【フィラディス実験シリーズ第20弾】天ぷらとワインのマリアージュは、初体験の“静”のマリアージュでした…!!(広報 浅原 有里)
今回のマリアージュのテーマは、天ぷらです。 揚げ物であり、お塩で食べる場面も多い天ぷらは、ミネラル感があって油をスッキリと流してくれるスパークリングワインとの相性の良さは想像ができます。しかし、果たして白ワインや赤ワインとは合うのでしょうか?合うとしたら、どのようなマリアージュをみせてくれるのでしょうか? 今回のニュースレターでは、天ぷらにマリアージュするスティルワインの法則を明らかにしたいと思います。
【天ぷらのポイント】
天ぷらというと、「揚げ物だし胃もたれしそう・・・」なんて声も聞こえてきそうですが、実際は『フレッシュな食材に衣をまとわせ油で揚げることによって、旨味を閉じ込めながら蒸し上げる料理』です。職人が揚げた天ぷらをいただくと、油っぽさはあまり感じず、最大限引き出された素材の美味しさをそのまま食べる非常に繊細でデリケートな料理だと実感します。
たねとしては、一番人気の海老を最初に提供するところが多いようで、その後は基本的には繊細な素材から強い味わいの素材へと展開します。最近では野菜をメインに据えた天ぷら店が人気になるなど、それぞれの個性を活かした店舗も増えてきています。使用する油についても、職人が自身の好みや食材に応じて選んでいます。そして、大まかには塩か天つゆに大根おろしなどの薬味を添えて、お客様の好みの味付けで自由に食べさせます。
全体を通して“衣をつけて揚げた”ものを食べ続けるということがポイントになります。
今回の実験では、以下の天ぷらをいただきました。
海老、きす、ほたて、穴子、アオリイカ、ホワイトアスパラ、山菜(こしあぶら・こごみ)、さつま芋、しいたけ、かき揚げ、うに、牛フィレ ※提供順
【ワインのポイント】
今回も、天ぷら店様にご協力いただいて実験を行ったため、ワインはある程度合うと予想できるものを絞って持ち込みました。上記の「天ぷらのポイント」に対して、ワインに必要/不要なポイントを検討し、以下の10種類のワインを用意しました。
★ 繊細な料理で、“衣をつけて揚げた”ものを食べ続ける
⇒ ボリューム感の強いスタイルや残糖を強く感じるといったタイプのワインは不要
★ 塩で食べる場合は、旨味やミネラルが際立つもの
⇒ 酸が高すぎず、程良いミネラル感があり、柔和でバランスが良いものが好ましい
★ 天つゆで食べる場合は、出汁の旨味に寄り添うもの
⇒ ミディアムくらいのボリュームで、バランスの良い赤ワイン
⇒ 強すぎないフルーティーさ、滑らかさ、程良いミネラルが必要
【結果発表】
<繊細な素材 × 塩>には、リースリング!
海老やきす、ほたて、いかなどしっかりと甘味が感じられる食材には、リースリングが抜群の相性をみせました。更に塩のミネラル感にワインのミネラルが同調するため、塩で食べる場合には幅広いネタに合わせることができました。また、テクスチャーもリースリングの持つクリスピーさが天ぷらのサクサクした食感に同調していました。
今回は、3.モーゼル、4.ラインヘッセン、5.アルザスの3種類のリースリングを用意しましたが、5.アルザスの残糖のあるタイプは天ぷらの軽やかさを消して重くなってしまいました。3.モーゼルのCarl Loewenはフルーティーさと伸びやかな酸が 素材を引き立てており、4.ラインヘッセンのWagner Stempelはより硬い酸が特徴ですが、そのキリリとした酸が塩やレモンによく合って一体感を生み出しました。この2つはどちらも非常に相性が良く、お客様の好みに応じて使い分けが可能かと思います。
<根菜や穴子 × 塩/天つゆ>には、グリューナー・フェルトリーナー!
穴子やきす、山菜、さつま芋、ホワイトアスパラなど、前半から中盤のたねには2.グリューナー・フェルトリーナーが幅広くマリアージュしました。穴子や山菜などの野菜類が持つ土っぽさやほろ苦さ、ミネラル感といった要素に優しく寄り添い、苦味をうまく丸め込みながら旨味や甘味を引き立て増幅させる優秀な役割を果たし、その上塩でも天つゆでもOKという懐の深さをみせました。
<味わいの強い素材 × 天つゆ>には、ピノ・ノワール from オレゴン!
