フィラディス実験シリーズ第11弾『シカ肉にマリアージュする赤ワインを徹底調査!』(営業 田中 琴音)
ニュースレター8月号に続く『ジビエ特集第2弾』としまして、今回はシカ肉に合うワインを検証してみたいと思います。 シカ肉を使ったお料理に合わせるとなると赤ワインが主流だと思いますので、思い切って赤ワインだけに絞り、マリアージュのポイントを探っていきます。
【シカ肉について】
8月号でお伝えしたように、夏のシカは餌となる新緑が豊富な為、秋冬のものよりも脂がのっています。とはいえ、元々体脂肪率0.6%と非常に低脂肪なので、当然ですが牛肉に比較するとかなりさっぱりしたお肉です。程良い脂が赤身に入り込み、ジューシーでテクスチャーは柔らかく、少し鉄分を感じさせる香りが優しく口の中に広がります。赤身肉ですので、ある程度の噛みごたえはありますが、全体的にふんわりとした印象を残すのが特徴です。
○ 国産鹿ロース肉をフレッシュなまま使用
○ 塊のままオーブンでロティール調理
○ 味付けは塩と胡椒を少々
○ スライスカットして提供
【マリアージュの判断方法】
「ボリューム」「テクスチャー」「フレーバー」「五味(甘味・酸味・塩味・苦味・旨味)」について、以下のマリアージュポイントを参考にしながら分析します。
今回は、蓼科のエスポワールさんでのシカ肉料理とワインを合わせた時の経験から、特に「ボリューム」「テクスチャー」「フレーバー」を重視して実験を行いました。
☆ マリアージュポイント ☆
・同調 (ワインと料理の個性の一部が寄り添うことで双方を高め合う)
例:タイムの香りがする料理にグリーンノートのあるワインを合わせる。
・中和 (お互いの個性を中和させて味わいのバランスをとる)
例:カベルネ・ソーヴィニヨンと仔羊の組合せが好例。ワインのタンニンが仔羊の脂を中和する。
・補完 (ワインと料理の双方が揃うことで、足りなかったものを補完する)
例:塩味&旨味を持った料理に甘味&酸味を持つワインを合わせ、五味を補完し合う。
【実験結果】
≪TOP5 を発表!≫
≪惜しくも次点のワインたち・・・≫ ※ 順不同 ※
シカ肉とワインのマリアージュを考える上で、重要な要素は「ボリューム」「テクスチャー」「フレーバー」の3つです。「ボリューム」と「テクスチャー」が合うことはマリアージュの前提です。その上で、「フレーバー」について考えていきます。
● ボリューム
今回食べたシカ肉のボリューム感は赤身肉の中でもかなり軽い部類に入るため、ワインが強すぎるとシカ肉が持つ柔らかなテクスチャーや香りが感じづらくなってしまいます。ジビエに合わせるといえばローヌ品種だろう、ということで期待していた 12:Lirac Les Muses や13:Crozes Hermitage は完全にワインがお肉に勝ってしまいました。
実はこのボリュームという点で議論になったのが 5:Logonovo でした。ヴィンテージは2012年で程良くこなれており、テクスチャーは非常になめらか、熟したタンニンも邪魔にならず、ブラックチェリーを感じさせる濃厚な果実はシカ肉と相性バッチリ!弊社メンバーにも“相性良し”とする者が多数いたのですが、マリアージュを追求するという観点からすると気になるのがワインの中心から感じられるパワフルさです。ボリューム感だけがほんの少しずれている・・・とても惜しい組み合わせでした。もし使用したシカ肉が熟成して身が引き締まったものだったらとても良い相性だったはずです。
逆に軽やかすぎるワインだと肉の方が勝ってしまいます。6:Santenay V.V. や 11:Cote du Rhone L’O de Joncier、19:Sistina Montepulciano d’Abruzzo などが当てはまりました。6:Santenay V.V. にはチャーミングな果実のフレーバーがあり、その点では相性が良かったので、もう少し果実の凝縮感やストラクチャーのあるプルミエ・クラスであればもっと良くマリアージュしたかもしれません。
● テクスチャー
脂身はほぼ無く、ジューシーで柔らかくふんわりとした赤身肉ですので、ワインにも滑らかなテクスチャーが求められます。
