<フィラディス繁盛店インタビューNo.2>遠藤利三郎商店 遠藤誠オーナー
【フィラディス繁盛店インタビュー】 フィラディスの営業がお客様とお話しする中でよく聞かれるのが、「今どんな店が流行っているの?」という質問です。お客様が求める情報をご提供するのが私たちの仕事!・・・ということで、今消費者に支持されている繁盛店2店にインタビューを行い、フィラディスの視点で分析させていただきました。お役立ていただけますと幸いです。
スカイツリーから歩いて5分、墨田区押上の住宅街の中に突如現れるワインバー、遠藤利三郎商店。2009年の開店から6年目となる現在でも連日満席となる繁盛店であり、マニアックなワインラバーからご近所の方々にまで幅広い層に愛され続けている。2012年には、入店できなかったお客様の受け皿として 数十メートルの所に立ち飲みスタイルの「角打ワイン 利三郎」を開店。また2013年には、ワイン好きのための究極の住まいを目指したワインアパートメントとコラボする形で1階部分に「神泉 遠藤利三郎商店」を出店している。その人気の秘訣やお店づくりの理念について、オーナーの遠藤誠氏にお話を伺った。
一度体験したら病みつきに?!心を捉える店づくり
<インパクトある名前&ストーリー>
遠藤氏は押上の出身。味噌問屋の3代目であったが、家業を畳むことになり、倉庫として使っていた味噌蔵をワインバーに改装してオープンさせたのが遠藤利三郎商店だ。ワインバーにはめずらしい純和風の店名に、遠藤氏は「先代たちに申し訳が立たないから、味噌問屋の屋号を残した」と笑うが、そんな人間臭さがにじみ出るストーリーとインパクトのある名前が強烈に記憶に残る。
インパクトのある名前と物語性という点では、「角打ワイン 利三郎」も秀逸だ。こちらの店舗は、全て500円の立ち飲み形式のワンコインバーとカジュアルな形態だが、その雰囲気を表すために、当時はほぼ死滅していた「角打ち(かくうち)」という言葉を復活させた。角打ちとは、「酒屋の店頭で立ち飲みすること」を意味するが、遠藤氏の父方の実家が浅草で酒屋を営んでおり、そこで本当に「角打ち」を行っていたことに由来する。
ワインバーにありがちな名前を付けたところで東京の数多あるワインバーに埋もれてしまった可能性が高かっただろう。しかし、一度聞いたら忘れられない名前と、その名前を特別なものにする印象的なストーリー付けに成功したことで、人に話したくなるような同店の特別感につながっていると感じた。
<押上に市場を開拓>
遠藤利三郎商店がオープンする以前の押上には、仕事帰りの1杯を求めてふらっと立ち寄ることができるワインバーやフレンチレストランはなかったそう。スカイツリーがオープンする前の押上は、地元の人以外にはどこにあるのか答えられないようなあまり馴染みのない場所であり、新しく店舗を始めるにあたり、ターゲットとなる市場が見えないことは不安材料になるものだが、蓋を開けてみると他のエリアに行っていた地元のワイン好きはもちろん、千葉や埼玉に住む仕事帰りの人たちも立ち寄ってくれた。長年ワインの世界にいたからこそ、どのエリアにもワイン好きが存在しニーズがあることが肌感覚で分かっていて、それが出店への自信につながっていたのではないだろうか。
押上が、千葉や埼玉に帰る人たちにとってのターミナル駅であったことも大きかっただろうし、押上という都心からやや離れた場所だからこそ、こんな場所にこんな素敵なお店が!という驚きとなって口コミを発生させ、わざわざ足を運びたいと思わせたのだとも考えられる。押上にお店がないために通り過ぎてしまっていたワイン好き達を押上に留め、地元のワイン好きを呼び戻し、更には他のエリアの客を引き寄せ新たな市場を作ったように見えた。
<徹底されたコンセプト設定>
遠藤利三郎商店のコンセプトは、ワインスクールで20年以上も講師を務め、ワイン関連本も出版するワインのエキスパートである遠藤氏がお客の立場で楽しむことができる『自分が行きたい店』。満足度と比例して価格も高い特別な店ではなく、毎日気軽に立ち寄れて安いけれど満足できる店だ。
店舗デザインは、古くからの飲み仲間であった橋本夕紀夫氏が担当しており、そのイメージは「南フランスの辺鄙な村の中心にある居酒屋。村の集会所のように地元の人が毎夜集まって、爺さん連中は真っ赤な顔で酔っぱらい、子ども達もうろうろしているような気さくだけどオシャレな店」と明確だ。参考になる店には一緒に行くなど、イメージを出来るだけ詳しく伝えることにも腐心している。
