フィラディス ワインリスト研究 第6弾 前編 ~ élevé 松田慧ソムリエ & 株式会社SEA 神沼拓海ソムリエ ~
今回のワインコラムプロは、活躍中のソムリエお二人に、同一の料理テーマでワインリストを作成いただき、構成内容や選んだ基準、考え方などをじっくり覗いてみようという人気企画「フィラディスワインリスト研究」の第6弾をお送りします。
ワインリストにはそれぞれのお店の個性が反映されるのはもちろんですが、何よりもワインセレクトを任されるソムリエの感性や哲学がそのまま投影されます。登場いただくお二人のソムリエがどのようにワインリストを作るのか、ぜひご注目ください!
※前編ではソムリエが選んだ仮想ワインリストをご紹介し、後編にて実際に食事とワインを合わせた結果をお届けします。
基本条件
お題:中東イタリアンのワインリスト
Trattoria Tabule(トラットリア タブレ)様にて実施
https://www.instagram.com/tabule_trattoria/
中東料理が得意な米澤シェフと、イタリアンの奥野シェフのコラボレーションによって生まれた中東イタリアンという新しいジャンルのレストラン。今回はタブレさんのベーシックコースをテーマにワインリストを制作いただきました。
メニュー
【Tapas & Mezze】
⚪焼きたてピタブレッド
⚪ひよこ豆の “フムス”
ひよこ豆、タヒニ(ねりごま)ソース、マスタード、レモン汁を合わせてペーストに。
スマック(赤紫蘇に似た香り)とたっぷりのオリーブオイル。
⚪シグネチャータブレ ヨーグルトのソース
レバノン発祥のクスクスを使ったサラダ(=タブレ)。フレッシュハーブ、野菜、キヌア、
フルーツなどを、独自のスパイス、オリーブオイル、レモン汁でマリネ。
⚪鰹のスモークとビーツのカルパッチョ
藁焼きにした鰹とビーツを合わせたカルパッチョ。
甘いビーツ、スモークパプリカ(鰹のスモークと同調)、トレビスの苦味、ザクロが一体に。
【Hot Appetizers】
⚪カリフラワーのロースト 江戸前ハーブとくるみ ピーナッバター&スパイスソース。
カリフラワーをオーブンで焼き上げたお料理。食感としてローストくるみ、江戸前ハーブ、
ピーナッツバターソース(カルダモンスパイスが強く香る、カレー粉、ライムジュース)。
【Pasta】
⚪バジルとフレッシュケールのジェノベーゼ キタッラ
バジルとケール、ピスタチオ、フェンネル、レモンピールをペーストにしたソース 、
キタッラは岡山の工房で作られた生パスタ、低加水でもっちり。
【Maindish】
⚪チキンシュニッツェル 〜鶏胸肉のカツレツとサワークリームとアリッサ〜
薄く叩いた鶏肉のカツレツ。サワークリームとヨーグルトを混ぜたソースと、
アリッサ(パプリカと唐辛子とスパイスのペースト)をつけて食べる。
ワインリストの条件
○基本的にフィラディスのエージェントアイテムから選択、 ない場合は他社アイテムも選択OK
○ワインの産地は問わない
○構成:
− グラス販売 赤2種類、白2種類、泡1種類以内
− ワインリスト 泡白赤トータル15アイテム以内(グラスのワインを含む)
○ボトル売価10,000円まで。最低ラインは3000円代後半、ボリュームゾーンは4000〜5000円代をイメージ
○グラス売価は1,000円以下
○原価は40%まで
élevé 松田慧ソムリエ
1988年生まれ。東京都出身。専門学校卒業後、西麻布のフレンチ「Le Bourguignon」へ入社、11年間勤める。ブルゴーニュワインの美味しさ、奥深さに魅了され、2022年7月に麻布十番にてブルゴーニュ専門のワインバー・レストラン「élevé」を独立開業。
élevé https://eleve-azabu.com/
株式会社SEA 神沼拓海ソムリエ
株式会社SEA代表。神奈川県横須賀市にてワインを基軸に飲食店を三店舗経営。元ワイン商社出身のノウハウを活かし、飲食店へのワインセレクト、卸、ワインショップ、ワインイベントの運営など、多岐に渡り活動している。
