≪続報≫熟成によってワインのアルコール度数とSO₂量は変化するか?(広報 浅原有里)
今年1月号で、熟成によってワイン中のアルコール度やSO₂量がどのように変化するのか、公的機関の成分分析結果をお届けしました。今回は、その時に生じた疑問を解き明かしていきたいと思います。
前回の考察がひっくり返る(!!)ような結果となりましたので、ぜひ最後までお付き合いください。
参考:
★[2020年1月号]
★[2016年5月号] フィラディス実験シリーズ第10弾
[2016年5月号] フィラディス実験シリーズ第10弾『ワインの「添加物」徹底研究 Part 2 -SO₂(二酸化硫黄)』 (営業 中小路 啓太)
分析結果から湧いた疑問
1月号では、2年半〜7年の熟成期間があるワイン3種類を分析試験しましたが、アルコール度数は全てのワインで0.2〜0.39%低下していました。またSO₂についても、遊離型亜硫酸は全てが検出できない数値まで減少し、総亜硫酸も大きな幅で減少していました。
<分析結果>
さて、ここでいくつか疑問が湧いてきます。
①アルコール度数はどんなメカニズムで低下するのか?
②総亜硫酸はどこにいってしまったのか?
③No.3で、遊離型亜硫酸が-21だったのに対し、総亜硫酸は-4.2のみ。遊離型亜硫酸はどこにいってしまったのか?
これらに対して、ワイン・スペクテイターやデカンターなどの情報サイト及び専門機関の情報を元に考察していきます。
最初にお断りをしておくと、まだまだ熟成のメカニズムは明らかになっていない部分も多いそうで、現時点で分かっている範囲での解答になることをご了承ください。
考察
①アルコール度数はどんなメカニズムで低下するのか?
古酒を飲むとアルコールがまろやかになったような印象を受けることから、熟成によってアルコール度数は下がるのではないか、という声はちらほらと耳にします。フィラディス社内にもそうした意見があったので、1月号の結果が出た時には思わず膝を打ったのですが、結論から申し上げますと、アルコール度数は変化しないようです。
アルコールは水と同じように空気中に蒸散します。樽熟成中に樽中のウイスキーの量が少しずつ減っていくことをエンジェルズシェア(天使の分け前)といいますが、熟成のため樽に入れられたウイスキーやワインは年間5%ほど蒸散します。この時、水とアルコールの樽中での蒸散の仕方の違いによって、アルコール度数の変化が起こることがあります。樽を保管するセラー内の湿度が高い時(65-70%以上)は水の蒸散が抑えられてアルコール度数は減りますが、乾燥状態では逆にアルコール度数が増える現象が起きています。
しかし、瓶詰めされた後のワインは、瓶中の空気は非常に少ないですし、コルクを通しての蒸散もほとんどないと考えられますのでアルコールが抜けることはほぼありません。まれにコルクの劣化などによって酢酸菌による汚染が起こり、ワインがお酢になってしまうような場合にはアルコールは減りますが、通常のワインでは考えられません。
とするならば、分析によって0.2〜0.39%アルコールが低下したのはなぜなのか?考えられることは2つです。
一つは、実験の誤差であること。同じ分析法でも、分析環境や分析担当者の違いなどによって誤差が生じる(室間分析誤差といいます)ことがあり、アルコール分析に関してはEUの分析法では0.2%ぐらいは誤差が生じうるそうです。しかし、誤差であるならば全てがマイナスになるのは奇跡的です。
もう一つ、こちらが非常に信憑性が高いのですが、それは分析方法の違いによるものです。今回分析検査をしたワインは全てEU産のもので、出荷当時の検査はEUの分析法で行われています。EUでは成分分析は20度で行うという規定があります。対して、ニュースレターのために分析を行った日本では15度で行っています。12%以上のアルコール溶液では20度では0.1%ほどアルコール度数が高めに出るとされているそうで、実験結果の誤差の方が若干大きくはありますが、ありうる数値内なのかなと思われます。なんともトホホ…な結果となりました。
②総亜硫酸はどこにいってしまったのか?
亜硫酸は酵素の働きを止めたり、酸化によって生まれる物質と結合することで酸化のダメージを和らげる作用をしますが、それ以外に亜硫酸自体が酸化されることでワインの酸化を防ぐという役割も担います。亜硫酸が酸化されると硫酸など別の物質に変化するため、総亜硫酸量は減少します。
また、[総亜硫酸=遊離型亜硫酸+結合型亜硫酸]ですので、総亜硫酸量をもとめる時には、結合型亜硫酸量を測定する必要があります。その方法は、15分くらい加熱して結合を切って遊離型にしてから測定するというもので、貯酒中には加熱しても分解されないような結合型亜硫酸が生じるためその量が正しく計測されず、総亜硫酸が減少する原因となります。
③No.3については遊離型亜硫酸が-21だったのに対し、総亜硫酸は-4.2のみ。遊離型亜硫酸はどこにいってしまったのか?
この疑問は比較的簡単でしょうか。[総亜硫酸=遊離型亜硫酸+結合型亜硫酸]ですので、遊離型亜硫酸が様々な物質と結合して結合型亜硫酸になったと考えられます。
アルコール度数についてはぬか喜びに終わってしまいましたが、実際のメカニズムを検証するのはとても興味深いですね。今後もワインの様々な疑問にお応えできるよう精進してまいります。
情報提供:酒類総合研究所
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