京都で親しまれる冬の風物詩『京漬物』と ワインの相性とは?(広報 浅原 有里)
2024年初のマリアージュ実験のテーマは、まさに今が旬である京都を代表するお漬物「千枚漬」と「すぐき」、そして京風味の「奈良漬」です。
お漬物とひとくくりにされていますが、味わいはそれぞれ大きく異なります。日本酒やお茶との相性の良さは皆さまもご存知だと思いますが、果たしてワインにはマリアージュするのか?合うのであれば、どんなワインが良いのでしょうか?
今回は京都・錦小路に3つのお店を構え、全国にも直営店や販売店を持つ株式会社桝悟(ますご)様にご協力いただき、徹底的に検証してみました!
京漬物について
京漬物とは、可能な限り京都府産の野菜を使用し、京都で伝統的な製法により作られたお漬物のこと。野菜本来の持ち味を活かし、塩分控えめで作られており、千枚漬・すぐき・しば漬が三大漬物と称されます。今回は千枚漬とすぐきに加え、京風味に作られた奈良漬という三者三様の味わいのお漬物で実験を行いました。
千枚漬
京野菜のひとつである聖護院かぶらを利尻昆布とともに漬け込んだ冬の京漬物の代表です。ひと樽に漬け込むかぶらが千枚になるほど薄く削ったことから「千枚漬」と名付けられたと伝えられています。
桝悟さんの千枚漬は驚くほど上品で優雅な味わい!乳酸発酵や昆布のまろやかさや柔らかさと酸味・甘味のバランスが心地よく、はんなりとした旨味の余韻が長く続きました。
すぐき
すぐきは上賀茂特産のすぐきかぶらを塩漬にした後発酵させたものです。京漬物の中でもその起源は古く、桃山時代から上賀茂神社の社家で自家用に漬けられていたものが公家への進物に用いられ、それが広まったと言われています。
乳酸発酵の独特の酸味と力強いボディ感のある味わい、千枚漬と比べてコリコリとした食感が特徴的で、後を引く美味しさでした。本来は葉も刻んでいただくものですが、評価を統一するため今回は蕪の部分だけで判断しました。
奈良漬
奈良漬は白瓜、胡瓜、西瓜、生姜などの野菜を塩漬にし、何度も新しい酒粕に漬け替えながら作る奈良伝統の漬物です。
桝悟さんの白瓜の奈良漬は、厳選した徳島産の肉厚な白瓜を年明けまでじっくり塩漬にして寝かせ、その後1年半かけて上質な銘酒の酒粕に5回漬け替え熟成させています。
千枚漬やすぐきと比べて塩味が強く、酒粕の独特な風味が効いたパンチのある味わいですが、白瓜のフレッシュさも感じる絶妙な漬け加減で、全体としてとても上品に調和がとれていました。
様々な要素を持った複雑な味わいなので、ワインとのマリアージュが楽しみです!
ワインについて
ワインは、スパークリング8種類、白ワイン13種類、ロゼワイン1種類、赤ワイン7種類の計29種類を用意しました。
商品名 / 生産者 | 産地 | 品種 | 希望小売価格 | ||
スパークリングワイン |
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1 | NV | Cremant du Jura Brut / Philippe Vandelle | 仏、ジュラ | シャルドネ100% | ¥3,400 |
2 | NV | Brut Carte d’Or / Philippe VandelleVeuve Olivier et Fils | 仏、シャンパーニュ | ムニエ60%, ピノ・ノワール40% | ¥5,700 |
3 | NV | Jade / Vinosia | 伊、カンパーニャ | ファランギーナ100% | ¥2,250 |
4 | NV | I’m Blanc de Blancs from France / Because, | 仏 | シャルドネ100% | オープン |
5 | NV | Cava Brut Reserva / Sabartes | 西、カバ | パレリャーダ41%, チャレロ36%, マカベオ23% | ¥2,200 |
6 | NV | Cremant de Loire Brut L / Ch. de L’Aulee | 仏、ロワール | シュナン・ブラン85%, カベルネ・フラン15% | ¥2,700 |
7 | NV | Eloquence / J.L. Vergnon | 仏、シャンパーニュ | シャルドネ100% | ¥8,100 |
8 | NV | Cava Brut Rosado / Sabartes | 西、カバ | ピノ・ノワール100% | ¥2,500 |
白ワイン |
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9 | 2021 | Gruner Veltliner Langenlois / Weszeli | オーストリア、カンプタル | グリューナー・フェルトリーナー100% | ¥3,200 |