赤ワインの場合マリアージュの大きなポイントとなるのがタンニンです。程良いタンニンは必要ですが、21:Barolo Serralunga のように量の多いタンニンや、24:Taurasi Santandrea のような存在感のあるたっぷりとしたタンニンは、ワインに充分な甘味があってもアフターにざらつきが残ってしまいました。やはりこういったワインは脂の多いお肉と合わせたいものです。
● フレーバー
シカ料理にベリーソースがよく使われることからも想像ができると思いますが、シカ肉にはワインのベリー香がとても良く合いました。ポイントはフレッシュであること。今回のシカ肉は全く熟成させていないフレッシュなお肉だったことが要因だと思います。10: 1997 Ch. Sociando Mallet や 22:2010 Brunello di Montalcino には熟成香が出ていたので、残念ながらフレッシュなシカ肉のフレーバーには合いませんでした。
また9:Chinon Petites Rochesはたっぷりとした赤系フレッシュベリーの香りの奥にほんのりとカベルネ・フラン特有の青い香りがあり、その少しの青さと肉に含まれる血の香りが相反する結果となってしまいました。こちらも熟成させたお肉の場合ならば違う結果が出たかもしれません。
【シカ肉とワインのマリアージュ】
さて、今回上位に入ったワイン達は、まず前提として「ボリューム」や「テクスチャー」が合っていました。その上で、「フレーバー」がとても重要な役割を果たしました。
先述の「フレーバー」の解説でも述べましたが、シカ肉にはベリー香が良く合います。それは、お肉の持つ塩味・旨味に対し、ベリー香が甘味や酸味を補完するためです。今回はシンプルに焼いて塩で味付けしたシカ肉だったので補完のマリアージュですが、お料理としてベリーソースがかかっていれば同調のマリアージュとなります。
今回No.1のマリアージュを発揮した 1:Seigneurs d’Aiguihe と、No.2の2:Merlot Napa Valley は、フレーバーと五味の部分でも高評価でした。1:Seigneurs d’Aiguihe にはフレッシュベリーのフレーバー、2:Merlot Napa Valleyには少し火を入れたような甘さを感じさせるベリーのフレーバーがあります。それぞれの良さがあるので、お料理と合わせる場合にはソースのタイプによって使い分けができるはずです。
3:Petit Freylon Cuvee Sarah、4:Anayon Carinena は、どちらにも凝縮した果実のフレーバーと共に、樽のニュアンスがしっかりと出ており、この樽のフレーバーで好みが分かれました。普段から樽のきいたワインを好んで飲まれている方には特におすすめです。(フィラディスでは特に20代のスタッフから評価されていました。) この2つを比較すると、4:Anayon Carinena の方が樽香が強く、カシスやダークチョコレートのような香りもあるので良く煮詰めたしっかりとしたソースにとても良いと思います。
【実験を終えて】
今回25種類の赤ワインを揃えましたが、絶対に合わないというものは無く、やはりシカ肉と赤ワインは絶対的に合うのだと再認識させられました。「ボリューム」「テクスチャー」をクリアさえすれば、お料理の焼き方やソースに「フレーバー」を寄り添わせるだけですので、選択肢は非常に幅広いのではないでしょうか。TOP5のワインにフランス、イタリア、カリフォルニアとバラエティ豊富な産地が揃ったことからも汎用性の高さが伺えます。
ここ数年、日本全国でシカやイノシシ、カラスなど『有害鳥獣』とされる動物を食肉として活用しようという動きが活発化しており、各地にジビエの解体加工施設が出来ています。今後ますます安全で美味しい国産のジビエがたくさん流通することは間違いありません。今回はシカ肉で実験を行いましたが、シカ肉料理に合わせるワインの選び方として参考にしていただければ幸いです。
※『ジビエ特集第1弾:今夏大注目の“夏ジビエ”を攻略!』 は、コチラ!
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