【フィラディス実験シリーズ第7弾】代表的なチーズに幅広く合う“汎用性の高いワイン”を探せ!(営業 笹井 涼乃)
今回のマリアージュ実験のテーマは、『チーズ』です。 ワインとチーズ。ワインを語る上では欠かせない、鉄板ともいえる組み合わせですよね!ただ、特定のチーズに対する王道のマリアージュ、例えば「ミモレット×シャンパーニュ」「エポワス×ジュヴレ・シャンベルタン」「ロックフォール×ポートあるいはソーテルヌ」「クロタン・ド・シャヴィニョル×サンセール白」などは長い歴史の中で実証されていますので今更私たちが実験するべきものではないと考え、更に突っ込んだお題を設けて実験を行いました。 それは・・・「よく食べられる複数のチーズに幅広く合わせられる“汎用性の高いワイン”を探せ!」です。
レストランではメイン料理を食べた後にチーズがサービスされますが、その際には複数のチーズを選ぶ方が多いのではないでしょうか。ワインバーでもチーズプレートと合わせるようなシチュエーションが考えられますし、酒屋さんで購入してホームパーティーで楽しむにしてもいくつかのチーズが揃うことはよくあります。そんな時に1杯(本)のワインをお勧めするとしたら、皆さまはどんなワインを選んでいらっしゃいますでしょうか?1つのチーズだったら簡単だけど、数種類あるとなぁ・・・とお悩みの方も多いのではないでしょうか。
そこで!フィラディスでは日本でよく食べられているチーズに対して、色々な場面で使いやすいワインを探してみました。
【マリアージュのポイント】
ワインとチーズのマリアージュを考える際に、特に重要なポイントとなるのは「フレーバー」と「味わい」の2点です。
<フレーバー(主に同調のマリアージュ)>
チーズとワイン双方のフレーバーが寄り添うことで更にお互いのフレーバーを引き立て合うマリアージュです。
<味わい(主に同調・中和)>
味わいの同調とは、酸の強いチーズに酸の強いワインなど、似ている味わいを合わせることでお互いをより引き立て合うマリアージュ。対して、味わいの中和とは、塩味の強いチーズに甘味の強いワインを合わせるといった味わいのバランスを取るというマリアージュです。
この他に、五味(旨味・甘味・酸味・苦味・塩味)の同調あるいは補完によるマリアージュや、温度を合わせたりワインのタンニンに噛み応えのあるものを合わせるというようなテクスチャーのマリアージュもポイントになってきます。
※理論的なマリアージュの考えについては、若手ソムリエ応援プロジェクトの第1回セミナーにて大越基裕講師に解説いただき、2013年12月のニュースレターで公開しております。コチラで掲載しておりますので、ぜひご覧ください。
【第1弾実験:まずは幅広く合わせてみます!】
実験の第1弾として、ワインとチーズのマリアージュの大枠を把握するため、よく食べられているチーズと幅広い味わいのワインを用意してマリアージュ実験を行いました。
赤ワインが完敗という結果に・・・
おや!!意外にも、チーズとのマリアージュの王道と謳われている赤ワインがどちらも芳しくない結果となりました。これには社員一同驚きです。
レストランにおいて、チーズはメイン料理の後に提供されることが多いので、自然と赤ワインと合わせることになり「チーズには赤ワイン」という考えが根付いたのだと思われますが、実際に試してみると赤ワインが持つタンニンと、チーズのミルキーさはどうしても合わせにくいことが分かりました。テクスチャーも大きく影響し、基本的に柔らかい食材であるチーズに対して、タンニンの渋味が合いませんでした。ただ、ドライフルーツなどを一緒に味わうことでチーズとワインのフレーバーや味わいの橋渡しをさせ、マリアージュを作り上げることが可能ですので、赤ワインとチーズを楽しむ時には工夫が必要かもしれません。
シャルドネは、樽を使用したどっしりした味わいのワインだったのですが、樽香がチーズの繊細な甘味や旨味といった味わいを打ち消し強く浮き立ってしまうため、赤ワインと同様にナッツを追加する工夫が必要でした。
甘口ワインとサヴァニャンの圧勝!プラスαでマリアージュに変化
秀逸なマリアージュを見せたのは、やはりと言うべきか・・・「ソーヴィニヨン・ブラン×サントモール」と「サヴァニャン×コンテ」でした。どちらも同郷のマリアージュですね。サントモールは、チーズが持つ藁の香りに対しソーヴィニヨン・ブランのフレッシュな青草の香りという似た2つの香りが合わさってお互いを引き立て合いました。またコンテについては、サヴァニャン特有のフレーバーと、コンテの熟成により生まれるナッティなフレーバーが相乗効果を生み出す素晴らしいマリアージュでした。
