【シャンパーニュのアルチザン6名来日記念🍾】 ソムリエ協会分科会で実施したパネルディスカッションの内容を公開!
後編:「シャンパーニュにおける栽培・醸造」
4月5日〜10日まで、フィラディスが正規代理店を務めるシャンパーニュのアルチザン6名が同時に来日し、東京と大阪で様々なイベントを行いました。
どの会場もご来場いただいた皆さまの熱気で非常に盛り上がり、生産者たちは心から満足した様子で帰路につきました。ご参加くださった皆さま、誠にありがとうございました!!
今回の来日ではソムリエ協会に協力を仰ぎ、東京と大阪にてパネルディスカッションを行いました。前編と後編で3生産者ずつに分け、前編は「土壌とスタイルの関係性」、後編は「栽培・醸造」というテーマでそれぞれの考えを伺いました。
6月号では前編「シャンパーニュにおける土壌とスタイルの関係性」の内容をご紹介しましたので、今号では後編「シャンパーニュにおける栽培・醸造」を公開します。
前編「シャンパーニュにおける土壌とスタイルの関係性」
【シャンパーニュのアルチザン6名来日記念】ソムリエ協会分科会で実施したパネルディスカッションの内容を公開!<br> 前編:「シャンパーニュにおける土壌とスタイルの関係性」
アルチザン・シャンパーニュとは
かつてシャンパーニュのマーケットはメゾンの独壇場でした。時代を経て、テロワールを深く意識した小規模生産者が台頭し、より幅広い選択肢の中からシャンパーニュを楽しむことが新たなスタンダードとなりつつあります。
フィラディスが考える“良い”シャンパーニュは、単に数が少ないからや、評価が高いからという理由だけで選ばれるものではありません。
この基準を満たす生産者を「アルチザン・シャンパーニュ(職人的醸造栽培家)」と定義し、彼らの想いを漏らさずお客様へお届けできるよう精進しております。
後編:「シャンパーニュにおける栽培・醸造」
パネリスト:
・Lancelot Pienne(ランスロ・ピエンヌ)
ジル・ランスロ氏
リザーヴワインを巧みに使い、グランクリュ・クラマンの個性を見事に表現する生産者です。来日の度にファンを爆増させる紳士で、今回の来日でも多忙なスケジュールを情熱的に駆け抜けてくれました。
・Pierre Paillard(ピエール・パイヤール)
アントワーヌ・パイヤール氏
250年に渡り代々受け継いだグランクリュ・ブジーの個性を表現し、唯一無二のシャンパーニュを生み出す表現者です。細部までこだわる姿勢は、まさにプロフェッショナル!
・Doyard(ドワイヤール)
ギヨーム・ドワイヤール氏
極上の“一番搾り”だけを用いて造られる、黄金色の贅沢なシャンパーニュが魅力。シャンパーニュ造りに真摯に向き合う陽気なナイスガイで、今回の来日組では最年少でした。
司会:フィラディス バイヤー 山田篤典
テーマ①シャンパーニュにおける発酵・熟成容器が与えるワインへの影響
山田 シャンパーニュのみならず、ワイン造りにおいて樽を使うかどうかというのは非常に重要な要素です。樽の香りがつく/つかないという風味の観点だけではなく、最近では酸化的な造り方をするのか、還元的な作り方をするのか、あるいはそれらを組み合わるのかといった醸造的な目的によって、樽について語られることが多くなりました。
3名の生産者は以下のような発酵・熟成容器を使用していますが、彼らがどのように考えてこれらを採用しているのか、伺っていきましょう。
ワイナリー | 発酵容器 | 熟成容器 |
ランスロ・ピエンヌ | ステンレスタンク | ステンレスタンク |
ピエール・パイヤール | オーク樽 |
オーク樽 |
ドワイヤール | ステンレスタンク&オーク樽 | ステンレスタンク&オーク樽 |
Lancelot Pienne 皆さま、こんにちは。私は2005年にワイナリーを受け継ぎ、4代目の当主となりました。今は息子と一緒に栽培・醸造から経営までを行っています。
