【フィラディス実験シリーズ第5弾】ホタテ料理にベストマリアージュのワインを探せ!(営業 戸谷 良子)
ご好評頂いておりますフィラディス実験シリーズ。 第5回目となる今回のテーマは、フレンチ・イタリアンなど幅広いお料理に使われる『ホタテ』です。
【ホタテと基本の3ソース】
レストランでのホタテの提供のされ方は様々だと思いますが、今回は基本となる3つのソースでマリアージュ実験を行いました。
A. オリーブオイル&レモン・・・サラダ仕立てを想定
B. バター・・・オーソドックスなグリル料理を想定
C. ホワイトソース・・・グラタンやクリーム煮を想定
ホタテは岩手県産で5cm超えの大きな貝柱を使用。両面をグリルし、少しだけ塩を振りました。
もちろん様々なアレンジが考えられますが、スタンダードなマリアージュを検証することにより、色々な場面で活用いただけるのではないかと考えました。
【どういうワインと合わせましょう?】
ホタテと言えば・・・前菜として供され、合わせるワインはシャルドネ、という組み合わせが日常的に行われているのではないでしょうか。しかし、ホタテの調理方法も様々ですし、シャルドネと一言で言ってもその味わいは千差万別です。とすると、どんなシャルドネがどんなホタテ料理に合うのかを確かめずにはいられません!
更に、シャルドネ以外にはホタテ料理とマリアージュする品種はないのでしょうか?ソースによっても合うワインは変わってくるはずです。今回の実験では、シャルドネ以外の白品種とのマリアージュの可能性も探ってみたいと思います。
★実験方法★
予選: ①シャルドネチームと②その他白品種チームに分けて、3つのソースに対して1位のワインを決定する。
決勝: ソース毎、①と②の1位のワインを競わせて、No.1のワインを決定する。
【予選①: シャルドネチーム】
◆ オリーブオイル&レモン 勝者 ⇒ 仏: シャルドネ / シャブリ
過度に特徴があるシャルドネとは合わない結果に
オリーブオイル&レモンのソースは、酸味とまろやかさが特徴です。 1位に輝いたシャブリは、ザ・正統派あるいは平凡と思われてしまうかもしれませんが、シャブリの綺麗な酸味とミネラル感が、コクのあるオリーブオイルと爽やかなレモンのアクセントと見事に調和しました。このソースはホタテと一緒に口に入れると硬さと甘さが混在するような独特の重さを感じさせましたが、味わいの伸びていく方向性がシャブリと合致し、更に相乗するようなベストマリアージュを見せました。
逆に、過度なミネラル感や樽感、アロマティックな要素を持つワインとは合いませんでした。
◆バター 勝者 ⇒ 仏: シャルドネ / ムルソー
「濃い×濃い=とても濃い」ではなく、綺麗な美しさへと変化
バターとムルソーは鉄板の組み合わせであるとは知識としては持っていましたが、実際に試してみるとそのマリアージュが思っていたより綺麗なことにびっくり!こってり×こってりという似た要素の相乗を予想していたのですが、ホタテの甘さとバターのまったりとしたコクの重さが、ムルソーのしっかりとした酸によって味わいに柑橘のニュアンスが加えられることで、アフターがすっきりとまとまり美しく変化しました。
◆ホワイトソース 勝者 ⇒ 伊: シャルドネ / アルト・アディジェ
樽感とホワイトソースは意外と合いません!ほっこり柔らかな質感が決め手
味わいに強さのあるホワイトソースですので、実験前の予想では樽のシャルドネが合うのでは?と予想しましたが、意外にも樽がきいたワインは一切合わず・・・という結果となりました。
勝者は伊アルト・アディジェのシャルドネ。唯一樽のないシャルドネです。アロマティックさとほっこり感、ステンレス熟成のシンプルなスタイルのシャルドネが、ホタテに程よいクリーミーさと若干の塩味を与えてくれました。そしてこのワインのテクスチャーが、全体を丸く包み込むようなホワイトソースのテクスチャーと同調し、ホタテを柔らかく感じさせました。
ただ、今回のホワイトソースはホタテと一緒に調理したものではなかったので、味わいに旨みが無く、奥深さに欠けるところがありました。そのため、比較的シンプルなシャルドネが合ったのだと考えられます。もしホワイトソースに何か具材が入っていたり、時間をかけて旨みを抽出していたのなら、合致するワインも違うものになった可能性があります。
<シャルドネのまとめ>
オリーブオイル&レモンに合ったシャブリは調和と相乗効果が発揮され、バターと合ったムルソーはテクスチャーの同調に加え、柑橘系の要素をうまく引き出した良い意味での変化がもたらされました。そしてホワイトソースと合ったアルト・アディジェのステンレスのシャルドネは、素材&ソースと同調するという結果となりました。