今回の実験の中で、どのチーズにも合わせやすかったのが、甘口ワインとサヴァニャンでした。甘口がチーズに合うのはある程度予想出来ましたが、サヴァニャンはとても意外!更に興味深いのは、サヴァニャンが元々ナッティなフレーバーを持つワインであるため、チーズと一緒にナッツも合わせてあげるとフレーバーが同調し、どのチーズとも素晴らしいマリアージュになったことでした。チーズにプラスαをすることで、合わないと感じた組合せでも寄り添うようなマリアージュに変化したのが印象的でした。
<実験で見えてきたこと>
第1弾実験から、チーズには白ワインが合うことが判明しました。そこで、第2弾として更に白ワインを極める実験を行うことにしました。第1弾で芳しくない結果となったシャルドネと、シェーブル以外には合わなかったソーヴィニヨン・ブランは除き、他の代表的な白ワインを追加します。全てに調和したサヴァニャンは更に特徴の強いヴァン・ジョーヌを追加して掘り下げ、甘口とともに他のワインと比べても本当に良いのかを追求します。その上で、最も使い勝手の良いワインを探したいと思います!
【第2弾実験では、白ワインを深堀!】
白ワインに関しては、赤ワインと違いテクスチャーにほとんど差がないので、第1弾実験以上に「フレーバー」と「味わい」が重要なポイントになります。
実験は、チーズ1種に対して6種のワインを合わせて各チーズに最も合うワインを決定し、最後に総括として3位までの汎用性の高いワインを話し合いで決定しました。
※今回はナッツやドライフルーツは用意せず、チーズとワインだけに集中して実験を行いました。
※チーズは一般的に使われる頻度の高い熟成期間のものを使用しています。
A. シェーブル(サントモール) ベストマリアージュ ⇒ ヴァン・ジョーヌ
シェーブルの持つクリーミーさ、やわらかい酸、山羊乳の繊細な甘味とワインがどう合うかがポイントとなりました。前回圧倒的なマリアージュだったソーヴィニヨン・ブランを除いた今回は、ヴァン・ジョーヌが1位を獲得!ワインの持つ熟成による優しい甘味が同調したことに加え、ワインの熟成感とチーズのフレッシュさという正反対の個性が上手く調和し、どちらの旨味も引き立てる結果となりました。甘口はワインとチーズのやわらかいストラクチャーが合うこと、チーズの酸とワインの甘みのバランスが取れていたことが高評価に繋がりました。
逆に、ふんわりとしたチーズの質感に対し、硬質的なミネラルが中心にあるゲヴェルツやシャンパーニュはテクスチャーが合わず、難しい結果となりました。
B. 白カビ(カマンベール) ベストマリアージュ ⇒ サヴァニャン
カマンベールの持つミルクのコク、しっかりとした塩味、そして粘性のある質感とワインがどう合うかがポイントとなりました。これにはコクのある酸味が特徴のサヴァニャンが抜群の相性を見せました。一緒に口に含むとチーズの旨味が倍増し、これぞ味わいの同調!といったマリアージュになりました。
対して、ゲヴェルツトラミネールなど華やかな香りのワインは、チーズのフレーバーと全く合いませんでした。また、ゲヴェルツの持つ苦味をより強調させてしまいました。
C. ハード(コンテ) ベストマリアージュ ⇒ ヴァン・ジョーヌ
満場一致のダントツ1位はヴァン・ジョーヌ!この日のベストマリアージュともいえる組み合わせでした。チーズもワインも、熟成により生まれるナッティなフレーバーが同調し、かつコンテのしっかりと歯ごたえのある質感と、粘性のあるヴァン・ジョーヌがテクスチャーにおいても好相性でした。サヴァニャンも好相性ではありましたが、ヴァン・ジョーヌは更に上をいくマリアージュを見せてくれました。
コンテの持つ熟成感にはゲビェルツのフレッシュなフレーバーが苦戦。厳しい組合せとなってしまいました。
D. ウォッシュ(エポワス) ベストマリアージュ ⇒ 甘口ワイン(ソーテルヌ)
かなり香りの強いエポワス。フレーバー、味わいともにこの強い香りに負けない強さを持っていることがポイントとなり、1位になったのは甘口でした!ウォッシュの強い塩味とワインの強い甘味が中和し合い、一緒に合わせるとチーズそのものが グレードアップしたかのように感じる素晴らしいマリアージュでした。
