「シャンパーニュの真実」セミナーの内容を公開します!(後編)(代表取締役社長 石田大八朗)

「シャンパーニュの真実」セミナーの内容を公開します!(後編)(代表取締役社長 石田大八朗)

弊社ではファインワインとしてオールドヴィンテージや有名RM(レコルタン・マニピュラン)のシャンパンを毎年数多くご案内しています。また、正規代理店としても22生産者のシャンパンを輸入しており、それらを選定するために300軒以上のドメーヌを訪問してきました。こうした経験を通して、3つのジャンルのシャンパンをお勧めすべきだと強く思うようになりました。

まず一つは、ネゴシアンが造るラグジュアリーキュヴェです。後ほど詳述しますが優良ネゴシアンはシャンパーニュ中にテロワール的に素晴らしい畑を多数所有するため、最上のブドウを使うことで得られるクオリティーの高さや、多彩なテロワールの融合による味わいの複雑味は特筆すべきものがあります。加えて、長い経験によるブレンドの技術や熟成期間の長さによって間違いなく素晴らしいシャンパンを生み出しています。価格は高いですが、やはりラグジュアリーキュヴェはシャンパーニュの中でも最高峰であることは間違いありません。

二つ目はグランクリュのブドウをスタンダードキュヴェに使ったシャンパン、三つ目は最上のシャンパンを追求するドメーヌ(RM)のシャンパンです。後編ではこの二つ目と三つ目についてお話ししてまいります。

シャンパーニュのグランクリュ

シャンパーニュではグランクリュとして17村が指定されていますが、その村の中でもブドウの栽培エリアが小さくてほとんど見かけない村や、個人的にはグランクリュというには少しレベルが落ちると感じる村を省き、上の9つの村を代表的な存在だと考えます。そのため、この9村の違いを押さえると、よりシャンパンが面白くなると思います。

ただ一つ注意点というか残念なところがあるとすると、シャンパーニュではブドウ畑がどこにあるかを問わず、ワイナリーの所在地をラベルに書くことができる点です。例えばボランジェのラベルには「Ay」と書いてありますが、おそらくスタンダードキュヴェにはAy村のブドウはほとんど入っていません。ボランジェはそうではないでしょうが、Ay村に畑を持っていなくても本拠地をAy村に置き、良い村として有名なAyを大きく表示してその名声を活用している生産者もいるのも事実です。

【グランクリュシリーズの優位性】

現在フィラディスが扱うシャンパンの中心となっているのはアルチザン(RM)シリーズとグランクリュシリーズです。

グランクリュ、オジェとル・メニル・シュール・オジェにあるClaude Cazalsの畑

ブルゴーニュなどと比べると、シャンパーニュのグランクリュはあまり認知度が高くありません。ブルゴーニュのように畑単位の格付けではなく、村単位の格付けである点が信用できないと思われているのも理解できます。しかし、300を超えるドメーヌを訪問して試飲を重ねていく中で、やはり村単位とはいえグランクリュに指定されている村では良いブドウが採れ、
良いシャンパンが造られていることが経験として分かってきました。
例えば、小さい栽培農家兼ドメーヌが、採れたブドウのうち一部をネゴシアンや協同組合に販売し、残りを自社のシャンパーニュに使用する例は多いのですが、彼らがグランクリュとそれ以下の格付けの畑の両方を持っていたとすると、ほぼ100%と言っていい確率でグランクリュのブドウを自分のシャンパーニュに使って、そうでない畑のブドウを売却していました。また大手のメゾンが造るラグジュアリーキュヴェには、公表されているされていないに関わらず、100%もしくはかなり高い比率でグランクリュのブドウが使われていると言われています。こうしたことからグランクリュの優位性は確実に存在していることが分かります。

