機械化はテロワールの表現を損なうのか? ー進化するブドウ栽培技術の最前線ー (バイヤー 山田篤典)

機械化はテロワールの表現を損なうのか? ー進化するブドウ栽培技術の最前線ー (バイヤー 山田篤典)

※本コラムで使用している画像は、すべてAI生成によるイメージです。

ワイン造りにおいて、人間の手作業による精密さや丁寧さは長らく重宝されてきました。斜面に連なるブドウ畑で、熟練の職人が一房ずつ果実を摘み取る光景は、今も昔も高品質なワインの象徴です。しかし現在、世界のブドウ栽培の現場には、最新技術による機械化・自動化というこれまでにない変化の波が押し寄せています。

その背景にあるのは、世界的な農業の労働力不足と職人の高齢化、そして深刻化する気候変動です。広大な畑を管理する上で、必要な時期に十分な人手を確保することは年々困難になっています。さらに、記録的な猛暑や予測不可能な異常気象が常態化する現代では、収穫やキャノピーマネジメント、防除*のタイミングの判断がかつてなくシビアになりました。もはや人間の勘や手作業のペースだけでは、刻一刻と変化する自然の脅威に対応しきれなくなりつつあるのが実情です。

*防除:害虫・害獣や病気などによる被害を未然に防ぎ、かつ取り除くこと

ここで重要なのは、現代の機械化が「効率化と引き換えに大量生産を行い、品質を低下させる」というかつての状況から脱却し始めている点です。AIやロボティクス、IoTセンサーなどを駆使した精密なブドウ栽培は、むしろ果実の品質を高め、その土地ならではのテロワールの個性をより精緻に表現するための有効な手段へと進化しています。

本コラムでは、収穫から土壌管理、除葉に至るまで、現代のブドウ畑に導入されつつある6つの最新技術を紐解き、ワイン造りの未来を探ります。


1. 収穫技術の進化:光学センサーを搭載したスマート収穫機

かつて機械による収穫といえば、安価なワインの大量生産を意味するものでした。ブドウの樹を激しく揺さぶるため果実が傷つきやすく、葉や小枝、未熟果が混入してワインに青臭さや苦みを与えてしまうという品質面の懸念があったからです。しかし、最新のスマート収穫機はこの常識を覆しています。果実へのダメージを抑えるしなやかな振動技術に加え、最大の進化と言えるのが、高度な光学センサーを用いた機上選果の実現です。

収穫機が樹を優しく揺らして果実を落とすと、コンベアを流れるブドウを高解像度カメラが捉えます。果実の色やサイズ、形状、さらに近赤外線センサーなどで状態を瞬時にスキャンし、基準に満たない未熟果や腐敗果、葉などの異物を、ピンポイントのエアジェットで的確に弾き飛ばします。これにより、健全なブドウのみをコンテナに収めることが可能になりました。従来ワイナリーで行っていた選果を畑の中で済ませるため、輸送中に不良果が潰れて健全な果汁を汚染するリスクも防げます。醸造所へ運ばれるブドウの純度は、今や熟練の職人による手選果に匹敵する精度に達しています。

また、最新の収穫機は夜間収穫においても重要な役割を果たします。気候変動による猛暑が深刻化する昨今、日中の高温下での作業はワインの品質にとって大きなリスクです。高温で収穫した果実は酸化が進みやすく、デリケートな香気成分も揮発してワインのフレッシュさが損なわれてしまうからです。これを防ぐため、GPSや自動運転技術を備えた収穫機が活躍しています。人間の目には見えない暗闇の中でもセンサーが正確に畝をなぞるため、気温が最も下がる深夜から夜明け前という短い時間帯に、安全かつ確実な収穫が可能です。

最新の収穫機導入の大きな利点として、その作業スピードの速さも挙げられます。暗所での手作業は足場も悪く、広大な区画では数十人がかりでも数日を要することがあります。しかし最新の収穫機であれば、同じ面積をわずか数時間で終えることも珍しくありません。収穫に何日もかかるとブドウの過熟が進み、品質にばらつきが生じますが、機械のスピードがあれば、畑全体の熟度を均一に揃えることができます。最適なタイミングを逃さず、冷涼さと鮮度を保ったまま醸造所へ運べるのは機械ならではの強みです。さらに、果実が冷えた状態で到着するため、ワイナリーで果汁を冷却するエネルギーを大幅に削減でき、サステナビリティの面でも大きなメリットを生み出しています。