他のチーズでは、合いもしないが悪くもないという微妙な立ち位置だった南品種ですが、ワインが持つ少し酸化的なニュアンスとエポワスの個性的なフレーバーが同調し、ベストではないですが好ましいマリアージュとなりました。
E. 青カビ(ロックフォール) ベストマリアージュ ⇒ 甘口ワイン(ソーテルヌ)
やはりというべきか、青カビと好相性ということで広く知られている甘口が1位を獲得しました。青カビのかなり強烈な香り・塩味をワインの強い甘味が中和し、心地よく飲み食べ進められる結果となりました。また、チーズのクリーミーさと甘口のクリーミーさも同調し、中和と同調、両方の効果により素晴らしいマリアージュとなりました。
最も合わなかったのは意外にもシャンパーニュでした。フレーバーの方向性が逆を向いており、更にチーズのしっとりとした質感にきめ細やかな泡が負けてしまい、チーズの印象しか残らない結果となりました。
【最も汎用性の高いワインが決定!!】
1位:ヴァン・ジョーヌ 2位:サヴァニャン 3位:甘口ワイン
今回も随所で見られたチーズとワインの王道の組み合わせ、「ソーヴィニヨン・ブラン×サントモール」「ヴァン・ジョーヌ×コンテ」「ロックフォール×ソーテルヌ」は、本当に“これぞマリアージュ!”だと感じました。ひとつひとつのチーズの味わいは全く異なるので、本来であればそれぞれに合うものを用意すべきではありますが、現実的には難しいと思います。ならば、様々な種類のチーズに合いやすいワインを用意するのは1つの解決方法になるのではないでしょうか。
今回の実験において、堂々の1位を獲得したのはヴァン・ジョーヌでした!
抜群&王道のマリアージュだったコンテはもちろん、どのチーズと合わせても嫌みなく飲み進めることが出来ました。元々チーズの持っているミルキーさと、ヴァン・ジョーヌが持つウイヤージュをせず熟成することによって生まれるグゥ・ド・ジョーヌ(黄色の味)が合うのです。まさにチーズのためのワインだと言えます。
2位のサヴァニャンも同じ方向性のマリアージュで健闘しましたが、フレッシュな印象のあるサヴァニャンよりも、ワインの熟成感や熟成によって生まれるクリーミーさがよりチーズに寄り添っていたヴァン・ジョーヌに軍配が挙がりました。
3位の甘口は、チーズの塩味に対してワインの甘味が「味わいの中和」を行うことにより、どのチーズに対しても嫌味なく飲み進められる結果となりました。特に塩味の強いロックフォールには抜群の相性を見せてくれましたが、“甘くて強いから”どのチーズにも合わせられるのであって、味わいを高め合う真の意味のマリアージュとしては弱いかもしれません。しかし、汎用性という点では大いに役立つことがわかりました!
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甘口ワインは常に置いているお店も多く、チーズに甘口をお勧めしていらっしゃる方は多いと思います。今回の実験でも無難に美味しい組合せとしてとても優秀だと実感しました。ですが、より真の意味でのマリアージュを楽しむために、フィラディスとしてはヴァン・ジョーヌをお勧めします!
ただマリアージュするからというだけでなく、レストランではデザートと合わせるから甘口はとっておきたい、あるいはデザートの前にデザートのものよりも甘味の強いワインを飲んでほしくないといった場面にも対応できますし、メインに合わせて赤ワインを飲んだ後でも物足りなさは感じません。ワインバーなどでは、甘口ではなくドライなワインを合わせたいというお客様の要望にもお応えすることが可能ですし、他店と差別化するにもピカイチです。
もしいきなり個性の強いヴァン・ジョーヌを取り入れるのは難しいということであれば、まずは2位のサヴァニャンから置いてみるのも良いのではないでしょうか。
他の産地では出せない味わい深さとミネラル感から、フランス国内をはじめ世界中で注目されているジュラのヴァン・ジョーヌとサヴァニャン。まだまだ日本での認知度は低く使われていないワインですが、これほどまでに使い勝手も良いということをたくさんの方に知ってほしい!もっと広めていかなければ!!と使命感に燃えるフィラディスメンバーなのでした。
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