皮付き猪ハムのブロシェット添え
▶アカヤマドリタケ、カラカサタケ、コウタケ、ハタケシメジ
▶ラビオリに包まれた少し苦味のあるきのこ、ソースはミルクの泡
<合ったワイン>
○2002 Puligny Montrachet / Louis Carillon
熟成の甘みがラビオリのきのこの苦味を中和し、アフターにかけてきのこの旨味や風味を増幅させてきのこの良さをとことん味わえる傑作マリアージュ!
○2018 Coteaux du Loir Blanc L’Effraie / Belliviere
きのこの風味が非常に引き立っていた。シュナン・ブランの甘やかさをソースが受け止め、アフターにはきのこの風味の余韻が残る理想的な組み合わせ。
②天然きのこのヴァニラマリネ 蓼科野菜と自家製シャルキュトリーの盛り合わせ
▶ハタケシメジ、ショウゲンジ、ヌメリスギタケモドキ、ムレオオフウセンタケ、ハナイグチ、キノボリイグチ
▶白ワインビネガーにヴァニラの風味が特徴的なきのこのマリネ
<合ったワイン>
○2018 Coteaux du Loir Blanc L’Effraie / Belliviere
きのこ+ヴァニラの風味とシュナン・ブランの甘やかさの相性が抜群。そこにビネガーの酸味やきのこの苦味が加わり、五味のバランスが素晴らしい。
○1999 Volnay Ronceret / Jean Marc Boillot
ワインの熟成のニュアンスにきのこの風味とヴァニラが溶け込む。アフターが抜群に良く、クラシックで高級感のあるマリアージュ。
③天然きのこのコンソメスープ
▶コウタケ、カラカサタケ、アミタケ、ハナイグチ
<合ったワイン>
○1999 Volnay Ronceret / Jean Marc Boillot
きのこの旨味が溶け出した深みのあるコンソメとワインの熟成感・複雑味がしっかり絡み合い、スケールの大きい最高のマリアージュでした!
○2002 Puligny Montrachet / Louis Carillon
こちらも同様にワインの熟成感と複雑さがスープの複雑な味わいの要素と絡み合って、良さを引き出し合っていた。ただ、若干ワインの酸が邪魔になるのと、暖かくほっこりとしたスープと冷えた白ワインが合わなかったため、No.1の座は1999 Volnayに。
④天然きのこと信州サーモンのサバイヨン
▶ヌメリスギタケモドキ、アカヤマドリタケ、アカジゴウ、ホテイイロガワリ、ハタケシメジ
<合ったワイン>
○2018 Coteaux du Loir Blanc L’Effraie / Belliviere
甘みと酸味のあるクリーミーなサバイヨンソースとワインの甘味が同調するとともに、きのこの旨味や風味を引き上げてくれた。一体感のあるマリアージュ。
○クリーミーで甘味のある繊細なお料理だったため、赤ワインのタンニンはことごとく合わなかった。
⑤皮付きイノシシ煮込みと尾長鴨胸肉のポワレ 天然きのこリゾット添え
▶アカヤマドリタケ
▶野鳥と香味野菜のフォン・ド・ジビエを使った軽やかな赤ワインソース
<合ったワイン>
○2015 Chianti Classico / Castell’in Villa
軽やかで少し甘みのある赤ワインソースと合わせるとワインの上品な果実味が引き立ち、エレガントでフレッシュなアフターが残る。
○2015 Barolo Serralunga / Luigi Pira
きのこの苦味と燻製の風味が抜群にバローロの風味とタンニンに合っており、なめらかなテクスチャーも好相性。お肉とともに食べた時により良く合い、旨味がたっぷり引き出されていた。メインとしての充実感のあるマリアージュ。
お料理になることで複雑さが増すため、ソテーとはまた異なるワインが合うという結果となりました。特に優秀だったのは熟成ブルゴーニュです。やはりワインの熟成感の中にきのこのニュアンスがあるため元々相性は良く、ソテーの際に気になった酸の高さやタンニンの強さはお料理の要素と相まって気にならなくなるどころか、料理もワインも引き立て合う素晴らしいマリアージュとなりました。
また、ここでは特に素晴らしかった2種類ずつをご紹介しましたが、実はどのワインを合わせても平均点くらいは取れていたことに驚きました。このことからも、天然きのことワインがずば抜けて相性が良いことが分かると思います。
【まとめ】
今回のマリアージュ実験で一番驚いたのは、舌をビリビリしびれさせるくらいの天然きのこの旨味の強さでした。イボテン酸という旨味成分が含まれるものが多くあり、これが刺激にも感じるような旨味の正体です。美味しいことで有名なベニテングダケという毒キノコ(絶対に食べてはいけません!!)がありますが、その美味しさの秘密こそがこのイボテン酸なのだそうです。
なんとも刺激的・・・
でもたまらない美味しさを持つ天然きのこの世界を垣間見ることができて、とても幸せなマリアージュ検証会でした。
尚、天然きのこを調理するとなると、
どのように加熱すればよいのか悩まれる方もいらっしゃるかもしれませんが、
エスポワールの藤木シェフのおすすめは、
汚れを落としたきのこ(水につけずに布巾などできれいにします)
をそのまま【電子レンジ700Wで1分半】加熱することだそうです。
火は入っているのに食感がしっかり残って水分が抜けない、
最も優秀な調理法なのだとか。
ぜひお試しください!
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