ブドウ樹の病害と新しい対策について <中編>―カビ病、細菌病、ウイルス病― (仕入れ担当 末冨 春菜)
多くのワインメーカーが「素晴らしいワインは素晴らしいブドウから生まれる」とし、畑での作業に多くの時間を費やしています。このコラムでは全3回に分けて、畑にフォーカスし、生産者、そしてブドウ(樹)を脅かす病害とその最新の対策について見ていきたいと思います。
第1回は幹の感染症についてご紹介しました。今回はカビや細菌、ウイルスによって引き起こされる病気をご紹介します。
①感染症を引き起こす病原体
人間、そして植物に影響を与える感染症は世界中に数多くありますが、主にウイルス、細菌、真菌(カビ)といった目に見えない病原体によって引き起こされています。これら病原体の違いを説明すると長くなってしまいますが、下記の表の通り、細胞性か非細胞性か、そして細胞性の中でも真核生物か原核生物※かで分かれていき、その基本構造、サイズ、感染・増殖方法などが異なります。
人間に病気を引き起こす病原体の大部分はウイルスや細菌ですが、ブドウを含むほとんどの植物病害(約85%)は、真菌(カビやキノコの仲間)によって引き起こされます。私たちがよく耳にする「べと病」「うどん粉病」などは真菌による病害ですね。
注釈:
真核生物:細胞の中に、DNAが膜で包まれた「核」がある。DNAの量が多い。単細胞、多細胞生物どちらもあり、人を含めた動物、植物やキノコなどは真核生物。
原核生物:細胞の中に「核」がなく、DNAがむき出し。すべて単細胞生物。
②代表的なカビ病(真菌類による病気)
灰色かび病(Grey Mould, Grey Rot)
原因となる病原体:ボトリティス・シネレア(Botrytis Cinerea)
うまく作用すれば素晴らしい貴腐ワインを生み出すボトリティス・シネレア。この病原体によって引き起こされる灰色かび病は、自然界で広く発生する非常に一般的なカビであり、あらゆる種類の野菜、果樹を攻撃する。特に濡れたり湿ったりした状態を好み、糖分がある場所で増殖する。そのため、特に、夏と秋に雨の降る気候で栽培されたブドウを襲う。
白ブドウがひどい感染をした場合、収穫時や発酵前後の処置により顕著な欠点なしにワインを生産できる可能性があるが、果実のアロマやフレーバーはある程度失われ、高いレベルで安定させなければならないためSO2を多めに添加する必要がある。
果皮と果肉を一緒に発酵させる赤ワインの場合は、カビなどの異臭が残ってしまうので活性炭処理をして取り除く必要がある。
灰色かび病は特定の農薬に耐性を持つようになると言われている。1960年代に使用され、長く効果的だったベンズイミダゾールという有効成分に耐性を持つようになると、その後も定期的に新たな有効成分を含んだ農薬が開発されている。
農薬散布以外にも、優れた剪定や仕立て、および通気性を維持した適切な樹幹管理のいずれも役に立つ。胞子は水滴を介して伝搬していくので、葉や芽が早く乾くほど病気が拡大するリスクは低下する。また、有機栽培家向けに緑茶の濃縮エキスを用いた防除剤も開発されている。
べと病(Downy Mildew, Peronospora)
原因となる病原体:Plasmopara Viticola
北アメリカに由来するべと病は、1878年にヨーロッパで初めて発生し、ヨーロッパ全域のブドウ栽培地に急速に広がった。
この菌は落ち葉の上で越冬し、一旦ブドウ畑に出現すると、薬剤の定期的な散布で防除ができるとしても、根絶することはできない。暖かく湿った環境を好み、春になり、暖かくなってくるとブドウ樹の緑色部分に感染し、拡大していくと花やブドウの果粒を侵し、作物の完全な損失に繋がる。感染したブドウは革のようになって萎びる。収穫時に被害が多いと、感染したブドウ樹はワインに特有なカビ臭を残す。
防除としては光、空気、乾燥した風の通りがよくなるよう樹幹を広げることが有効だが、これだけでは病気を根絶できないので、薬剤散布の必要がある。
1885年、銅を含む散布剤がべと病に対して効果的であると偶然に発見され、消石灰と硫酸銅を混合したボルドー液の開発に繋がった※。
