シャンパーニュの裏事情、そしてフィラディスがご提供するシャンパーニュ (営業 田中 琴音)
皆さん、こんにちは。フィラディスのシャンパーニュ担当、田中です。 今回は、シャンパーニュ地方を訪問して見えてきた裏事情ともいえるシャンパーニュの実状をお伝えしたいと思います。
シャンパーニュの実状
■なぜシャンパーニュではドメーヌが発展しないのか?■
シャンパーニュ地方ではレコルタン・マニュピュランと言われるドメーヌが非常に少なく、流通しているシャンパーニュの多くはネゴシアンのものだということは皆さん周知のことだと思います。約19,000軒あるシャンパーニュの栽培農家のうち、栽培から醸造、瓶詰めまでを行うレコルタン・マニュピュランは僅か2,200軒しかありません。優れたドメーヌが尊重されるワインの世界で、なぜシャンパーニュではドメーヌが極端に少なく、ネゴシアンが多くを占めているのでしょうか?
シャンパーニュは熟成期間が長い為、ワインを現金に換えるまでに通常のワインよりも時間がかかり、元詰めを始めるには栽培農家にとって金銭的負担が大きくなります。一方で彼らは村ごとに定められた同一価格でブドウを売ることができ、毎年安定した収入が得られる為、敢えてリスクを抱えて元詰めを始める必要がないことがそもそものドメーヌが生まれにくい要因なのです。
市場に出回るシャンパーニュのほとんどがネゴシアンということの根本的背景はここにありますが、更に突き詰めてみると、大手メゾンが川上から川下に至るまでマーケットを支配しているといっても過言ではないシャンパーニュの現状が見えてきます。
■良いブドウより技術が重要??■
「シャンパーニュは原酒ワインの複雑な調合方法や比率により個性が生まれ、技術と手間を要する瓶内二次発酵がシャンパーニュならではの繊細な泡を生み出している、よってシャンパーニュの良し悪しには人の手によるものが大きく作用する」というのが一般的にシャンパーニュに持たれる概念ですが、実はそこには最も大切な要素が欠けています。それはテロワールの重要性です。テロワール重視のフランスの中で考えにくいことですが、シャンパーニュに与えられているAOCはシャンパーニュただ一つだけ、グランクリュにもAOCはなく、ラベルを見ただけでは使用されているブドウがどの村のものなのかもわかりません。なぜ、シャンパーニュではテロワールが置き去りにされてしまっているのでしょう?
当然、シャンパーニュにもグランクリュの優位性はあります。グランクリュの中でもピノ・ノワールの最上の産地と目されているアイは栽培面積が広いにも関わらず、レコルタン・マニュピュランが極端に少なく、栽培されるブドウのほとんどがネゴシアンに押さえられています。そして、それらは大手メゾンのラグジュアリー・キュヴェに使われているのです。このことからもグランクリュの優位性は明らかなのですが、大手メゾンは敢えてテロワールについての明言を避けています。その理由は栽培家や消費者の目がテロワールに向くことによって彼らに大きなデメリットが生じるからです。
■大手メゾンがテロワールを曖昧にする意図とは?■
格付けが村ごとにされ、同じ格付けのブドウが基本的に同一価格で取引されるという大まかな制度は、大量のブドウを必要とする大手メゾンにとって、容易に買い付けが出来るというメリットになります。そしてもうひとつ隠れたメリットとなるのは、優れた区画の地価の上昇を防げるということです。
一般的にネゴス=買いブドウの印象を持たれている方が多いと思いますが、実は優良区画についてはネゴシアンの自社畑も意外に多く、コート・デ・ブラン北端に位置するグランクリュのシュイイで唯一優れた区画とされるサランの丘はモエ・シャンドンに全て買い占められ、ドン・ペリニヨンに使われています。また、その他にもグランクリュの中で特に優れた区画の多くは大手メゾンが長い年月をかけて買い占めてきました。
栽培農家はブドウを栽培するだけで、そのブドウが実際どのようなシャンパンになっているのか知りません。同じ村のブドウが同価格で取引されるという状況では区画の優劣を認識することも出来なかったのでしょう。大手メゾンは優れた区画を認識していても栽培農家には認識がなく、本来の価値よりも安価に優良な土地を購入できたと想像できます。そして、その優れたブドウをブレンドして最高のシャンパーニュと称されるラグジュアリー・キュヴェを造ってきたのです。
