高級中華の定番『フカヒレの姿煮』にマリアージュするワインを徹底検証!(広報 浅原有里)

2023年初めてのマリアージュ実験は、新年に相応しい高級中華の定番「フカヒレの姿煮」がテーマです。
コクのある王道の味わいのフカヒレの姿煮にはどんなワインが合うのか?
紹興酒以上のペアリングは見つかるのか?
フカヒレと中華食材の専門卸会社である株式会社中華・高橋様のご協力のもと、約30種類のワインからマリアージュするものを探してみました。
フカヒレについて
フカヒレとは、皆さんご存じの通り「鮫のヒレ」のことで、どの種類の鮫でも、ヒレはフカヒレと呼ばれます。日本は世界有数のフカヒレ生産国であり、宮城・気仙沼が最も有名で、ヨシキリザメ、モウカザメ、アオザメの順に多く生産されています。
今回の実験では、中華・高橋様にモウカザメの尾ビレの姿煮(「てまなしモウカ排翅」)とオリジナルのフカヒレ煮込み専用スープ「すぐうま紅焼(ホンシャオ)ソース」をご用意いただきました。
モウカザメの尾ビレの特徴は、厚みとボリューム(1枚約300g)があり、1本1本の繊維質が細く口当たりが柔らかいこと、またゼラチン質の量も多めです。ただ、フカヒレ自体には味わいがないため、オイスターソースを効かせた王道の味付けのソースで煮込んでとろみをつけています。
多くの中国料理店では、フカヒレを煮込むベースとなるスープには、上湯(シャンタン)か白湯(パイタン)を使います。上湯は広東料理で有名な上質な透き通ったスープで、鶏肉と金華ハムで出汁を取るのが特徴です。力強く、旨味・塩味のエッジがきいた味わいとなります。一方、白湯は鶏ガラをベースに炊いた白濁したスープで、脂感や複雑さがあり、味の厚みがあります。
今回使用したのは、白湯と上湯をブレンドしたスープに、醤油とオイスターソースの風味を加えたベーシックな味付けのソースのため、皆さまがフカヒレを食べる際に大いに参考にしていただけると思います。
ワインについて
ワインは、シャンパーニュ4種類、白ワイン13種類、ロゼワイン1種類、赤ワイン11種類の計29種類に加え、紹興酒2種類も用意しました。シャンパーニュ、ブルゴーニュ、ボルドーについては熟成ワインも含まれます。
紹興酒以外は全てブラインドでテイスティングしています。
マリアージュの判断方法
「ボリューム」「テクスチャー」「フレーバー」「五味(甘味・酸味・塩味・苦味・旨味)」について、以下のマリアージュポイントを参考にしながら分析します。
同調 (ワインと料理の個性の一部が寄り添うことで双方を高め合う)
中和 (お互いの個性を中和させて味わいのバランスをとる)
補完 (ワインと料理の双方が揃うことで、足りなかったものを補完する)
※理論的なマリアージュの考えについては、若手ソムリエ応援プロジェクトの第1回セミナーにて大越基裕講師に解説いただき、2013年12月のニュースレターで公開しております。コチラに掲載しておりますので、ぜひご覧ください。
結果
スパークリングワイン
1 | NV | Brut Carte d’Or / Veuve Olivier et Fils |
ムニエ60%、ピノ・ノワール40% | フランス、シャンパーニュ | △ |
2 | NV | Table Ronde / Lancelot Pienne |
シャルドネ100% | フランス、シャンパーニュ | △ |
3 | NV | Bouzy Blanc de Noirs / Brice | ピノ・ノワール100% | フランス、シャンパーニュ | ◯ |
4 | 2002 | Millesime / De Venoge | ピノ・ノワール70%、シャルドネ15%、ムニエ15% | フランス、シャンパーニュ | No,1 ◎ |
No.1:2002 Millesime / De Venoge
スパークリングワイン部門では熟成感のあるシャンパーニュが1位になりました。
熟成からくる味わいの複雑さに加え、シャンパーニュ特有のイースト香やピノ・ノワールのふくよかさや骨格などの要素がフカヒレにしっかりと寄り添い、フレーバーの強さやボリューム感、テクスチャーも良く合いました。またワインの出汁感や旨味がフカヒレ姿煮のソースの旨味と相乗して増幅され、素晴らしいマリアージュとなりました。
難しかったポイント
多くのマリアージュ実験で万能さを見せつけてきたシャンパーニュ(スパークリングワイン)ですが、今回特にフレッシュなシャンパーニュは、フカヒレと合わせた時にワインの酸が悪目立ちしてしまいました。他にもドサージュの甘味や樽香が浮いてしまったり、果実味が違和感だと感じてしまったりと、ぴたりと合うものを探すのは難しいという結果になりました。No.1のワインは熟成からくる酸化のニュアンスやこなれ感、豊富な旨味が料理と繋げてくれたためにベストマリアージュとなりました。
白ワイン
5 | 2020 | Menetou Salon Blanc Morogues La Tour Saint Martin / Minchin | ソーヴィニヨン・ブラン100% | フランス、ロワール | △ |
