<フィラディス繁盛店インタビューNo.8>vivo daily stand 鈴木 健太郎氏【VIVO PRODUCTION TOKYO株式会社 代表取締役】
都内各所で見かける『vivo daily stand (ビーボデイリースタンド)』という看板。席数は10席あるかどうかの小さな造りだが、深夜になると地元客が次々に立ち寄り、立ち飲みも含めてワイワイと賑わっている。売りは手作りの温かみのあるフレンチデリとデイリーワインで、一人でも気軽に通えるのが嬉しい。 こんな店舗を都内に20店舗展開しているのがVIVO PRODUCTION TOKYO株式会社代表取締役の鈴木氏だ。彼自身もvivoの中では席数の多い新大久保店に毎日立っている。どうしてこの形態での店舗拡大を始めたのか?狭小店舗で利益を出していくのに必要なことは何か?『vivo daily stand』を繁盛店に導いている秘訣を伺った。
コミュニティーをたくさん作ることで日本を豊かに
鈴木氏が飲食店をやろうと考えたのは大学時代にさかのぼるそうだ。時は1990年代、バブルが弾け、「失われた10年」と呼ばれるほどの経済停滞が発生、就職氷河期やリストラが大きなニュースになっていた。経済面以外にも、阪神・淡路大震災に地下鉄サリン事件や神戸連続児童殺傷事件といった凶悪犯罪も相次いだ。人間関係がより個人中心になることで殺伐とした空気が流れているように感じ、このままでは日本が終わってしまうのではないかという危機感を抱いていたという。
そんな中、旅行で行ったスペインでバルに出会い、日本を救うのはこれだと直感した。スペインのバルは街の至る所にあり、毎日朝早くから夜遅くまで開いていて、老若男女問わず様々な世代の人が一日に何度も来店する。日常生活に完全に溶け込み、みんなが挨拶をしたり談笑したりと、バル自体がコミュニケーションの場=コミュニティーを作っていた。鈴木氏はこの光景を目の当たりにして、日本にもコミュニティーの機能を持ったバルをたくさん作って日本社会を豊かにするということを心に強く誓った。そして約10年のサラリーマン生活中に経営のノウハウを学び、資金を作って、2007年5月に起業した。
店舗をたくさん作るためのシステム
「コミュニティー機能を持ったバルをたくさん作る」。つまり、vivoは多店舗展開が大前提となっている。この前提に則れば、どのようなビジネスモデルが必要なのかは自ずと決まってきた。重要な役割を担うのが、セントラルキッチンシステムと極小店舗での出展、そしてフランチャイズ化だ。
現在、vivoのデリメニューは全てセントラルキッチンで作られている。「小さなバルの絶品レシピ」という著書を持つ花本朗氏が料理を担当。4名のスタッフで化学調味料を使わないフレンチデリを毎月15,000食製造する。基本的に各店では一食ずつ小分けにされた料理を開封し、温めて盛りつけるだけの簡単調理だ。もし通常のお店のように各店舗に料理人が必要になれば、設備投資が大幅に増えるとともに、常に料理人不足の懸念が付きまとう。セントラルキッチンであれば、そのような心配は無用であり、更に店舗を増やせば増やすほど効率的にもなるのだ。
そして「バルをたくさん作る」ために、店舗を小箱にして初期投資を軽減。そうすることで回収期間を短くし、キャッシュフローを良くすることができる。更に初期投資を最も軽減させるシステムがフランチャイズだ。現在の20店舗のうち、8店舗がフランチャイズでの出店となっている。
鈴木氏が目指すのは、都内23区の各駅にvivoを置くこと。最終的には600店舗を目指しているという。セントラルキッチンがオーバーフローして移転したために一旦出店を止めていたそうだが、今年中にもあと2店舗をオープン予定と着実に目標に向かって進んでいる最中なのだ。
vivo的接客とは?