私たちはコート・デ・ブランのクラマン村にワイナリーを構えていますが、畑はクラマン・アヴィーズ・シュイイに32区画所有しています。いずれもチョーキーなニュアンスが特徴に挙げられます。
収穫されたブドウはプレスされ、果汁はステンレスタンクで発酵・熟成を行います。ステンレスタンクを使う理由として、一つは発酵・熟成のコントロールがしやすいためです。木樽よりも簡単に温度を管理できるため、アルコール発酵やマロラクティック発酵をコントロールしやすくなります。昨今地球温暖化の影響で気温が上がり、温度に対して大きなリスクを抱えていますので、ステンレスタンクで効率的に温度管理を行えることは優位な点だと言えます。
もう一つの理由は、私たちの畑では基本的にシャルドネを栽培していますが、クラマンのシャルドネらしいチョーク(石灰)由来のミネラル感や酸のニュアンス、テロワール由来の繊細さ、テンション、果実のピュアさなどを発揮させるためです。木樽を使うとそうした特徴をマスキングしてしまうので、ステンレスタンクを使用しています。
これまでは100%ステンレスタンクでしたが、気候変動で気温が上がってきており、同じ方法を維持し続けるのではなく臨機応変に変化していかなければなりません。そのため、現在実験的に樽を導入しており、将来的には10%ほどの樽の使用を考えています。
Pierre Paillard 私たちはオーク樽を使って発酵・熟成を行っていますので、オーク樽を使う理由や利点をお話しします。
まず収穫の際には非常に厳しい選果を行い、選び抜かれたブドウだけがセラーに届きます。ブドウ自体も畑で手間暇をかけて育てていますし、収量が低くなるよう調整していますので、凝縮感のある品質の高いものです。それらをプレスして得られる果汁は赤ちゃんのようなまっさらな状態ですので、素晴らしいシャンパーニュに育て上げ発展させるためにはオーク樽が最善だと考えています。
一次発酵中はオリが樽の下の方に溜まります。ステンレスタンクや大樽のような容器だと下に溜まるオリの割合が果汁に対して少ないのですが、私たちはオリとの接触を重要視しているので割合が大きくなるオーク樽(228L~600L)が適しているのです。オリは還元的な物質であるため、オリとの接触が多くなるということは還元的な状況を生み出します。
対して、ステンレスタンクと比べると、オーク樽はよりマイクロオキシジェネーション(微量の酸素との接触)が行われます。ワインは醸造・熟成段階で酸素に触れていないと、急な酸素接触に対して非常に脆弱になってしまいます。徐々に酸素に慣れさせておくことで強くなり、長期熟成にも耐えられる素晴らしい骨格を形成していきます。
オーク樽によって還元的な状況と酸化的な状況を同時に生み出すことができるため、ワインに複雑さや長命さを与えることができるのです。
オーク樽での熟成期間もとても重要です。オリと接触しながらの熟成期間は、長く取れば取るほど酵母の自己分解が起こります。分解されたオリの成分がワインに溶け込んでいくことで、オリからの旨味や複雑味がワインに映し出されます。こうしたオリの自己分解は、一次熟成中5〜7ヶ月目くらいのタイミングに発生しますので、私たちは収穫後の9月に発酵用の樽に入れたとすると、翌年7月までそのままの状態で熟成させ、その後二次発酵に移っていきます。
私たちは主に350Lのオーク樽を使っていますが、ワイン中に丸みや複雑さ、果実のアロマ、ミネラル感などの要素を凝縮させるための期間をしっかりと取るようにしています。
山田 先ほどのLancelot Pienne ジルさんのお話の中で、樽を使うことでテロワールがマスキングされてしまうという話がありましたが、テロワールの表現についてはどのようにお考えですか?