6 | 2018 | Just B / Just B Wines | アルバリーニョ100% | スペイン、リアス・バイシャス | ◯ |
7 | 2019 | Gruner Veltliner Ried Loibenberg / Pichler Krutzler | グリューナー・フェルトリーナー100% | オーストリア、ヴァッハウ | × |
8 | 2020 | Riesling Urziger Wurzgarten Spatlese Trocken / Markus Molitor | リースリング100% | ドイツ、モーゼル | ◯ |
9 | 2020 | Riesling G.C. Eichberg / Emile Beyer | リースリング100% | フランス、アルザス | ◯ |
10 | 2020 | Coteaux du Loir Blanc L’Effraie / Belliviere | シュナン・ブラン100% | フランス、ロワール | × |
11 | 2021 | Giallo d’Arles Greco di Tufo / Quintodecimo | グレコ100% | イタリア、カンパーニャ | No.1 ◎ |
12 | 2020 | Gewurztraminer G.C. Kirchberg de Barr Clos Gaensbroennel / Hering | ゲビュルツトラミネール100% | フランス、アルザス | △ |
13 | 2021 | Chardonnay / Tramin | シャルドネ100% | イタリア、アルト・アディジェ | △ |
14 | 2020 | Bourgogne Blanc / Francois Carillon | シャルドネ100% | フランス、ブルゴーニュ | ◎ |
15 | 2018 | Chardonnay Wisner Vyd / Tate Dog Wines | シャルドネ100% | アメリカ、カリフォルニア | ◯ |
16 | 2019 | Chateauneuf du Pape Blanc / Clos St. Jean | グルナッシュ・ブラン25%、ブールブラン25%、ルーサンヌ25%、クレレット25% | フランス、ローヌ | × |
17 | 2018 | Savagnin / Philippe Vandelle | サヴァニャン100% | フランス、ジュラ | △ |
No.1:2021 Giallo d’Arles Greco di Tufo / Quintodecimo
果実の甘味、程よい酸味、ほのかな塩味、咀嚼すると感じるミネラル感など、ワインの絶妙なバランスがフカヒレ姿煮ととても相性が良いと感じました。ワインの香りもより引き出され、またフカヒレが持つ若干の生臭さを消してくれました。また、フカヒレのとろりとした甘味や塩味に酸味を足して、もっと食べたい飲みたいと思わせる組み合わせでした。
No.2:2020 Bourgogne Blanc / Francois Carillon
2位に輝いたブルゴーニュ・ブランは、ワインの強さと料理の強さが拮抗しており、ワインの果実味・樽香・ボリューム感といったさまざまな要素がバランス良く寄り添いました。また旨味が豊富なワインのため、フカヒレの旨味にもしっかり対抗してお互いを引き立て合っていました。ただ、ネガティブな意見としてワインの酸が突出して気になるという声もありました。
難しかったポイント
シャンパーニュと同様に白ワインも全体的に酸が目立ってしまい、フカヒレと合わせた際の余韻を切ってしまうという大きなマイナスポイントがあり、高評価を得られるワインが少ない結果となりました。
また、香りにフローラルやハーブのニュアンスが強くあるワインや、樽香が強すぎるワインはそれぞれの要素が浮いてしまってまったく合わず、フカヒレのソースに負けてしまうワインも見られました。
赤/ロゼワイン
ロゼワイン | |||||
18 | 2021 | Caprice de Clementine Rose / Ch. Les Valentines | サンソー50%、グルナッシュ50% | フランス、プロヴァンス | ◯ |
赤ワイン | |||||
19 | 2020 | Marsannay / Ch. de Marsannay | ピノ・ノワール100% | フランス、ブルゴーニュ | ◯ |
20 | 2020 | Pinot Noir Sonoma Coast / Anthill Farms | ピノ・ノワール100% | アメリカ、カリフォルニア | × |
21 | 1992 | Beaune Sizies / Bruno Colin | ピノ・ノワール100% | フランス、ブルゴーニュ | ◎ |
22 | 2021 | Cotes du Rhone Villages Visan / Bastide | シラー50%、ムールヴェードル45%、グルナッシュ5% | フランス、ローヌ | △ |
