実践編!【フィラディス ワインリスト研究 第4弾 】
Kashiyama Daikanyama COTEAU.
星野崇文 ソムリエ &
Restaurant L’asse
齋藤 智之 ソムリエ
- 2021.12.02
- サービス
現在活躍中のソムリエお二人に、同一の料理テーマでワインリストを作成いただき、構成内容や選んだ基準、考え方などをじっくり覗いてみようという人気企画「フィラディスワインリスト研究」の第4弾。今回は後編のペアリング実践編をお届けします。
前編ではお二人のソムリエが選んだワインをご紹介しましたが、今号では実際に食事とワインを合わせた検証会の様子をレポートします。焼き鳥との相性はもちろんですが、ワインの提供温度の活用方法から、シェフとの関係性の築き方にまで及んだお二人のソムリエ論は必見です!
ご協力:本家あべや ムスブ 田町店 様
星野崇文 ソムリエ
Kashiyama Daikanyama COTEAU.
マネージャー・シェフソムリエ
1986年生まれ。東京都出身。
調理師専門学校卒業後、学校給食の調理を経験し、その後株式会社ひらまつへ入社。西新宿にあるワインダイニング、インターコンチネンタル東京で研鑽を積んだ後、2019年より樫山代官山COTEAU.へ。現在は、ManagerとChef Sommelierを兼任している。
齋藤 智之 ソムリエ
Restaurant L’asse
マネージャー・ソムリエ
1994年生まれ。新潟県出身。
大学で栄養士、衛生監視員、HACCPなどの専門知識を学び、卒業後、東京・目黒にある1つ星イタリアン「Restaurant L’asse」にホールスタッフとして入社。2018年よりワイン担当を務める。叔父は、新潟にある「Fermier」ワイナリーオーナー本多孝氏。
基本条件
今回のお題は、焼き鳥店のワインリストです。
星野さんと齋藤さんの経歴やワインリストの構成は、前回のニュースレターをご参照ください。
【フィラディス ワインリスト研究 第4弾 】Kashiyama Daikanyama COTEAU. 星野崇文 ソムリエ & Restaurant L’asse 齋藤 智之 ソムリエ
<メニュー>
<ワインリスト>
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- 基本的にフィラディスのエージェントアイテムから選択、 ない場合は他社アイテムも選択OK
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- ワインの産地は問わない
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- 構成:
- − グラス販売 赤2種類、白2種類、泡1種類
- − ワインリスト 泡白赤トータル15アイテム(グラスのワインを含む)
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- ボトル売価9000円まで。最低ラインは3000円代後半、ボリュームゾーンは4000〜5000円代をイメージ
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- グラス売価は1000円以下
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- 原価は40%まで
※ほとんどのお客様が上記のようなコースを注文する焼き鳥店を想定
お二人が選んだワインリスト
今回のワインリストを選定していただくにあたり、星野さんはフランスを中心に様々な産地を選定されました。価格帯もそれほど高くなく、知名度のある品種で安心感を与えられること、気負わずに楽しんでいただけるリストとしながらも、どこをとってもソムリエのエッセンスが感じられることを意識されていました。
対して、齋藤さんも様々な産地のワインを取り揃えていますが、中心となるのはイタリアワインで、手軽に飲めるカジュアルな価格とすることにウエイトを置いたとのことでした。星野さんと同様、聞き馴染みのある品種や産地を置くことで、お客様にとって分かりやすく、抵抗なく入っていけるような安心感のあるリストになっています。
検証結果
ささみ :
*ささみ+柚子胡椒(柚子胡椒の主張は控え目)*
◎グリューナー・フェルトリーナー/オーストリア、カンプタル
◎リースリング/ドイツ、モーゼル
グリューナーは、ささみの柔らかさに寄り添い、アタックからアフターまでシームレスに美しく流れるようなマリアージュでした。シャープな酸でエッジもきいて、コースの最初のワインとしても秀逸です。難点があるとすると、お客様自身で選択していただきにくい点でしょうか。イメージがつきにくい品種のため、ソムリエがいて説明しないと成立しない可能性があります。