10 | 2022 | Frascati Rubbie / Vallechiesa | 伊、ラツィオ | マルヴァジア・デル・ラツィオ(マルヴァジア)50%, マルヴァジア・ディ・カンディア(マルヴァジア)20%, グレコ15%, トレッビアーノ・トスカーノ(ユニ・ブラン)15% | ¥2,000 |
11 | 2021 | Pinot Blanc Haus Klosterberg Trocken / Markus Molitor | 独、モーゼル | ピノ・ブラン100% | ¥3,100 |
12 | 2018 | Just B / Just B Wines | 西、リアス・バイシャス | アルバリーニョ100% | ¥3,200 |
13 | 2022 | Greco di Tufo L’Ariella / Vinosia | 伊、カンパーニャ | グレコ100% | ¥2,800 |
14 | 2010 | Riesling Edition / Querbach | 独、ラインガウ | リースリング100% | ¥4,400 |
15 | 2022 | Gewurztraminer / Tramin | 伊、アルト・アディジェ | ゲヴュルツトラミネール100% | ¥3,400 |
16 | 2022 | Unique Sauvignon Blanc / UBY | 仏、シュッド・ウエスト | ソーヴィニヨン・ブラン100% | ¥1,900 |
17 | 2019 | Saint Mont Heritage Blanc Sec / Plaimont | 仏、シュッド・ウエスト | グロ・マンサン70%, プティ・クリュブ20%, アリュフィアック10% | ¥1,900 |
18 | 2020 | Riesling Sentiment / Amelie & Charles Sparr | 仏、アルザス | リースリング100% | ¥5,000 |
19 | 2020 | Marsannay Blanc / Ch. de Marsannay | 仏、ブルゴーニュ | シャルドネ100% | ¥6,500 |
20 | 2022 | Bourgogne Blanc Jean de la Vigne / Cordier P&F (Domaine) | 仏、ブルゴーニュ | シャルドネ100% | ¥3,750 |
21 | 2020 | Chardonnay Tradition / Philippe Vandelle | 仏、ジュラ | シャルドネ100% | ¥3,300 |
ロゼワイン |
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22 | 2022 | Caprice de Clementine Rose / Ch. Les Valentines | 仏、プロヴァンス | サンソー50%, グルナッシュ50% | ¥3,300 |
赤ワイン |
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23 | NV | I’m Pinot Noir from California / Because, | 米、カリフォルニア | ピノ・ノワール100% | オープン |
24 | 2018 | Moulin a Vent Rouchaux / Louis Boillot et Fils | 仏、ブルゴーニュ | ガメイ100% | ¥4,800 |
25 | 2021 | Santenay V.V. / Lucien Muzard | 仏、ブルゴーニュ | ピノ・ノワール100% | ¥5,700 |
26 | 2021 | Coteaux du Loir Rouge Le Rouge-Gorge / Belliviere | 仏、ロワール | ピノ・ドニス(シュナン・ノワール)100% | ¥5,600 |
27 | 2010 | Ch. LabordeHaut Medoc | 仏、ボルドー | メルロー75%, カベルネ・ソーヴィニヨン25% | ¥3,050 |
28 | 2021 | Saint Joseph Rouge Ribaudes / Lionel Faury | 仏、ローヌ | シラー100% | ¥5,300 |
29 | 2018 | Chianti Classico / Castell’in Villa | 伊、トスカーナ | サンジョヴェーゼ100% | ¥4,700 |
マリアージュの判断方法
「ボリューム」「テクスチャー」「フレーバー」「五味(甘味・酸味・塩味・苦味・旨味)」について、以下のマリアージュポイントを参考にしながら分析します。
同調 (ワインと料理の個性の一部が寄り添うことで双方を高め合う)
中和 (お互いの個性を中和させて味わいのバランスをとる)
補完 (ワインと料理の双方が揃うことで、足りなかったものを補完する)
※マリアージュ理論の詳しい内容は以下よりご覧ください。
第1回若手ソムリエ応援プロジェクト 『マリアージュ理論セミナー』の講義内容を公開します!
