本場をしのぐ品質のキャビアも登場!『国産キャビア』徹底解説 & 赤ワインが合う?!マリアージュ実験レポート(広報 浅原 有里)
日本でも人気のある高級食材、キャビア。ロシアからの輸入品というイメージの強いキャビアですが、近年日本国内で生産された『国産キャビア』が注目されてきているのはご存知でしょうか? と言っても、一昔前までの味わいがあまり評価されていなかった国産キャビアとは異なり、飼育方法や加工・保存にこだわる“本物”とも言うべき新鮮なキャビアが登場し、その驚くほどの美味しさに熱い眼差しが向けられているのです。 今回のニュースレターでは、こうした“新”国産キャビアを徹底解剖!そもそもキャビアとは?というところから紐解き、その美味しさの秘訣は何か?そしてどんなワインとマリアージュするのか?など、明らかにしていきたいと思います。
【キャビア基礎知識】
● キャビアの種類と価格
キャビアは、ご存知の通りチョウザメの卵の塩漬けです。チョウザメは、海に生息する鮫とは全く別の魚で、古代魚に分類され、川で生まれ→海で成長し→川に遡上して産卵行動を行うというサケ等と似た習性を持っています。チョウザメという名前は、背びれ部分の鱗がチョウチョの形をしていることと、全体のフォルムが鮫っぽいことから付けられたと云われています。
「ベルーガ」や「オシェトラ」といった名前をよく聞きますが、これらはチョウザメの種類を差します。実はチョウザメには27もの種類が確認されており、その希少性と卵の大きさによって、キャビアとして生産された際の価格が異なります。卵の直径が大きいほど高級であり、直径が3.5mmを超えると良い卵とされるそうです。
最も高価が付くベルーガ(オウチョウザメ)は、チョウザメの仲間の中で最も体長が大きく、必然的に卵も大きく育ちます。2位はオシェトラ(ロシアチョウザメ)、3位はセブルーガ(ホシチョウザメ)と続きます。最も高価&レアなベルーガには一瓶が100万円もするものもありますが、通常は最高級品で約1000円/g、安価な中国産は100円代~200円代くらいです。
尚、先ほどベルーガやオシェトラは高価だと述べましたが、実はキャビアの味わいは、こういった魚種よりも育った環境や加工の方法によって大きく変化するのだそうです。
● 現在流通しているものは、ほぼ全て養殖キャビア
カスピ海やその近くの河川にチョウザメが多く生息するためロシアやイランが本場でしたが、カスピ海産キャビアの国際取引はワシントン条約で禁止されたため、現在流通しているキャビアには天然物はほとんどありません。養殖技術が確立されており、世界各国で生産されています。現在最も生産量が多いのは中国で、フランスの有名キャビアブランドなども中国から卵を購入していたりするようです…。
日本でも様々な地域で養殖され、国産キャビアが生産されています。とはいえ、日本で流通するキャビアの95%以上は輸入品と、まだまだ輸入キャビアが圧倒的に多い状況です。
● キャビアには旬がある!
チョウザメから卵が採取出来るのは4~5月の産卵期前の11~3月くらいまでなので、実はキャビアはもともと旬がある食べ物です。生のキャビアの消費期限は約3週間ですが、輸入品など流通している多くのキャビアは大体2ヶ月~1年と非常に長く設定されています。つまり保存期間を延ばす様々な工夫がされているわけです。
また、キャビアというとつやつやした真っ黒の粒々を想像しがちですが、採れたてのキャビアは黒ではなく、下の写真のような茶色がかった淡い灰色をしています。しかし、保存期間が長くなったり、何らかの保存処理を施したりと、生のキャビアから離れれば離れるほど黒く変色していくのです。
こうした違いを生む“保存期間を伸ばす工夫”とは、具体的にはどのようなものなのでしょうか。
≪塩分濃度≫
原産国でも重宝されている新鮮なキャビアの塩分濃度は約3~5%であり、保管できる期間は約3週間ほどしかありません。消費期限は短いですが、キャビア本来の味を楽しむことができ、実際にスプーンでそのままパクリと食べることが多いそうです。対して輸入キャビアの塩分濃度は約7~10%がほとんど。そのまま食べるには塩辛く、塩分を活かして料理のアクセントに使用されます。塩分濃度が高ければ消費期限を2ヶ月~1年と長く保たせることが可能ですが、色は黒く変色し、キャビア本来の味は強い塩分に負けてしまうと云われています。
