『ドローンワイン・プロジェクト』始動しています!
皆さまは「スマート農業」という言葉を聞いたことがあるでしょうか?
スマート農業とは、農業をドローンなどIT技術を用いて、これまで人の手で行っていた農作業を代行したり簡略化させることです。これにより、作業の効率化や農業技術の見える化が期待されており、高齢化や後継者不足などの課題を抱える農業の解決策になるのではと、近年注目が集まっています。
そんな最先端技術をワイン造りにも活かせるのではないかと考え、2020年にドローン・ジャパン株式会社とのコラボレーションにより始動したのが『ドローンワイン・プロジェクト』です。
今回のニュースレターでは、『ドローンワイン・プロジェクト』の理念や具体的な取り組みについてお伝えすべく、ドローン・ジャパン株式会社の勝俣 喜一朗社長にお話を伺いました。
ドローン農業で、究極的な「土の見える化」を目指す
IoT × クラウドを農業に取り入れ活用するというスマート農業は、農林水産省の後押しもあって日本でも既にかなり身近なものになってきています。様々なアプローチ方法がありますが、ドローン・ジャパンではIoTのなかでもドローン分野に特化しています。農業用のドローンで農地の見回りや計測を行い(リモートセンシングと言います)、そのデータを分析して役立つ情報を農家さんに渡すということを行っています。
ドローンによって可能になることは大きく分けて2つあります。
1.効率的な農地の見回り
人間の目の代わりになってドローンで農地の状況を効率的に確認することが可能です。最大1回のドローン航行で100ヘクタールの撮影が可能です。
2.精密な生育状況の解析
ドローンには「マルチスペクトラムセンサー」という人間の目に見えない光の波長を計測するセンサーが搭載されており、そのデータを解析することによって作物の生育状態や健康状態、病害虫の発生の有無などを確認できます。
こうしたデータを蓄積することによって、作物の収量の安定化につながるムラのない土作り設計が可能になります。
これまでは、気候・土・水を把握してどのように作物を育てていくかという農業の技術は、農家さんの長年の経験で培われた感覚や勘に頼っており、後継者不足や農家の事業規模の拡大などによって失われてしまうのではと懸念されています。しかし、スマート農業によって客観的なデータとしての見える化が可能になるため、技術の伝承という側面でも期待されています。
ドローンによる農作物の生育状況の分析技術が開発される以前には衛星によるデータ予測が主流でした。先物取引が活発なアメリカでは60年代から活用実績がありますが、衛星のため細かい部分は見えなかったり、曇っているときには撮影できなかったり、情報を取得するまでに時間がかかるといった問題がありました。ドローンであればいつでも使いたい時に使え、精密な情報がすぐに取得できるため、衛星の情報と組み合わせて使うようになってきています。
効率化によって自然農法を増やしたい
現在、世界的に有機野菜やオーガニック食材の人気・需要が高まっていますが、日本では高齢化などで熱心な農家さんが減っているなかで、効率的に美味しい農作物をたくさん作るために化学肥料に頼る場合が多く、有機農法の耕作面積は減ってきているのが現状です。そうした状況を憂い、ドローン・ジャパンでは企業理念としてスマート農業によって化学肥料に頼らない農業を増やしたいという強い想いを持っています。
通常、スマート農業を推進する会社や農家さんは効率化を第一優先にする場合が多いのですが、ドローン・ジャパンでは逆とも言える姿勢でテクノロジーと向き合っており、例えば、どんな土づくりをすれば化学肥料を減らせるのか、どんな栽培を行えば病害虫を防げるのかといった知見を集めデータ解析を進めています。もちろん有機農業を行うのには除草作業に多大な労力がかかります。より能動的にアプローチするために、ドローンの技術を使った自動除草機などの開発も進めています。
ドローンワイン・プロジェクトとは?
ヨーロッパにおける伝統的ワイン産出国では、農地の中でもブドウ栽培面積が占める割合が大きいため研究が最も進んでおり、最先端技術の導入も盛んです。例えばフランスでは、既にボルドーなどの大きなワイナリーで7〜8年前にはドローンが取り入れられました。しかし、その頃はまだ精密なデータ収集は行えず、解析研究も進んでいなかったために重視はされず積極活用はストップしていました。
しかし、データ量も増え技術が飛躍的に進歩した今、パートナーとして交流のある生産者達が更に環境にやさしくブドウを栽培する手助けをしたいという思いから、2020年に始まったのが『ドローンワイン・プロジェクト』です。
本格的に運用していくためには多くのデータが必要ですので、世界中のブドウ栽培データを集めたデータベースを元に、現在は南仏のワイナリーに協力を仰いで彼らのシャルドネの畑でのデータ収集と解析を行っています。そして将来的には本プロジェクトによって以下の4つを実現させたいと考えています。
1.テロワールの見える化
ドローンによる俯瞰でのブドウの生育状況の確認、ブドウの木の幹数や健康状態の確認、畑の高低差、気候条件などのデータの取得・解析を1年間のサイクルで実施することで、テロワールを見える化し、来年以降の肥料設計などの土作りに役立てることができます。
2.摘葉の自動化
ブドウが健康的に成長するためには葉の量をコントロールする必要があるため、生産者は適宜葉を抜く作業を行っています。日の当たり方や斜面の傾斜の向き・角度によって繊細な作業を求められますが、現状では生産者の経験値に頼るしかありません。この摘葉の技術を見える化し、作業の自動化を目指しています。
3.水分量の把握
基本的にはワイン用のブドウは多くの水を必要としませんが、植林したばかりの苗木は例外です。また、夏季には水分不足によってアントシアニン成分の成熟がストップしてしまうことがあるため、実の水分量の把握はブドウの収穫期を見極める意味でも非常に重要な指標となります。ドローンのデータ解析によって水分量が計測できるようになるため、実用化に向けた研究を進めています。
4.雑草の自動除草
先述のドローン技術を使った自動除草機をブドウ畑用にカスタマイズすることで、ブドウ畑の特性に合った除草を行うことが可能になります。
まだスタートしたばかりのプロジェクトですが、実際の農作業と照らし合わせながらデータの解析精度を上げていき、畑の地力に合わせた適材適所の肥料設計や、ブドウの生育状態に合わせた無駄のない畑作業など、実用的な活用をしていく予定です。研究が進めば、将来的にはブドウの出来や収量、引いてはワインのクオリティーまで細かく予測できるようになるかもしれません。
ドローンワインのリリースなど、具体的なご報告ができるのもそう遠くないと思います。その際にはまたお知らせしますので、ぜひ楽しみに待っていてくださいね!
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