結 果
千枚漬
ワイン | 評価 | ||||
泡 | 1 | NV | Cremant du Jura Brut / Philippe Vandelle | ◎ No.2 |
非常に美しい組み合わせ。ワインの果実の甘やかさと千枚漬の酸が調和し、双方の塩味が同調して全てのバランスが合っている。千枚漬はさっぱりしながらも味わいの厚みがあるのでワインのテクスチャーとも相性が良く、美しい余韻が続く。 |
白 | 9 | 2021 | Gruner Veltliner Langenlois / Weszeli | ◎ No.1 |
スタッフ一同納得のダントツNo.1!!双方の方向性がぴたりと一致しており、まさに同調のマリアージュ。ワインの酸味・旨味・柔らかいテクスチャーが千枚漬の繊細さ・まろやかさ・甘味・旨味に合っており、素晴らしいの一言。 |
白 | 14 | 2010 | Riesling Edition / Querbach | ◎ No.3 |
双方の甘味を活かし合うマリアージュ。ワインの酸味とミネラル感が千枚漬の塩味と合っており、ボリューム感もちょうど良い。一部、甘すぎるという意見もあった。 |
白 | 16 | 2022 | Unique Sauvignon Blanc / UBY | ○ | ソーヴィニヨン・ブランのハーブ香が漬物の甘味に続いてふわっと広がることで透明感のある爽やかなマリアージュとなった。ワインのテクスチャーが柔らかいので千枚漬のまろやかさ・繊細さに寄り添えていた。 |
白 | 18 | 2020 | Riesling Sentiment / Amelie & Charles Sparr | ○ | 千枚漬のはんなりとした味わいに、ワインの柔らかさが同調。ワインのクリーンなフレーバーが千枚漬の味わいに寄り添いながらも少し引き締めるような印象。爽やかな組み合わせ。 |
千枚漬の特長は上品な甘味と旨味にまろやかな質感です。そこにピッタリあったのがグリューナー・フェルトリーナーでした。和の旨味・塩味に合わせたら右に出るものがないこの品種の面目躍如!素晴らしいマリアージュでした。
次点だったジュラのスパークリングもボリューム感やテクスチャーが合っており、余韻の美しさが印象的でした。
合わなかったワイン
スパークリングは全体的に悪くはなかったのですが、柔らかくまろやかな千枚漬に対して、骨格がしっかりとしたシャンパーニュは合いませんでした。
白ワインでは、樽香やトロピカルなフレーバーが強いものや、ミネラル感と先鋭な酸を持つフレッシュなタイプはことごとくNGとなりました。
赤ワインは果実味とタンニンが邪魔をして、千枚漬の良さを打ち消すような結果となってしまいました。
すぐき
ワイン | 評価 | ||||
泡 | 7 | NV | Eloquence / J.L. Vergnon | ◎ No.1 |
酒質の強いシャンパーニュであるため、すぐきの味わいの強さに負けることなく、旨味・甘味がお互いに引き出される素晴らしいマリアージュ。すぐきの乳酸発酵の風味や酸味・塩味がワインのミネラル感や果実味と良く調和していた。 |
泡 | 8 | NV | Cava Brut Rosado / Sabartes | ○ | ロゼスパークリングならではの果実味・ミネラル感・タンニンなどの要素が、すぐきのボディ感や味わいの複雑さにマッチしていた。 |
白 | 14 | 2010 | Riesling Edition / Querbach | ◎ No.2 |
ワインの甘味や熟成感が漬物の塩味・酸味を中和して、全体としてまろやかになり旨味が増した。さらにワインのハーブ香やミネラル感が足されて立体的な味わいに変化した。 |
白 | 21 | 2020 | Chardonnay Tradition / Philippe Vandelle | ○ | ワインの酸化熟成のフレーバーがすぐきの味わいの複雑さを引き立てる。一部、アタックの味わいが強くなりすぎるという意見も。余韻として残る旨味・ミネラル感・塩味が非常に美しい。 |
予想に反して合うワインを見つけるのが難しかったのがすぐきでした。漬物自体の味わいが強く、その特徴的な酸味がワインの酸味とちぐはぐになってしまう場合が多く、全体的に苦戦しました。