メルキュレイは悪くはないのですが1位にはなれず、また樽感の強いロシアンリヴァー・ヴァレーや樽感もミネラル感も突出しているピュリニー・モンラッシェは、ワインの強さがホタテ&ソースに勝ってしまい、アフターにその強さが残ってしまうため、今回は選出されませんでした。
一言にシャルドネと言っても、ホタテ料理とのマリアージュについては、樽の有無、造りのスタイルはもちろん、ワインとソースの質感が合うかどうかが重要なポイントになりました。
【予選②: その他白品種チーム】
◆ オリーブオイル&レモン 勝者⇒仏: リースリング / アルザス
ふんわりとしたワインの質感がホタテに柔らかさを与える
オリーブオイルがホタテを包み込むふんわり感と、南部エギスハイム産リースリングならではのふっくらゆったりとした全体像が合いました。 また、レモンの酸味とリースリング自体の酸が軸となり、そのふんわりゆったりとした要素が相乗して更に引き立つ結果となり、ホタテの質感をより柔らかく感じさせました。
しかし、リースリングと同じく甘みがあってふんわりとした要素のあるシュナン・ブランは、オリーブオイルの香りが反発し、ワインの酸味やミネラル感を強く感じるとともにホタテに臭みが出てしまう結果となりました。
同様に、ソーヴィニヨン・ブラン、ヴィオニエ、サヴァニャンに関してもオリーブオイルとはあまり合わず、マイナス要素の多いマリアージュとなってしまいました。
◆ バター 勝者 ⇒ 仏: シュナン・ブラン / トゥーレーヌ
硬すぎないワインの酸味がボリュームある食材とソースをリード
正直!びっくりするくらい合いました!!バターでより甘さが増したホタテを、シュナン・ブランの持つ硬すぎも強すぎもしない程良い酸味が“甘さの中のアクセントとしての酸”となってキレイに引っ張っていき、バターの重さをより綺麗なものにしてくれました。ワインとホタテがともに自己主張しすぎることなく共存している、さらに味わい自体を引き上げていくというまさにベストマリアージュでありました。
◆ ホワイトソース 勝者 ⇒ 仏: リースリング / アルザス
ワインとホタテ&ホワイトソースの重量感が同じことがNo.1の理由
オリーブオイル&レモン同様、リースリングが1位となりました。ソースのクリーム感のボリュームと、リースリングの果実と香りのボリュームが同じような重さであったことでバランスが取れ、ワインとホタテが一体感をもたらしたのではないかと思います。バター×シュナン・ブランのようなベストマリアージュとまではいきませんでしたが、最もバランスが良いという評価となりました。
<その他品種のまとめ>
まず、その他品種の中には今回のホタテと各ソースの組み合わせとはなかなか合いづらいものがありました。ヴィオニエとコンドリュー、サヴァニャンです。それぞれ香りが強すぎることとワインに強さがありすぎることにより、品種として難しい面がありました。ヴィオニエやサヴァニャンの持つ若干の塩みが各ソースの塩みを引き立たせるという合うポイントももちろんありましたが、香りの強さは難敵だったと言えます。
また、ソーヴィニヨン・ブランについては、グリルして塩を振ったホタテとは良く合うのですが、何らかのソースをつけてしまうことでその良さが消されてしまう結果となりました。
リースリングやシュナン・ブランのように、硬すぎないけれどしっかりとした酸味と、ゆったり&おおらかな印象を与えるふんわりとした甘さを持つ品種が優勢となりました。
【ついに決勝戦!!真のNO.1はどの品種??】
◆ オリーブオイル&レモン
オリーブオイル&レモンの勝者は、真の意味での安心感!シャブリ
惜しくも負けてしまったリースリングですが、合う要素がたくさんあったことは上で述べた通りです。しかし、よりすんなりと的確に合致していたのがシャブリでした。度肝を抜くようなマリアージュではないのですが、ワインも食材もくどくならずに「ずっと食べ続けていたい。ずっと飲み続けていたい。」と思わせる、安定感のある夫婦のようなマリアージュがそこにはありました。
オリーブオイル&レモンとホタテ。サラダ仕立などによく使われる組み合わせですね。シャブリという派手さはないものの芯の強さのあるシャルドネがやっぱり合うのだな、と改めて思わせられました。
樽香の強いワインは合いませんのでご注意を!!
◆バター
バターの勝者は意外や意外!どんな高級ワインより高級に思えたシュナン・ブラン
負けたムルソー。もちろん合うのです。王道の組み合わせですし、ほとんどの要素が合っていました。先述通りの非の打ちどころのない素敵なマリアージュなのです。しかし、決勝で両者を飲み比べてみると・・・シュナン・ブランと合わせた時の香り、味わい、アフターの広がりの方が素晴らしく、ムルソーを凌駕してしまいました!!!
