今が『飲み頃』なボルドーのオフヴィンテージとは?(営業 中小路啓太)
『飲み頃』という言葉は、ワインを美味しく感じさせてくれる魔法の言葉でもありますが、時にワインを縛り遠ざける呪いの言葉にもなるのではないでしょうか。バックヴィンテージは、どうしても評価誌の点数の受け売りになってしまったり、昔のイメージのまま語ってしまいがちですので、今回はボルドーの『飲み頃』感を正確に把握するため、2001年から2013年までの比較試飲実験を行いました!
*スーパーヴィンテージである2005年と2009年2010年は除いています。
【実験方法】
今回の実験では2つの項目を考えていきました。
1つは、飲み頃かどうかという熟成のレベル。もう1つは、そのヴィンテージの今の味わいの傾向です。
熟成レベルについては、段階を以下の4つに分け、スタッフ全員の投票と討論によって決めていきました。
- まだ早い
- 成熟期(飲んで美味しいが、これからもっとよくなる)
- 一度目のピーク(開いた果実味が主体)
- 二度目のピーク(熟成からくる複雑さが主体)
*最初「完全に飲み頃を過ぎている。枯れている」という5つ目の項目も用意していたのですが、実験対象のヴィンテージには該当するものがなく、早々に廃止となりました。
今回と同じような実験を2013年に行いました。8年前の実験では、1993年から2004年までのボルドーを試飲しています。
その時の結果はこちら→https://firadis.net/column_pro/201302/
オフヴィンテージ、それぞれの今
■ 偉大ではないが、バランスよくまとまっている2001 ■
9月に歴史的な乾燥と例年よりも5度も低い平均気温を記録した2001年。右岸ではブドウがよく育ち、全体としては凝縮感には欠けるものの、クラシックなヴィンテージと言われています。
味わいには特筆すべき特徴があるとは言えませんが、外れの少ないヴィンテージという印象です。凝縮感はなくとも綺麗な甘みがあり、バランスもよくまとまっていました。格付けシャトーに関してはまさに今第一あるいは第二のピークが来ているタイミングと言えます。1級やそれに匹敵するようなシャトーでは真の飲み頃はまだこれからなのではないでしょうか。一方、格付け以外のシャトーではやや真の飲み頃を少し過ぎ、熟成の世界を楽しむ段階に来ていると言えます。これらのシャトーでは熟度がやや低い傾向にあり、果実味よりもタンニンが目立っていました。ちなみに冒頭で紹介したヴィンテージ評価と違い、今は右岸の方が左岸よりも良いという事はありませんでした。総合すると、ワインの格を考慮する必要はありますが、使いやすく楽しめるヴィンテージだと言えそうです。
■ マイナス要素は少ないが、飲み手を選びそうな2002 ■
曇りがちで小雨のある冷夏となった2002年。秋の天候は良く、収穫をしっかりと待てたカベルネ・ソーヴィニョン主体のシャトーは小柄ながら美しいまとまりを見せると言われています。
今回の実験では、味わいの構成全体の弱さが判断を難しくさせたポイントでした。青さが目立つという事はどのシャトーでもありませんでしたが、果実味がとても儚く、今後さらなる熟成は期待できません。逆に言えば、ワインに強さを求めるのではなく、柔らかさ、繊細さを求める方にはお勧めできるヴィンテージだと言えます。
■ レベルの高いものばかり!素晴らしくバランスの良い2003 ■
猛暑と干ばつで有名な2003年。ブドウが生育を止めてしまう程の暑さで、8月と9月に降った雨でブドウが生育を再スタートしたボルドーは他の地域に比べて恵まれていると言えます。一般には果実味が強く、酸が低いヴィンテージ。そんな印象があるのではないでしょうか。