その中でも、No.1のシャンパーニュはお互いの良さを引き出し合っていましたし、No.2のQuerbachのリースリングはお互いが組み合わさることでよりポジティブな味わいに変化しており、両方ともまさに食事とワインのマリアージュの真髄を見せてくれました。
合わなかったワイン
上でも述べましたが、すぐきの特徴的な酸味・強い味わい・食感に合うワインはなかなか見つからず、ご紹介した上位4つ以外は点数が伸びずに終わりました。
特に赤ワインは果実味・タンニン・スパイス感・熟成感などすべての要素がすぐきと相反しており厳しい結果となりました。
奈良漬
ワイン | 評価 | ||||
泡 | 7 | NV | Eloquence / J.L. Vergnon | ◎ No.3 |
奈良漬の複雑な風味をワインのミネラルや塩味がまとめ上げ、大きいスケールのまま長い余韻の中で収束させていくようなイメージ。後を引くような美味しさが続く組み合わせ。 |
泡 | 8 | NV | Cava Brut Rosado / Sabartes | ○ | 奈良漬の複雑で強い味わいに、ロゼの赤果実由来の味わいや複雑味が合わさり、とても華やかで派手なマリアージュとなった。 |
白 | 14 | 2010 | Riesling Edition / Querbach | ◎ No.2 |
少し熟成感のあるワインであるため、奈良漬の熟成による旨味とよく合っていた。酒粕の甘味とワインのアルコールの甘味が同じ方向性で同調しており、さらに引き出されるような印象。穏やかに甘味・旨味を楽しむマリアージュとなった。 |
白 | 21 | 2020 | Chardonnay Tradition / Philippe Vandelle | ○ | ワインの酸化熟成によるナッツやハチミツをローストしたような甘やかな香りと、奈良漬の熟成由来の甘やかさが同調。双方がまろやかになり、最後に旨味が広がっていく心地良いマリアージュ。 |
赤 | 27 | 2010 | Ch. Laborde | ◎ No.1 |
これ以上ないと感じるベストマリアージュ!! 熟成したボルドーならではの甘やかさや少しこなれた酸味、落ち着いた黒系の果実味、醤油を焦がしたような香ばしさが、奈良漬のすべての要素を受け止めマッチしていた。ワインが持つ若干の青さが奈良漬の瓜の風味ともよく合っていた。 |
ここにきて赤ワイン、それも若干熟成感のあるボルドーがNo.1に輝きました!!
奈良漬は全体的にどのワインにも合いやすかったのですが、中でもCh. Labordeは熟成感が功を奏し、それ以外の要素もガッチリとかみ合ってお互いの良さを引き立て合いながら上品に楽しませてくれました。
No.2にはここでもQuerbachのリースリングが登場!今回すべてのお漬物にランクインした唯一のワインですが、奈良漬とも甘味・旨味をより強く感じられる理想的な相性を見せました。
合わなかったワイン
スパークリングはほぼすべてのワインが高得点を獲得しましたが、白ワインでは樽香やトロピカルな香りが強いものは合いませんでした。
赤ワインもすべてに合うというわけではなく、ピノ・ノワールやガメイは味わいの方向性が異なり、またたっぷりとした果実味やタンニン、スパイシーな香りを持つワインは奈良漬の風味を打ち消してしまいました。
今回は伝統的なお漬物にワインを合わせるという今までにない企画でしたが、いかがでしたでしょうか?
「発酵食品であるお漬物とワインだもの、合わないはずはない!」とは予想していましたが、考えていた以上に素晴らしい組み合わせが発見できてとても有意義な実験となりました。
グリューナー・フェルトリーナーやドイツ産辛口リースリングが和食の味わいに合うということも再度証明できたのではないでしょうか。
もし「うちの料理・食材にはどんなワインが合うの?」とお困りでしたら、ぜひフィラディスまでお問い合わせください。お待ちしております!
(ご協力)
株式会社 桝俉(ますご)
桝悟 本店
京都市中京区錦小路通柳馬場東入東魚屋町181
TEL:075-211-5346
営業時間 9:00~18:00(元旦を除き無休)
https://masugo.co.jp/
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