スペイン出張報告 ~スペインでカベルネ・ソーヴィニヨンとシャルドネを探す (営業 戸谷 良子)
皆さんこんにちは。スペイン担当の戸谷です。 3月31日から4月3日まで、スペイン・バルセロナで隔年開催されている展示会Alimentariaに行ってきました。今回の目的は、スペインワインの魅力をより多くの方に知っていただくために、まずは手に取っていただきやすい美味しいカベルネ・ソーヴィニヨンとシャルドネを探すことでした。
【スペインワインの魅力を知ってもらうために 】
スペインワインの魅力を簡潔に挙げるとすると、①リーズナブルなのにクオリティーが非常に高いことと、②多種多様な品種が存在する面白さだと思います。
近年、スペイン 料理店や気軽なバルが増えたことに加え、小売店でのスペインワインの取り扱いも格段に増えてきており、その存在は昔よりも身近になっていると感じます。しかし、まだまだ一般消費者に浸透しているとは言えません。また、スペインワインをよく飲まれるお客様でも、未体験の品種には手を出さない方が多いのではないでしょうか。実際、来店されたお客様に、優れた土着品種の個性の豊かさや味わい深さを知ってほしい!とお勧めしても、結局馴染み深いブドウ品種が選ばれてしまうというお声をよく伺います。
このような状況を打破するために、スペインワインを普段飲まれない方々にはまずはそのクオリティーの高さを知っていただき、また土着品種までには手を出されない一般のワイン愛好家の皆さまには“馴染み深い”品種からよりスペインワインの魅力を知っていただくために、優秀な国際品種をご紹介すべきではないかと考えました。
【注目のD.O.とカベルネ・ソーヴィニヨン、シャルドネそれぞれの味わい 】
スペインは、ヴィンテージにあまり左右されず、安定して安くて美味しいワインが生産できる産地です。しかし、シャルドネにはミネラル感や酸を生む石灰土壌が向くのに対して、カベルネ・ソーヴィニヨンには青さや硬い味わいとなる石灰土壌は合わず、豊かな果実味を生む砂利質の土壌が向くというように、この2品種の栽培に向いている土壌は異なります。そのため、同じエリア(=同じ生産者)から双方セットで探すのは難しいだろうというのが当初の予想でした。4日間の試飲を通して見えてきたことをお話ししたいと思います。
スペインでは大概のエリアで国際品種を手がけていますが、その中でも 国際品種を多く扱っている注目のD.O.に焦点を当ててみます。
D.O.ペネデス
カタルーニャ地方では、いくつかのD.O.で盛んに国際品種を栽培しており、バルセロナ周辺のD.O.ペネデス、D.O.コンカデバルベラ、D.O.コステルス・デルセグレなどの国際品種のワインは日本にも多く入ってきています。その中で最も面白い産地だと感じたのはD.O.ペネデスでした。
バルセロナの南、約40キロのD.O. Cavaの主要産地でありますが、カベルネ、シャルドネをはじめ国際品種が多く生産されています。標高差・土壌差があるエリアで、D.O.内に3つのリージョンがあります。
バホ・ペネデスはその名(バホ=低い)のとおり標高が低く、地中海沿岸という場所の影響を受けるエリアで、土壌は砂質です。ペネデス・セントラル(メディオ・ペネデス)は 少し内陸に入っており、平均海抜が 200 mくらいに上がるため、気温がバホ・ペネデスより下がります。土壌には石灰が多く含まれ、カベルネ、シャルドネのほかピノ・ノワールの栽培も多くなるエリアです。ペネデス・スペリオールは標高が平均 700 mとなり、粘板岩や砂質の土壌も存在するものの、味わいの個性を形成するのは石灰の強さと標高の高さ由来のものに変化していきます。