2. AIとロボティクスによる自動剪定

ブドウ栽培において、最も熟練の技と膨大な時間を要する作業が冬季剪定です。厳しい寒さの中で何ヶ月も続くこの作業は、単に不要な枝を切り落とすだけのものではありません。残す芽の数を決めて翌年の発芽や収穫量をコントロールするだけでなく、ブドウの樹液の通り道を塞がないように切断箇所を見極める必要があり、極めて高度な技術が求められます。不適切な剪定を行えば、切り口から枯れ込みが生じ、エスカなどの深刻な木材病害を引き起こして樹の寿命を大幅に縮めてしまうからです。そのため、剪定は長らく熟練した栽培家の目と手でしかできないとされてきましたが、ここにもAIとロボティクスによる革新が起きています。

現在、実用化に向けて世界中で開発が進められている自動剪定ロボットは、高度なビジョンシステムとAIを駆使してこの複雑な作業に挑んでいます。まず、機体に搭載された複数の高解像度カメラが、葉の落ちたブドウの樹をスキャンして正確な3Dモデルを構築します。続いて、世界中の熟練栽培家たちの膨大な剪定データをディープラーニングで学習したAIが、枝の太さや伸びる角度、芽の配置から樹液の通り道を立体的に解析します。そして、樹の健康を保ちつつ理想的な樹形を作るために、どこを、どの角度でカットすべきかを瞬時に判断し、その指示を受けたロボットアームが正確な位置へハサミを入れます。

同時に、人間の職人をテクノロジーで拡張するアシスト技術も導入が進んでいます。極寒の畑で中腰のまま何千回もハサミを握る剪定作業は、作業者の身体に深刻な負担を強いてきました。これに対し、腰や腕の筋肉をサポートするウェアラブルなアシストスーツや、センサーを内蔵したスマート電動バサミが登場しています。特にスマート電動バサミは世界中の先進的なワイナリーで標準装備になりつつあり、指先のわずかな力で太い枝を切断できるだけでなく、切断回数や作業時間をIoTでクラウドに送信し、労働管理や効率化のデータとして機能しています。アシストスーツに関しても、バッテリーの軽量化などに伴い、実際の現場への導入が着実に進んでいます。

さらに、人間の作業を直接的に支援するスマートグラス(AR:拡張現実)の活用も注目を集めています。経験の浅い作業員がスマートグラスを装着して樹の前に立つと、内蔵カメラが枝の構造を捉え、クラウド上のAIが即座に解析を行います。すると、作業員の視界には、切断すべき正確なポイントと角度がホログラムのように重なってガイド表示されるのです。

この技術は、屋外特有の複雑な光の反射や天候への対応といったハードルがあるため、現時点では主に研究機関や一部の最先端ワイナリーでのプロトタイプ試験にとどまっていますが、画像認識精度の向上により、数年以内の本格的な実用化に向けて開発が急ピッチで進められています。これが実現すれば、深刻な職人不足に悩む現場であっても、誰もが熟練者と同じ視点を得て、精度の高い剪定を行うことが可能になります。

完全自動化のロボットであれ、実用化が進む電動ツールや開発中のスマートグラスであれ、これらは単なる省力化の道具ではありません。何十年もブドウの樹と向き合ってきた熟練栽培家の経験に基づく直感と暗黙知を、デジタル技術によってアルゴリズム化し、次世代へと継承していくための画期的なアプローチと言えるでしょう。


3. 自律型ロボットによる非化学的除草と土壌管理

テロワールを最大限に表現し、高品質なブドウを栽培するためには、豊かな微生物系が息づく健全な土壌環境が不可欠です。しかし、長年にわたり世界中の畑で使用されてきた化学除草剤は、土壌微生物の多様性を損ない、自然環境や生態系への負荷が大きいとして、近年フランスをはじめとする欧州諸国を中心に厳しい使用制限や禁止措置が課されるようになりました。この脱・化学農薬という現代ワイン界の大きな課題に対し、最も有力な解決策の一つとして登場したのが、自律型ロボットによる非化学的除草です。