株式会社SEA https://restore-sea.jp
WINE LIST by 松田ソムリエ
ワインリストの方向性とポイント
フランスワイン以外には詳しくないので、フランス産のみにフォーカス。同じ国であっても様々な違いのあるフランスワインの懐の広さを感じつつも、自分らしくブルゴーニュを多めに選びました。
1皿1杯のペアリングではないので、ボトル1本とグラスワイン少々でコースメニュー全体の邪魔をせず、うまく寄り添ってくれる愛想の良いワインを多く載せました。
WINE LIST by 神沼ソムリエ
ワインリストの方向性とポイント
「中東イタリアン」ということで、スパイシーな料理に合うアロマティックなワインや、香りの豊かなワインなど、ペアリング寄りにグラスワインを選びました。ボトルはイタリアをメインに、個人的にフィラディスの好きなワインを価格別にバランスよくセレクトしました。フィラディスの特徴がよく出た、お料理に寄り添うエレガントなワインを中心にセレクトしています。
考察
松田ソムリエのリストはすべてフランス産のワインで統一されている一方、神沼ソムリエのリストはロゼやオレンジワインを含む多様な種類を、幅広い国や産地からセレクトしています。これまでのワインリスト研究企画の中でも一番と言えるくらい違いが現れるリストとなりました。
スパークリング
お二人ともシャンパーニュが1種類、スパークリングが2種類という構成です。(松田ソムリエはロゼを1種類選択)
シャンパーニュは両名ともVueve Olivierを選んでいます。ムニエ比率が高く柔らかい味わいであることに加え、リーズナブルな価格であるというのも理由となっていました。また全体的に、お料理との相性を考え、柔らかい味わいであるというのが選定のポイントであることが伺えます。
白&オレンジワイン
オレンジまで含めると、お二人とも白ワインは6種類と同一でした。松田ソムリエはブルゴーニュ・シャルドネが4種類で、得意なジャンルで味わいの違いを大いに表現されているのが特徴です。ヨーグルト・ハーブ・スパイスなどの料理の要素に合う、柔らかさのあるワインをオンリストしています。
対して、神沼ソムリエはさまざまな産地・品種を揃えました。レモンやスパイスを多用する中東系の味わいに合うよう、ミネラル感や塩味・苦味などの味わいを持つワインを中心に、ワインリストとしてのバランスも考慮されています。
ロゼ&赤ワイン
松田ソムリエはブルゴーニュを中心にフランスの各地のワインをセレクト。いずれも透明感やエレガントさがあるライト〜ミディアムの味わいのワインです。カベルネ・フランやシラーなど、スパイスやアリッサ、サワークリームなどの料理の要素への相性を重視されていることがわかります。
神沼ソムリエはイタリアが4種類で、その内トスカーナが3種類。モーゼルのロゼにローヌが1本ずつというラインナップです。パスタがジェノベーゼ、メインが鶏肉ということもあり、エレガントスタイルが重要な選定ポイントだとおっしゃっており、その点では松田ソムリエと同様でした。お二人の考える方向性は同じでも、異なるワインがオンリストされており、それぞれがお料理とどんなマリアージュを見せてくれるのか、ワクワクしますね!
今回のワインリスト研究前編ではワインリストのみを見てまいりましたが、 お二人ともご自身の経験や理念を基にワインを選んでくださったことがよくわかる内容でした。
次号の後編では、お二人のソムリエとともにTrattoria Tabule様で行った検証会のレポートをお送りします。実際にお料理に合わせた時に、ワインはどのように合わせられるのか、どんなポイントを気をつけるべきなのか、また今回のリストからどんな素晴らしいマリアージュが生まれるのか、とても気になりますよね。ぜひご期待ください!
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