オリーブオイルを正しく見分けていますか? ~奥深いエクストラヴァージンオリーブオイルの世界~(リテール事業部 西岡 卓哉)
フィラディスはワイン専門のインポーターではありますが、ワインに欠かすことのできないお料理の分野でもマリアージュ実験から食材レポートまで様々な取り組みを行っています。 今回取り上げるのは、欠かすことのできない最もベーシックな食材、オリーブオイルです。オリーブオイルソムリエの真島香織さんをお迎えして、オリーブオイルの基礎知識からテイスティング方法、そしてより良いオイルを選ぶためのポイントなどを教えていただきました。
オリーブオイルの産地と品種
● ゴマ油と並ぶ世界最古の油
オリーブの木は、モクセイ科の常緑樹。長い歴史を持つ植物で、ジュラ紀(恐竜がいた時代!)の地層からオリーブの葉の化石が見つかっています。樹齢も非常に長く、5千年〜6千年といった樹齢のオリーブの木が現存します。古くから人との関わりがあり、ギリシャ神話に食物として登場し、メソポタミアの遺跡からはオリーブオイルを絞る器具が発見されています。
● 産地
オリーブオイルの生産量は、スペインが世界全体の54%を占めてトップです。次いでイタリア18%、ギリシャ12%、トルコ6%(2015/2016世界の生産量、国際オリーブ協会)と、地中海沿岸が主な産地となっています。それ以外でもオーストラリアやチリなどで生産が増えてきています。日本でも主に小豆島や広島などで高品質のオリーブオイルが生産されていますが、その生産量は非常に少なく高価です。
● 品種
オリーブは世界で1800ほどの品種があると言われており、ワインと同様に代表的な品種から土着品種まで様々です。品種による味わいの特徴もありますが、栽培方法や実の熟度、圧搾方法、保存の仕方などによって味や香りは大きく変わるため、生産者による違いもまた大きくなります。生産者は一つの品種でオリーブオイルを搾油することもあれば、色々な品種をブレンドすることもあります。
美味しいオリーブオイルができるまで
● 栽培~収獲
オリーブの木は、日当たりと水はけの良い土地を好みます。まず緑の実がなり後に色付くのですが、緑の状態で収穫すると含有ポリフェノールが多くなり、味わいは苦め・辛め、香り成分も多くなります。黒く熟してから収穫すればマイルドな傾向になります。ワインと同様に、オリーブも収穫年によって収穫量や品質が変わり、価格も変動します。
収獲は手摘みと機械摘みがあります。機械は収穫効率が高いのですが、大型トラクターが作業できる畑や品種は限られており、小規模生産者では手摘みが主流です。枝に振動を与えて実を落とす簡易機械が使われることもあります。
● 輸送~搾油
収穫を済ませたら、実が自然発酵しないうちに搾油するため、一刻も早く輸送する必要があります。搾油所に届いた実は、葉やゴミを取り除き水洗浄します。その後粉砕し、練り込んでオイルを取り出します。優良生産者の中には、クオリティを更に上げるために粉砕後に種を取り除く方もいます。
● 抽出~濾過
ペーストから油を抽出します。遠心分離機を使うことで高品質な抽出が可能です。搾油したての油は光に当たるとあっという間に酸化してしまうので、空気と光をシャットアウトし、フィルターを通して余分な物質を濾過します。その後、16度に保ったタンクで保管します。日本でも時々見かける無濾過のノヴェッロ(新物)オリーブオイルは、2~3ヶ月もすれば劣化してしまいます。早めに美味しくいただきましょう!
● 出荷~輸送
出来上がったオイルはできるだけ早く出荷します。酸化が大敵ですので温度管理も重要です。高温はもちろん、冷蔵庫のような低温もNGですが、ワインのようにリーファーコンテナを使った定温輸送をされることは稀です。
オリーブオイルのカテゴリー
食用オリーブオイルは、国際オリーブ協会が定める厳格な規格によってカテゴリー分けされています。
最も品質が高いのがエクストラヴァージンオリーブオイルです。基準に合格するためには、化学検査と併せてテイスティングによる官能検査が行われます。
● 化学検査
いくつかのルールがありますが、代表的には酸度0.8%以下であることが必要です。
酸度が品質を図る目安として使われる理由は、酸度が低ければ製造工程をスピーディに適切に行ったことを意味するからです。製造工程に問題があればオイルは酸化しやすくなります。また、オイルを精製すれば酸度は低く保てますが、風味の大部分が失われるので生で楽しむことはできず、ヴァージンオリーブオイルのカテゴリーからは外れます。
● 官能検査
天候不良や病気、虫害、製造工程における洗浄不足、長時間山積みになっていたことによる発酵、過加熱、カビの発生、不適切な場所での保管、開封後の放置などから生じる欠陥や劣化をテイスティングによって検査します。
日本のオリーブオイル事情と選択のポイント】
● 日本のオリーブオイル
日本では、オリーブオイル(酸度2%以下)と精製オリーブオイル(酸度0.6%以下)の2つのカテゴリーしかありません。エクストラヴァージンオリーブオイルとラベルに記載されたオイルも数多くありますが、残念ながら上記の国際基準を満たしていないケースが多いようです。また、原産国を出るまではエクストラヴァージンオリーブオイルに認定されたオイルであっても、輸送やその後の保管環境によって、劣化してしまうこともあります。
● 本物のエクストラヴァージンオリーブオイルを選ぶ!