(※道路脇にブドウ畑を持っていた栽培者が、通行人がブドウを食べるのを止めるために、独特の青色を持ち、食べると苦い味のする硫酸銅を散布したところ、べと病にならない事に気付いた、と言われている)
有機栽培やビオディナミでも認可されているボルドー液は、あくまで保護液であり、植物内に侵入したカビを殺す事のできる治療剤ではない。銅での対策の問題点として、土中の銅濃度が高まると、ミミズや他の土壌生物に影響を与えてしまうことが挙げられる。ミミズなどの土壌生物は健康な土壌には不可欠な存在のため、多くのワイナリーが銅の散布量を減らすよう努めている。
この銅の蓄積量について、アルベール・ビショーの栽培長、クリストフ・ショベルが面白い話をしていました。彼はブルゴーニュで働く以前、1980年代後半頃はボルドーでワイン醸造を学びました。その時既にボルドーでは銅の散布量についてよく議論されていたようで、ブルゴーニュよりもボルドーの方がこの問題に対する意識が高かったそうです。理由として2つ挙げており、1つはボルドーの土壌は酸性が強く、ブルゴーニュの土壌はアルカリ性が強い点。酸性が強い土壌ほどマンガン・鉄・銅などの金属製栄養素が溶けやすいと言われており、ボルドーの方が銅の影響を受けやすく注意が必要だと彼は話します。もう1つは、ボルドーでよく植えられているソーヴィニヨン・ブランとの相性です。ソーヴィニヨン・ブランはその独特の香り成分であるチオールを多く含みますが、銅に触れるとこの香りが消えてしまうと言われています。
べと病 (画像提供:島根県農業技術センター)
うどん粉病(Oidium, Powdery Mildew)
原因となる病原体:Oidium Tuckerii / Uncinula Necator
北米起源のカビによる病気であるうどん粉病は1834年に最初に記録された。ヨーロッパでは1845年にイギリスで発見され、その後、直ぐにフランスでも見つかった。うどん粉病は他のカビ病とは異なり、湿った年よりも乾燥した年に発生が多い数少ない病気の1つで、感染部分を広げるのに水分を必要とせず、普通の空気湿度で十分繁殖ができる。被害を受けたブドウは白い粉に覆われ次第に変色する。
このカビが、当時既に発見されていた桃のカビに似ており、試しに桃のカビ防除に使用されていた硫黄を使用したところ効果があったため、今日も主要な防除対策として硫黄が使用されている。硫黄は他の病気やダニに対してもある程度の効果を持ちメリットも多いが、散布から収穫までの間隔に注意が必要。もし硫黄がブドウ果皮に残ると、発酵中に腐った卵の臭いを持つ硫化水素(H2S)が発生することがある。
うどん粉病 (画像提供:島根県農業技術センター)
③新しいカビ病対策
生産者の畑を訪問すると、ブドウ樹の列の端にバラが植えられているのを目にすることがあります。今日では畑を彩るデコレーションですが、かつてはブドウ樹の菌類病に対する早期警告システムとして機能していました。バラに菌類病を発生させる気象条件がブドウ樹と共通しており、バラの菌類病はブドウ樹に比べ10〜14日前に発生するので、栽培者達は防除策が必要な時が来たと事前に知る事が出来たのです。
このようにカビ病との長い闘いの中で様々な対処法が見つけられてきました。ボルドー液などの伝統的な方法はその1つですが、テクノロジーの進化を受けて、新たな対策が生まれています。
カビを撃退!UVランプ搭載ロボットの登場
2020年、ニューヨーク発の面白いニュースが飛び込んできました。
それは、カビ菌のDNAを紫外線(=UV)照射で破壊する自動走行ロボット「Thorvald」が開発された、というものです。これはアメリカのコーネル大学、フロリダ大学、ノルウェー企業SAGA Roboticsが合同で研究・開発した初の商業用ロボットとなります。コーネル大学での紫外線を活用したうどん粉病対策の研究は1991年まで遡り、フロリダ大学との試験では、過去4年間、いちごのうどん粉病を効果的に制御してきました。
UVロボット「Thorvald」。コーネル・アグリテックの研究用ブドウ園にて、
夜間にブドウの木に紫外線を照射。 (画像提供:David Gadoury)
2020年に満を持してブドウ畑でテストが行われましたが、そこでもうどん粉病を除去する効果が認められたというのです!
