若手ソムリエ応援プロジェクト「分析的テイスティングセミナー」講師:千葉 和外 氏
今回は若手ソムリエ応援プロジェクトの一環で行われたセミナーの中から、「分析的テイスティングセミナー」の内容をご紹介いたします。 分析的テイスティングとは、ワインが持つすべての要素(色、香り、味わい、ストラクチャー)をデータ化して分析し、ワインのアイデンティティを推測するテイスティング方法で、現在のイギリスやアメリカで主流の方式となっています。 このスタイルはワインの流通にかかわる人たちから派生したもので、香りの説明を中心とするフランス式と比較すると、より客観的なテイスティング方法です。 講師の千葉和外氏は、カリフォルニアで醸造や栽培を学び、日本でもカリフォルニアワインの魅力を広げ続ける、日本の分析的テイスティング方法の第一人者です。
リストランテ ラ ブリアンツァ シェフソムリエ
The Court of Master Sommeliers認定Advanced Sommelier
カリフォルニア州 ナパヴァレー大学にて醸造・ブドウ栽培を学び、
レストラン オーベルジュ ド ソレイユに勤務。
帰国後、複数のレストランでシェフソムリエを歴任し、現職に至る。
講義内容
分析的テイスティングとは
テイスティングコメントには大きく分けて2種類あります。
一つはワインを「分析」し、データを取る為のコメント。もう一つはそのデータを基にワインを「表現」する為のコメントです。
例えれば、前者はエクセルで後者がワードに相当します。エクセルの表に「外観」、「香り」、「味わい」という三つの項目を作り、そこに「分析」で得た無味乾燥なデータを入力していきます。結論のセルに数式が入っていて、正確にデータを入力すれば、答え(産地や品種、ビンテージ等)が自ずと出てくるようなイメージです。
そのデータを基にワードで「表現」する文章を考えます。この表現は伝える相手によって変わるし、セールストークであればデータの一部を誇張することもあるし、ネガティヴなデータは無視することもあります。
「分析」と「表現」、この相反する二つのコメントの仕方を区別しないで使用すると正しい分析ができません。この左脳的なコメントと右脳的なコメントをしっかり区別して使うことが大切です。分析的テイスティングとは、 ワインの香り・味わいなどを再現可能な「単語」としてデータ化し、その単語データを基にワインを表現していくことを指します。
では、実際にテイスティングしてみましょう。
分析的テイスティング方法
分析的テイスティングでは5段階評価が基本。
※前項 テイスティングシート画像参照
色調:ワインを表現するうえで非常に大切だが、分析する上ではあまり重要ではないので割愛
≪香り≫
1.健全性を見る
①ブショネ、TCA(トリクロロアニゾール)があるかどうか
②過渡な酸化(VA・ヴォラタイル・アシッド、酢酸とその派生物質)が出ていないか
③Brettanomyces※(ブレタノマイセス、通称ブレット)に汚染されていないか
※野生のイーストの一種。これが入り込んでしまうと、「濡れた犬の香り」になる。しかしこの動物的な香りが入っているからといって、必ずしも悪いワインというわけではない。
2.強弱
Point:香りが向こうからやってきてくれるか。
High | スワリングしなくても向こうから来てくれる |
Medium+ | スワリングしてデータが取れる |
Medium+ | スワリングして自分から香りを取りにいき、やっと向こうから来てくれる |
香りの強弱で「今ワインがどれぐらい開いているのか」を見極め、デキャンタするかどうかを判断する。
3.表現
Point:文章を作らず単語で。データを取る→分析する→表現する、という順番で考える。
①フルーツ香
②フルーツ香以外
で分け、それぞれ次のように分析データを作る。
<フルーツ香>
種類 | シトラス系、リンゴ・洋ナシ系、アプリコット、ピーチ、トロピカルフルーツなど ※一番強く感じるフルーツから、最低でも3種類はとる。 |
状態 | 「フレッシュ」 「熟している」 「ジャムのような状態」 |
<フルーツ香以外>
花 / ハーブ / スパイス にジャンル分けする
フローラル香の分類 | ||
区別 | 実をつけない花 | 実をつける花 |
種類 | バラ、ユリなど | りんご、レモンなど |
香り方 | 香りが華やか | かすかに香る、アロマティックではない香り |
品種 | ゲヴュルツトラミネール、ヴィオニエなど |
4.土壌に関連
ミネラル(鉱物的な香りのもの)
有機質 / 無機質
赤ワイン | 有機質的なものが多い。湿った土から生えているキノコ、枯葉など |
白ワイン | 無機質的なものが多い。石など |
5.樽に由来する香り
・・・バニラ、クローブ、ナツメグ、シナモンなど
高 ← 新樽の比率 → 低
6.熟成度
・・・若い or 熟成している
≪味わい≫
Point:最初にブドウ品種や産地は考えない。冷静にデータをとること。
1.甘味
・・・残糖があるかどうか。
やや辛口 | 若干残糖があるが、甘味をあまり感じない。クリーミーな触感になる程度には残糖があるが、甘口には分類されないもの。 |
やや甘口 | スティルワインだが若干甘みが感じられる |
2.酸味
・・・口の中のセンセーション(感覚)で判断する。唾液が沢山出るとHighレベル。
3.渋み
・・・タンニンを感じるか。
4.アルコール
・・・熱があるかどうか。13%程度ならMでよい。
5.ボディ
・・・ストラクチャーの組み合わせ。
6.フルーツ、ノンフルーツ、土壌に関連、樽に由来
①≪香り≫でとったデータを確認する。
②新たな香りが取れたのか、もしくはかすかに香ったものがさらに強くなったのか?
③フィニッシュの部分で何がとれたのか?フィニッシュで取れたものが将来的に味わいとして出てくるので、フィニッシュ次第でデキャンタするかどうかを決める。
デキャンタ | フィニッシュで取れた複雑な香りが一歩前に出てくる。 |
ボトル熟成 | フィニッシュで出てきた香りを将来的に出させる。 |
7.複雑性
・・・ノンフルーツが多い場合、複雑性が高くなる。
8.バランス
・・・ほとんどのものはバランスがとれているといっていい。
≪絞り込み≫
<新世界> or <旧世界>
旧世界 | |≪香り≫ 4.土壌に関連| 項目でミネラルが取れる |
新世界 | ミネラルが取れない |
と仮定する。
<気候>と<品種>は同時に考える。
高 | 冷涼 | ||
酸のレベル | ↕ | ↕ | 気候 |
低 | 温暖 |
その気候に植えられているブドウ品種を考え、3種類程度品種を出してみる。
<国><収穫年>
頭の中で世界地図を描き、気候、品種から消去法で国、収穫年の可能性を考えていく。
~最後に~
分析的テイスティングは、ワインを当てることが重要なのではなく、分析を繰り返し、自分の中のデータを蓄積することが重要です。データの量が多ければ多いほど、正確な判断が可能になります。間違えた場合でも、何を間違えたのかをしっかり覚えておくこと。
データの精度が上がれば、ブラインドテイスティング力は必ず上がります。
注)この分析的テイスティング方法は、The court of master sommeliersが認めるクラシックな産地のみが対象とされています。
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