「シャンパーニュ地方で最もエキサイティングでダイナミックな若手生産者の一人だ」と、著名な評論家がコメントし、2023年度版Bettane+Desseauveでは4ツ星評価を獲得するなど、今まさにシャンパーニュを代表するスター生産者へと登り詰めようとしている、ジャン・マルク・セレック。今回は年々、味わいが洗練されていくジャン・マルクの魅力をお伝えしていきます。

1960年代からブドウを栽培を行い、69年に初めてのシャンパーニュを生産したセレック家が居を構えるピエリー村は、18世紀初頭には、ドン・ペリニヨンと同価格で取引されていた輝かしい歴史を持つピエリー村のシャンパーニュ。ピエリーに広がる100haあまりのブドウ畑は標高80〜200mに位置し、ほとんどが南向きという絶好のロケーションであるとともに、ピエリー村が位置するサブリージョン、コトー・シュッド・エペルネは、ヴァレ・ド・ラ・マルヌとコート・デ・ブランに挟まれていることから、斜面下部には白亜質が広がり、沖積砂土壌、石灰岩が交じり、ヴァレ・ド・ラ・マルヌと同様に粘土や泥灰岩も交じり合った両地区の特色を併せ持った多様な土壌を有しています。

2008年にドメーヌを引き継いだジャン・マルクですが、それまでは豪ヤラ・ヴァレーや米ナパ・ヴァレーのメゾン・シャンドンで研鑽を積み、優れた技術的アプローチを会得する中で、セラーでの絶え間ない”修正”は、最終的には味と質感を標準化する以外に何の目的も持たないと技術面に対する限界と、ワインの偉大さの原材料はセラーではなく畑にあることを実感。家族のドメーヌに戻ると、即座に除草剤の使用を止めてオーガニック栽培へと移行し、2010年以降はビオディナミの手法も一部取り入れるなど栽培面の改革を行い、しっかりとした酸度を保ちながら、より熟したブドウの収穫を可能にしました。

ジャン・マルクが行った改革は栽培面にとどまらず、2015年には最新の醸造設備を備えたセラーを建設。このセラーにおいて、人工的な介入を抑えた醸造を区画ごとに行い、澱との熟成期間を長く持つことやSO2の使用を最小限にすること、さらにはドザージュを極少量にとどめるなど、丁寧なアプローチで育んだブドウが持つ完璧に熟した果実味やピエリーの区画の個性をいかしたシャンパーニュを生み出しています。

「ピエリーは歴史的にかなりの名声を享受したが、セレックのおかげでそれを取り戻す可能性が非常に高い。彼のワインは全てお薦めで、読者にはこれらのワインを知ることを心からお勧めする」とさえ評する声もあがるジャン・マルクのシャンパーニュは、蔵元を引き継いで15年以上の時を経てますます洗練され、瑞々しい果実味と生命力をしっかりと感じさせる素晴らしい味わいを飲み手に感じさせてくれます。しかし、自らが手掛けるシャンパーニュへの想いを静かな口調でありながら、ふつふつと湧き上がってくる情熱を隠し切れないジャン・マルクの話を聞き、彼のシャンパーニュを味わってみると、さらなる高みへ、それはすなわち、最高峰へと登り詰めるのではないかとすら思わせてくれる味わいがあるのです。