フィラディス実験シリーズ第15弾『生牡蠣とシャンパーニュのベストマリアージュを探せ!』(営業 石井 理香子)

さぁ、牡蠣の季節がやってきました!!もちろん、今や1年を通して真牡蠣も採れますし、夏が旬の岩牡蠣もあるため、いつでも美味しい牡蠣を食べることができるのですが、やはり生でも火を通しても美味しい濃厚な真牡蠣が旬を迎える秋・冬は、牡蠣好きにとっては特別な時期ではないでしょうか。 そして、牡蠣と言えばシャンパーニュ!!特に前菜として食べることも多い生牡蠣は、シャンパーニュと合わせるのが定番になっています。しかし実際に合わせてみると、どうもしっくりこなかったり、生臭さなどネガティブな要素が出てきてしまうことも意外と多くあります。 そこで今回は、生牡蠣にどんなシャンパーニュが合うのかを突き詰めて検証してみました。
弊社スタッフの大方の予想としては、「ブラン・ド・ブラン(以下、BdB)でドサージュは低く、マロラクティック発酵(以下、MLF)は無し。溌剌とした酸や強いミネラル感を持ったシャルドネのドライなシャンパーニュが合うのでは?」という意見が優勢でした。果たして結果はどう出るのでしょうか・・・?
【実験概要】
● 生牡蠣(真牡蠣)
★ サッパリ系: 長崎県 五島列島産
★ 濃厚クリーミー系: 兵庫県室津産
● シャンパーニュ
★ 品種・ドサージュ量・MLFの有無などでタイプが異なる10種類を用意。
★ BdBが合うのではないかという予想から、BdBにバラエティを持たせた。
● 実験方法
★ 基本的には牡蠣そのものの味で検証する。マリアージュ要素として必要であれば、控えめにレモンを絞る。
★ シャンパーニュは全てブラインドにてテイスティングする。
● マリアージュの判断方法
最初に、牡蠣とワインの「フレーバー」が合うかどうかを判断する。魚介類特有の臭みなどが出ていたらNG。「フレーバー」が合ったもののみ、「五味(甘味・酸味・塩味・苦味・旨味)」「ボリューム」「テクスチャー」を以下のマリアージュポイントを参考にしながら検討する。
≪マリアージュポイント≫
・同調 (ワインと料理の個性の一部が寄り添うことで双方を高め合う)
・中和 (お互いの個性を中和させて味わいのバランスをとる)
・補完 (ワインと料理の双方が揃うことで、足りなかったものを補完する)
【実験結果】
● フレーバー
力強い果実の香りが出すぎてもダメ!華やかすぎるのもダメ!
サッパリ系と濃厚クリーミー系ともに香りの構成の大部分を占めるのは潮の香りです。その潮の香りに相反するフローラルで豊満な香りの10:ベルナール・ブレモンや6:ティエリー・トリオレのレゼルヴは、生臭さが強調されてしまい不快なニュアンスを生みました。サッパリ系は特にその傾向が顕著でした。
また、BdBでMLF無しの1:ヴェルニョンや2:ブリュン・セレヴネイはそれぞれレモンやグレープフルーツのような柑橘の香りが特徴のため、塩味の効いた牡蠣にレモンを絞るような役割を果たし、見事にマリアージュしました。
● 五味(甘味、塩味、酸味、苦味、旨味)
潮の塩味と 生牡蠣の繊細な甘みをどちらも殺さずに上手に引き出せるか?
今回、「フレーバー」に次いでマリアージュを左右したのが「五味」でした。まずどちらの牡蠣を食べた時でも口の中で最も感じるのは塩味です。フレーバーの項目で触れたように、この塩味に対してアタックに強い甘さを感じるシャンパーニュに関しては、それぞれがバラバラで違和感が残ってしまい相性の良さは感じられませんでした。特に、ドサージュ量が今回の中では最も多く、また比較的暖かいシャンパーニュ南部コート・ド・セザンヌの6:ティエリー・トリオレのレゼルブは、BdBながらも非常にふくよかな味わいのために、繊細で複雑な牡蠣の味わいを覆い隠してしまいました。
逆に、酸味と塩味がきれいに出ているシャンパーニュは牡蠣のミネラルや旨味に同調しました。加えて、繊細な甘味を持つ8:ヴーヴ・オリヴィエや9:ピエール・パイアールは、より複雑なワンランク上のマリアージュとなりました。
● ボリューム・テクスチャー
フレーバー&五味に次ぐマリアージュの肝!きめ細かくクリーミーなほどGOOD!