シュナン・ブランを単体で飲んだ時と、今回のホタテ&バターと一緒に味わった時を比べても驚きがありました。ホタテの風味がシュナン・ブランの酸味と合わさって引き立ち、1950円のワインとは思えない抜群の高級感が出たのです。まさに食材とワイン双方が引き立て合って良くなるというマリアージュの醍醐味がありました。これは皆様にも是非一度お試しいただきたい!強くお薦めいたします!!
◆ ホワイトソース
ホワイトソースの勝者は、伊ステンレスのクリーン且つアロマティックなシャルドネ
リースリングは、ホワイトソースとも重量感が合致しており、独特の柑橘を感じさせる温かみのある果実感がゆったりと包み込んでくれるとともに、ホワイトソースの風味を深くしてくれました。
しかしながら、それを上回ったのが伊アルト・アディジェのシャルドネでした。実験も終盤に差し掛かってワインの温度が少しずつ上がり、もともと温かみのある質感が更に丸みを帯びてくると、そのワインの丸みとホワイトソースの柔らかさが重なり合って膨らみが生まれるとともに、北の産地ならではのフレッシュでピュアな果実味とも素晴らしいバランスを見せました。
もう少し重みや複雑さのあるワインの方が合うのではと予想していましたが、それに反して一番綺麗でクリーン、アロマティックなシャルドネの包容力に軍配が上がりました。決勝に残った2つのワインはともにステンレス熟成ですので、ホワイトソースにはステンレスのクリーンなスタイルが合うと言えるのではないでしょうか。
【実験を終えて】
今回の結果から、ホタテ料理に合うワインとは?という問いに対して、シャルドネ!という一辺倒の答えが必ずしも正解ではないことが分かりました。しかし、どんなスタイルのシャルドネでも比較的無難な範囲で合っていたことは事実でした。
全体としては、ホタテ料理とワインのマリアージュでは、ワインの風味に突出した特徴がなく、ゆったりとした落ち着きがあり、なお且つ甘さがあるということがポイントになっていたと言えます。その典型がリースリングです。決勝では1位は獲得出来ませんでしたが、要素がぴったり合致するわけではないものの、ワインのふんわり感が全体を包み込んでホタテ&各ソースと寄り添い、総合的に合うポイントが多くありました。
オリーブオイル&レモンは、それ自体がシンプルなため、くどくならずに自然に寄り添うような安定感のあるシャブリがベストマリアージュでした。サラダ仕立てなどの時には、レモンの酸味にワインの酸味を合わるようなピンポイントでのマリアージュも考えられますが、食材と合わせた全体の雰囲気・バランスでマリアージュを考えた方が成功しやすいのかもしれません。
バターは、乳製品&油の特徴的な香り・味わいが重量感をもたらします。この場合には、もちろん重量の有るワインを合わせても良いのですが、今回のムルソーにしてもシュナン・ブランにしても、軽やかな酸味がアフターにかけて美しくまとめてくれるということが分かりました。ただし、ソーヴィニヨン・ブランのハーブ香のような特徴的な要素によってワインが目立ち過ぎないこと、また酸味が強すぎないことが条件になります。
ホワイトソースは、ミルキーでコクがあり、オリーブオイル&レモンやバターとは違う柔らかさや大きさといった質感に、ワイン自体も類似したものを持つことが重要になりました。
相反するものを合わせて補完させるのか、寄り添うものを合わせて同調させるのか・・・答えは1つではないと思いますが、今回の実験では何よりも全体像を捉える事の重要性が浮き彫りになりました。
最も意外な結果だったのが、ホタテ&バターとのマリアージュでピュリニー・モンラッシェが票を獲得できなかったこと。食材とソースのシンプルさに比べ、ミネラル感が強くワインの骨格がしっかりしすぎており、ワインの余韻が食材とソースの余韻を覆い尽くしてしまう。最初の香り・口に入れた瞬間からワインの一人勝ちといった状態でした。これが全体像の強さの違いです。
同じホタテと各ソースの組み合わせでも、一緒に提供される食材が複雑な味わいだったり、より旨味が凝縮されたソースだったりすると、今回1位になったようなシンプルなワイン達は負けていたでしょう。反対に今回のピュリニー・モンラッシェも、レストランで供される複雑な調理法・ソースとであれば、素晴らしいマリアージュが期待できます。
食材の仕込み方、ソースの味わい、また添えてある食材がどんなものか、どのくらいの温度で提供されるのかなど、お皿の上の全ての要素によって料理の全体像は変化します。また、そうして創り上げられた一皿の料理は、お客様に提供され完全に食されるまでに更に変化していきます。その全てを予測してマリアージュを考えることは非常に難しいですが、お客様の満足感を追求するためには常に忘れずに考えていかなくてはいけないのだと改めて実感した実験となりました。
≪ホタテ御提供および御協力≫ 有限会社 ムカイ 南様 TEL: 03-3549-7464
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