このロボットの使用で重要なのは、“利用時間は日没後に限る”という点です。このメカニズムをもう少し詳しく見ていきましょう。
紫外線と言えば太陽光が思い浮かぶと思いますが、太陽光には様々な波長の光が含まれ、波長ごとに生物への影響が異なります。紫外線は波長が380nm(ナノメートル)以下と可視光よりも短い光で、波長ごとにUV-A,-B, -Cに分類されます。(ヒトの肌の老化や皮膚がんに関連するのはUV-A, B)
そして400~500nmの波長のブルーライト、紫外線とブルーライトの境界域にある360〜400nmの波長のバイオレットライトがあります。(バイオレットライトは適切なタイミングで適量を浴びると人体に好影響をもたらすと知られている)
太陽光に含まれる紫外線はDNAにダメージを与える事で知られており、多くの生物にはこのダメージに抵抗する防除・修復メカニズムが備わっています。
Thorvald開発に携わるDavid Gadoury博士によると、この修復メカニズムは太陽光に含まれるブルーライトが引き金となり引き起こされているのですが、太陽光のサイクル(昼と夜)に同調して機能するため、夜になると病原菌はブルーライトを受け取れず、修復メカニズムが機能しなくなるというのです。なのでロボットを夜に使用することで菌のDNAを破壊し、畑をカビ病から守る事ができるようになります。また、使用するUVライトはさほど強くないので植物には影響がないそうです。
暗がりの畑で怪しく光り動き回るロボットの姿は奇怪そのものですが、将来多くの栽培家をカビ病から守る救世主となるかもしれませんね。
カビ病耐性品種の台頭!
今日に至るまで、ワイン用ぶどうにおいては不利な気候に耐えられる品種や安定した収穫量が得られる品種など、いくつもの新しい交配品種が生み出されました。フィロキセラ対策として、耐性のあるアメリカ品種と耐性のないヨーロッパ品種のかけ合わせで生まれたハイブリッド種はその1つです。
そして現在、自然環境に配慮し、農薬散布が少量で済む品種の開発もコツコツと進められています。「ピーヴィ(PiWi=Pilzwiderstandsfähige Rebsorten)種」と呼ばれるカビ菌耐性品種です。PiWi種はカビ菌に対抗できるよう交配されており、ドイツでは1980年代から、このようなカビ菌耐性品種が栽培され始めています。ドイツのガイゼンハイム研究所やフライブルク・ワイン研究所などが研究に力を入れており、その中でもレゲント種という赤品種が最も成果を上げているといいます。レゲントは、ディアナ(ジルヴァーナーxミュラー・トゥルガウ)とシャンボーソンをかけ合わせた品種で、カビ菌に耐性があるのでオーガニックやビオワインの生産に向いています。
フランスでも研究が進められており、フランス農学研究所(INRA)はカビ病に抵抗力のある品種の開発を2000年より進めてきました。このプロジェクトはResDurと名づけられ、2018年にアルタバン、フロレアル、ヴィドック、ヴォルティスの4品種がフランス農水省によるブドウ品種公式カタログに登録されました。
まだ主流品種でカビ病耐性のある品種はありませんが、今後日本のマーケットでもPiWiI種、ResDur種のワインを目にすることが増えていくかもしれません。
④代表的な細菌病
根頭がんしゅ病(Crown Gall, Black Knot)
原因となる病原体:アグロバクテリウム・ヴィティス(Agrobacterium Vitis)
アグロバクテリウム・ヴィティス(以下、A. Vitis)と呼ばれる細菌によって引き起こされ、ヨーロッパでは1850年代半ばから知られている。接ぎ木作成中に伝染することが最も多く、1バッチ全部の苗木が感染している可能性もある。厳しい冬の霜によりブドウ樹の幹が裂けたり、機械作業でブドウ樹が損傷した後に感染するのが一般的。ブドウ畑の土中に存在する病原細菌は、その住処を決めると、木質の瘤を作り、ゴルフボール位の大きさに膨張させ、ブドウ樹の接ぎ木部分を破壊し、ブドウ樹を枯れ死させる。
対策としては、冬にそなえ、ブドウ樹の根元を鋤き返し、接ぎ木部分に被せるように土を盛るとブドウ樹の冬の損傷を防ぐことができる。また新しいブドウ畑を作る際には凍害の可能性が低いか、A. Vitisが侵入していない場所を選ぶ必要があり、もし過去に発生した区画を植え替える場合は、ブドウ樹を完全に除去してから最低2年は空けることが推奨されている。この病気は、多数ある幹の感染症の1つとも考えられている。
根頭がんしゅ病 ①ブドウ ②ナシ ③カキ (画像提供:島根県農業技術センター)
