フィラディス実験シリーズ第3弾 『熟成肉にマリアージュするワインとは?!』 (営業 吉田 淳)

フィラディス実験シリーズ第3弾  『熟成肉にマリアージュするワインとは?!』 (営業 吉田 淳)

2012年10月号のニュースレターでは、『“ステーキに赤ワイン”・・・・その赤ワインって なに??』と題して、肉の産地や部位ごとにマリアージュする赤ワインを探る実験結果を レポートし、たくさんの反響をいただきました。 そこで、今回は更に発展させて、肉が熟成したら合わせるワインはどう違ってくるのか? 巷でブームになっている熟成肉をテーマに、社を挙げて実験してみました!!


 

【熟成肉とは? 】

皆さん、そもそも熟成肉とはどのようなものか、詳しくご存じでしょうか?先ずは肉を熟成させる方法やその効果について簡単に説明します。

(エイジングビーフ)とは、アメリカなど欧米を中心に発展した伝統的な処理方法で熟成させた肉のことです。欧米では水分が多い赤身肉が主流。これをいかに柔らかく、おいしくするかというのが出発点になっています。和牛のようにサシ(=脂)の多い肉だと酸化してしまうため、熟成には向きません。

 

● 熟成方法

大きく分けて「ドライエイジング」と「ウェットエイジング」の2種類があります。

 

<ドライエイジング>

欧米で一般的に行われる手法です。骨付きの大きな部位のまま、温度1℃~4℃、湿度60%~80%の冷蔵庫(熟成庫)で保存します。そこに一定条件における風をあてることで、肉に含む余計な水分をコントロールし、熟成に必要な微生物を増殖させるとともに酵素の働きにより、凝縮されたタンパク質を旨味成分のアミノ酸・ペプチドに変えていきます。20日から時には2ヶ月
ほど乾燥させますが、21日後には重量が20%程度減少し、減少した分フレーバーは濃厚なものに変わっていきます。

ドライエイジングが進んだ状態では、肉の外観は赤黒く変色し、薄く白カビなどが発生する場合もありますが、それが熟成で最高の状態とも言われるそうです。乾燥による重量のロスの上に、外側の乾燥した部分を取り除いてステーキとするため、最終的に残るのは60%以下だと言われています。

歩留りロスの発生、保管冷蔵庫(熟成庫)などの設備費・電気代などの経費がかかる上に、温度・湿度も毎日調整する必要があるため、ドライエイジングには大変な手間がかかります。

 

<ウェットエイジング>

ドライエイジング(乾燥熟成)に対してウェットエイジング(またはバキュームエイジング)という熟成方法があります。大部分の牛肉がこの方法により熟成されているため、単純にエイジングというとウェットエイジングの事を指します。

乾燥させずにバキュームパック(真空包装)内で熟成をさせるもので、簡単で歩留りも良いため、コストが低く一般的です。北米やオセアニアから輸入されるチルドビーフは、輸送・流通にかかる時間が3~5週間程度とちょうどエイジング期間として 適しており、日本に到着して店頭に並ぶ頃には食べ頃に熟成された状態になっています。つまり、ほとんどの外国産牛肉はエイジングビーフなのです。

ちなみに、日本にも「枝枯らし※」と呼ばれる熟成の伝統手法がありました。風を当てずに熟成させるのですが、まさに昔よく見かけた肉屋の店頭に吊るされていた肉がそれです。昔の肉の方がうまかったな~という方がいらっしゃったら、それはきっと肉屋に吊るされていた熟成肉を召し上がっていたのでしょう。

※今は食品衛生の問題から「枝枯らし」はほとんどなくなってしまい、真空パックでの保存が主流になっています。

 

● 実験に使用した肉について 

今回の実験では、日本国内で生産・飼育された産地直送にこだわるレストラン卸専門の横内商店様にご協力いただき、牧場と連携して本格的なドライエイジングで約 1 か月かけて熟成させた牛肉を用意しました。

肉は岩手の短角牛。放牧で育てたためほとんど脂身がなく、赤身で凝縮していながらツヤや柔らかさがある上質なサーロインです。

実験を行ったのは、5 月 28 日。熟成短角牛は、4 月 16 日に岩手の牧場でトチクし、そのまま牧場の冷蔵庫(専用熟成庫)にて熟成しました。温度・湿度・風の管理はもちろん、最初の 2 週間は菌が付きやすい環境を作るために毎日新しいさらしを巻いていただきました。やはり大変な手間がかかっています!