ただブルゴーニュと異なるのは、やはり村単位の格付けであることです。村という大きな単位のため、グランクリュの中でも良いところとそうでないところがあります。ブルゴーニュでもボーヌ・ロマネとショレイ・レ・ボーヌを比べればやはりボーヌ・ロマネの方が品質が高いですが、比例して価格も倍以上になってしまいます。それに対して、シャンパーニュの場合は、グランクリュとプルミエクリュでは2割ほどしか価格が変わりません。しかしブドウの品質を比べると2割の差以上の違いがあると感じます。つまり、良好生産者によるグランクリュを使用したスタンダードキュヴェこそが、一番お得かつレベルが高い、つまりコストパフォーマンスの高いシャンパーニュだと言えます。

【ネゴシアンの支配によりテロワールが置き去りに】

テロワールやグランクリュについて説明してきましたが、シャンパーニュではテロワールについてはあまり語られません。

その理由を考えていくと、ネゴシアンという存在に行き着きます。ネゴシアンというとブドウを買い付けるイメージが強いですが、意外なことにシャンパーニュではネゴシアンがブドウ畑を多数所有しています。例えば、Ay村にある約360haのブドウ畑のうち約半分をモエ・エ・シャンドンが所有しています。また残りの半分もその他のネゴシアンが所有しているため、栽培農家やドメーヌが所有しているのは全体の1/4しかありません。その1/4のうちでも多数がネゴシアンに売られているので、ドメーヌとしてAy村のブドウで造っているのは極端に少なく、なかなか見付けられません。

通常スティルワインの生産者は、ブドウをネゴシアンに売ったとしても一部だけ残して自家用ワインを造ることが多いですが、シャンパーニュの場合はスティルワインよりも醸造設備が数多く必要なため、自分たちではシャンパンは造れずにブドウで売ってしまうしかなくなります。そのため、自身のブドウがどんなシャンパンになるのか、ひいては自身の畑がどれくらい優れているのかを判断することができなかったのです。

しかし、ネゴシアンは長年のシャンパン造りを通じて良い畑を認識しているので、例えば相続で良い畑が売りに出されたり、相続した子どもがあまり栽培に興味がないという話があると、すかさず購入するということを長年繰り返してきています。その結果、Ay村だと3/4がネゴシアンの所有になってしまいました。モエは「シャトー・ド・サラン」という迎賓館のようなシャトーを所有していますが、それはシュイイというグランクリュの村のサランの丘の上にあります。サランの丘は良いブドウができることで有名なのですが、このシャトーの周りの畑はほぼ全てモエが所有していると言われています。

このように、ネゴシアンが良い区画を長年に渡り次々と手に入れているのですが、良い区画であることを一般的に知られてしまうと、次に畑を買おうとする時に買いにくくなりますし、ブドウを買い付ける時に「うちの畑は良い畑なんだからもっと高く買ってくれ」と言われても困ります。そこで役に立つのが村単位でブドウの価格が決まる格付け制度です。同じ村で同じ価格というのを長年続けて、生産者が畑のテロワールの優劣に意識がいかないようにしてきたとも言えます。この格付け制度そのものが、ネゴシアンが大量にブドウを買い付ける、あるいは畑を購入するのを容易にするためのものなのです。

さらに、販売の面でもテロワール推しの売り方をしないのは、栽培農家に「自分で造った方が良いのでは?」と思わせないため。テロワールに目が向かないようにした方がメゾンにとって都合が良いため、アッサンブラージュだとかメゾンのスタイルだとかといったPRをしてきたというのが現実ではないでしょうか。

また、畑の支配だけではなく、かなり前の話ではありますが、メゾンがシャンパンを造るのに必要な設備のメーカーにも圧力をかけてドメーヌに販売させないようにしていたという話もよく聞きます。このように、ネゴシアンがいろいろな形で川上から川下まで支配しているシャンパーニュの構造が見えてきます。