最新の除草ロボットは、高精度なGPSとLiDAR(レーザー光による空間センサー)を搭載し、無人で畝間を正確に自律走行します。ブドウの樹の細部まで感知し、傷つけることなく作業を進めることが可能です。物理的なブレードや回転ブラシを使って雑草を根元から刈り取る、あるいは土を優しく反転させて除草するタイプのロボットは、ヨーロッパやアメリカの先進的なワイナリーですでに本格的に導入されています。特にオーガニックやビオディナミを実践する生産者にとって、人手のかかる草刈りの自動化は、持続可能な栽培を支える現実的な選択肢として普及が進んでいます。

一方で、高温の熱線や高出力レーザーを用いて瞬時に雑草の細胞を破壊する次世代技術については、現在スマート農業プロジェクトや一部のトップワイナリーでの実証実験にとどまっています。しかし、こうしたロボット技術が進化すれば、化学物質に頼ることなく効率的な除草が可能になります。環境配慮と労働力不足の解消を同時に叶える技術として、今後の一般普及が期待されます。

また、これらの自律型ロボットがもたらす物理的な土壌保護の効果も見逃せません。従来の大型トラクターは車体重量が3〜5トンにも達し、防除や除草で何度も畑を往復するうちに、土壌を激しく踏み固めてしまう土壌踏圧を引き起こしていました。これが水はけの悪化や微生物の活動低下を招くというジレンマがあったのです。

対して、最新の自律型ロボットはコンパクトに設計されており、重量は従来の半分以下の1.5〜2トン程度に抑えられています。さらにその足回りには低圧タイヤや最適化されたクローラーが積極的に採用されています。特にVery High Flexion技術などに代表される最先端の低圧タイヤは、意図的に空気圧を通常のトラクタータイヤよりも最大40%程度低く設定できるように設計されています。空気圧を下げてタイヤを大きくたわませることで、土壌との接地面積を劇的に広げ、荷重を広く分散させる仕組みです。これにより、土を鋭く押し潰すのではなく広い面で捉えて優しく走行する効果を生み出します。1.5トンという軽量な車体とこの低圧タイヤの相乗効果により、土壌への接地圧は従来の大型トラクターと比較して50%から最大70%近くも軽減されることが実証されているのです。

興味深いのは、人間が手作業のために何度も畑に入る場合と比較しても、ロボットの方が土壌保護の観点で優位性を持つという点です。人間の体重自体は軽いものの、足の裏という極めて狭い面積に圧力が集中します。年間を通じて大勢の作業員が同じ畝間を幾度も歩き回れば、表層の土壌は局所的に踏み固められてしまいます。一方、最新のロボットは低圧タイヤなどの広い接地面積で荷重を分散させるうえ、高精度なGPS制御により毎回全く同じ轍のみを走行するようにプログラムできます。つまり、走行ルート以外のブドウの根が張る大部分の土壌には、物理的な負荷をかけずに済むのです。

結果として、土壌は隙間が保たれてふかふかの状態となり、土中に十分な酸素が行き渡ることで、ブドウの根は地中深くの岩盤層へとスムーズに伸びていきます。土中の豊かな生態系と物理的な柔らかさを守り抜くこれらの技術は、複雑なテロワールを表現するための、非常に理にかなったアプローチと言えます。


4. 精密キャノピーマネジメント

太陽光はブドウの光合成を促し、ワインの色調や渋みをもたらすアントシアニンなどのポリフェノール、そして豊かな芳香成分の成熟に不可欠な要素です。しかし、近年の気候変動に伴う強烈な日差しや予測不可能な熱波は、日焼けという致命的なダメージを与えるリスクを急増させています。日焼けした果実は急激に水分と酸を失い、ワインにジャムのような重たい風味や焦げたニュアンスを与えてしまうためです。したがって、現代の栽培において求められるのは、太陽光を無防備に浴びせるのではなく、いかに緻密に制御するかという視点です。この複雑な課題に対し、最新テクノロジーによる精密なキャノピーマネジメントの重要性がますます高まっています。