今回の実験では、素晴らしい熟成を見せてくれました。リリース後すぐは甘すぎた印象がありましたが、現在は素晴らしい落ち着きを見せ、それでいて甘みと厚みのある果実味をキープしています。果実味が落ち着いた分、酸は以前ほど低いとは感じさせず、高いレベルでバランスがとれていました。今がまさに飲み頃だと言えますが、これはすぐに終わるものではなく、この真の飲み頃の状態がしばらく続くと期待させてくれます。もちろん、どのシャトーも無条件に2003年であればお勧めという事ではなく、シャトーの力量とこのヴィンテージの特徴を計りながらであれば、素晴らしい選択になりそうです。今回の実験の素晴らしい発見のひとつでした。
■ タンニンの扱い方がカギになる2004 ■
7月以降、天候に恵まれず特に8月は雨の多かった2004年。
今回の試飲を通して多かった意見は、「タンニンが目立ちすぎてしまう」というものです。熟成によって果実味が落ち着き、その分タンニンが目立つようになり、酸も立っている印象でした。 とは言え、一概に全てが難しいとは言い切れず、シャトーによって差がありました。Ch. Lagrangeのようなタンニンが控えめなシャトーに関しては今が飲み頃と言えますし、格付け上級に位置するようなシャトーであれば果実味がまだ残っていてちょうど良いタイミングなのではないでしょうか。いずれにしても、タンニンが特徴的なヴィンテージですので、どう使いこなすがカギとなりそうです。
■ 美しく瑞々しい2006 ■
2005年というグレートヴィンテージの影に隠れがちなヴィンテージですが、7月までは気温も暖かく穏やかで乾燥した気候に恵まれましたが、8月から雨も多く収穫期には大雨に見舞われました。
試飲してみると、タンニンは豊富にあるのですが、2004年とは異なり瑞々しい果実が全体を通して感じられました。決して強い果実味ではないのですが、瑞々しく、酸ともバランスが取れています。偉大なヴィンテージとは言えずとも、凝縮感ではなく、美しさという点では今非常に良いタイミングだと言えます。シャトーによっては豊富なタンニンがまだこなれていないため、2013年の実験でタンニンが多かった1994年のように、さらなる素晴らしい熟成が今後期待できるかもしれません。
■ チャーミングな果実味が前面に出ている2007■
基本的には涼しく、雨の多かった2007ですが、幸いにも9月は天候に恵まれました。元々フレッシュさを楽しむヴィンテージ
というイメージをお持ちの方がいるのではないでしょうか。
実験結果としては、まさに今飲み頃だと言えそうです。全体としてこじんまりとしていて凝縮感に欠ける感は否めないのですが、
果実、酸、タンニンともに緻密さがあります。特に酸に関しては2006年以上に緻密さがあり、しっかりと全体を支えてくれているのでチャーミングな印象を受けます。2006年よりも飲み頃がやや先だろうというワインもありますが、基本的には今が飲み頃で特に食中酒としてであればいい活躍をしてくれそうです。
■ 意外とフレッシュさを残している、明らかにお買い得な2008■
全体的に涼しいヴィンテージでウドンコ病と霜の被害があり、生産量は多くはありませんでした。9月からは涼しいながらも日照量もあったことがブドウを救ったと言われています。また右岸と左岸で明確に差の出たヴィンテージでもあります。特に右岸では良ヴィンテージと言われていて、涼しく乾燥していたので左岸のカベルネ・ソーヴィニョンと同時期にメルローを収穫できました。結果、しっかりと熟度のあるメルローが収穫できたようです。
実際に試飲をしてみると、想像していたよりもフレッシュさが残っていましたが、青さはなく熟度が高く、活きの良い果実味があり、多くの人がボルドーに求める所謂「強さ」もありました。今、とても良いタイミングですし、まだ熟成するポテンシャルを秘めていそうな期待感に溢れるヴィンテージでした。
■ クラシックとも言えるが、賭けには出づらい2011■
春は乾燥して降水量も少なく生育も進んだが、6月からブドウが焼けるほどの猛暑に。7月から寒く、降水量も多く、歴史的に早い収穫を迎えたのが2011年です。