リースリングは、甘味が足されることで相乗効果で塩気を美味しく感じる組み合わせでした。さらに旨味もより引き出されました。
脂多め部位 ✕ 塩 :
*すねみ:ジューシー肉汁たっぷり*
◎ソーヴィニヨン・ブラン/フランス、ロワール
◯ブルゴーニュ・ブラン(2018 Bourgogne Blanc Les Vaux / Butterfield)
*皮*
◎シャンパーニュ(NV Carte Noire Brut / Thierry Triolet)
◎ペドロ・ヒメネス/スペイン
◎ブルゴーニュ・ルージュ 2種
*手羽*
◎シャルドネ他ブレンド/イタリア、フリウリ(2018 Nestri Bianco / Meroi)
◎マコン・シャルドネ/ブルゴーニュ
(2018 Macon Milly Lamartine Clos du Four / Cordier )
◎ブルゴーニュ・ブラン(2018 Bourgogne Blanc Les Vaux / Butterfield)
◎ペドロ・ヒメネス/スペイン
すねみについては、ソーヴィニヨン・ブランがNo.1でした。焼き鳥のテクスチャーは料理として総じて柔らかいため、石灰系のニュアンスが強いものは難しいと思いますが、このワインは固さがないため、ジューシーさが生かされ満足感のあるマリアージュでした。
脂多めの部位では、ワインに脂に負けないボリューム感と甘味、脂を焼くことによるメイラード反応との相性を考えると酸化的なニュアンスが必要になるため、樽がかかったシャルドネが非常によく合いました。また、ペドロ・ヒメネスもワインの持つザラメのような味わいや酸化的な風味が焼き鳥と相性が素晴らしく、高い評価を得ました。
また、赤ワインではブルゴーニュの赤が抜群に合いました。いずれも18年VTで適度に甘味があり質感も柔らかいため、焼き鳥のテクスチャーやボリューム感に寄り添っていました。ブルゴーニュ・ルージュがちょうど良く、これ以上格や価格が高くなると凝縮弩やボリューム感が増すので合わせるのは難しくなるだろうとの意見もありました。
脂少なめ部位 ✕ 塩 :
*ねぎま:肉質しっかり、ポーション大きくジューシー*
◎ブルゴーニュ・ブラン(2018 Bourgogne Blanc Les Vaux / Butterfield)
◎マスカット・ベーリーA/日本、山梨
*ふりそで:皮+脂質少なめの身*
◎マコン・シャルドネ/ブルゴーニュ
(2018 Macon Milly Lamartine Clos du Four / Cordier )
◎マスカット・ベーリーA/日本、山梨
*むね串:ふんわりと質感が柔らか*
◎マコン・シャルドネ/ブルゴーニュ
(2018 Macon Milly Lamartine Clos du Four / Cordier )
◎アルバリーニョ/スペイン、リアス・バイシャス
◎マスカット・ベーリーA/日本、山梨
どの部位にもブルゴーニュ・ブランが素晴らしいマリアージュを見せてくれました!
お肉にボリューム感とジューシーさ、咀嚼が必要な弾力があるため、ワインにもコクやボリューム感が必要となりました。樽感も焼き鳥の香ばしさに絶妙に合いましたし、アフターのミネラルが塩味とも同調し、甘味や旨味を増幅させました。
もう1つ、どの部位にも合ったのがマスカット・ベーリーAでした。ワインの柔らかさと焼き鳥のふんわりした質感が合い、ワインの酸味が足されることで甘味・旨味がキレイに伸びました。また、果実味はソースを足したようなイメージで華やかで素晴らしいマリアージュとなりました。
タレ :
*レバー:たれ*
◎ペドロ・ヒメネス/スペイン
◎プリミティーヴォ/イタリア、カンパーニャ
◎コート・デュ・ローヌ/フランス、ローヌ
ペドロ・ヒメネスは、レバーの脂質やメイラード反応の風味に完璧に同調しました。アフターに甘味を加えてくれるためソースのような役割を果たし、別の料理として昇華していました。
プリミティーヴォは、タレやレバーの味わいに寄り添い、柔らかい質感も合っていました。プリミティーヴォ特有の赤系果実の香りがプラスされる洗練されたマリアージュなので、グラスで提供するなどアクセントに使うのがおすすめです。
オリエンタルな香りを持つサン・プレフェールのコート・デュ・ローヌも、砂質土壌の抜け感が適度に火入れされたレバーの滑らかなテクスチャーと良く合っていました。タンニンが少し重くは感じますが、オリエンタルな香りがプラスされてこちらも非常にオシャレなマリアージュでした。
*つくね:たれ+生卵、柔らかく甘味を強く感じるタイプ*
◎コート・デュ・ローヌ/フランス、ローヌ