Pierre Paillard 私はテロワールの表現は、すべて畑作業で決まると考えています。畑での剪定作業や収量コントロール、成熟度の判断、選果などを徹底的に行った結果収穫されたブドウには、テロワールのすべての要素やアイデンティティが備わっているのです。そのため、そのブドウをステンレスタンクで醸造しようが、樽で熟成しようが、ブドウそのものが持っているテロワールの要素を変えるものではないと思っています。
例えばブルゴーニュの生産者は醸造・熟成に新樽を使うことが多いですが、ワインを飲んでみるとムルソーやピュリニー・モンラッシェといった村の違いを感じることができると思います。それは醸造の工程よりも、ブドウ自身にテロワールが反映されているからでしょう。
しかし、例えばトーストが強すぎる新樽を使うと、確かにテロワールまでも覆い隠してしまうこともあるでしょう。醸造家は、自身のワインにとって正しい樽を見つけ出す必要があり、私たちPierre Paillardでは複数の樽メーカーからワインの表現に最適なものを選び抜いています。
そして正しい選択さえできれば、私はオーク樽を使うことでテロワールをよりワインの中に強調できると考えています。またワインは複雑な方がより良いとも思いますので、ステンレスだと少し単調かつフルーティーになり過ぎてしまうため、オーク樽を使用しています。
山田 しっかりと畑仕事を行って良いブドウが収穫できれば、テロワールはそんなに簡単にマスキングされるようなものではないということですね。
還元と酸化の両方を使うことでワインに複雑さを与えるというのは、最先端の醸造技術の一つであり、Pierre Paillardの先進性も感じていただけたかと思います。
Doyard 私たちはステンレスタンクとオーク樽を併用して使っています。オーク樽は私の父の代である1995年に、ブルゴーニュから持ってきて使うようになりました。228Lなのでオーク樽の中でも最小の部類のもので、ワインに複雑さをもたらします。対して、ステンレスタンクはブドウのフレッシュさを表現するのに最適です。両方を使うことで、ワインに深みを与えることができます。
ブドウは毎年同じものが収穫できるわけではありません。生産者には、そうした毎年異なるブドウの品質を見て適応する力が必要とされます。私たちは、ヴィンテージごとのブドウの状態に応じてバランスを考えて使い分けています。さらに、間口の広いエントリーラインには普段シャンパンを飲まない方でも楽しめるようステンレスタンクの割合を高めたり、上級のキュヴェにはバリックを使い複雑さを強調するなどキュヴェ毎にも使い分けています。
また、私たちの畑はコート・デ・ブランのヴェルテュという土地にあり、シャルドネをメインに栽培していますが、コート・デ・ブランの一部とグランクリュであるアイ村でピノ・ノワールも栽培しています。それぞれテロワールが違いますので、先ほどのヴィンテージごとのブドウの品質の他に、テロワールやブドウ品種も考慮に入れた上で最善のバランスを検討しています。
ジルやアントワーヌが言及していましたが、オーク樽を使う際には、あまりにもトーストが強いものを使ってテロワールを覆い隠してしまうことがないように気を付けなければなりません。ブドウのアロマやさまざまなテロワールの表現を維持し壊さないことが求められます。
先ほどアントワーヌが強調していましたが、私からも皆さんにお伝えしたいのは、素晴らしいワインを造るには、すべて畑での作業にかかっているということです。どれくらい良いブドウができるかがワインの品質に直結しているのです。素晴らしいブドウさえ収穫できれば、あとはスタイルの違いであり選択肢の違いでしかありません。
山田 3生産者とも、テロワールの表現を重要視していることが分かっていただけたかと思います。異なるアプローチをとっていますが、その中にも共通する部分が見えて興味深いですね。
テーマ②炭酸ガス気圧についての考え方
山田 2つ目のテーマはガス圧です。当然ながらシャンパーニュはスパークリング・ワインですので、ガス圧との関係は切っても切り離せませんし、最終的なワインのテクスチャーや飲み口、風味の出方などに影響を与えます。
シャンパーニュは伝統的な製法で造られますので、炭酸は瓶内二次発酵で発生します。実は今回の3名の生産者は下の表にある通り、それぞれ異なるスタイルをとっています。
Lancelot Pienneは王冠で密閉するという最も伝統的な方法です。Pierre Paillardでは、一部をコルクで密閉をして瓶内二次発酵を行っています。Doyardは蓋をするのは王冠ですが、リキュール・ド・ティラージュ(瓶内二次発酵を促すため、密閉する際に入れるワイン・酵母・糖を混ぜた混合液)の糖の量を調整することで、意図的にガス圧を低くしています。
ワイナリー | 発酵容器 |
ランスロ・ピエンヌ | 伝統的な王冠による瓶内二次発酵 |
ピエール・パイヤール | コルクによる瓶内二次発酵 |
ドワイヤール | リキュール・ド・ティラージュ量の調整による 意図的な低ガス圧 |
Lancelot Pienne アルコール発酵後、6月頃にティラージュ(瓶詰め作業)を行います。ティラージュを行う前に10ヶ月間の一次発酵と熟成の期間があるわけですが、ブドウが本来持っているテロワールのニュアンスや果実のピュアさを育てていき、どのようなワインが出来上がったかを理解することが重要です。
