【フィラディス実験シリーズ第25弾 】僅か2℃の差 保管温度「13℃」と「15℃」 4年間の熟成で違いは出るのか?(営業 寺尾 翔)
『4℃、14℃、35℃の3つの温度帯で12カ月間、年3回の定点分析』 2015年に行われた寺田倉庫と山梨大学が共同で行ったこんな実験をご存知でしょうか。 その結果、ワインの熟成効果による味わいの複雑性や広がりが最も進行するのは14℃であることが発表されました。この結果は「当たり前」だと思う方が多いですよね。私たちが良く使っているワインセラーの理想的な設定温度も13℃~15℃あたりとされています。温度帯の差が大きなところでの実験でしたので、この結果は普通に考えると当たり前と思われる方も多いかと思います。 そこでフィラディスでは、更にもう一歩踏み込んだ実験を行うことにしました。
実験概要
上記の実験で保管に適切とされた14℃の±1℃、つまり「13℃」と「15℃」で保管したワインにどのくらい熟成度の違いが表れるのでしょうか。
そこで今回、泡3種、白3種、赤3種のそれぞれ同一ロットのワインを使い、「13℃」と「15℃」の2つの温度環境で約4年間保管したものを比較テイスティングし、「色」 「香り」 「味わい」の3点で熟成感にどのくらい違いが出てくるのかを検証しました。
普通だと、温度が高い「15℃」の方がどの種類もやや熟成が進んだニュアンスがより出てくると思いますよね。もちろんフィラディスのスタッフも同様に考えておりました・・・。そして、そのイメージを持ったまま実験を開始。
しかし…
思いの他に差が小さく、微妙なニュアンスの違いを感じ取る、非常に神経をとがらせる実験となりました。
実験結果
それでは、実験の結果を発表して参ります。
「色合い」「香り」「味わい」の順で、特に「香り」に関しては泡・白・赤を種類別に細かく探った結果を記載します。
<色合い>
赤ワインに関しては数名からの意見で15℃で保管されていた方のエッジがややオレンジ掛かっているという意見もありましたが、泡・白を含め色合いにほぼ変化はありませんでした。
<香り>
シャンパーニュ
13℃ | 「フレッシュな印象」「第一アロマがより際立って感じる」「トーンが高い」 |
15℃ | 「広がりがある」「イーストなど酵母由来の印象が強い」「果実の熟度が高い」 |
などの意見が上がりました。これは概ね当初の予想通りですね。
白ワイン
こちらは面白いことに、シャンパーニュで感じられた印象とは逆で
13℃ | 「果実の蜜っぽさを強く感じる」 |
15℃ | 「ハーブ、シトラスが強く感じられる」「ぺトロール香がより強く感じられる」 |
といった意見に。
赤ワイン
13℃ | 「果実のフレッシュさ」 |
15℃ | 「果実の甘やかさ」「ドライフルーツやスパイスのニュアンスが若干強い」 |
など、予想通りの意見が上がっておりました。
<味わい>
どちらも良い状態の熟成途上であったため、香りほど差異が明確ではありませんでした。
微妙なニュアンスで熟成感の違いを感じる取ることは非常に難しい作業となり、また「熟成感」の捉え方に個人差が出てきてしまいました。
例えばですが「僅かだが引き締めを強く感じる」という要素に対して、あるスタッフは「果実味が落ち着いて感じられるということは熟成は進んでいるワインである。」と捉え、「まだ酸やタンニンがこなれていないので、熟成が進んでいないワインである。」と捉えるスタッフもいたため、最も意見が割れてしまうことになってしまいました。
そんな中でも、要素として一番差を感じることが出来たのは「酸」と「ストラクチャー」の感じ方でした。味わいのバランス自体はどちらも整っておりましたが、おおむね下記のような意見でした。
13℃ | 「気持ちシャープで集中力が強い」という意見が若干多め。 |
15℃ | 「気持ち柔らかで旨みの丸みがある」という意見が目立つ。 |
当初はもう少し違いが感じられるものかと思っていました。しかし極めて微妙なニュアンスを拾い上げる作業になり、優れたテイスターでも難しいであろう些細な差を意見し合う状態になってしまいました。
まとめ
「どのくらい熟成度に違いが表れるか。」という当初のお題に対しては、当初の想定とは異なり
『非常に近しい温度帯の中では、4年間ほどの期間では熟成度に大きな差は確認出来なかった。』
というのが率直な結論でした。
しかしながら、香りや味わいに僅かに違いがみられたのは確かでしたので、挙がった意見を更に分析したところ、いくつかの傾向が見えてきました。
それらを以下のようにまとめてみました。
『クオリティに於いては、大きな差が出ることはない。』
『黒ブドウより白ブドウ、南の産地より、北の産地の方が僅かに違いを感じやすい傾向にあった。』
『13℃に比べ、15℃の方が保管期間4年で飲むのであれば近付きやすい印象である傾向があった。』
差は非常に小さいものの、生産者が想いを込めて造った、ご自身が提供するワインの状態にはやはり徹底してこだわりたいところです。
今回の保管期間は4年でしたが、もし更に長期で保管・熟成を想定するのではあれば低めの13℃での保管を行い、レストラン様では一般的な温度である15℃で保管しておくなど、ワインの用途やタイミングに応じてワインセラーの設定温度に変化を付けるというのは有効だと思います。
2℃という僅かな差に挑戦した実験、この結果が何かしら皆様のお役に立ちましたら光栄です。
-
前の記事
【フィラディス ワインリスト研究 第2弾】Restaurant ESqUISSE 太田賢一ソムリエ & La Kanro 桒原孝明ソムリエ 2019.09.05
-
次の記事
【フィラディス実験シリーズ第26弾 】イタリア料理に必要不可欠な『トマトソース』に最適なワインとは?(営業 岩元 淳) 2019.12.03