SO₂はワインの熟成をどう変えるのか? ― 8年熟成ワイン比較実験レポート(広報 浅原有里)
2016年5月のワインコラムプロでは、『ワインの「添加物」徹底研究』と題し、SO₂(二酸化硫黄)の役割やワインの味わいへの影響について取り上げました。その際、複数のワイナリーに協力いただき、瓶詰時のSO₂添加量を段階的に変えたワインを用意。実際に飲み比べることで、添加量の違いが香りや味わいにどのような変化をもたらすのかを検証しました。
当時の検証では、SO₂量が少ないワインはテクスチャーが柔らかく、固さが無い分“ゆるさ”のようなものを感じ、反対に添加量が多いと、果実のフレーバーが抑えられ、引き締めが強くなって硬さを感じる結果となりました。
あれから約10年。今回は前回の検証を発展させる形で、SO₂量の異なるワインを弊社のセラーで8年ほど熟成させ、テイスティング実験を行いました。長い時間を経たワインたちが見せる違いから、SO₂が熟成に与える影響を探っていきたいと思います。
■ 10年前の記事はこちら↓↓
フィラディス実験シリーズ第10弾『ワインの「添加物」徹底研究 Part 2 -SO₂(二酸化硫黄)』 (営業 中小路 啓太)
テイスティング1: 2016 Riesling V.V. / Rieffel
仏・アルザス、リースリング100%
| SO₂添加量 | コメント | スタッフ評価 |
| 0mg/L | 色調は最も濃い。酸化的で発酵による香ばしさを感じる。最も熟成が進んでおり、熟成による甘やかさがある。ペトロール香が強い。 | ◯ |
| 35mg/L | 0mg/Lに次いで色調は濃い。ゆずやカリンなど明るいニュアンスの果実味は柔らかで、まだまだ生き生きとしている。華やかでバランスが良い。もう少しだけ早く飲んだら完璧だったという意見も。 | ◎ |
| 55mg/L | 色調は上の2つより薄い。香りの出方が控えめ。熟成が程よく進んでいるが、アタックは柔らかで果実味はしっかり。ただ、酸を強く感じるため、華やかというよりタイトな印象。 | ◯ |
| 85mg/L | 色調がとても薄い。果実味や香りが取りづらく、閉じ込められた印象。酸が目立ち、ストラクチャーがしっかりとしたフレッシュな味わい。ペトロール香が余韻に伸びる。 | ✕ |
テイスティング2: 2016 Chardonnay Closerie des Lys / Altugnac
仏・ラングドック、シャルドネ100%
| SO₂添加量 | コメント | スタッフ評価 |
| 0mg/L | 色調は最も濃い。焼きリンゴやカラメル、お酢のようなひねた香り。果実味が落ちて中心がなくなり、ピークアウトしている印象。放置されたビールのような酵母の嫌な香りが残る。 | ✕ |
| 30mg/L | 熟成は進んでいるが、柔らかなテクスチャーにはハリがあり、フローラルな香りや果実味が残っている。余韻に果実の甘味が残り、上方向に広がっていく。 | ◎ |
| 60mg/L | 果実味のフレッシュさが残っている。白系のフローラルな香りがメインで、重心が重く、輪郭がかっちりと固い印象。 | ◯ |
| 90mg/L | 色調は最も薄い。果実味や香りが取りづらく閉じた印象。カクカクとした飲み心地で余韻が短く、広がりや柔らかさは感じられない。 | △ or ✕ |
テイスティング3: 2016 Bourgogne Blanc / Francois d’Allaines
仏・ブルゴーニュ、シャルドネ100%
| SO₂量 | コメント | スタッフ評価 |
| Libre: 0mg/L Total:62mg/L |
色調は4種ともあまり変わらないが、若干濁りがある。熟した黄リンゴや柑橘の香り。熟成がかなり進んでいるが不快な香りはほぼなく、テクスチャーは非常に柔らか。 | △ |
| Libre:18mg/L Total:91mg/L |
熟した黄リンゴや柑橘の華やかな香りや果実味は残したまま、程良く熟成されている。熟成香と樽香がマッチしていて良いバランス。 | ◎ |
| Libre: 44mg/L Total:122mg/L |
フローラルで華やか。黄リンゴではなく青リンゴのフレッシュさを感じる。熟成感は少なく、上の2つより固い印象。 | ◯ |
| Libre: 75mg/L Total:146mg/L |
