辛味 × 旨味 × ワイン:麻婆豆腐とのマリアージュ考察 (広報 浅原 有里)
- 2025.05.08
- マリアージュ
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「麻婆豆腐とワイン」一見すると異色の組み合わせに思えるかもしれません。しかし、さまざまな食材や料理とのマリアージュ実験を重ねてきたフィラディスだからこそ、麻婆豆腐にもベストマッチする1本を見つけたい!そんな想いで今回のマリアージュ実験は幕を開けました。
麻婆豆腐は四川料理を代表する一皿であり、花椒による痺れる辛さ、唐辛子の鋭い刺激、豆板醤や豆鼓が生み出す奥深い旨味が絶妙に調和しています。とろりとした豆腐と挽き肉の食感、立ち上る香り、口いっぱいに広がる刺激とコク ―― その魅力は一言では語り尽くせません!!
本レポートでは、①日本人に馴染み深い丸美屋の麻婆豆腐の素(中辛)をレシピに忠実に作ったものと、②重慶飯店の本格的な麻婆豆腐の2種類を、48種類ものバリエーション豊かなワインと合わせ検証してみました。
麻婆豆腐という情熱的な料理に、どんなワインが最も美しく寄り添うのか?ぜひ最後までお楽しみください。
麻婆豆腐について
①丸美屋の麻婆豆腐の素(中辛)は甘味・旨味のバランスが良く、しょうがとにんにくは効いていますが、出汁感が強い穏やかな味わいです。基本的にはさらっとしたテクスチャーですが、少しとろみがあり、使用した絹豆腐の食感とも相まって、なめらかな喉越しが味わえます。
②重慶飯店の麻婆豆腐はしびれ系の辛味が特徴。花椒をはじめとするさまざまなスパイスが芳醇に香り立ち、ガツンとくる味わいです。豆腐は木綿豆腐で、ひき肉もごろごろ入っているためしっかりとした食感があり、油の存在感も強く感じました。
どちらもご飯が欲しくなる味わいですが、今回は麻婆豆腐だけでワインとの相性を試してみました。
ワインについて
スパークリングは白6種類とロゼ2種類、白ワイン12種類、ロゼワイン2種類、赤ワイン26種類の計48種類用意しました。全てブラインドで実験しています。
マリアージュの判断方法
「ボリューム」「テクスチャー」「フレーバー」「五味(甘味・酸味・塩味・苦味・旨味)」について、以下のマリアージュポイントを参考にしながら分析します。
同調 (ワインと料理の個性の一部が寄り添うことで双方を高め合う)
中和 (お互いの個性を中和させて味わいのバランスをとる)
補完 (ワインと料理の双方が揃うことで、足りなかったものを補完する)
※マリアージュ理論の詳しい内容は以下よりご覧ください。
結果
丸美屋
1位 1:NV Cremant de Loire Brut / Ch. de L’Aulee
1位に輝いたのは、仏ロワールのシュナン・ブランのスパークリングワインでした!決め手になったのは、麻婆豆腐とワイン双方の柔らかいテクスチャーと甘味の同調です。ボリューム感もぴったりでトーンが合っており、するすると食べ飲み進められる、素朴さが魅力の組み合わせでした。
2位 5:NV Brut Carte d’Or / Veuve Olivier
過去のマリアージュ実験でも度々上位に食い込んでくるヴーヴ・オリビエのシャンパーニュ。基本的には1位のスパークリングと同様に柔らかさと甘味の同調が魅力の素晴らしいマリアージュなのですが、こちらの方が酒質が強いため、後味でワインが支配的になるという意見がありました。
3位 10:2022 Alchimie / Terres Blanches
五味の補完のお手本を見せてくれたロワールのソーヴィニヨン・ブランがランクイン!ワインは酸とミネラル感が主体であり、料理の塩味や旨味と同調しつつも、足りない要素が補完されることで心地良いと感じるマリアージュでした。テクスチャーやボリューム感が合っており、ワインのアロマティックさが邪魔にならずに良いアクセントになっていました。
4位 34:2020 Barolo / Giacomo Grimaldi
柔らかく出汁感の強い麻婆豆腐に一番合う赤ワインはバローロという結果に!透明感のある果実味の甘味とワインの熟成からくる甘味と旨味が料理にとても良く合いました。味わいの後半ではワインの酸味が若干目立ちましたが、それでもおいしく楽しめる組み合わせでした。
5位 31:2021 Saint Joseph Rouge Ribaudes / Lionel Faury
赤ワインのNO.2はローヌのシラーが選ばれました。赤ワインはベリー感と樽香が強いと合わせづらかったのですが、こちらは両方穏やかであり、ワインのスパイス感やボリューム感、テクスチャーが合っていました。