このように、まず圧倒的な購買力で川上を制し、更に川下といえる販売の面においても、テロワールが言及されないことにより大手メゾンは有利な立場を維持しています。
優良区画を所有しているにも関わらず、素晴らしいシャンパーニュは優れたブドウから出来るということをあえて謳わず、ラベル表記などもしないのは、消費者の選択基準をテロワールよりもブランドに向けさせやすいからです。大々的な広告によりブランドイメージを打ち出し、ブランドで選ばれ、大量に仕入れるブドウで販売量を拡大することが可能となります。なんと、シャンパーニュの総生産本数の 50%以上は大手メゾンのトップ 10 社だけで占められているのです。
大手メゾンは栽培家や消費者の目をテロワールから逸らすことでブドウを容易に買付け、さらにはラグジュアリー・キュヴェに使われる優良区画を安価に買い占め、そしてブランド力で販売網を広げてこの現状を生みだしたのです。シャンパーニュ協会も大手メゾンの影響力があまりに大きいので、土地の優位性については触れずにアッサンブラージュや技術を重視するような打ち出しをしているのではないでしょうか。
■コーポラティブ・シャンパーニュについて■
協同組合のシャンパーニュは日本にあまり入っていないので知らなかったのですが、今回の訪問で知り、驚いたことがあります。
協同組合で造られるシャンパーニュの中にはレコルタン・コーポラティブ(R.C.)があります。R.C.は各栽培農家が協同組合に売ったブドウと同量且つ同格の瓶詰めされたシャンパーニュを対価として受け取り、各R.C.のラベルを貼って販売しているものです。その為ラベルが違っても中身は同じ、というものが多数存在します。そして、そのR.C.の数は 2,800 軒あり、なんとレコルタン・マニピュランの数を上回っているのです。また、コーポラティブから受け取ったボトルを自身でドザージュをするとレコルタン・マニピュランを名乗ることが出来るということにも新たに知ったもう一つの驚きでした。
美味しいシャンパーニュを選ぶには・・・
最後に多くの人にシャンパーニュを楽しんで頂く為に、フィラディスがご提供するシャンパーニュがどのようなものかをお話ししたいと思います。
90 年代くらいから元詰めを始める栽培家が少しずつ増えてきました。その生産者たちが経験を積み醸造技術が向上したことと、寒冷なシャンパーニュでも温暖化の影響で以前よりブドウの実が熟すようになったことが重なり、レコルタン・マニピュラン全体のクオリティーも徐々に上がってきています。
皆さまご存知のジャック・セロスは並々ならぬ手間をかけて最高のブドウを育てています。畑仕事や醸造に手間をかけ、より良いシャンパーニュを造ることは同じような探求心を持つ人なら出来るかもしれません。しかし、ジャック・セロスのような最上の区画を誰もが所有している訳ではないのです。多くの人を魅了するシャンパーニュを造るには丁寧な仕事は当然必須ですが、根底には優れた土地が欠かせない重要な要素としてあります。セロスに追随する探求心の強い新たな生産者に注目も集まっていますが、栽培に手間を掛ければかける程コストがかさんでしまい、どうしてもスタンダード・キュヴェの価格も高くなってしまいます。
そこで私たちは日常的にお使い頂ける美味しいシャンパーニュを見つけ出すにはどうすれば良いか考えてみました。今までお話ししたことを全て踏まえると、やはり美味しいシャンパーニュは、優位性のある畑で採れる優れたブドウから造られているということは動かしようのない事実です。
そのため私たちは、グランクリュの中でも特に良いとされる村に焦点を絞り、その中で優れた生産者を探し出し、皆さまにご提供していくことにしました。シャンパーニュはスタンダード・キュヴェとラグジュアリー・キュヴェの価格差は大きくありますが、幸運なことにスタンダード・キュヴェに使われるブドウがグランクリュかそうでないかに大きな価格差はないのです。更に、各村の個性も楽しんで頂きたいと考えています。現在のChartogne-Taillet, Brun Servenay, Jean Lallement の 3 生産者に加え、今年は新たにアイとオジェの生産者が加わります。近いうちに皆さんにご紹介できることを楽しみにしています。
今回訪れた各村の特徴
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