ちなみに、海水塩が持つニガリがキャビアの皮をもろくするため、キャビアは岩塩で味付けされます。
≪保存方法≫
キャビアを長持ちさせる方法として、いくつかの保存方法があります。
* 低温殺菌
60℃で20分くらい殺菌する方法です。低温殺菌されたキャビアを「パスチャライズ・キャビア」、低温殺菌していないキャビアを「フレッシュ・キャビア」と区別して呼ばれます。消費期限は1年ほどに伸びますが、旨味が抜け、黒く変色し、皮が固くなります。プチプチした食感のキャビアは低温殺菌されたものである可能性が高いです。
* 冷凍
クオリティを安定させるために冷凍します。フレッシュ・キャビアでも冷凍させているものは多くあります。消費期限は2~3ヶ月ほどに延びますが、皮がもろくなって弾力が失われ、黒く変色します。味も落ちると云われています。
* 保存料
ヨーロッパ向けには防腐剤としてホウ酸を添加する場合がありますが、毒性が強いのでアメリカや日本向けには禁止されています。日本では、食品衛生法で安息香酸を添加することが認められています。
【“新”国産キャビアの味わい】
新鮮な国産キャビアを試食するにあたって取り寄せたのは、静岡県浜松市の春野で育ったチョウザメから採卵して7日目のフレッシュ・キャビア(HAL CAVIAR)です。塩分濃度は3%で、低温殺菌・冷凍・保存料添加などは何も行っていません。
スプーンですくって口に入れると、つぶつぶ感は全くなく、クリームのようにとろりと溶けて口中に広がります。濃厚でコクがありクリーミーなのですが、程良い塩味が爽やかさも感じさせ、余韻が非常に長い!!本当に言葉を失う美味しさでした。しょっぱさや生臭さが無いため、何も付けずにそのまま味わうのが一番だと素直に感じました。
キャビアは使用する岩塩によって味わいは大きく変わります。例えば、塩味の強い塩を使ったキャビアはアタックが鮮烈で強い味わいの構成になり、反対に旨味を長く感じる塩ではアタックは柔らかく余韻が長く残るキャビアに仕上がります。今回試食したキャビアは後者のタイプの塩を使用しています。
尚、フレッシュ・キャビアは、消費期限である3週間のうちにどんどん熟成が進み、フレッシュさは失われるものの旨味が強くなり、色も徐々に黒くなります。
【キャビアマリアージュ実験】
キャビアに合わせるワインというと、パーティーで供されるイメージからか、シャンパーニュが思い浮かびます。一方、フランスで一番のキャビア産地であるアキテーヌ(ボルドー周辺)では、フレッシュ・キャビアにはメルロ主体のボルドーワインが合うとされているそうです。
でもちょっと待ってください・・・キャビアは魚卵。ワインの鬼門とも言うべき領域です。魚卵とワインを合わせた時に有りがちな生臭さやアフターの苦味やえぐみが出るようなら絶対にNGでしょう。
果たして、シャンパンや赤ワインはこの美味しい国産フレッシュ・キャビアにマリアージュするのか?!今回は“プチ実験”として、シャンパン3種類と赤ワイン3種類で検証しました。
● マリアージュの判断方法
ワインと合わせる上で、「滑らかなテクスチャー」「塩味」「余韻がどう寄り添うか」が重要になるだろうことが予想されます。加えて、魚卵とワインのがっかりマリアージュで有りがちな、アフターの苦味やえぐさ、生臭さが出てくるかどうかもポイントです。
★マリアージュポイント★
・同調 (ワインと料理の個性の一部が寄り添うことで双方を高め合う)・・・①の可能性が高い
・中和 (お互いの個性を中和させて味わいのバランスをとる[例: タンニンと脂])
・補完 (ワインと料理の双方が揃うことで、足りなかったものを補完する)
★ 採点方法 ★
ベテランから中堅までのスタッフ10名が参加。各人持ち点を4点とし、以下の基準で投票を行いました。最高点は40点です。
①マリアージュ(4点) :相乗的にワインもキャビアも美味しくなった正にマリアージュ!!