ピアス病(Pierce’s Disease, PD, Anaheim Disease)
原因となる病原体:ザイレラ・ファスティディオサ(Xylella Fastidiosa)
ピアス病は1982年に南カリフォルニア州のアナハイムのブドウ畑で最初に見つかり、その後、北部、南部、および中央アメリカ全体へと広がった。世界の他の地域での発生は稀だが発症例は存在する。ピアス病は、植物の木質部に住み、様々な昆虫によって拡散するザイレラ・ファスティディオサという細菌によって引き起こされる。罹患すると葉に異常な色と斑紋が現れ、翌年には樹勢を失っていく。その際に新梢の発育が阻害されてしまうので、生産収量は大幅に下落し、数年のうちに樹は枯れ死してしまうと言われている。ヨコバイの一種であるシャープシューターという虫が、樹から樹液を吸う際にこの細菌を感染させており、樹から樹へと細菌を拡散させる媒介となっている。この虫はいわば狙撃の名人のようなもので、長距離を移動できるため、アメリカでは広範囲でピアス病の危険性を広げている。この病気に対して使用できる農薬はまだ分かっておらず、現在は殺虫剤などを用いてブドウ畑とその周辺のシャープシューターの数を減らす事と、畑の列間に植物を植えシャープシューターの捕食者を増やす事が主な対策である。
この病気は2013年、南イタリアのプーリア州のオリーブの樹でも発見され、ゆっくりと北へ進み、オリーブとキョウチクトウへの影響が発見されている。ヨーロッパではまだブドウ樹には影響が出ていないが、地球温暖化の影響でシャープシューターが越冬するようになると、今後ヨーロッパでもこの病気の拡大が助長されると懸念されている。
⑤新しい細菌病対策
アメリカの多くの生産者を悩ませるピアス病について、シャープシューターを減らす以外の新たな対策が研究されており、テキサスA&M大学の教授とともに研究を進めるリッジ・ヴィンヤーズはなんと粘土を使った実験を行っています。それは、カオリンという粘土の一種を葉に散布するという方法です。カオリンは光を反射する働きを持っており、葉の表面温度を下げる事から、近年の温暖化を受けブドウを日焼けから守る天然物質としても注目されています。さらにカオリンによる膜は薄いので光合成を妨げない、という点においても優れています。
ピアス病を媒介するシャープシューターには2種類あり、そのうちの1つがカオリンの白い色を嫌うことに加え、仮に樹から樹液を吸おうとしても、この粘土の粉末で窒息死するといいます。イタリア、トスカーナにワイナリーを構えるArgianoも日焼け対策としてカオリンを使用しています。ヨーロッパでもピアス病のリスクは高まっているので、今後カオリンは地球温暖化と病害対策という2点において、畑を守る救世主となっていくでしょう。
⑥代表的なウイルス病
接ぎ木したブドウ樹を植えることが当たり前になってから、ウイルスは世界中のブドウ産地に広がりました。ウイルスが一度ブドウ畑に入ってしまうと、接ぎ木感染以外でも、線虫や昆虫などの生物が感染を広げる媒介になるなど様々な方法で拡散します。代表的なものを幾つか紹介しましょう。
コーキー・バーク(Corky Bark)
コーキー・バークは最も広がっているウイルスの1つ。感染したブドウ樹の葉は、赤または黄色に変色し、ブドウの主幹部分は膨張し樹皮がコルクのようになり、樹勢も著しく低下する。その影響は全ての品種に共通するわけではなく、ヴィニフェラ種以外、特に一部の交雑種や北米原産のブドウで大きな被害が見られる。ほとんどのウイルス病と同様、感染したブドウ樹の治療法はなく、根こそぎにし、廃棄するのが唯一の実質的な対策である。
ファンリーフ病(Fanleaf Degeneration, Fanleaf Virus, Court-Noue)
ファンリーフ病は最も古いウイルス病の1つで、ヨーロッパのブドウ畑では200年以上前から発生している。Fan=扇、Leaf=葉という名前が示す通り、このウイルスは葉を扇形に奇形化し、葉の緑をまだらにする。病気がさらに進行すると、葉はモザイク化、または葉脈が黄化し、収量を低下させ最終的に完全に実ができなくなる。
唯一の対策は、感染したブドウ樹の除去と廃棄だが、ウイルスは最長6年間古い根に留まることができるため、畑を最大限休ませてからウイルスのない新しいブドウ樹を植えるしかない。ファンリーフ・ウイルスの媒介生物は線虫なので、線虫抵抗性の台木を使うことも防除に役立つ。
リーフロール病(Leafroll)