◎ペドロ・ヒメネス/スペイン
生卵はワインと合わせるのが難しい食材だと実感しました。硫黄の香りの強さに酸が合わず、ワイン側に酒精の強さや卵と同等の甘さが必要になってきます。
コート・デュ・ローヌは、サン・プレフェール特有のオリエンタルなスパイスの香りが、肉の細かさに入り込んでいくようなイメージで相性が良く、乾いていない熟したタンニンがつくね+タレの甘さにフィットして、食べごたえの満足感がある組み合わせでした。
ペドロ・ヒメネスは、ワインに柔らかい質感と強さ、甘味、酸化のニュアンスがあるため、焼いたつくね+タレ+たまごという複雑な味わいに寄り添ってくれました。
その他 :
*はつ:塩、丸はつ(心臓を丸のまま串うちしたもの。通常のハツよりもジューシーで柔らかい)*
◎ロッソ・ディ・モンタルチーノ
◎ボルドー右岸(2016 Seigneurs d’Aiguilhe / Ch.D’Aiguilhe)
ロッソ・ディ・モンタルチーノは果実味や酸味、ボリューム感など各要素のバランスが良く、重心の高さが丸はつの塩味と合っていました。通常のはつよりもジューシーでグニュグニュとしたテクスチャーがあるので、ワインのタンニンがしっかり支えてくれました。ボルドーも同様で、タンニンがはつの食感や強い味わいを支えギュッと締めてくれるので、だれずに美味しく食べ進められる組み合わせとなりました。
*ししとう+鰹節+醤油*
◎ソーヴィニヨン・ブラン/フランス、ロワール
◎カベルネ・フラン/フランス、ロワール
◎ボルドー右岸(2016 Seigneurs d’Aiguilhe / Ch.D’Aiguilhe)
どのワインも、ししとう特有のメトキシピラジン(いわゆるピーマン香)を同調させる鉄板の組み合わせでした。特筆すべきは、ボルドーでしょうか。鰹節+醤油と抜群に合い、ベリーのニュアンスが足されて美しいマリアージュでした。
検証まとめ
焼き鳥とワインをあわせるポイントとしては、以下が分かってきました。
②焼くことによるメイラード反応や酸化の風味に合わせるため、ワインにも樽香や醸造行程での酸化的ニュアンスが必要
③テクスチャーの柔らかさとのバランスが重要
今回いただいた焼き鳥は、お肉のポーションが大きく味わいも豊かで主張が強く、逆に塩味はそれほど強くなかったため、ミネラルが前面にくるようなワインはあまり合いませんでした。もっと塩味が尖っていたり、ミネラル感が強ければスパークリングワインやグリューナー・フェルトリーナー、リースリングの出番も増えたかもしれません。
温度管理がソムリエの仕事
検証をしながらお話を伺うなかで、お二人がサービスの際に温度管理を重視し、料理とのペアリングに活用しているという共通点が見えてきました。
星野さんの勤務するCOTEAU.では、セラー庫内にできる温度の高低ムラを活用するなど温度帯を細分化し、ワインごとに最適な温度管理をしているとのことでした。更にサービスの際に、水に少しだけ氷を入れた冷蔵庫と同じくらいの温度の桶を用意しておいて、ワインを出したり入れたりしながら温度調節をしているそうです。デキャンタージュすることで温度を上げたりといった調整もされています。お客様の席に氷バケツを置いてワインを入れっぱなしにするようなことは絶対にないと断言されていました。星野さんは、「温度管理がソムリエの仕事だと思っている。料理とのペアリングを考える上で品種や産地の個性はもちろん大切だが、提供する温度によってある程度味わいの調整はできる。どう出すか、が最も重要。」とおっしゃっていました。
齋藤さんのL’asseでも、温度管理は最重要事項だそうです。ワインにとって最適な温度で提供するのはもちろんですが、料理とのペアリングを考えてる上でも欠かせない要素です。例えば、シェフがその日の食材に合わせて料理内容を変えることはよくあることですが、ペアリングを提供しているお店であれば、ソムリエの準備していた内容が覆ってしまうことになります。そんな時、料理の内容やボリューム感、ソースの量・粘性などに合わせて、ワインの香りを前面に出したいのか、ボリュームを感じてもらいたいのかなど、温度を変えてワインの魅せ方を変化させ対応していくという方法もあります。この場合、グラスの選択で調整するというのも有効な一手です。ワインの持つ要素のうち、どこをかいつまんで料理と合わせるか、まさにソムリエの腕の見せどころではないでしょうか。
シェフとのコミュニケーション
お客様により良いサービスを行う上でも、ソムリエとして料理に合わせるワインを考える上でも、欠かせないのはシェフやスタッフとのコミュニケーションです。特にペアリングとして素晴らしいマリアージュを提供するため料理とワイン両方を細部まで綿密に練る必要がある場合には、良好なコミュニケーションが必須になります。