【シャンパーニュの最近の潮流 – RMの勃興 -】

20年前くらいまではシャンパーニュは北限にある産地ということで、ブドウがなかなか熟さず、10年のうち3年くらい良いブドウが収穫できない年がありました。そのため、そのマイナスを補ってくれるリザーブワイン(ヴァン・ド・レゼルブ)が重視されました。リザーブワインを保管しておくことは、小さなドメーヌにとって資金的にも設備的にも非常に難しいのですが、大手のネゴシアンであれば容易な話。オフヴィンテージの時でもリザーブワインを大量に使うことで均一な味わいをつくれることがネゴシアンの強みであり、ネゴシアンの方が品質が安定していると言われていました。

しかし、温暖化に伴いブドウの熟度が上がるようになってきて、今では完熟しない年は10年に1度あるかないかであるため、以前と比べてリザーブワインの重要度が低下しています。ドメーヌ(RM)にとっては非常に好ましい状況です。ジャック・セロスのアンセロム・セロスのような師匠が出現して彼の弟子たちが活躍していること、また彼らが年月を重ねることで経験値が増していることによって、栽培や醸造技術がめきめきと向上しています。更に、世界的にもRMに注目が集まり、販売に以前より苦労しなくなってきたことにより、更に若手の生産者が登場するという好循環も生まれています。

RMのレベルに関しては、以前と比べて全体的にかなり上がり、注目すべき生産者も増えてきています。しかしRMの生産者の意識レベルには濃淡があるのも事実です。“普通に”頑張っている人もいれば、最上のシャンパンを追求して徹底的にこだわっている人もいます。

トップのRMは、グランクリュにブドウ畑を所有するところは意外と少なく、コート・デ・バールというエリアやヴァレ・ド・ラ・マルヌに位置する生産者が多かったりします。グランクリュであれば努力せずともその名前だけで売ることができますが、ややテロワール的に劣るエリアではそうもいかないため、良いシャンパンを造るために努力しようとするのかもしれません。

優秀なRMは、ブルゴーニュのように単一品種・単一区画・単一ヴィンテージで造ろうとする傾向があります。シャンパンもワインである以上ヴィンテージを表現すべきだと考え、リザーブワインを全く使わない生産者も出てきていますし、ミレジムとしてヴィンテージを表記するだけでなく、バックラベルに収穫年を記載する生産者が増えてきています。

アルチザンの一つ、ブジーにあるPierre Paillardの畑

また、デゴルジュマンやティラージュ(瓶内二次発酵に向け、アッサンブラージュされたワインに酵母と蔗糖を加えて瓶詰めすること)の日付を入れるところも増えています。ティラージュの場合、収穫した翌春に通常行うので、2016と書いてあれば、2015年収穫のブドウがベースだな、と判別できます。更に、熟成による味わいよりも、土地本来の味わいを重視して表現したいという思いから以前より熟成期間を短くする生産者も増えています。テロワールを表現しようと尽力する意欲的なドメーヌの生産者たち(弊社ではアルチザンと呼んでいます)は、シャンパーニュの未来を創るかけがえのない財産です。そんな彼らのシャンパンをリアルタイムで味わうという最上の体験を、我々とともにお楽しみいただけたら幸いです。

 

 

 

 

 

CTA-IMAGE ワイン通販Firadis WINE CLUBは、全国のレストランやワインショップを顧客とするワイン専門商社株式会社フィラディスによるワイン直販ショップです。 これまで日本国内10,000件を超える飲食店様・販売店様にワインをお届けして参りました。 主なお取引先は洋風専門料理業態のお店様で、フランス料理店2,000店以上、イタリア料理店約1,800店と、ワインを数多く取り扱うお店様からの強い信頼を誇っています。 ミシュラン3つ星・2つ星を獲得されているレストラン様のなんと70%以上がフィラディスからのワイン仕入れご実績があり、その品質の高さはプロフェッショナルソムリエからもお墨付きを戴いています。 是非、プロ品質のワインをご自宅でお手軽にお楽しみください!