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≪知っているとちょっとお得なワインマメ知識≫ 困難な年の水平試飲は、造り手の“覚悟の強さ”を顕わに(垂直試飲”と“水平試飲”の意味④)2017/02/13


“垂直試飲”“水平試飲”というテイスティングを実施する意義について、引き続きお話をしたいと思います。

 

まず“垂直試飲”とは、

「同じ生産者の同じワインを、異なる生産年=ヴィンテージで複数揃えて比較するテイスティング法」。

この“垂直試飲”をすることで見える、以下の2つのことについてお話をしてきました。


●各ヴィンテージの特徴(作柄がどう表現されているか)

●熟成のポテンシャルと香味変化の傾向

 

そして、“水平試飲”というテイスティング法は簡単に言えば、

「一つのヴィンテージ・同じ地域で異なる生産者のワインを比較するテイスティング、

または、一つのヴィンテージ・同じ生産者で異なる生産地(畑、村など)のワインを比較するテイスティング」です。

 

この試飲を実施することで分かることは、ざっくり言えば

①一つの年の同じ気候・環境条件下でワインを造った時に分かる、生産者毎の「スタイル」の違い

②同一条件下でこそ比較できる、生産者の「力」

③ある狭い地域・同じ生産者等の条件で比較をした場合には、テロワールの違いによるワインの「キャラクター」

 

垂直試飲が「同じワインでヴィンテージだけ違う」という比較のしやすい条件であるのと比べると、

水平試飲はヴィンテージが同じだけで後はすべてバラバラ。

テイスティングの前提として、ある程度産地や生産者に対する知識も必要となり、

かなり突っ込んだ観点でワインに向き合い、評価することになります。

 

前回は①、生産年の気候条件により各生産者が造りの方針を変えていくことについてのお話でした。

今回は水平試飲で見えてくる最重要ポイントとも言える、生産者の『力』についてです。




 

困難なヴィンテージほど、生産者の「力」と「覚悟」が見える


前回と少し違う気候条件を仮定として設定してみます。

春は冬の寒さを引きずり、4月や5月にも雹が降ってしまうような安定しない気候。

夏場は雨が多く、とにかく困難な状況が重なり続けたヴィンテージ、としましょう。

 

こんなヴィンテージのワインを水平試飲で比較して分かるのはとてもシンプルに、

非常に厳しい気候条件の中でどれだけの最善を尽くしてブドウを実らせ、

その年に獲得できたブドウの決して高くないポテンシャルからどれだけの「力」を引き出せるか、です。

それこそがワイン生産者の『力量』なのだと思います。

そして・・・そこには造り手としての『覚悟の強さ』も含まれるかもしれません。

 

前述のようなヴィンテージでは、放っておいたらブドウは決して恵まれた状態では実りません。

例えば降水量が多ければ植物は喜んで水分をどんどん吸い取ってしまい、

水っぽいブドウになります。

日照量が足りなければブドウの糖度は上がりませんし、

果皮に含まれるタンニン成分等の量が低いブドウにならざるを得ません。

 

厳しい年でも、恵まれた年と同じ、いやそれ以上のクオリティを実現には、

例えば春から夏にかけての段階でブドウ樹1本あたりから収穫する房数を通常年よりも更に少なく減らし、

残した数少ない房・粒に酸やミネラル、タンニンを集中させていく必要があります。

房数を減らせば、当然のごとくブドウ収穫の総量も減少します。

生産出来るワインの本数も大幅に減ることとなり、それはイコール売上・収入の低下にも繋がります。

 

以前から何度もこのメルマガに書いてきましたが、

ブドウ栽培・ワイン造りは決して「安定して儲かる」商売ではありません。

毎年の気候の不安定性に悩まされ、状況と闘い、そして決断をし続ける、

『覚悟の強さ』を試され続ける仕事です。

 

この不安定性に毎年強い気持ちと信念で立ち向かい続けられる造り手は、

厳しい年でも必ず「この困難な年によくぞ・・・!」と思わせてくれるワインを世に出してきます。

素晴らしい生産者が困難だった年にこそ見せる力と覚悟の強さは、

決して「火事場の馬鹿力」ではない、確かな思いに裏付けられたワインに結実します。

そんなワインに出会うことがあるからこそ「グレートヴィンテージだけを選んで飲むのは勿体ない」

と僕は思うわけです。

 

当然のことながら、その一方で困難な年には「ああ、やっぱりこんな感じの出来になっちゃうんだな」

と思わせるワインをリリースするような生産者もいるんですけれどね。

そういう生産者については特にあまり言うことはないかもしれません 笑

 

それで今回はこのへんで・・。


次回は『特定の地域・同生産者等の条件で比較をして分かる、

テロワールの違いによるワインの「キャラクター」』についてのお話をさせて戴きます!


Firadis WINE CLUB 店長 五十嵐 祐介