天ぷらで欠かせないのが強めに出汁をきかせた天つゆですが、この天つゆとの相性が抜群だったのが10.オレゴンのピノ・ノワールでした。天つゆの旨味とピノの旨味が相乗して、更に上質な料理へと一段引き上げられるような素晴らしいマリアージュでした。
今回飲んだオレゴンのピノは、酸が高すぎないこと、ミネラルがしっかりあること、ワインに程良い丸みがあること、骨格が強すぎないこと、アタックが柔らかいことなどといった各要素が絶妙に天ぷら+天つゆの要素と合っており、「焦点が合う」という言葉がぴったりの精度高く素晴らしいマリアージュでした。
たねとしては、うになど磯の風味があるものや、味の強いしいたけが特に良く、薬味の大根おろしとの相性も秀逸でした。
1つ重要な条件として、酸やミネラルといった骨格をきちんと立たせ味わいがぼやけてしまわないように、少し冷やし気味で提供することが挙げられます。特に天ぷらの場合、カウンターの席はワインの温度が上がりやすいので注意が必要です。
ピノ・ノワールとしては他にも7.ブルゴーニュのコート・ド・ニュイ(マルサネ)と8.コート・ド・ボーヌ(サントネ)を用意しましたが、どちらも決して悪くはないのですが、欲を言えば7.マルサネは豊かな果実味や酸の高さが天ぷらとは若干ずれて しまい、8.サントネもやや骨格が気になるためベストマリアージュとは言えませんでした。ブルゴーニュでも、ハーブのニュアンスがある繊細なものであればもっと合ったのだろうと思います。
<その他のワインについて>
ピノ・ブラン:
野菜類全般やいか、しいたけなど幅広く合いましたが、全体的におとなしく地味な印象になってしまい、グリューナー・フェルトリーナー程には甘味・旨味を引き上げるのは難しいと感じました。
ソーヴィニヨン・ブラン:
野菜類に合うのでは?と期待したのですが、全体的にワインの青さが前面に出てしまって合いませんでした。天ぷらでは油で揚げて出汁の旨味を載せることで素材の青臭さを消しているわけですが、その青さをワインで再度戻してしまうという残念な結果になりました。
シャルドネ:
2種類のシャルドネを用意しましたが、どちらも樽発酵のニュアンスがあるワインでした。強い味わいのしいたけには合いましたが、繊細かつ“衣をつけて揚げた”素材を食べ続ける天ぷらという料理では、総じて樽のニュアンスとボリューム感や強さが邪魔になってしまいました。また、天ぷらには乳酸のニュアンスはないため、乳酸発酵の風味が強く出ていると更に難しい結果となりました。シャルドネでも樽発酵しておらず柔らかさのあるシャブリなどであれば、違う結果になったのではないかと思います。
【まとめ】
天ぷらには一見難しそうな赤ワインが、それもオレゴンのピノ・ノワールが素晴らしいマリアージュをみせたことは非常に嬉しい驚きで発見でしたが、今回検証して初めて、ワインと天ぷらのマリアージュは、今まで検証してきた焼き鳥や焼き肉、グリルした牛肉・豚肉などとのマリアージュとは性質が異なるという、更に大きな発見がありました。
天ぷらは、素材の持つ美味しさを引き出し凝縮させ、研ぎ澄ましていく料理です。それにマリアージュするワインは、研ぎ澄まされた風味や旨味を少しも殺すことなく、精度高く焦点を合わせて支える役割を果たす必要があります。
今までの肉料理などでは、料理とワインが引き立て合って旨味や甘味といった要素が増幅するようなもの、つまり1足す1が2ではなく10や100になるような躍動感のある“動”のマリアージュでしたが、天ぷらでは研ぎ澄まされた料理に対してワイン側も静かに繊細にピントを合わせるような“静”のマリアージュが求められるのです。
そしてその“静”のマリアージュは、油を流してスッキリさせるビールやスパークリングなどの飲み物や、甘味でコーティングする日本酒ではできない、ワイン独自の合わせ方だろうと思います。
今回ご紹介したように、わずか3種類のワインで天ぷらのコース全般に幅広く対応が可能です。
定番である海老やきすにはドイツのリースリングを!そしてコース中盤以降にはグリューナー・フェルトリーナーとオレゴンのピノ・ノワールの両方を手元に用意して自由にお愉しみいただくだけ!
是非ともたくさんの方にワインならではの“静”のマリアージュを体感していただきたいと願っております。
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