フィラディス実験シリーズ第2弾 『“ステーキに赤ワイン”・・・・その赤ワインってなに??』 (営業 山岸 佳穂里)
“ステーキには赤ワイン”この2つはすでに常識のように、相性の良い食の組み合わせとして世の中に浸透しています。確かにステーキと赤ワインは合いますが、ここでふとした疑問が。「どんなタイプの赤ワインが合うのだろうか?」、「肉は部位によって味も食感も違うから、合うワインも違うのでは?」…考え出したらきりがなく、次から次へと疑問が浮かびます。
ワインに関する疑問が出たら、とにかく徹底的に追及せずにはいられないのがフィラディス魂。
「部位と産地別にどの品種が合うか、実験してみよう!」という訳で、徹底的に話し合った結果、今回、肉はヒレとサーロイン、質感も風味も異なる国産と外国産を用意。ステーキ4種類×赤ワイン15種類で実験をすることに。ワインはピノ・ノワール、カベルネ・ソーヴィニョン、シラー、メルロの代表産地と、イタリア、スペインの主要ブドウ品種を揃えました。
さてさて、予想以上に大掛かりになったこの実験、最初は「ステーキが食べられる♪」と密かな楽しみと共にスタートしましたが、全神経を4種類の牛肉と15種類の赤ワインにひたすら集中し続け、後半は修行を超え苦行に。それでもとことん試食試飲した牛肉と赤ワイン、フィラディス社内での実験結果は以下の通りとなりました。
≪評価ポイント:質感、風味、味わいの方向性、タンニン量と脂のバランス、相乗効果≫
※注1:肉はすべてミディアムレアに焼き、塩コショウのみのシンプルな味付け。
※注2:一切れ10gと小さいので、通常のステーキを食べるのとは滞留時間が異なる。
【国産ヒレ:柔らかい質感、口当たりまろやか、肉のうまみがにじみ出てくる】
国産ヒレにいちばんあったのがブルネッロと嬉しい驚き。肉の柔らかな質感と包み込むようなサンジョヴェーゼの穏やかな果実の質感が自然に馴染み、それぞれのまろやかな風味を更に引き出します。芯にある肉のしっかりとした旨みを、丸みある緻密なタンニンが引き立て、最後にサンジョヴェーゼ特有の高めの酸が、非常にしなやかで持続性のある長い余韻を生み出しました。
バローロもアタックから肉の質感と果実の質感が重なり合い、中盤では肉の風味を果実の厚みが引き出し、ボリューム感が出ました。どちらも非常に良かったのですが、余韻のところでブルネッロに軍配が。通常ワイン単体だとバローロの方が余韻が長いのですが、今回はヒレ肉と合わせることにより、ブルネッロの酸の方が更に持続性のある余韻を醸し出したことがポイントとなりました。
どうしても合わなかったのがピノ・ノワール。ピノ・ノワールの酸が肉に合わないので、今回のようなシンプルな焼きだけだと肉とワインが独立したままでハーモニーが生まれませんでした。ヴォーヌ・ロマネよりもジュヴレイ・シャンベルタンの方が、酸がより鋭角だったので、より味わいが離れる結果に。肉の質感に対する果実の厚みは同じなので、酸味のあるソースがあればピノ・ノワールの酸を肉につなぐものが出来てマリアージュになるのではないか、という見解が社内共通で出ました。
【アメリカ産ヒレ:やや硬めの質感、風味も強く肉そのものに野性的な力強い風味がある】
アメリカ産のヒレに対してもいちばん合ったワインが、またまたブルネッロ。肉のスパイシーさを含んだ風味を、同じように奥に微かなスパイシーさを持つサンジョヴェーゼの果実が包み込み、少し硬めで強い質感を細かいタンニンが支えて肉の味わいを引き立たせ、非常によく相乗しスケール感を生みだしました。肉の酸味とサンジョヴェーゼの酸味がここでも非常にバランスよく調和。綺麗に余韻までまとまりました。バローロは果実の質感や芯の強さは同じですが、味わいの方向性が少し異なりました。
他に心地よく合ったのが、カベルネ。カリフォルニアのカベルネが、アメリカ産ヒレの質感、風味に大らかな果実が馴染み、肉そのものの味わいの強さとタンニンのボリュームが一緒のレベルで、味わいがそれぞれ同じように広がり心地良く感じられました。「同郷出身」がなるほど!と思わせる、安心感のある味わいです。
一方、カリフォルニアのカベルネがボリュームを生み出すのに対し、フランスのカベルネは酸の質が違うせいか、非常にきちっとしたタイトさのあるバランス生みました。肉の固さも国産よりもアメリカ産のヒレの固さが合ったようです。
驚くほどに合わなかったブドウがメルロ。国産、フランス関係なく(フランスの方がより強く味わいが出ましたが)、ファーストアタックから全く合いません。肉の風味の強さにメルロの柔らかい果実が負けてしまい、酸も肉質を支えきれず、タンニンは肉の脂を浮かせるようにマイナスに働き、ワインの青さまで引き出す結果になりました。
【オーストラリア産サーロイン:少し芯のある質感、しっかりした脂】
肉とワインがいちばん馴染み、一体感を生み出したのがカリフォルニアのカベルネ。肉と果実のストラクチャーが同じレベルにあり、肉の味の強さをカベルネの凝縮感ある果実の甘みがちょうど良く包み込みます。肉質を支えるだけの果実のボディもしっかりとあるので、同じトーンでまとまりました。少し硬質感のある濃い脂をどっしりとした酸が切ることなく自然にきれいな余韻に変えました。
ボルドーのカベルネは質感、果実感、酸の質はカリフォルニアのカベルネと通じるところがあり、肉に対してどの要素もちょうど良く、アフターで肉の脂の濃さをベタつきのないキレのある余韻に変えますが、最初のアタックで少し肉の獣っぽさが浮き出てしまい、好みが分かれました。
