哲学が泡に宿る。
造り手にハマる。

シャンパーニュを「祝いの泡」から、「語るべきワイン」へと引き上げた中心人物。大手メゾンへのブドウ供給が当たり前だった時代に、畑の個性・区画の表情・造り手の思想によって勝負するRMという価値観を世界レベルで成立させた決定的な存在です。メルフィという無名の村から、土壌研究とミニマル介入を徹底し、「土地が語るシャンパーニュ」を提示したシャルトーニュ・タイエ。彼の登場がなければ、いま私たちが“アルチザン”と呼ぶ世界はここまで豊かには広がっていなかったと言っていいでしょう。

サヴァールの登場は、「RMは高品質のシャンパーニュを造れる」という認識から一歩進んで、「RMは、ワインの領域で世界と競える」という価値観を生んだ転換点でした。ピノ・ノワールで造られるシャンパーニュを力強さではなく、ミネラル・フィネス・緻密な質感で表現する発想は当時のシャンパーニュでは極めて革新的。その哲学は、若い造り手のバイブルとなり、現在の“アルチザンにおけるエレガンス”というジャンルを形づくっています。サヴァールを知れば、シャンパーニュの美しさの基準が変わる。そう言い切れる造り手です。

収穫の半分以上を大手メゾンに売りながらも、自らの名で造るシャンパーニュには、最良の房だけを選び抜く。この一徹な職人哲学こそが、コート・デ・ブランにおける“正統”を生み出してきました。シャルドネの緊張感、白亜質のミネラルの純度、完璧なまでの精密さ。模倣や奇抜さではなく、“正しさ”そのものを追求してきたスタイルは、いまも多くの造り手の指標になっています。華々しい革命の裏で、ずっと揺るがぬ支柱として立ち続けてきた造り手。それがドワイヤールです。

かつて“補完品種”として扱われがちだったムニエを、単一区画のワインとして本気で表現した最初期の造り手。その挑戦は、ムニエの存在価値を根底から変え、今の“ムニエ黄金期”の火種となりました。20年以上継ぎ足されるリザーヴワイン、区画ごとに個性を引き出すミニマルな醸造。派手ではないが、深く静かにこのカテゴリーの骨格を形づくってきた存在です。ムニエという葡萄の“誤解されてきた美しさ”を知るなら、まずドゥウールに触れるべき理由がここにあります。

コート・デ・ブランのシャルドネが持つ、伸びやかな酸と緻密なミネラル。ドント・グルレはその美点を、“現代の純度”で再定義する造り手です。樽使いのセンス、葡萄の完熟度の見極め、ミネラルの精密な立ち上がり。そのすべてが極めて洗練され、ブラン・ド・ブランの“未来の基準値”を提示しているような完成度があります。Wine Advocateが「シャンパーニュの未来において極めて重要」と評したのは、単なる賛辞ではなく、“方向性”そのものを語っているから。伝統と革新のちょうど真ん中で、シャルドネの可能性を最も美しく描く存在です。

鋭い酸と引き締まったミネラルで知られるル・メニル。その土地のストイックな個性を、完熟したシャルドネの力で、しなやかに昇華するのがヴェルニョン。マロラクティック発酵を必要としないほど完璧に熟した葡萄だけを選び抜き、味わいには緊張と優美さが共存します。“ル・メニルらしさ”を真に理解するなら、ヴェルニョンは欠かせない存在です。

シャルドネへの敬意と愛を掲げ、「パッション・シャルドネ」という団体を立ち上げたギボラ。彼らが提示するスタイルは、とにかく純度が高い。白亜質ミネラルの伸び、透明感、緊張と旨味の同居。“ブラン・ド・ブランの未来系”と呼びたくなるほど、精密で、静かで、余白に美しさのあるシャンパーニュです。今のブラン・ド・ブランを語るなら、ギボラは外せません。

ピエリー村は、かつて高い名声を誇った歴史ある土地。ジャン・マルク・セレックは、その古い価値を“いま”の視点で組み直し、しなやかで瑞々しい果実味と、精密なミネラルを両立させた現代的ピエリーのスタイルを示しています。最新の醸造技術に頼りすぎず、必要な手当てだけで葡萄の声を引き出す。泡のきめ細かさ、バランスの良さ、果実の伸び。どれも“現代アルチザンの中核”と呼ぶにふさわしい完成度です。派手な主張ではなく、土地の魅力を静かに磨き上げるスタイル。ピエリーの今を知るなら、セレックは外せません。

ムニエの“フルーティで軽い”という固定観念を、エレガントで精密なムニエへと書き換えた立役者。その味わいには生命力があり、柔らかい果実と伸びやかな酸が美しく調和します。ヴァレ・ド・ラ・マルヌのポテンシャルをここまで表現できる造り手は多くありません。“ムニエが好き”という人はまずムッセを飲むべき。そう言いたくなる造り手です。