D.O.ペネデスのワインは一貫してきれいで石灰のミネラル感を持つものになる反面、かなりタイトで特に赤ワインでは青さを感じるもの、引き締める味わいになるものも多くありました。
涼しい場所且つ石灰の土壌で育ったカベルネ・ソーヴィニヨンのテイストは比較的難しいものになりやすく、実際に石灰土壌の特徴である引き締め感のある青みの残るテイストが多いと感じました。標高が低い場所で造られたものの中には、酸が低めで甘みもあり良いと思ったものもありましたが、ペネデスのテロワールはシャルドネに断然有利に働いていました。シャルドネは、標高の高いものを中心にどのワインを飲んでもアフターのミネラル感が秀逸で、中盤にきれいな酸を伴い涼やかな印象を残しつつまとまりのある仕上がりのものが多く、上質でコストパフォーマンスの高さを感じました。価格帯としては、この後ご紹介するD.O.よりは一段高くなりますが、味わいは相応以上であり、スペイン最高峰のシャルドネのエリアであることは疑いようもないと思います。
D.O.ラ・マンチャ
内陸の最も大きなD.O.(日本の国土のおよそ 1/10!)で、大陸性気候の影響を極端なほど受け、雨が非常に少なく乾燥した風が吹くエリアです。風力発電で有名なエリアでもあります。ワイン生産としては、昔は品質を顧みない大量生産の産地という印象がありましたが、近年ではそのイメージを覆すワインも出てきています。
ラ・マンチャは広大なエリアですが、実はラ・マンチャにあるブドウ畑の半分程度しかD.O.を名乗ることが出来ません。エリアとしてはトレド地方、シウダッドレアル地方、アルバセテ地方、クエンカ地方の 4 つに分かれ、土壌は基本的には粘土が中心ですが石灰や砂、稀に火山の土壌も散見されるため、場所によって味わいはかなり異なります。
これほどの大きなD.O.だとテロワールもそれぞれ違うため、全体のエリアの特性とはっきり言えるものはありません。テロワールと生産者の技量によって安くて美味しいワインが見つかるエリアであると感じました。
D.O.カリニェナ
カタルーニャより少し内陸に入った北部地方のD.O.カリニェナは 1930 年代にはD.O.として認められたエリアです。もともとはリオハやシェリーで名を馳せるヘレスと並ぶ優良銘醸地として知られていたようですが、残念なことにその後の内戦で畑が荒れてしまいワイン産業は衰退していました。しかし近年、その魅力が再度見直されてきています。カリニェナは場所によっては石灰の含有量が高いそうで、カベルネ・ソーヴィニヨンよりシャルドネが有利かと思いましたが、どちらのワインを試飲しても美味しいものがあるエリアだと感じました。シャルドネは申し分なく、またカベルネ・ソーヴィニヨンもD.O.ペネデスのものほど引き締まったアフターがなく、品のある甘さと安定感がありました。
D.O.アリカンテ
D.O.フミージャと、D.O.バレンシアとのちょうど間に入る位置にあるD.O.アリカンテ。ここはとても乾燥したエリアで、灌漑施設がないと国際品種は育たないそうです。土壌は石灰と粘土が入り混じっており、夏は乾燥が激しいですが冬の寒さは穏やかで、その個性を表すように熟した果実を感じるフルーティーで温かみのある濃く強いカベルネとシャルドネが多くありました。
カリニェナやアリカンテなどベルネ・ソーヴィニヨン、シャルドネの両方が良い生産地もありましたが、今回は同じD.O.からこの 2 品種をセットで探してくることは出来ませんでした。しかし、それぞれの品種で良いものを造っている生産者をいくつかピックアップしてまいりましたので楽しみにしていてください!!