国際基準を満たしている劣化していないオリーブオイルを選ぶのは至難の業ではありますが、確度を上げるポイントをご紹介します。
① 遮光瓶
オリーブオイルは酸化が大敵!遮光されていて、高温にならない場所での保管が必須です。
② 詳細表記があるもの
国名だけでなく、スペインのどこか、イタリアのどこか、生産者は誰かなど、出来るだけ詳しく記載のあるものの方がこだわりのあるオリーブオイルである可能性が高いです。
③ 賞味期限をチェック!
賞味期限(ボトリングしてから18ヶ月)が終わりに近いものは、明るい売り場に長い間置いておかれたものなので避けた方が無難です。
④ DOP(原産地保護呼称)があるもの
DOPが付いていなくてもクオリティの高いオイルは沢山ありますが、付いていればそれなりの信頼性があります。
⑤ 売り文句に注意!
国際オリーブ協会やEUの規定で、ラベルに「健康に良い」とか「美味しい」などの売り文句を記載できないと決められていますので、売り文句が書かれていないことが品質の目安になります。
⑥ 安すぎるのはNG・・・?!
国際基準を満たしたエクストラヴァージンオリーブオイルを劣化させずに日本に輸入するには、それなりのコストがかかります。国際オリーブ協会の規格をクリアした優良生産者のオイルを良い状態のまま輸入した場合、250mlで2,000円は下りません。日常的に使うにはハードルが高いですが、国際規格の本物の美味しさを日本で手に入れるには必要なコストなのです。
オリーブオイルテイスティング
オリーブオイルでも品質を見極めるために、テイスティングを行います。最も重要なのは欠陥が無いか判断することですが、オイルに合う食材や調理法を考える上でも、特徴を明確に掴むことは非常に有用です。
● テイスティングの手法
ワインのテイスティングではまず外観を評価しますが、オリーブオイルの場合は色とクオリティの関連性はありません。そのため、外観に惑わされないように味わいと香りを判断します。
方法としては、オリーブオイルを小さなカップに少量入れ、手のひらに乗せ、もう片方の手で上から包み込むようにして、オイルを温めます。まずは香りを確認し、その後口に含み、口全体に行き渡
らせて味わいをみます。最後に、「ズッ」と空気を吸い込み、鼻に抜けるフレーバーを判断します。
● 香りの評価
ポジティブな香りの強さを10段階で評価し、3未満はライトタイプ、3~6未満はミディアムタイプ、6以上はインテンス(極めて強い)タイプに分けます。また、イタリアオリーブオイルソムリエ協会では、ワインと同様に、オリーブオイルの香りを具体的な果物(レモンといった柑橘やバナナ、洋梨など)や野菜(トマト、パプリカ、アーティチョーク、チコリなど)、ハーブ(バジル、タイム、ローズマリーなど)、草(刈ったばかりの草)、花(アカシア、ジャスミンなど)、ナッツ(アーモンド、クルミ、松の実)などで表現します。
● 味わいの評価
オリーブオイルのテイスティングをしていくと、むせてしまうほど辛味や苦味が強いものもありますが、こうした刺激(辛味・苦味)は品種に由来するオリーブオイルの個性であり、ポジティブに捉えます。
味わいの強さも香りと同様に10段階で評価し、6以上:インテンスタイプ、3以上6未満:ミディアムタイプ、3未満:ライトタイプと区分します。そして、最終的にバランスや余韻、クオリティなどを判断し、全体的な品質を判断します。
● 欠陥オイルをどう見抜く?
今回私たちも真島先生とともに10種類のオリーブオイルをテイスティングしましたが、その中で欠陥を指摘されたオイルが2つ、疑わしいオイルが1つありました。欠陥のあった2つのうち1つには明らかな酸化のニュアンスがありました。もう1つはエクストラヴァージンオリーブオイルにあるべきフルーティさが欠けていました。疑いのあるオイルは、良く言えばマイルドで優しい味わいなのですが、味わいの個性が感じづらくなっていて“へたれ”てしまった印象でした。造りの個性と言えないことはないですが、何らかの欠陥である可能性も高いとのことでした。
明らかな欠陥が指摘された2つのオイルは、スーパーでよく見かけ、エクストラヴァージンオリーブオイルの表記があるものであり、欠陥のあるオイルは本当に身近に存在するのだと実感しました。
● 料理・食材との合わせ方
基本的には、同調のマリアージュの考え方で、優しく繊細な料理(低温&短時間の調理含む)には風味の優しいオイルを、強い料理( 高温&長時間の調理含む)には風味の強いオイルを合わせます。その他、補完のマリアージュのようにスパイスやハーブの代わりにアクセントで使うことも可能ですし、オイルの特徴を把握して合った使い方を考えることが重要です。
【まとめ】
真島先生にお話を伺うなかで、力を込めて仰っていたことの一つが、オリーブオイル製造工程の中で生産者がどれだけ「丁寧さ・スピーディさ」を心がけなければいけないか、ということでした。少しでも気を抜けば欠陥としてオイルに現れてしまうため、多大な努力と情熱が必要になります。それだけに、まずは素晴らしいオリーブオイルを作っている生産者には、素晴らしいワイン生産者と同様に最大の敬意を払うべきだと感じました。
そして、いかに熱心に美味しく造られたエクストラヴァージンオリーブオイルでも、輸送や保管の条件によって私たちの手に届くまでに欠陥が生じてしまう可能性もあります。果たして食に関わる私たちは、オリーブオイルの品質を正しく判断し、選択することができているのでしょうか?全ては料理人と消費者が、自分自身で選んでいかなければなりません。今回のニュースレターが、美味しいオリーブオイルを適切に使っていただく一助になれば嬉しく思います。
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