250年続く栽培家の家系に生まれたフラビアン・ノワック。彼は“足し引きせず、畑のままを表現する”という哲学を徹底的に突き詰めています。単一区画×単一品種×単一年。これを毎年やり続ける覚悟こそ、アルチザンの核にある“誠実さ”そのもの。装飾を捨てたシャンパーニュは、飲む人の心にまっすぐ刺さります。

2018年に初リリースながら、世界中のソムリエや専門誌がこぞって注目する理由は明確。混植混醸・自然酵母・ミニマル介入。未来のシャンパーニュを象徴するアプローチを恐れず実行しているから。味わいはピュアで伸びやか、葡萄そのもののエネルギーを感じる一本。シャンパーニュが次のステージへ向かうための“先導者”と呼びたくなる造り手です。

17世紀から続くブジーの名門。その歴史に、2019年にクリストフ・コンスタンという才能が加わったことで、ブリスは“老舗の安定感”だけでは終わらない新章を迎えました。クラシックな骨格に透明感と立体感が加わり、ブジーらしい力強さと現代性が見事に共存するスタイルへ。もともと優れた畑を持つ生産者だからこそ、コンスタンの緻密な醸造が加わることで、果実の密度・泡のキメ・余韻の伸びが格段に向上しました。伝統を守るだけでなく、未来に向けて“更新”できる老舗。これがいまのブリスの魅力です。

グランクリュ・ブジー特有の、重心の低い力強い果実。ピエール・パイヤールはそのエネルギーを削らず、驚くほど軽やかで現代的な透明感へと昇華させます。力強さと軽さという、一見相反する個性を高い次元で両立させているのです。古典的なブジーらしさを失わず、味わいの輪郭だけを未来へと引き伸ばすような仕事。そのスタイルは“次の10年のブジー像”と呼ぶにふさわしいもの。伝統を継ぎながら、静かに更新し続ける造り手です。

砂質土壌がもたらす柔らかな果実味。ラクルト・ゴドビヨンは、その優しさを壊さぬよう、余計な介入を排した“Less is More（少ないほうが豊か）”の哲学でワインを仕上げます。触りすぎないからこそ、葡萄本来の立ち上がりが澄み、酸と果実が自然な調和を見せます。ビオディナミへの転換も、この“哲学”の延長線上にあるもの。軽やかで、優しくて、細部に芯がある。エキュイユの未来を静かに描く造り手です。

何も取り除かず、多くを足さない。その言葉通りのミニマル介入を貫くことで、ワインは驚くほどの透明感を獲得しています。華やかさよりも、静かな純度。香りの奥に潜む繊細なニュアンスが、雑味なくまっすぐに浮かび上がります。生産量わずかで、まだ国際的評価はこれから。しかし、この“澄んだ強さ”は一度飲めば忘れられない。未来のクラシックになり得る新星です。

マッシフ・ド・サンティエリーの砂質土壌が生む軽やかさに、マルジリーはタンク形状の違いを巧みに重ね、驚くほど多彩なムニエ像を描き分けます。球体タンク、縦型、横型…。同じ葡萄でも、タンクによって性格が変わることを証明する造り手です。若い作り手にありがちな荒削りさはなく、むしろ緻密で知的。ムニエという葡萄の可能性を、最も自由な角度から示してくれる存在です。

“量ではなく密度”を追求する造り手。2018年に家族の畑を統合して以来、ポンソンが手がけるシャンパーニュは、一点物の衣服のように細部まで意志が宿っています。果実の輪郭、泡のきめ、テクスチャーの密度。その緻密さは、少量生産ならではの集中力が生んだもの。静かな情熱で一本のワインを形づくる。そんな丁寧な仕事を感じさせる新星です。

23歳でドメーヌを構え、ル・メニル、オジェ、ヴェルテュという錚々たる畑を自らの哲学で再構築する。若さゆえの勢いではなく、驚くほどの精密さと誠実さが同居したスタイルが魅力です。畑ごとに異なる“白亜質×酸”の美点を丁寧に積み上げて表現する姿勢は、この造り手がいずれ大器となることを予感させます。

クラマンのシャルドネが持つ重層的なミネラル。ランスロ・ピエンヌは、それを派手に誇張するのではなく、静かに積み重ねるように表現します。味の奥にある“層”がゆっくりと開く、そんな知的な余韻が魅力。華やかさで勝負するのではなく、深さと密度で“語れるブラン・ド・ブラン”をつくる。クラマンの粋を静かに届ける造り手です。

SO2無添加、ノンドサージュ。自然派としては挑戦的なスタイルでありながら、味わいの骨格は驚くほど安定し、完成度が高い。その裏側には、ファビアン・ダヴィオーの緻密な発酵管理があります。自然派の難しさを“弱さ”ではなく、“しなやかな美しさ”として提示する。旧来の協同組合に革新を吹き込んだ、象徴的な存在です。