また、熟成肉と比較するために、熟成前の肉(以降フレッシュ肉と呼びます)も用意しました。これは5 月 13 日にトチクしたものです。

 

● それぞれの肉の味わい 

フレッシュ肉はツヤや滑らかさがあり、突出して鋭い要素はなくバランスのとれた上質な味わいでした。

熟成肉は、凝縮して肉自体の甘味・旨味(アミノ酸)・風味が大きくなっていると感じました。更に柔らかさも増し、口の中での味わいの滞留時間も長く、複雑味も増しました。味わいの違いは下の図をご覧ください。

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はっきり言って、この 2 つが同じ環境で育った同じ種類の肉だとは到底思えません!衝撃でした。

※注 1 :肉はすべてミディアムレアに焼き、塩コショウのみのシンプルな味付け。

※注 2 :一切れ 8 ~ 10gと小さいため、通常のステーキを食べるのとは滞留時間が異なる。

 

【さあ!いよいよ実験スタート 】

● マリアージュの考え方

マリアージュの基準としたのは、若手ソムリエセミナーでおなじみのワインテイスター大越基裕氏から伝授された以下の 5 項目。これを元に採点し、総合順位を決定しました。

<五味のマリアージュ(酸味・甘味・塩味・苦味・旨味)>

ワインと料理の双方がそろうことにより、味わいの五味全てがバランス良く補完されることで成り立つ。

<同調のマリアージュ>

ワインと料理、お互いの味わいの個性の一部が寄り添うことでフレーバーを引き立て、余韻長く双方の味わいを楽しむことができる。

<中和のマリアージュ>

五味や刺激の中で、互いにお互いの個性を中和することができる関係の要素を利用して味わいのバランスをとることで、互いのフレーバーを楽しむことができる。

<風味のマリアージュ>

味わいの中でも、味わっているものを理解するために最も大切なものだと思われるフレーバー。ワインと料理の両方のフレーバーの同調によって双方の風味をよりまとまりあるものにする。

<テクスチャーのマリアージュ>

食感に注目した考え方。ワインの柔らかさと厳しさの関係に対する料理の柔らかさと固さ、温度による食感の変化に注目して考える。味わいの方向性の一致を計る。

 

※大越氏のマリアージュ理論詳細は、ニュースレター2013年12月号をご覧ください。

※本来、牛肉とワインのマリアージュで重要になる脂とタンニンの中和ですが、今回のお肉は脂の少ない赤身であることから、それほど重要なポイントとはなりませんでした。

 

【予選の結果 】

HP_gazou3

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● フレッシュ肉

☆マリアージュポイント☆

* ある程度の引き締め感があり、小さく細かい丸み

* シンプルで突出して鋭い要素がない(特に甘味、酸)

* 輝きのあるツヤ感

 

 

肉に若さ(熟成なし)故の固さがある為、ワインの質感も柔らかすぎてしまうと肉に負けてしまい、マリアージュどころかワインが質素になってしまう結果になりました。

また、味わいにおいては肉自体にそれ程強い味わいがあるわけではないので、ワインに強い要素があると、浮き出てしまったり肉自体の味わいを完全に覆い隠してしまいました。

(例)

スペイン メンシアの程良い甘味は○、モナストレルのしっかりとした甘味は△

チリカベルネの穏やかな酸は○、イタリアカベルネの鋭角的な酸は×

また、お肉自体が水々しいため、ワインもツヤ感があるものが同調していました。

(例)

リボラジャッラ◎ メンシア○ アリアニコ○

皆さん、ステーキにはがっつりと樽香の効いたワインが合うと信じていませんか?

何と、これがフレッシュ肉には1番のNGポイントになりました。お肉の味がすっかり消されてしまいます。また、樽香以外でも極度に個性の強い香りも難しいという結果になりました。

(例)

ネッビオーロ(ステンレス熟成)○ ボルドー/カベルネ○ ナパ/メルロ×

 

● 熟成肉

☆マリアージュポイント☆

* 丸みがあり、ふんわりとしたボリューム感

* 果実味、ミネラル、余韻の持続性

* なめらかでしっとりマットな質感

* 強めの香りも可能、樽香も良く合う

 

フレッシュ肉と熟成肉を比べると、肉の歩留まりが60%と小さくなってしまうと先述しました。ということは、熟成により水分が飛んだ?乾燥してパサパサしているの?と考えてしまいがちですが、実際は熟成で肉が柔らかくなると同時に、保水性が生じます。パサパサどころか、よりジューシーでしっとりとした口当たりに変化していました。また味わいもぐっと凝縮されていました。

よってワインは、小ささや硬さよりもしなやかさで滑らかさを感じる質感と、ふっくらとした丸みとボリューム感のある味わいが求められる結果となりました。

(例)

ナパ/メルロ○ 国産/メルロ×

また、肉の甘味、旨味の増長により、ワインにも甘味やミネラルの強さ、余韻の持続性が求められました。

(例)