23 | 2019 | Seigneurs d’Aiguilhe / Cotes de Castillon | メルロー85%、カベルネ・フラン15% | フランス、ボルドー | △ |
24 | 2018 | Chianti Classico / Castell’in Villa | サンジョヴェーゼ100% | イタリア、トスカーナ | ◎ |
25 | 2018 | Barolo / Giacomo Grimaldi | ネッビオーロ100% | イタリア、ピエモンテ | No.1 ◎ |
26 | 2016 | Taurasi Santandrea / Vinosia | アリアニコ100% | イタリア、カンパーニャ | ◯ |
27 | 2017 | Rioja Reserva / Baron de Ley | テンプラニーリョ88%、マトゥラナ7%、グラシアーノ5% | スペイン、リオハ | × |
28 | 2016 | Ch. Bernadotte / Haut Medoc | メルロー56%、カベルネソーヴィニヨン43%、プチ・ヴェルドー1% | フランス、ボルドー | × |
29 | 2006 | Ch. Le Meynieu / Haut Medoc | カベルネソーヴィニヨン60%、メルロー35%、カベルネ・フラン5% | フランス、ボルドー | ◯ |
No.1:2018 Barolo / Giacomo Grimaldi
赤ワインでダントツの1位はバローロでした!熟成感とフレッシュさを併せ持ち、柔らかな果実味、テクスチャーのしなやかさ、程よい甘味、豊富な旨味がフカヒレ姿煮とぴたりとマッチしました。オイスターソースとも相性が良く、ワインのスパイス感がフカヒレのこってりしたコクを引き立ててくれました。
No.2:1992 Beaune Sizies / Bruno Colin
2位には熟成したブルゴーニュがラインクイン。シャンパーニュの時と同様に熟成による香りや味わいの複雑さや柔らかさ、じわっと広がる旨味がフカヒレ姿煮としっかり寄り添いました。ワインとソースの旨味のトーンが合っており、じわじわ染み込んでくるような地味ながらも深みのあるマリアージュでした。
No.3:2018 Chianti Classico / Castell’in Villa
1位のバローロと似た合い方ですが、しなやかなテクスチャーや穏やかな果実味、熟成感、旨味がフカヒレと好相性でした。しかし、樽香とベリー香がバローロより若干強く、それがネガティブ要素となって3位という結果となりました。
難しかったポイント
フカヒレ姿煮は強い旨味とほのかな塩味、柔らかいテクスチャーが特徴であるため、フレッシュで甘味の強いベリー香や強い樽香、がっしりしたタンニン、鋭利な酸味などは全て邪魔をしてしまう要素となりました。
紹興酒
30 | NV | 塔牌紹興酒「紅琥珀」 | 無濾過紹興酒 | ◎ | |
31 | NV | 紹興大越貴酒 十五年陳醸 | 15年熟成紹興酒 | ◎ |
番外編、そして比較対象として中華・高橋様に用意していただいた紹興酒ですが、ワインと比べてみてもやはり圧倒的なマリアージュとなりました。特に31番の15年熟成は、料理の甘味・柔らかさ・旨味と、紹興酒の甘やかな香り・旨味・テクスチャーの方向性が同じでこれ以上ないほど同調しました。また双方の複雑さや深み、香ばしさが絡み合い、心地よいフレーバーが余韻に残るため、もっと食べて飲みたくなる完璧なマリアージュでした。
まとめ
熟成感のあるワインが◎
フカヒレ姿煮はとても旨味が強く、ほのかな塩味ととろりとした柔らかなテクスチャーが特徴の料理です。そこに合わせるワインには同様な強さが必要ではありますが、甘味・酸味・渋味・樽香・ミネラル感は強すぎてはならず、旨味が豊富でオイスターソースが効いたソースに合う複雑さが必要でした。複雑さという意味で、シャンパーニュと赤ワインで熟成のニュアンスの出ているワインが選ばれたことは必然だといえます。
強すぎる酸味・樽香は絶対NG
特に今回ネガティブ要素としてよく挙がったのが酸味でした。全ての酸が悪いわけではなく、グレコのような大らかさがあるワインの酸味であれば、フカヒレの旨味・甘味・塩味に酸味を足すという五味の補完がなされてポジティブに捉えられましたが、鋭利だったり突出した酸味は旨味の余韻をすっぱり切ってしまい、高評価は得られませんでした。
また、強い樽香も料理と合わせた時に浮いてしまうように感じてNGでした。
今回はそれぞれのジャンルの1位がいずれも同じくらいの得点だったため、泡・白・赤の3つのワインを同率1位とさせていただきます。今回のソースは中華料理の王道の味付けだったので、他の食材にも応用できると思います。
ぜひ参考にしてみてください!
尚、今回の実験は株式会社中華・高橋様の運営するWEBメディア『80C [ハオチー] 』でも紹介していただいています。
ぜひこちらもご覧ください。
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