今回の実験で肝となったのがテクスチャーでした。力強い泡立ちだったり硬質なミネラルのシャンパーニュは、牡蠣の滑らかで柔らかなテクスチャーと方向性が異なるため合わず、泡立ちがきめ細かくクリーミーであればあるほどマッチする結果となりました。濃厚クリーミー系で2位となった3:ランスロ・ピエンヌは、クラマン村のクリーミーさに長く続く繊細な泡立ちがあり、とてもよく合っていました。
【それぞれの評価】
● サッパリ系
サッパリ系牡蠣の1位に輝いたのは、今回のラインナップで唯一ピノ・ムニエが主体の8:ヴーヴ・オリヴィエでした。果実・酸・ミネラルといった要素に強すぎるものがあると合わせるのが難しくなる傾向にありましたが、このシャンパーニュは主張しすぎない果実の甘み&奥に潜んだ酸&細かなミネラルというどれも程ほどの加減が絶妙で、牡蠣の塩気と繊細な甘みを見事に引き立てて思わずもう1つ・・・と食べたくなってしまう素晴らしいマリアージュでした。唯一、牡蠣の甘さにも同調してそれぞれが引き立て合っていました。
2位・3位のマリアージュの方向性は、1位のヴーヴ・オリヴィエとは全く異なるものでした。まるで牡蠣にレモンを絞るように、柑橘系のフレーバーや酸を牡蠣の塩味に寄り添わせるというマリアージュが選ばれました。2位となった1:ヴェルニョンは、ル・メニル・シュール・オジェ村のブドウをメインに使ったシャンパーニュ。緊張感のあるミネラルとグレープフルーツのような溌溂とした酸&ほろ苦さが牡蠣の塩味と旨味に寄り添い、心地良いマリアージュとなりました。
同じく3位の2:ブリュン・セレヴネイは、骨太なミネラルが特徴的なアヴィーズ村がメインのBdBですが、1:ヴェルニョンと同じように、柑橘を思わせるフレーバーと緻密な酸・ミネラルがマッチして3位にランクインしました。2位、3位には『BdB』『MLF無し』という共通点があります。溌剌とした酸と塩味が牡蠣のミネラルと調和し、王道のマリアージュだと言えます。
● 濃厚クリーミー系
濃厚クリーミー系でもトップに選ばれたのは8:ヴーヴ・オリヴィエでした。柔らかな口当たりとふんわりとした果実の甘みがミルキーな牡蠣の味わいと重なり、心地良いマリアージュとなりました。しかし、サッパリ系ではフレーバーから五味、テクスチャー、ボリューム感までぴったりと合って、まさにベストマリアージュ!という組み合わせでしたが、濃厚クリーミー系は味わいがより濃厚なため同じボリューム感で合わせることが難しく、牡蠣を引き立てて支える少し控えめなマリアージュだったと言えます。
濃厚クリーミー系については、1位は圧倒的点数で決まったのですが、2位以下は点数があまり伸びませんでした。それは今回の牡蠣が甘みと旨味がたっぷりで牡蠣そのものの味わいが非常に強くクリーミーだったため、シャンパーニュが持つ硬質なミネラルとテクスチャーがどうしても合わなかったことによります。そんな状況の中でも2位にランクインしたのは、やはりと言うべきか、『BdB』で『MLF有り』、クリーミーなミネラル・質感が特徴のクラマン村がメインの3:ランスロ・ピエンヌでした。柔らかく豊かな果実味と酸があり軽快ながらもふくよかな味わいのシャンパーニュであるため、牡蠣のふくよかさと同調して上質なマリアージュとなりました。
意外だったのが、3位となった9:ピエール・パイアールです。シャンパーニュの中でも最もパワフルなピノ・ノワールの産地・ブジー村のブドウで造られるので、牡蠣とぶつかってしまうだろうと予想しましたが、オレンジピールのような甘くほろ苦いニュアンスときめ細やかな酸が良いスパイスとなり、美味しく食べさせてくれました。3:ランスロ・ピエンヌと9:ピエール・パイアールともに泡立ちが非常に細かく柔らかなテクスチャーだったため、牡蠣のクリーミーな食感とマッチしました。同3位の7: ティエリー・トリオレのカルト・ノワールは、シャルドネ比率が高くドサージュ量は多め、またミネラルも強すぎないため、全体的なボリューム感が合っていました。
【実験を終えて】
「BdBでドサージュは低く、MLFは無し。溌剌とした酸や強いミネラル感を持ったシャルドネのドライなシャンパーニュが合うのでは?」という当初の予想を裏切って、サッパリ系と濃厚クリーミー系両方のベストマリアージュに輝いたのは、なんと正反対のキャラクターを持つ8:ヴーヴ・オリヴィエでした!特にサッパリ系については、過去に行ってきたマリアージュ実験の中でも、ずば抜けて高い点数で1位となりました。
単体で飲んだ時には若干ミネラルは弱く感じるのですが、牡蠣と一緒に食べてみると牡蠣の豊富なミネラルがそれを補完し、反対に牡蠣にはない酸をシャンパーニュが与え、甘み・酸・ミネラルが一体化していて正にベストマリアージュでした。ピノ・ムニエという柔らかい酸と甘みを持つ品種が主体で、しかも南向きの畑の完熟したブドウを使用するヴーヴ・オリヴィエだからこそ、この絶妙なバランスが取れるのだと考えられます。これがもしピノ・ノワールだったらタンニンが強すぎてワインが勝ってしまいますし、ムニエでもブドウの力が弱いものだったら寄り添うことはなかったのではないでしょうか。本当に、断トツでお薦め!ぜひお試しいただきたい組み合わせです。
ただ、当初の予想は必ずしも間違っているわけではなく、サッパリ系についてはしっかり当てはまりました。塩味のあるあっさりした牡蠣には、やはりレモンを絞ったような酸や強いミネラル感を持つドライなシャンパーニュが良いアクセントになってくれました。
また、濃厚クリーミー系の牡蠣については、『BdB』であれば『MLF有り』でクリーミーなミネラル・質感のシャンパーニュ、あるいはピノ・ノワール比率が高めでテクスチャーが柔らかく、鋭角的ではないミネラル・酸を持つシャンパーニュが合うというのは嬉しい発見ではないでしょうか。
シャンパーニュ×牡蠣 は王道マリアージュだと言われますが、今回の実験から、実際に合わせてみると牡蠣やシャンパーニュの味を損ねてしまうものもたくさんあることが分かりました。逆に、合うシャンパーニュについては、どちらも無限に味わいたくなるような本当に素晴らしいマリアージュを体験することができました。
産地・セパージュ・ドサージュ量・醸造方法など、ほんのわずかな違いでお互いの良さを引き立てることもあれば殺してしまうこともある・・・とても奥の深いマリアージュ実験となりました。今回の結果を参考に、お店で使用される牡蠣の種類に合わせてシャンパーニュを選んでいただけたらとても嬉しく思います。