リーフロール病は広範囲に影響を与えているウイルス病であり、おそらく全てのウイルス病の中で最も経済的損失を引き起こした病気である。リーフロール病は複数のウイルスによって引き起こされるが、症状が非常に似ているため、総じてリーフロール病と呼ばれている。
症状は名前が示すように、葉が裏側に巻きこみ、秋には葉脈の緑を残し、緑から徐々に赤へと変色していく。感染したブドウはすぐに収量が減り、ブドウは成熟に時間が長くかかるようになり、リンゴ酸の減少がゆっくり進み、期待する糖度レベルに達しなくなる。接ぎ木作成中の感染が主な発生原因だが、コナカイガラムシによる伝搬も確認されている。
発病すると治療は困難かつ、感染樹は伝染源となることから、速やかに伐採し、ウイルスのない新しいブドウ樹を植えることが防除となる。また、媒介中であるカイガラムシ類の防除の徹底も感染拡大防止に繋がる。
⑦新しいウイルス病対策
対処法がある程度確立されているカビ病などに対し、ウイルス病は感染したブドウ樹の除去が多くの場合唯一の解決策となります。
そのため、苗木業者や、接ぎ穂と台木の両方を扱う接ぎ木業者の衛生管理は非常に重要なポイントで、万が一感染した材料を使用した場合、世界中のブドウ畑に病気を広げる原因となってしまいます。そこで、使用前に材料を検査し、ウイルスを検出するエライザ(Elisa)法の導入や、対象植物のトレーサビリティを補償する植物パスポートシステムの導入により、EU内においてはウイルス病がかなり抑えられています。
また、ウイルスが存在しないウイルスフリー苗木の研究も注目すべき対策の1つです。ウイルスがいない(ウイルスフリー)苗木をつくる技術自体はそれほど難しくはなく、フランスやアメリカでは既に政府主導でフリー化苗を渡すシステムが確立されています。日本でも注目はされていましたが、手間と時間がかかるため「ワイン科学研究センターでやるしかない!」ということで山梨大学と複数の苗木屋との産学連携によって実用化が始まりました。
方法としては、ブドウ樹の枝の先の部分(成長点)を培養し、苗木まで育てていきます。成長点は細胞分裂のスピードが早いためウイルス感染が追いつかず、ウイルスフリーの状態が維持されるため、その細胞を培養して育てることでウイルスとは無縁の苗が出来上がるわけです。
詳細が気になる方は、過去のコラムをご覧ください。
⑧まとめ
灰色かび病のように既存の防除策に対して進化する病原体がありながら、人が生み出す対応策も技術革新とともに進化しており、ブドウ栽培を取り巻く環境が目まぐるしく変化していることが分かっていただけたかと思います。
過去の多量の農薬・除草剤散布への反省から、ここ25年の間に“総合的病害虫・雑草管理(Integrated Pest Management = IPM)”という考え方も浸透してきました。これは、様々な病害がどのように発生するか理解し、迅速な予防策を講じることで、事象の発生を抑える / 被害を最小化し、薬剤散布を抑えるというような考え方です。(リュット・レゾネと同義)
今後、今までになかった新しい病害が見つかる可能性もありますが、ブドウ樹を守るための新しい対策法もどんどん出てくることでしょう。また新しい対策が出てきましたら皆さまにご紹介したいと思います!
<参考出典元>
Stephen Skelton MW “ワイン用ブドウ栽培の手引き” 2020年 P115-129
大塚薬品”病原体:ウイルスと細菌と真菌(カビ)の違い” 年不明
シロタ株.jp “細菌、カビ、ウイルス、私たちのまわりの「微生物」の世界” 2021年
窪野高徳 “平成28年度 森林講座 樹木も病気に悩まされる!” 2016年
Michigan State University “Managing grapevine crown gall” 2019年
植物防疫病害虫情報 第37号 ”主 な 未 侵 入 害 虫 の 解 説”(1992年)
Ridge Vineyards “粘土によるピアス病対策” 2019年
第一三共ヘルスケア “紫外線やブルーライトの効果と影響を正しく知ろう” 2022年
ドイツニュースダイジェスト ”交配品種の話 4 ピーヴィ(PiWi)種とは?”
Cornell University “Robots armed with UV light fight grape mildew” 2020年
Techable “農作物の菌対策に新手法! UVライトを放出しながら自動走行するロボット「Thorvald」” 2020年
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