現在注目を集めている最新の自動除葉機は、単にトラクターで一律に葉をむしり取ったり、刈り込んだりするような機械ではありません。機材に搭載された高度な光学センサーやカメラが、樹全体の葉面積指数(LAI:葉の茂り具合を示す指標)や、その区画に降り注ぐ日射量をリアルタイムで測定・解析します。そして、果実に対して強烈な直射日光が当たるのを防ぎつつ、光合成を促す最適な日照量を確保するために、不要な部分の葉だけを的確に判断してカットしていくのです。光合成に十分な葉の面積を確保しつつ、果実周辺の風通しを良くして灰色カビ病などの病害を防ぐ。この二つの条件を両立させる絶妙なバランスを保つには、非常に高度な技術が求められます。これまでは、熟練の職人が一房ずつ太陽の角度や葉の重なり具合を見極めながら手作業で対応するしかありませんでした。しかし現在では、この極めて繊細な判断を、機械がトラクターの走行スピードに合わせて自律的かつ精密に実行できるようになったのです。

また、その作業スピードがもたらす恩恵も見逃せません。近年増え続ける気象の極端化により、キャノピーマネジメントのタイミングはかつてなくシビアになっています。たとえば、数日後に突然の熱波が予報された場合や、長雨の直後に湿気によるカビの蔓延リスクが急上昇した際など、広大な畑を人間の手作業だけで急遽ケアするには限界があります。しかし、最新の機械による優れた処理能力があれば、熱波が到達する前、あるいは病害が発生する前の最適なタイミングを逃すことなく、わずかな期間で一気に畑全体の通風性や日当たりを最適化できます。予測不可能な気象リスクからブドウを守り抜くこの機動力は、気候変動下においてワインのフレッシュさとエレガンスを保つための大きな鍵となっています。

もう一つの画期的な点は、気候変動への適応に向けた戦略的なアプローチを、樹の個体差に合わせて実行できることです。比較的穏やかな朝日が当たる東側の葉を取り除いて朝露を乾かし、強烈な西日が当たる西側の葉は日傘として残すといった非対称な除葉戦略は、現代の栽培において非常に重要です。しかし、ブドウの樹勢は畑の中で決して均一ではなく、同じ畝でも葉が鬱蒼と茂っている箇所とスカスカな箇所が混在しています。これを一律の強さで除葉してしまうと、樹勢の弱い樹は光合成に必要な葉まで失い、果実が直射日光に晒されてしまいます。

そこで最新のスマート除葉機は、AI画像認識を駆使してこの問題に対処します。トラクターが畝を進む際、センサーが果実の位置と葉の隙間の割合を瞬時にスキャンし続けます。そして、それぞれの樹に当てるべき日照量を計算し、カッターの深さや、葉を吹き飛ばすエアパルスの強度を自動調整していくのです。より高度なシステムでは、あらかじめドローンや人工衛星が撮影した畑の生育マップ(NDVI:植生指数)のデータとGPSを連動させています。樹勢の強い区画では深く除葉し、弱い区画ではブレードを自動で引っ込めて葉を温存するといった、樹の健康状態にパーソナライズされた処置を、走行しながら自動で実行することが可能です。

現時点において、こうしたリアルタイムの可変制御やマッピングデータとの連携機能を備えたスマート除葉機はすでに実用化されています。Pellenc社などの先進的な農業機械メーカーによって製品化されており、フランス南部やアメリカのカリフォルニアなど、強い日差しと熱波に悩まされる世界の銘醸地において、気候変動対策の現実的な選択肢として本格的な導入が進んでいます。


5. ドローンとAIを活用した農薬散布

ブドウ栽培における最大の脅威であるベト病などの病害に対し、従来はトラクターで畑全体に一律で農薬や保護剤を散布するのが一般的でした。しかし、この方法は健全な樹や土壌にも薬剤を浴びせてしまうため、環境負荷やコスト増大、さらには重機による土壌の踏み固めを招くという課題がありました。この状況を大きく変えようとしているのが、ドローンとAIを活用した精密な防除技術です。