【念願のフアン・ヒル訪問 】
シルバー・ラベルでおなじみのD.O.フミージャのボデガス、フアン・ヒルに、私自身としては初めて訪問して参りました。
到着すると、駐車場からかなりの大音量で陽気な♪音楽が流れているのに まず驚きました。スペインらしくてとても盛り上がります!そして、ワイナリーの 目の前には、シルバー・ラベルのエチケットのモチーフになっている桜の樹がありました。
畑を訪問してびっくりしたことがあります。シルバー・ラベルとクアトロ・メセスの畑は表土が殆どなく、その下には厚さ 50 センチもある見たこともないような分厚い石灰の岩板が存在しているのです。石は石でも1枚板の岩板とは驚きです。ブドウの樹を植える際、機械でその岩板を砕いて一気にその下の土ごと耕せば楽ですが、それをせずに昔ながらのスタイルで一つ一つ丁寧に岩板を砕いて苗を植えるのに適度な穴を開けるという話を聞きました。手間もコストもかかるこの方法を採ることで、パワーがありながら全くうっとうしさのない綺麗な酸やミネラルが感じられるモナストレルが産まれるのだと改めて知りました。
フアン・ヒルの醸造施設は非常にキレイで整っており、ラボ室では沢山の従業員が実験を行っていました。畑も醸造所も働く人数もすべてがビッグですが、取り組んでいる仕事の一つ一つは細やか且つ地に足が付いたもので目指しているレベルの高さを感じました。例えば、価格のレベルに関係なくどのアイテムでも新しいワインをリリースするまでには最低 4 年間も実験をして試行錯誤を行っています。また、現在フィラディスで扱っている低価格で使い勝手の良い『ペドレラ』ですが、こちらも買いブドウではなくセレクションした自社のブドウを使用して丁寧に造っています。(ペドレラより更に低価格のラインナップでは買いブドウのものもあり、それらは北欧向けに輸出をしているそうです。)
そんな取り組みが功を奏し、フアン・ヒルのワインは日本はもちろん世界的にもかなりの需要があるようで、取り扱いを開始した 7 年前と比べると、生産本数が 160 万本から 600 万本と約 4 倍になっていました。今やスペインを代表する大規模なワイナリーとなったフアン・ヒルではありますが、大量生産によりコストを下げられるというメリットをワインの品質向上のために使うことにより、常にそれを消費者に還元しているのだと分かりました。こんなに多くのワインを生産しながらも、品質を常に高く保っているワイナリーは世界的に見てもとても少ないと思います。フアン・ヒルの正規代理店として日本のお客様にワインをご紹介することができ、本当に良かったと実感しました。
【土着品種モスカテル、ベルデホとの極上マリアージュ 】
フアン・ヒルではワイナリーでランチをいただいたのですが、現在フィラディスが扱う全てのワインと地元の料理を合わせられる贅沢な時間となりました。最も印象的で格別だったのは、カラスミのごとくエキス分が凝縮したしっとり柔らかな干しマグロと、2013年のモスカテルのマリアージュでした。
マグロの熟成からくる甘みと、干して凝縮されたほど良い塩辛さと香ばしさに、モスカテルのほんのりとした甘さとスパイシーさが混在するワインがとてもよくマッチしていました。塩分が高いので食べ過ぎてはいけないと思いながらも、たらふく食べて飲んで楽しんできてしまいました。
マリアージュと言えば、バルセロナで行ったレストランでも素敵な体験をしました。
牛肉の冷製にフォアグラを少し、そしてマヨネーズのテイストがあるアイスクリームと小口ねぎが添えられていたお料理をいただいた際、それと共に供されたのがベルデホ 100%のワインでした。
ベルデホはルエダ原産で固有の土着品種です。シュール・リーの有無、バトナージュの頻度や期間、樽のかけ方、そして 一緒にブレンドする品種(ソーヴィニヨン・ブランやビウラ)の有無によって、スッキリシャープなのか、あるいはバニラやナッツのテイストが出てまろやかなのかといったように、かなり姿を変えます。シュール・リーやバトナージュを行えば行うほど、樽を使えば使うほど、こってりとしたインターナショナルな味わいになりますが、品種の個性を失わない適度なバランスが重要になります。
こちらでいただいたベルデホは 2011 年というまだ若さのあるヴィンテージでしたが、樽がほんのりとかかっていて品種特有のハーブ香は感じられるもののやや抑え目、中盤からアフターにかけてハチミツを感じさせるようなコクも感じられました。
牛肉の甘みにクリーミーなフォアグラとマヨネーズの香ばしさがワインのふくよかさとマッチし、またアクセントを加える小口ネギの苦味と爽やかさがベルデホらしいハーブの香りと寄り添い、素晴らしいマリアージュでした。単体だと使い勝手が難しいと避けられがちなベルデホ由来のハーブ感も、お料理と合わせるとこんなに映えるのかと驚きました。
アルバリーニョと並ぶスペインの白の二大土着品種、ベルデホ。日本人の味覚に合うワインとして、100%ベルデホというアイテムもいつかフィラディスのラインナップに入れたいと思っています。
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