COTEAU.では毎月1種類のコースを提供しており、お料理にぴたりと合わせた精緻なペアリングが売りでもあります。星野さんも料理の試作段階から参加して、一皿一皿の世界観を見ながらどの産地・畑・品種のワインが良いかを考えていくそうで、実際に料理とワインをフィッティングさせる際には必ずシェフにも飲んでもらって、「アタックは合っているけれどアフターはズレているよね」といった話を一緒にし、料理の細かい調整をしたりワインを変更するなどの相談をされているとのことです。
また、ボトルでワインを提供する場合にも、どのお客様が何を飲んでいるかという情報を共有するとともに必ずシェフにもテイスティングをしてもらい、そのワインに合うように「ソースの量や粘性を変えてほしい」「肉をいつもより少しだけ厚くカットしてほしい」といったオファーをすることもあるそうです。こうしたやり取りを繰り返すなかでシェフと価値観を共有でき、今では何か料理に変更があった場合には必ず伝えてもらえるし、すり合わせの作業もかなりスムーズに行えるようになったとおっしゃっていました。
また、シェフだけではなくキッチン/サービス両方の全スタッフがみんなでつくっているという感覚を持てるように、サービス全員が料理を試食し、キッチンスタッフ全員がワインを試飲して、自分たちがどんな料理とワインを提供しているのかをしっかり理解して営業に臨んでいるとのことでした。
齋藤さんの場合はまた少し趣が異なります。齋藤さん曰く、「村山シェフはとても経験豊富で、自分としてもシェフの料理がピカイチだと自信をもって言えるし、『ワインを合わせさせてもらっている』という感覚が常にある。勉強をさせてもらえてありがたいし、精一杯シェフのお料理に合わせてサービスしたい。」とのこと。絶対的存在のシェフの料理に対し、ソムリエとしてのスタンスは「裾を広げていらっしゃいませ状態」にして準備しておくことだそうです。ワインの種類に幅を持たせておくのも方法の一つですし、上述のように温度やグラスで調整するなど、出来ることを駆使して対応されているとおっしゃていました。
そうした繊細な調整を行う上で、やはりサービスとキッチンとのコミュニケーションは肝になります。ワインはグラスに注いだらすぐに温度は上がりますし(避けたい時と、温度を上げたい時もあります)、料理やワインの説明が必要だとしても料理は温かいうちにすぐに食べていただきたい。料理を出すタイミングとワインを出すタイミング双方の細かい調整をして、“ベター”になるように意識しているとのことでした。
ワインサービスに対する意識
星野さんにワインサービスについて伺ったところ、「ワインの造り手にフォーカスが当たるように説明することを心がけている」との答えが返ってきました。「自分の仕事は、ワインの栓を開けて注ぐだけ。もちろんベストなコンディションで提供することは大切だが、ソムリエである自分よりもワインの造り手や料理を作ったシェフにフォーカスをあてたいし、造り手の素晴らしさを感じてほしい。」という言葉の中に、まさに星野イズムと言える心意気を感じました。また、「例えば日本酒は日本の伝統的な文化だけれど、フランス料理というフィルターを通すことで新たな価値を感じられることがある。そうした価値の創造を提供したいと考えている。」ともおっしゃっていました。
齋藤さんからは、「ソムリエも料理人もベースがあると強いと思う。フランス料理であれば伝統的なフランス料理とワインの組み合わせを知っていた方が良いし、イタリアのワインをしっかり知っていればそこから世界中に広げていくことができるから、自分の強みになる。」とイタリアワインに精通された齋藤さんならではのお答えをいただきました。また、大事にしていることを伺った時の、「ワインと向き合い、ポジティブな要素を個性として活かしてあげたい。」という言葉が印象的でした。
ワインリストの検証を行うなかでお二人から伺うことのできた「ソムリエとしての矜持」を感じる言葉の数々、いかがでしたでしょうか?フィラディスの一員として、謙虚さと誇りを持ってお仕事に向かう姿勢にあらためて感服しましたし、ソムリエという仕事の醍醐味や面白さを実感しました。
最後になりましたが、今回のニュースレターのためにワインリストを考案し、お忙しいなか検証会にもご参加いただいた星野ソムリエおよび齋藤ソムリエのお二人と、ご協力いただきました本家あべや ムスブ 田町店様に、心から感謝申し上げます。
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齋藤 智之 ソムリエ 2021.11.02 -
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