最新のセンシングドローンは、人間の目に見えない光の波長を捉えるマルチスペクトルカメラを搭載しています。上空から葉の光合成活性などを測定することで、AIが病害の初期兆候を肉眼で確認できるより数週間も早く特定し、感染リスクのマップを作成します。そのデータをもとに、散布用のドローンが必要な箇所に必要な量だけをピンポイントで自動投下します。現在、こうしたカメラによる早期発見システムやDJI社などの散布ドローンは先進的なワイナリーで導入が進んでおり、このスポット散布によって薬剤の使用量を従来の30〜50%も削減できることが実証されています。コストを抑えつつ環境への負荷を減らす、非常に有効なツールです。

さらに、ドローンによる上空からのアプローチには、物理的な面でも大きな強みがあります。特に大きなメリットは、これまで大型農業機械の導入が極めて困難とされてきた特殊な環境において、作業効率を大幅に向上させる点です。たとえば、ブルゴーニュ地方などに代表される畝間が狭い高密植な畑や、南仏などで見られる伝統的な株仕立ての畑、さらには人間が立っていることすら困難な急斜面の畑であっても、上空からであれば地上の物理的な制約を受けることなくアプローチできます。

加えて、雨上がりでトラクターが畑に入れないようなぬかるんだ状態でも、ベストタイミングを逃さず迅速に対処できます。空を飛んで作業を行うため、重機の往復による土壌の踏圧を引き起こす心配もありません。足を取られる泥の中で重い噴霧器を背負って歩く過酷な手作業での散布と比較しても、作業者の肉体的な負担を大幅に軽減しつつ、スピーディーかつ均一に防除を完了できる点は、ドローンならではの優れた特徴です。無駄な薬剤散布を抑え、自然環境や土壌生態系を守りながら持続可能な栽培をサポートする最新のドローン技術は、テロワールの純粋さを守るための新たなスタンダードとなりつつあります。


6. IoTとリモートセンシングによる生育モニタリング・気候変動予測

気候変動がブドウ栽培にもたらす影響は、単なる年ごとの気温差というレベルをとうに超えています。予測不能な熱波や深刻な干ばつ、局地的な豪雨といった極端な気象が日常化する中、栽培環境そのものを根本から見直す中長期的な適応戦略が求められています。かつてのように、代々受け継がれてきた経験則や例年通りのカレンダーに頼るだけでは、変化し続ける自然環境に対応しきれなくなっているのです。

そこで現在、先進的なワイナリーが本格的に導入を進めているのが、IoT技術とリモートセンシング(遠隔探査)を活用したデジタル・ヴィティカルチャーです。広大な畑の至る所に小型のIoTセンサーを設置し、土壌の深さごとの水分量や地温、ブドウの葉や房周辺の温度・湿度といったマイクロクライメイトを24時間体制で測定します。地上から得られるこれらの詳細なデータは、上空の人工衛星が捉える広域の気象予報や植生状態のデータと、通信ネットワークを通じてリアルタイムで同期されます。こうして集められた膨大な情報を、クラウド上のAIが統合・解析します。その結果、熟練の栽培家が直接畑を見回っても把握しきれない、地下何センチの地点で、ブドウの樹がどの程度の水分ストレスを感じているかといった目に見えない健康状態が、スマートフォンやタブレットのマップ上に正確に可視化されるのです。

高品質なワインを生み出す上で、水分のコントロールは極めて重要です。ブドウの樹は適度な水分ストレスを受けると生存本能が働き、果実へ優先的に養分を送り込もうとします。これにより、ワインの色合いや骨格となるポリフェノール、豊かな風味が果実に凝縮されます。しかし、近年の熱波や干ばつによる過度なストレスは大きなリスクです。水分不足が限界を超えると、樹は体内から水分が逃げるのを防ぐために葉の気孔を完全に閉じ、光合成を停止してしまいます。これが続くと果実は成長を止め、酸味が失われるなど、品質に深刻な影響を与えます。

ここで、先述のデジタルシステムが活躍します。システムはデータから、樹が限界を迎える一歩手前のタイミングを正確に予測します。そして、樹を枯らさず果実の凝縮感を高めるために、必要な区画の根元にだけ必要最低限の水を一滴ずつ与える点滴灌漑の最適な量とタイミングを指示します。また、雨のみに頼る地域では、土壌の水分を奪いすぎるカバークロップをいつ刈り取るべきかの判断材料にもなります。さらに、区画ごとの生育状況から、科学的根拠に基づいて最適な収穫日を割り出すことも可能です。