<料理もワインも、“本物を身近に”がテーマ>
みんなでワイワイ楽しむというコンセプトのため、料理は基本的に2人以上でのシェアが前提のボリュームのある内容を、一皿2,000円以下で提供する。シェフはフランスやベルギーの3ツ星レストランで修業をしていた本格派。ただし、提供する料理は2,000円以下であるため、単価が高い肉料理を少なくするなどの工夫とともに、安い食材で美味しい料理を作るための“手間”を惜しまずに全力の料理で勝負している。
また、ワインはワイン学校の講師も務めるシニアソムリエの林洋介氏が担当する。ワインは常時1000種類以上の種類を取り揃えるが、遠藤氏でさえ驚かせ楽しませることができるセレクションのため、コアなワイン愛好家の心にも刺さるラインナップが実現しているのだと考えられる。
価格は全て小売価格+1,080円で提供しており、このオープンな値付け自体、お客様への印象付けに一役買っている。 また、安く楽しんでもらいたいが、安すぎるワインだと楽しむためのクオリティを維持するのが難しいため、ボトルワインのボリュームゾーンは小売4,000円台。ただ、+1,080円というシステムのため、単価の高いワインも割安感があってよく売れるという。グラスワインは、常時18種類以上を用意し、通常のデキャンタ、グラスのほか、テイスティンググラスでも販売している。
<ワイン愛好家の“味見をしたい”心をくすぐる>
シェアをする前提での料理の提供や、ワインをテイスティンググラスで提供するのは、ワインラバー達が得てして“味見をしたい”という欲求を持っているからだと言う。ここにも長らくワイン業界に身を置き、自身も飲むのが大好きな遠藤氏ならではの明確なコンセプト設定が利いている。
明確なターゲットとしての遠藤氏・・・全ては遠藤氏を楽しませるために
上では、店舗や料理、ワインのコンセプトといったお店の外枠について、遠藤氏の目線で明確なコンセプト設定がされていることを述べた。しかし、遠藤氏が主体的に関わるのはここまで。遠藤利三郎商店という舞台は作るが、メニュー作りなど現場は全て各店のスタッフに任せ、遠藤氏自身は客の立場で純粋に楽しんでいる。そしてスタッフは、色々な店に行き尽くしレベルの高いものを求める遠藤氏を満足させるために、日々切磋琢磨している。
<立ち位置の逆転により可能になる攻めの姿勢>
通常のレストランであれば、修行を積んだシェフの料理や世界観を楽しむことを目的に訪問することが多いように感じるが、その場合ターゲットは○○代の女性で、客単価が○○円・・・といったように幅が広くなり的確に捉えるのは難しく、ターゲットにウケるものを探すため受け手となってしまう。しかし、遠藤利三郎商店では、“遠藤氏(ワインに詳しい、お酒全般好き、毎日気軽に楽しく飲みたい50代の男性)”というような明確なターゲットが存在することで、何が好ましく何が好まれないのかをすぐに判断することができ、ターゲットにウケるものを攻めの姿勢で提案できる。攻めることができ、かつその反応が明確なため、自信にもつながるのだと考えられる。通常のレストランとは立ち位置が根本的に異なっており、全ての判断基準が明確なターゲット設定をもとに作られるため、絶対に焦点がぶれないことが大きな強みである。
<ターゲットの明確さが生む、懐の広さ>
遠藤利三郎商店は、遠藤氏が楽しく飲むための店である。そのターゲットの明確さや狭さは、お店にぶれない姿勢を与えるとともに、ワイン愛好家といった難しい層にも確実に刺さっている。そして、遠藤氏の目指すものが毎日立ち寄れてワイワイ気軽に飲める店であるため、ワインに馴染みのない方でも誰もが楽しめるという懐の深さを生んでいるのである。
★ 遠藤氏の将来は、本屋の店主?! ★
将来、図書館かつ本屋のような場をつくりたい。ワインスクールの講師を20年以上やっていて、ワインや食文化に関する本が山のようにある。昼間からワインやシャンパンを飲みながら、若いソムリエさんや愛好家などが勉強できる場にできたら。
お客様がワインを愉しく飲むために求めるのがストーリー。若いソムリエさんには、ワインの勉強ももちろん大切だが、トークのネタとなるバックボーン(生産者、産地の歴史、食文化など)を勉強してもらいたい。そして、何でもいいから興味持ったものは、見て、飲んで、食べる。現物に触れることが大切だと伝えたい。
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