実際に試飲しますと、果実は強くないものの、酸、タンニンには硬さの残る難しい年という事がわかりました。とは言え、元のもっとタンニンが強かったイメージを考えるとかなりこなれてきており、ステーキなど脂質の多い料理と合わせる食中酒としてであれば、クラシックなヴィンテージとして活躍すると思います。
■2011と似ているが、丸みがあり、フレッシュさを求めるのであれば意外と穴場な2012■
寒くて雨の多い春で開花は不均一。その後は晴天に恵まれたが、9月後半から10月の雨による被害も。カベルネは比較的緊張感のあるタンニンが特徴と言われています。
果実はこぢんまりとしていて、全体のスケールもそれほど感じられない点が2011年と似ています。しかし、酸、タンニン、ミネラルの要素がしっかりと感じられ、特にタンニンに関しては、2011年はドライだったのに対し、2012年はスムーズで収れん性を感じにくいという特徴がありました。長い目で見ると、それほど熟成するとは言えませんが、フレッシュさを残しながら、こなれ感を求める方には狙うべきヴィンテージだと言えそうです。
■これからの変化に期待!まだ「待ち」の2013■
気候が不安定で開花が遅れ、その後湿度の高い状態が続きました。8月になって気温はあがりましたが、9月に再び嵐が襲い、収穫は早かったのが2013年。
今回の実験では、まだ酸が高く、タンニンは強いわけではないのですが、飲み心地は良くありませんでした。まだ愛想の悪い印象です。とは言え、一昔前のクラシックなボルドーのような静かで難しさのあるスタイルを求める方にとっては試してみる価値はありそうです。
【まとめ】
① 2000年代の飲み頃の判断は人によってかなり分かれる
今回の実験では前述のように、熟成の段階を4つのレベルに分けて投票と討論を行うという方式をとりました。
2000年代前半のヴィンテージだと3(開いた果実味主体の第一のピーク)や4(熟成による複雑さ主体の第二のピーク)が多かったのですが、スタッフの中には2の評価をする者も一定数見られました。弊社の実験では、スタッフ全員でテスト試飲をしながら評価基準をすり合わせ、各自が共通の基準をもって試飲に臨むのですが、それでも評価がバラけるということは、それだけヴィンテージ感の捉え方や好みの味わいが人によって異なるということではないでしょうか。一口に『飲み頃』と言っても、人によってストライクゾーンは大きく異なるのだと改めて認識させられました。
② 『飲み頃』は使い方次第!
2004年や2011年のような力強いタンニンのあるヴィンテージであれば、タンニンを中和してくれる脂質の多いお肉料理と合わせることで素晴らしいマリアージュになるでしょう。2002年や2007年のようなやや凝縮感に欠けるヴィンテージであれば、単体で楽しみやすいですし、あまり強いワインが得意ではない方には親しみやすいと思います。2008年や2012年のようにある程度のフレッシュさ、果実味を残しながらも熟成のニュアンスがあるヴィンテージだと、熟成ワイン初心者の方にもお勧めしやすいのではないでしょうか。逆に、落ち着きを見せながら、良いバランスでまとまっている2001年や2003年は、ワインの熟成を楽しめる人には素晴らしい掘り出しものになるはずです。このように、スーパーヴィンテージではなくても、使い方によって、またお飲みになる方の嗜好性に合わせてであれば、存分にお楽しみいただける可能性があると再認識させてくれました。
もちろん、シャトー毎の味わいの差も大きく、どのヴィンテージでもシャトーのクラス感、スタイルによってその飲み頃は異なります。それぞれのヴィンテージにシャトーの個性をかけ合わせて、今選ぶべき『飲み頃』のワインを選択していく必要があると思いました。
私達フィラディスも、一律に○○年だからお勧めです!というのではなく、これからも積極的に試飲を重ねて、そのヴィンテージ、シャトーならではの、真の『飲み頃』を探していきます。今後も皆さまのお役に立つボルドーワインをご紹介しますので、ぜひご期待下さい!
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