麻婆豆腐の柔らかさ ✖️ ワインの柔らかさが勝負を分ける結果に
なめらかな食感・出汁感・甘味が特徴的な丸美屋の麻婆豆腐に合わせるワインには、その味わいを邪魔せず活かしてくれる柔らかなテクスチャーが必須となりました。そのため、柔らかなテクスチャーのスパークリングワインは全体的に高評価でした。
白ワインは柔らかさを消してしまうシャープな酸味や樽香が強いものはNGで、アロマティックなワインはなかなか風味が調和するものがなく苦戦しました。
赤ワインでも樽香や果実のベリー感が強いものはことごとくNGであり、酸味も控えめな方が合わせやすいと感じました。
重慶飯店
1位 11:2020 Coteaux du Loir Blanc L’Effraie / Belliviere
圧倒的支持を得て1位となったのは、ロワールのシュナン・ブランでした。18g/Lの残糖がある中辛口タイプの白ワインです。香り高い麻婆豆腐の華やかさに、ワインの甘やかさや香りの要素が非常に良く合い、ワインの揮発によって双方の風味が立ち上がり芳醇なマリアージュとなりました。ワインには甘味がありますが、辛さは活かしつつ、味噌や油の甘味・旨味・ボリューム感を際立たせる働きをしてくれました。
逆に、辛味は少なからず抑えられるため、辛さを楽しみたいスタッフの点数は伸びませんでしたが、それでも全体の調和や風味の豊かさによって最高評価を獲得しました。
2位 14:2023 Riesling Quant / Carl Loewen
モーゼルのリースリングは麻婆豆腐の華やかで豊かな風味をさらに引き立て、素晴らしい香りのマリアージュとなりました。1位のシュナン・ブランに比べ甘味は控えめで、より麻婆豆腐を華やかかつ繊細に楽しませてくれる1本でした。
3位 7:NV Cava Brut Rosado / Sabartes
クオリティーの高いカヴァのロゼが3位にランクイン!ワインの持つスミレやバラといったフラワリーな香りや東洋系のスパイスのニュアンスが、本格派の麻婆豆腐と美しくマッチしました。スパイス由来の清涼感が感じられる組み合わせでしたが、スパークリングの刺激が辛味を際立たせるため、辛さに弱いスタッフの点数が伸びませんでした。
4位(同点) 22:2022 The Doctors’ Rose / Forrest Wines
チャーミングで華やかなロゼは、果実味やスパイスやハーブの香り、ボリューム感、テクスチャーなど全方位的に良く合いました。特に、スパイス香の同調と若干のハーブ香がプラスされることで香りを特に楽しむことができるマリアージュでした。
4位(同点) 13:2022 Pinot Blanc Haus Klosterberg Trocken / Markus Molitor
シトラス系の香りが印象的なピノ・ブランは、最も清涼感を感じるマリアージュでした。麻婆豆腐の花椒や山椒の香りとワインの柑橘の香りが良く合い、豆腐やネギとも好相性でしたが、ワインが料理に負けてしまうという意見もありました。
“何を活かすのか”で選ぶワインは変わる
スパイスが香り高く香り、辛味もしっかり効いた重慶飯店の麻婆豆腐と合わせるワインとしては、「辛味を鮮烈に感じたいのか」「甘味を補完してまろやかに楽しむのか」「油分と同調させてコクを深めるのか」「油を切ってさっぱり味わうのか」によって、評価が大きく異なりました。つまり、“何を活かすのか”、ご自身の重視するポイントによって最適なワインを選んでいただくのが正解だと思います。
辛さが苦手な方にはスパークリング(刺激)とタンニン(渋味)との組み合わせは辛味が強調されるため難しいでしょう。
白ワインはトロピカルすぎたり強い樽香はNGとなりました。まろやかに楽しみたい場合はワインに甘味のある1位のワインを、辛味を楽しみたい場合は2位のリースリングや4位のピノ・ブランがおすすめです。
また、今回は赤ワインとの相性を探るのが難しく、なかなかしっくりくるものが見つかりませんでした。全体的に、赤ワインに含まれるタンニンが辛味を際立たせてしまい、刺激が強くなりすぎる傾向が見られました。酸味については比較的好相性でしたが、赤ワイン特有の豊かな果実味やベリー系の香り、樽香は、麻婆豆腐との調和を欠いてしまいました。
いかがでしたでしょうか?今回は、ご自宅でも手軽に再現できる2種類の麻婆豆腐で検証を行いました。この結果を、皆さまのワイン選びに少しでもお役立ていただければ幸いです。

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