メルロチーム

甘味においてボルドーは繊細すぎ、カリフォルニアはとても良く合いました。

(例)

白チーム

フレッシュ肉で1位だったリボラジャッラよりも、ミネラルの強いリースリングの方がより合っていました。

そして、フレッシュ肉にはNGだった強い樽香。何と、熟成肉には違和感どころか肉の風味をより上質なものへと昇格させました。お肉自体にも熟成によるナッツ香が生まれ、フレーバーが同調すると共に、お肉全体のフレーバーが強くなることでワインにも味わいと同時に香りの強さが求められるため、お互いが結び付き、より複雑さを増すのです。

(例)

メルロチーム

カリフォルニア/メルロはフレッシュ肉では最下位でしたが、熟成肉では1位でした。

 

【決勝の結果 】 

HP_gazou5

● フレッシュ肉No. 1は白ワイン、リボラジャッラ!

最も意外だったのはフレッシュ肉の1位がイタリアのリボラジャッラだったこと。なんと白ワインが1位という驚きの結果になりました。多くの赤ワインが五味・風味で勝ってしまい、各要素が絡み合わなかったのに対して、フレッシュ肉の素材の特徴であるツヤや柔らかさに、リボラジャッラのオイリー、テリといった質感がばっちり合っていたのと、各要素の大きさ、長さも寄り添っていました。

脂が大きく影響していない赤身肉で、フレッシュなものであれば、赤ワインのタンニンが絶対必要というわけではなく、白ワインのタンニンで充分であり、他のポイントが合えば素晴らしいマリアージュを生むことが分かりました。もう「肉には赤ワイン」という定説は、フィラディスにはありません。

2位以下の赤ワインに関しても、予選の項で述べたマリアージュポイントが そのまま反映された結果となりました。

 

● 熟成肉のマリアージュは、ミネラル感と樽香がポイントに

熟成肉では、さすがに白ワインでは太刀打ち出来なくなり下位へ。

1位はイタリアのカベルネ・ソーヴィニヨン、2位はナパのメルロという、こちらは 「肉に赤ワイン」というイメージ通りの結果が出ました。ミネラル感が強く出ているもの、また、樽香を中心とするフレーバーが重要な ポイントになりました。

 

【実験を終えて】

実験を行う前は熟成といっても種類も部位も同じ肉なため、結果が同じになってしまうのでは・・・?という不安がありましたが、これほどまでに異なる結果が出るとは!

フレッシュな素材に対しては、ワインが素材に勝ってしまうことが多く(よく言えば、覆い隠すことで合わせているとも言えますが・・・)、熟成した素材には、逆にワインが負けてしまう場面が目立つようになりました。食材の熟成に対するワインのマリアージュには決して無視することのできない条件があったのです。

今回の実験で見えてきたのは、フレーバーとテクスチャーが最も重要な要素であるということ。熟成で増す複雑さや凝縮感に対してワイン自体のポテンシャルが合うかどうか、またステンレスや樽熟成などワインの醸造の違いによるフレーバーとテクスチャーの違いがマリアージュに大きく影響していました。

また、熟成による素材の甘味や旨味の増大に対して、ワインにも同等レベルの大きさが必要になることも分かりました。特に、熟成で顕著に出てきた旨味については、旨味が噛むとより出てきて味わいとしては後半の要素であるため、ワインのミネラル感ととても相性が良いということが判明しました。

最後に、今回熟成ワインは対象外としましたが、少しでも熟成のニュアンスが出ているワインは、熟成肉に相乗する可能性は高くなりました。それは、熟成による香りと味わいの複雑性がより近くなるからでしょう。また、ワインのアルコールも熟成により甘味に変化するため、素材とマリアージュしやすくなるとも考えられます。

次回は熟成ワインと熟成肉の贅沢なマリアージュを実験してみたいと個人的に思っています(笑)

 

≪ 熟成肉ご提供およびご協力 ≫

有限会社横内商店 横内様

TEL: 03-3453-0944

 

CTA-IMAGE ワイン通販Firadis WINE CLUBは、全国のレストランやワインショップを顧客とするワイン専門商社株式会社フィラディスによるワイン直販ショップです。 これまで日本国内10,000件を超える飲食店様・販売店様にワインをお届けして参りました。 主なお取引先は洋風専門料理業態のお店様で、フランス料理店2,000店以上、イタリア料理店約1,800店と、ワインを数多く取り扱うお店様からの強い信頼を誇っています。 ミシュラン3つ星・2つ星を獲得されているレストラン様のなんと70%以上がフィラディスからのワイン仕入れご実績があり、その品質の高さはプロフェッショナルソムリエからもお墨付きを戴いています。 是非、プロ品質のワインをご自宅でお手軽にお楽しみください!