②相性良し(3点) :ワイン or キャビアのどちらかが美味しく感じた。どちらかをもっと欲しくなった。
③まずまず(2点) :④よりは良い部分があるが、②ほどではない
④普通(1点) :特に良くも悪くもない。平行線
⑤合わない(0点) :バツ、NG、悪いところが出てきてしまう
● 結果: シャンパーニュ
1. NV Cuvee Selection / Brun Servenay 【24点】
3種類の中で、一番キレイにキャビアを食べさせてくれたシャンパーニュでした。ワインを口に含んですぐはワインが一瞬支配的になってキャビアの風味が失われるように感じましたが、アフターにかけては心地よく寄り添いました。しかし、ワインの酸によるシャープなテクスチャーと、キャビアのクリーミーで柔らかいテクスチャーがバラバラで交わることがなく、悪くはないものの、双方が美味しくなる最上の組合せ(=マリアージュ)とまでは言えませんでした。
2. NV Brut Carte d’Or / Veuve Olivier et Fils 【23点】
ワインとキャビアの質感は合うのですが、若干魚卵特有のえぐみが出てしまいました。また、アタックはワインのフレーバーが支配的ですが、アフターではキャビアの塩味がワインに勝ってしまうとともに、タンニンの引き締めによって余韻に残るキャビアのクリーミーな甘味がかき消され、余韻自体が短くなってしまうように感じました。
3. NV Blanc de Noirs / Etienne Lefevre 【19点】
キャビアの塩味・ミネラル感とワインの甘味が五味を補完する役割をしてキャビアの旨味や美味しさが引き出し、全体的なテクスチャーやボリューム感も合っていました。しかし、アフターのちぐはぐさが顕著でした。ワインのタンニンが浮いて引き締めが強く、キャビアの塩味が目立ち、余韻が短く感じました。
● 結果: 赤ワイン
4. 2013 Marsannay Echezots / Ch. de Marsannay 【36点】
間違いなく今回のベストマリアージュです!!ボリューム感・テクスチャーが合っていて、マルサネの甘味と伸びやかな酸にキャビアの塩味のバランスが非常に良く、ベリー系フレーバーともきれいに寄り添いました。キャビアとワインそれぞれに存在感がありつつも、アフターまで美味しく楽しむことができました。難があるとすれば、どちらかと言うとワインを美味しくさせる組合せであり、キャビアが引き立て役に回った印象だったこと。しかし、いずれにしてもワインとキャビア双方が美味しいマリアージュでした。
5. 2013 Fleur de Clinet / Ch. Clinet 【21点】
注目のメルロ主体ボルドーです。こちらに関しても、キャビアの力でワインが美味しくなった印象です。ワインの持つグリーンノートに対して、キャビアの塩味が上手くバランスを取り、甘味・旨味に変えてくれていました。キャビアのクリーミーさとワインの果実の丸みとの同調も感じました。しかし、マリアージュと云うほど双方が寄り添う感じはなく、どちらかというと存在感がバラバラでした。この5番と次の6番のボルドーワインで課題となったのは、タンニンが残ってしまって目立つということ。このタンニンをワインの個性と捉えるのか、嫌なものと捉えるのかで評価が変わりました。
6. 2014 Reserve de la Comtesse / Ch. Pichon lalande 【17点】
強いタンニンがアフターに残るため、それがOKの人は高評価を、苦手な人は低評価をつける結果となりました。高評価組からは、「高貴さやフィネスを感じるゴージャスな組合せ」「キャビアとワイン双方の存在を感じながら高め合っている」という意見が出るほど!結果としてメルロ主体の5番の方が点数は高いですが、カベルネ比率の高いこちらのワインも、少し熟成してタンニンがこなれてきたら別次元のマリアージュになるだろうと思います。
【実験を終えて】
赤ワインがマリアージュNo.1に!
今回のNo.1は、何とブルゴーニュの赤ワインでした!!シャンパーニュよりも点数が良いどころか、40点中36点という今までのマリアージュ実験でも見たことがないほどの高得点を獲得しました。
注意すべきは、アフターのタンニンをどう捉えるか。シャンパーニュにしても赤ワインにしても、余韻に残るタンニンを嫌うスタッフの点数は全体的に低めで、タンニンをワインの個性と捉え肯定的なスタッフは高めの点数を付けていました。
今回は行いませんでしたが、白ワインのマリアージュは様々な可能性が考えられます。シャンパーニュの結果から、シャープすぎず、柔らかさと甘味があるワインが好相性だと予想できますので、少し甘味のあるリースリングなどを合わせてみたいところです。
また今回、魚卵とワインを合わせた時のイヤ~な感じがほぼ無かったことは驚きでした。製造元の金子コードさんに伺うと、綺麗な水で育った新鮮なキャビアであれば臭みは生じにくいのだそうです。
日本でも飼育や塩分濃度・保存方法にこだわった美味しいフレッシュ・キャビアが手に入りやすくなっている今、世界三大珍味の一つとしてではなく、ワインと合わせる魅力的な食材としてキャビアを見直すきっかけにしていただければ幸いです。
協力 : 金子コード株式会社 HAL CAVIAR TEL: 03-6809-3997
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