シャンパーニュ出張報告 ~収量規定を超える?!シャンパーニュの収量実態 (営業 田中 琴音)
シャンパーニュの収量
シャンパーニュの収量が他の産地に比べると非常に多いことをご存じでしょうか?
先日シャンパーニュ委員会が発表した2014年の収量規定は、1ヘクタールあたり10,500kgです。ブドウ果の重量(キロ単位)でブドウが取引されるシャンパーニュでは当然なのでしょうが、キロ単位で規定値を出されても比較がしにくいため、分かりやすくヘクトリットルに換算してお話を進めたいと思います。
4,000kgのブドウからテート・ド・キュヴェ2,050リットルとプルミエール・タイエ500リットル、合わせて2,550リットルの搾汁がシャンパンとして認められていますので、2550÷4000でブドウ果からの搾汁率は63.75%となります。この搾汁率をもとにキログラムからヘクトリットルに換算すると2014年の収量規定は約66.94hl/haとなります。シャンパーニュではこの規定量に加え、リザーブワイン用のプラスアルファの枠が設けられており、2014年のリザーブワイン枠は3,100kg(19.76hl/ha)で認められるトータル収量は86.70hl/haとなります。
分かる範囲で過去の収量をまとめたのが下の図です。リザーブワイン用の収量が不明の年が多いのですが、トータル収量は80~100hl/haの間、2007年に至っては規定収量だけで98.81hl/haです。ヴァン・ド・ペイの法令規定量は80hl/ha、ブルゴーニュ プルミエ・クリュやボルドーの格付けクラスは40~60hl/ha、ブルゴーニュ グラン・クリュはそれぞれ異なりますが、例えばシャンベルタンは35hl/haですので、シャンパーニュの収量の多さがお分かり頂けたかと思います。
規定されている収量だけでも他の産地よりはかなり多いのですが、現地で生産者たちと話をする中で更に驚きの事実を知りました。フィーヌ・ド・シャンパーニュ(オー・ド・ヴィー)や添加用アルコールに使うために、収量規定を超えてブドウを造ることが認められているのです。
質の高いワインを造ろうとする生産者は収量を減らします。収量を極端に減らして造られたシャンパーニュもありますが、価格も非常に高くなります。多くの優良生産者たちは、規定より10~20%程度減らしていることが多いように思います。ただ、もちろん収量いっぱいまで造る生産者もいますし、アルコール用も含め収量をはるかに超える生産者もいるということです。
収量がもたらす味わいへの影響
収量が味わいに与える影響は絶大です。収量が多すぎるとワインは凝縮感に欠ける薄っぺらな味わいになってしまいます。
今年もシャンパーニュで様々な生産者を訪問したのですが、その中の一つでグラン・クリュを飲んだ時、ちょっと残念だなと思う経験をしました。造りも悪くなく、村の個性も感じられ、余韻も強くはないものの長く続くのに、中盤のふくらみに欠ける為に物足りなさを感じました。悪くないけれど惜しい、収量さえ落とせばとても良いシャンパンになるのにと思いました。
また、生産形態として珍しいケースなのですが、あるグラン・クリュの村で10人グループが造っているコーポラティブ・シャンパンを飲みました。10人がそれぞれ栽培したブドウを持ち寄り、協同組合が彼らのブドウのみで圧搾から最後の工程まで行い出来たシャンパンを提供したブドウの量に基づいて10人で分配します。味わいはと言うと、こちらもグラン・クリュ100%なのですが、全体の ボリュームに欠け、青さも出ており、満足の得られるものではありませんでした。それもそのはず、提供したブドウの量に基づいてボトルを受け取るとなれば、出来るだけ多くのブドウを造ろうと考えて収量を増やすのは当然です。その結果が味わいに繋がってしまったのだと思います。
同じ村のブドウが同価格で取引されるという規定が根付いているシャンパーニュでは、大手ネゴスにブドウを売る栽培家にもこの10人グループと同様の状況が当てはまります。売るブドウが多ければそれだけ収入を得ることができるのですから、栽培家は出来るだけ多くのブドウを造ろうとします。
また、今まで多くのレコルタン・マニピュランを訪問してきましたが、自社生産用とネゴスへの販売用の両方のブドウを造る生産者では、所有畑の中で良いテロワールを持つ畑で育てた優れたブドウは自社で出荷するシャンパンに使い、それ以外のブドウはネゴスに売っていました。ネゴシアンはラグジュアリー・キュヴェには自社所有する優れた畑の低収量で造られたブドウと、一部優れたブドウを造る栽培家からの買い付けブドウを使用します。となると、収量が多すぎるブドウや劣ったブドウの行き先はネゴシアンのスタンダード・キュヴェだということになります。
質の高い美味しいシャンパンを飲みたいと思っても大手メゾンのラグジュアリー・キュヴェはその金額故に頻繁に飲めるものではありません。日常的に使える価格でより質の高いものを求めるなら、選ぶべきはやはりこだわりをもってブドウ栽培から行うドメーヌもの、しかもグラン・クリュのブドウを使ったスタンダード・キュヴェが最もコストパフォーマンスの高いシャンパンだと言えると思います。
さて、シャンパーニュ出張の成果ですが、今年も良い生産者が見つかりました!随時、皆様にご紹介してまいります。
-
前の記事
世界有数のシャンパン消費国としてのイタリア (営業 西崎 隆太) 2014.09.01
-
次の記事
【フィラディス実験シリーズ第4弾】 『液面の高さ』はどこまでが許容範囲なの? (営業 山口 要) 2014.10.01