透明感のある色調。果実味や香りが抑えられ、酸を強く感じる。むせるような刺激臭がある。 | ✕ |
※Libre=遊離型亜流酸量、Total=総亜硫酸量
※SO₂は他の物質と結合して役割を終えたものと、まだ何ともくっつかずワインの中でふらふらしているものがあり、前者を「結合型亜硫酸」、後者を「遊離型亜流酸」と呼びます。その両方を足したものが総亜硫酸量となります。詳細は2016年5月号コラムプロをご参照ください。
テイスティング4: 2016 Pinot Noir Closerie des Lys / Altugnac
仏・ラングドック、ピノ・ノワール100%
| SO₂添加量 | コメント | スタッフ評価 |
| 0mg/L | 色調は最も濃く、少し濁りがある。果実味を感じ、酸やタンニンと溶け合っている。熟成は進んでおり紅茶の香り。梅干しのようなじわじわくる酸の出方にナチュール特有の特徴が出ている。ピークを過ぎているが、アリだという声も。 | ◯ |
| 30mg/L | しっかりと果実味が残っており、酸の引き締めや滑らかなタンニンとのバランスが良い。熟成の複雑さも美しく高評価。 | ◎ |
| 60mg/L | アタックから鋭角な酸が目立ち、果実味は細く受け止められずに中盤から収束してしまう。 | △ |
| 90mg/L | 明るい色調。酸がよりタイトで支配的であり、ノンフルーツと言うくらい果実味は感じられない。各要素がバラバラしていてまとまりに欠ける。 | ✕ |

テイスティング5: 2016 Bourgogne Rouge / Francois d’Allaines
仏・ブルゴーニュ、ピノ・ノワール100%
| SO₂量 | コメント | スタッフ評価 |
| Libre:5mg/L Total:7mg/L |
色調に違いはない。アタックは柔らかで、果実味よりも出汁や梅のような旨味が強い。土やキノコの熟成のニュアンスも強く感じ、香りの出方がふわっと柔らかい。タンニンもまろやか。 | ◎ |
| Libre:17mg/L Total:35mg/L |
上のワインより酸は強く、香りの出方は締まっていて艶やか。ベリー香がしっかりと残り、トーンの高いスパイスや梅の香りが印象的。 | ◎ |
| Libre:29mg/L Total:56mg/L |
酸味が支配的で、熟成してまろやかかつトーンの高い香りや果実味とのバランスが悪い。 | △ |
| Libre:42mg/L Total:73mg/L |
酸が強くタイト。還元からか火打石のようなミネラルを感じ、ギシギシしている。果実要素が少なく、そのバランスによって樽を強く感じる。 | ✕ |

まとめ
10年前の検証では、SO₂添加量が少ないワインは柔らかなテクスチャーと開いた果実味を示し、多いワインは果実味が抑えられる代わりに引き締まった印象を与えるという結果が得られました。
そして今回、約8年の熟成を経たワインを比較したところ、その傾向は単に維持されるだけでなく、むしろ時間の経過によってさらに大きな差となって現れることが確認できました。
SO₂添加量が極端に少ないワインは、熟成が大きく進み、酸化やピークアウトの兆候が見られるケースがありました。一方でSO₂添加量が多いワインは、果実味や香りが閉じ込められたまま、酸やストラクチャーばかりが目立つ硬い印象となる傾向が見られました。
興味深かったのは、多くのサンプルにおいて最も高い評価を得たのが「中程度のSO₂添加量」のワインだったことです。熟成による複雑さを十分に獲得しながらも、果実味や香りの鮮やかさを失わず、柔らかさと骨格のバランスが取れていました。
もちろん、ワインの熟成はSO₂だけで決まるものではありません。品種や産地、醸造方法、保存環境など無数の要因が影響します。しかし今回の検証からは、SO₂が単なる「酸化防止剤」だけではなく、ワインの熟成スピードそのものを左右し、将来どのような姿に育っていくかを決定づける重要な要素の一つであることが示されたのではないでしょうか。
「SO₂は少なければ少ないほど良い」「多いほどワインを守れる」といった単純な話ではなく、優れた熟成ワインを生み出すためには、SO₂との適切な付き合い方こそが重要であることを改めて実感する結果となりました。
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