vivoでの接客のルールとして、スタッフが「いらっしゃいませ」と言うのは禁止されている。それ以外なら、「どーも」でも「オッス」でも何でもOK。「いらっしゃいませ」と言った瞬間に、お客様と店員という線引きがされてしまい、それではコミュニティーを作れないからだ。
そして、スタッフがやるべき仕事は、お客様とお客様をつなげること。お客様にどんどん話を振って、隣の人同士をつなげる。それによって、一人でも来店しやすく、毎日でも行きたいと思える店舗を実現しているのだ。ここにもコミュニケーションの場であれ、というvivoの理念が活きている。スタッフにも、もしコミュケーションを促された人が嫌がって来なくなっても良いのでためらうなと伝え、躊躇なく話しかけることが徹底されている。
アホでも出来るオペレーション
店に立つスタッフは基本的には店長1人だ。スタッフがコミュニケーションの要になるのであれば、店での仕事は極力シンプルであるべきだろう。鈴木氏は、vivoの仕事は“アホでもできるオペレーション”であり、誰でも店長になれると言いきる。
まず、ドリンクのメインがワインであることが重要になる。ワインならボトルから注ぐだけ。全部グラス売り(ボトル販売も可能)で、ボトルワインリストは置いていない。カクテルも一通り用意されているが、ステアでできるロングカクテルだけだ。ただ、ワイン知識は必要になるので、必ずソムリエ資格は取ってもらうことにしているそうだ。
そして、料理は上述の通りセントラルキッチンから出来上がったものが来るので、面倒な調理は行わない。また、調理手順や提供時間、使う皿、量、使用食材、売り文句まで全てが書かれたマニュアルが用意されている。この簡略化されたオペレーションによって、店長1名での営業が成り立っている。
しかし、vivoの営業は年中無休・・・もしかして店長は休みなし?とブラックな考えが頭をよぎったが、そこはユーティリティ・プレイヤー(UP)と呼ばれる能力の高い6名のスタッフが全店舗の店長の休みを埋めにいくそうだ。vivo直営店にはアルバイトはほとんどおらず、社員で回している会社であることが、そうした仕組みを整えられる要因になっている。
情熱を維持する仕組みと課題
vivoが目指すような多店舗展開を成功に導くために、最大のハードルは情熱やクオリティを維持することである。
まずはスタッフの熱意だ。全て本部が決めて、それを押し付けるようなシステムでは、売らされている感が出てしまってお客様に情熱が伝わらなくなってしまう。しかし、逆に全てを店長に委ねるのではクオリティを維持することが難しく、多店舗展開によるボリュームディスカウントが活用できなくなる。ではどのように折り合いを付けるのか?
vivoでは、スパークリング・ワインやサングリアなどは全店共通で置くものは決まっているが、白5種、赤5種については店長の裁量で以下の3つのワインリストから選択することができる。それによって、お客様に情熱あるプレゼンテーションが出来るようになるのだ。
① 本部発信のマンスリーワイン
6種類から必ず最低4種を選ぶという取り決めはあるが、ボリュームディスカウントされているため、良いワインがお得な値段で販売できるため、店長にとっても売りやすくメリットがある。
② vin vivo (ヴァン・ビーボ)
2ヶ月に一度行っている社内試飲会。売りたいワインがあれば提案可能。スタッフ全員でディスカッションした上で、自分の売りたいワインを選ぶことができる。
③ デイリーワインリスト
本部で管理しているワインリスト。
そして料理については、常時20種類を揃える手作りのデリメニューは、マンネリ化しないように週に2つは変更し、季節性も持たせている。
現在は何も問題がないように見えるが、最大の課題は今後店舗が100店200店と増えた時、セントラルキッチンで作られたデリがコンビニの総菜のように均一化された面白くない料理になってしまうことだ。今は一つのキッチンで手作業で調理しているが、店舗数が増えるにつれ工場のように分業化が進み、均一化されていく可能性は出てくる。
個性的な手作りの味を維持するための解決策はまだ模索中だが、なんとなく光は見えているそう。今後を楽しみに見ていてください!とのことだ。
飲食業界の今後は・・・
鈴木氏の周りにも飲食店をやりたいという若手がいるそうだが、彼らには必ず「想像しろ」と言うそうだ。
今の飲食業界ほど割に合わなくてしんどい仕事はない。スタッフとして働くうちは給料も少なく、自分の店を持ってなんぼ、というところがある。しかし、晴れて独立したとして、何十年もその店でビールを注ぎ続ける覚悟があるのか?大抵の人は想像したことがないからビックリしてしまうそうだ。
同じ場所で仕事をするのに飽きたオーナーは安直に店舗を増やすことを考えるが、それが出来るマネージメント能力を持たずに結局はダメにしてしまうことが多い。飲食業界で生きていくのであれば、最初から事業展開をする覚悟で臨み、きちんとキャリアプランを立てるべきである。
そして、スタッフがお店や運営会社といった組織に残らず、流動的なことが当たり前になっている飲食業界ではあるが、将来の成長を目指すならば、それぞれの組織に人が残り、皆で力を合わせて社会に貢献するような事業を作っていく必要がある。お店や会社側が若手に対して給料も含めたキャリアプランを提示してあげられるようになれば、状況は大きく変わるのではないか。鈴木氏は、まずは自分の会社から少しずつでも実現させていくつもりなのだと語ってくれた。
★ 使命感に駆られて ★
鈴木氏に趣味を伺うと、仕事が趣味で休みは全く無いとバッサリ。情熱を全て仕事に注ぎタフな生活をしているので、60歳で死ぬだろうと思っていると真顔でおっしゃった。どうしてそこまでvivo事業にかけるのか。背後には強い使命感があるそうだ。日本の社会を良くするための解決策だと考えてvivoを運営しているので、好きでやっているのではないし、お金儲けもしていない。自分がやらないと誰もやらないから仕方ないと思っているのだという。
しかし、もし60歳を過ぎて万が一生きていたら、その後は余生としてvivoではなく自分の好きなようにニューヨーク・パリ・イタリア南部に3店舗作りたい!とのこと。鈴木氏が思うがまま作ったお店とはどのようなものなのか、ぜひ見てみたいと感じた。
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