こうしたデータに基づく精密な灌漑システムや収穫予測は、すでに世界のワイン産地で広く実用化されています。水資源の確保が重要な課題であるアメリカのカリフォルニア州やオーストラリア、チリといった地域では、すでに標準的なインフラとして定着しています。さらに近年では、干ばつが深刻化しているフランス南部やスペインといったヨーロッパの伝統的な産地でも、法律による灌漑制限の見直しと連動して急速に導入が進んでいます。最新のデータ解析技術は、気候変動という脅威の中で、貴重な水資源を節約しながらテロワールの個性を守るための、不可欠なツールとなっているのです。


7. 機械化と人間の哲学・職人技の融合

これまで見てきたように、最新テクノロジーによるブドウ栽培の機械化は、かつて危惧されたような工業的な大量生産やテロワールの均一化をもたらすものではありません。むしろそれは、その土地にしかない個性を極限まで引き出し、純粋に表現するための精密なツールへと進化しています。一方で、手放しで喜べることばかりではないのも事実です。最大の懸念は、最先端テクノロジーの導入に多額の初期投資が必要となる点です。資金力のある大規模ワイナリーと、そうでない小規模ワイナリーとの間で、品質や生産性に格差が広がる可能性が指摘されています。このまま技術格差が拡大すれば、優良な農地や技術が大資本に集約され、小規模生産者が長年守り抜いてきたワインの多様性が市場から失われていくリスクも孕んでいるのです。

さらに、法規制による地域間格差も無視できません。たとえばフランスをはじめとする伝統的な産地では、テロワール保護の観点から自然降雨のみでの栽培が原産地呼称の原則とされ、長らく灌漑が禁止されてきました。近年では異常気象による深刻な干ばつへの対策として、収穫前の一定期間までに限って特例で許可される動きも出ていますが、あくまで樹の枯死を防ぐための救済措置であり、現在でも厳格な制限下にあることに変わりはありません。そのため、最新の精密灌漑システムを本格的に導入するには依然として高いハードルがあります。対照的に、法規制が比較的緩やかなニューワールドの産地では、自由で迅速なテクノロジーの導入が進んでいます。気候変動が激化する中、こうしたテクノロジー導入スピードの差が、伝統国と新世界のワインの間に新たな競争力の差を生み出す要因にもなり得るでしょう。

それでも、技術そのものが伝統を破壊するわけではありません。たとえばブドウの樹を植え替える際、特定の単一クローンで畑を均一化するのではなく、畑の中からその土地に適応した優秀な古い株を複数選び出し、多様な子孫を残していくマッサル・セレクションという伝統的な手法があります。畑の遺伝的多様性を重んじるこのアプローチは、樹の形や成長のペースに個体差が生じやすくなります。そのため、規格化された均一な畑を要求するかつての大型農業機械とは非常に相性が悪いとされてきました。しかし、最新のAIやロボティクスはこれと決して対立しません。現代の自律型ロボットやAIは、そうした多様で複雑な樹々の個性を一本ずつ認識し、それぞれに最適なケアを施す柔軟性を持っているからです。つまり、伝統的な多様性の追求とテクノロジーは、今まさに高度なレベルで融合しつつあるのです。

そして最も重要なのは、これらの最新テクノロジーが人間の職人技を奪うのではなく、造り手を過酷な労働から解放するという事実です。剪定や除草、防除といった体力を激しく消耗する作業を機械が担うことで、栽培家は畑を歩き、土の匂いを嗅ぎ、葉の微細な変化を感じ取るといったより深い観察に時間とエネルギーを注ぐことができるようになります。気候変動という自然の脅威を前にして、いつ収穫の決断を下すのか。そして、どのような哲学を持ってワインを仕上げるのか。テクノロジーの進化は、ワイン造りにおいて最も人間らしい思考と感性の領域を、かつてないほど豊かに広げてくれるはずです。


【参考出典元】

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