産地により果実味の出方は異なりますが、カベルネが持つ、高い芳香と濃厚な果実味、凝縮感あるタンニンが、サーロインの脂をべたつかせずキレイな味わいに仕上げる、という共通点を発見。
残念だったのが、オーストラリアのシラーズ。果実が滑らか過ぎて、肉と果実の質感は合っているのですが伸びが足りない結果に。ワインのストラクチャーが強ければ、ボルドーよりも合う要素は確かにあったので、単純にもっとランクが上のワインならば、同じ国同士しっかりとマリアージュしたはずと実感しています。
【国産サーロイン:柔らかい質感、とろけるような甘みのある脂】
国産サーロインにはフランスワインが台頭してきました。ダントツだったのがボルドーのカベルネ。ボルドーのカベルネやメルロが持つ特有の上質な青さが、国産のサーロインの強い脂をキレイに仕上げ、高級感ある味わいへと引き上げる重要な要素であることが判明。たっぷりとした果実と肉の骨格もピッタリと調和し、またとろけるような甘い脂をタンニンが更に引き立てました。カリフォルニアのカベルネだと、肉にワインが負けてしまいましたが、ボルドーのカベルネは肉をしっかりと支えて高級感あるマリアージュ。ボルドー・カベルネ、流石です。
そして前述の3種の肉に全くといっていいほど合わなかったフランスのメルロ、ここにきて頭角を現しました!柔らかい肉の質感、風味がメルロの丸みある柔らかい果実と非常に合い、緻密なタンニンが肉と脂の甘みをしっかりと守ります。「上質な脂」にはベストマッチ!!
悲しいほどに合わなかったのが、国産メルロ。フランスのメルロが合ったのに、こちらは「相乗降下」。果実は青さが際立ってしまい、甘やかで上質な脂の価値をワインの酸が下げてしまいます。肉の旨みを包み込んで支えるのではなく、合わないものを重ねてしまったようになってしまいました。
国産サーロインの甘味ある肉と強い脂には、同じように上質な甘やかな果実、強い脂に見合うタンニン、そしてやはり肉自体に高級感があるので、ワインにも同じようなクオリティーの高さが必要でした。
【実験を終えて】
実験するまでは、「これは合わない!という組み合わせはないだろう」と思っていました。どの肉に対しても、それぞれ「それなりに合う」のでは、と思い込んでいたのが正直なところです。ところが実際に試してみると、「んんー?」という組み合わせも多く、実験中にみんなのテンションがどんどん下がっていく時間もあったほどです。今回の実験はいたってシンプルに、肉はそれぞれ10gで焼きはミディアムレア、味付けは塩コショウ、ワインにおいてはあくまでブドウ品種の違いのみに重点を置きましたが、その中で導き出されたことは、「ブルネッロはヒレとの相性が良い」、「サーロインにはカベルネ」というものでした。
ヨーロッパ含め海外は基本「赤身の肉」。トスカーナを代表するTボーンステーキ、ビステッカ・フィオレンティーナのような固い肉には酸が高いサンジョヴェーゼがベストマッチします。ですが今回ヒレに合わせたワインが、サンジョヴェーゼでもキャンティなどのように陰影のある深く強い果実を持つものではなく、最も大柄でまろやかな味わいである「ブルネッロ・ディ・モンタルチーノ」であったため、柔らかいヒレにも合う結果となりました。同じサンジョヴェーゼでも、「キャンティ=固めの肉」「ブルネッロ=ヒレ」です。ブルネッロがヒレの持つ質感・風味・酸に対して、果実・タンニン・酸の全てをもって相乗効果を生み出しました。特に高めでありながら大らかでキレイな酸が、肉の要素を包み込みながら同時に旨みを引き出し、嬉しいマリアージュを体感させてくれました。
スペイン系の果実感溢れ、タンニンも重厚なワインは、今回のようなシンプルな味付けのステーキではなく、煮込みに合わせたら素晴らしいマリアージュとなったはずです。
そして試飲の中で忘れられないほどに印象に残ったワインが、フランスのメルロでした。スタートから「合わな過ぎてビックリ」、それ以降も連続3種類の肉に合わず、「もうどれにも合わないのかな?」と諦めさえ感じたところで国産サーロインとの絶妙な調和。思わず拍手したくなりました。
ファーストアタックでは、合うかも?と思っていたのに、中盤から味わいがずれて最後の余韻ではバラバラになってしまうものもあれば、期待してはいなかったのに、意外にもピッタリ息が合って相乗効果を生み出すものもありました。「マリアージュ」といわれるように、人の出会いもワインと食の出会いも奥が深い!としみじみ感じました。実際に経験してみなければ判らないことが沢山あり、試せば試しただけの新たな発見があります。そして「マリアージュ(結婚)」は難しい…。
今回はあくまでも素材そのものとブドウ品種の相性を考えるシンプルな実験ですが、必ずしも『赤ワインなら何でもステーキに合う』『同じ産地同士なら合う』という結果ではありませんでした。究極のマリアージュを求めるのであれば、詳細な産地、ヴィンテージ、生産者、ブドウ品種などと、料理も食材の切り方、調理法からソースまで追及しなければならないもの。そうなってくると、またもやフィラディス魂が…。
奥が深いワインと料理のマリアージュの世界、今後も更なる探究を続けていきたいと思います。
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