私たちのワイナリーでは、ティラージュ時には基本的に24g/Lの糖分を添加しますが、最近では気候変動の影響によって少しずつ調整が必要になっており、22g/Lと少なくしたりもしています。尚、基本的には24g/Lの糖分を添加すると、最終的に得られるガス圧は6気圧になります。
王冠にはいくつか種類がありまして、私たちは特に密閉力の強い王冠を使用しています。発酵・熟成をステンレスタンクで行っていることにも通じますが、出来るだけ酸素に触れさせたくないという理由からです。長い瓶内熟成の期間もワインをゆっくりと時間をかけて熟成させたいため、この段階でワインに変化を与えたくないという理由もあります。
ただし、先ほど気候変動の影響で実験的にオーク樽を試しているというお話をしましたが、状況に応じた臨機応変な取り組みを積極的に行っておりまして、ゆくゆくはPierre Paillardのようにコルクの使用なども検討する可能性はあるかと思います。
Pierre Paillard コルクを使った瓶内二次発酵のメリットをお話しする前に、コルクの利用は非常に手間がかかるため、全生産量の20%ほどの上級キュヴェにしか導入していないことをお伝えしておきます。
コルクによる瓶内二次発酵と熟成についても、テーマ①の時にお話ししたように、酸化的と還元的という2つの状況を同時に生み出す効果があります。コルクは自然のものなので微小な穴が開いており、王冠に比べると少量の空気を持っているため、この空気がワインに溶け込むことで早い段階から酸化的な環境に置くことができます。一方、3〜10年ほど行われる瓶内二次発酵中はオリと接触し続けますので、還元的なオリによってワインも還元的な環境となります。
これによって、本当に例外的に素晴らしいワインが生まれています。恐らく酸化的な状況のおかげで最初から開いているのですが、同時に表現力が豊かで素晴らしいテクスチャーがあり、口当たりが滑らかでスムーズなシャンパーニュに仕上がりました。
ただ、コルクを使うことで素晴らしいシャンパーニュは得られるのですが、コルクの好影響は少なくとも4〜6年ほど熟成させる期間があって初めて現れるため、長期熟成させるような上級キュヴェに使うのでなければ意味はないと考えています。
また、理想的なガス圧について、先ほどジルが24g/Lで6気圧というシャンパーニュの基本的な添加量の話をしていましたが、私たちのワイナリーでは22〜23g/Lの糖を添加しています。昔からこの量を採用していて満足できる結果が得られているため変えていません。
24g/Lに対しては少し少ないですが、最終的なアルコール度数を高くしすぎないためにそうしています。地球温暖化により年々ブドウの成熟度合いも高まっているため、アルコール度数は昔よりも上がっており、通常の量だと最終的には13%や14%になってしまいます。それは望んでいないので糖を減らしているのです。
Doyard 今王冠とコルクという2つの方法論が出ましたが、王冠はジルの言う通りよりニュートラルでワインの性質を変えないという特性があります。コルクは自然の物でコルク自体の香りがあり、アントワーヌの言う通り空気も含んでいますので、多層的な香りと複雑さをもたらしてくれます。そして、5〜7年以上の熟成をするものに使わなければ意味がないという話にも賛同します。
さて、私からは低ガス圧についてのお話しをしましょう。1995年に父が醸造においてたくさんの変革を行いました。父は、我々のワインをシャンパーニュというより料理に合う“ガストロノミックなワイン”として捉え、ドサージュ量を少なめに抑えたり、ガス圧を低くするといった変更を行いました。ドサージュが多かったりガス圧が強かったりすると、ワインが料理を圧倒してしまうと考えたからです。そこから、ティラージュの糖の量をそれぞれのキュヴェに合うように調整しました。
その際に気をつけなければならないのが、上級キュヴェになればなるほど長く熟成させますが、泡はその熟成期間中に少しずつ消えていくということです。コルクだとその傾向はより顕著です。そのため熟成期間が長いものは、糖を多めに添加する必要があります。私たちの上級キュヴェは最大10年ほど熟成させており、糖は22g/Lほど添加しています。
スタンダードキュヴェであれば、熟成は最大でも4〜5年だと想定していますので、上級キュヴェと比べると糖の添加量は少なくなります。ヴィンテージや最終的なアルコール度数の調整も必要なので毎年変わりますが、18〜20g/Lくらいです。
どのキュヴェでも、理想的な泡というのは、繊細で緻密で細かく、決してアグレッシブではなく、ワインに綺麗に溶け込んだものだと考えています。
先ほどから24g/Lで6気圧という話が何度も出てきますが、4g/Lの糖の添加で1気圧得られるということです。私たちが理想とするのは4.5〜5.5気圧であり、最終的にその間に入るように毎年調整しています。
山田 「素晴らしいシャンパーニュは泡がなくなった後でも美味しく飲むことができる」とはよく聞く話で、まさにDoyardでの取り組みはそれを体現するものですね。
テーマ③地球温暖化が栽培と醸造に与える影響
山田 さて、すでに地球温暖化の言及が何度かありましたが、ワイナリーにとって避けて通ることはできない大きな問題であり、さまざまな変化を求められていると思います。
細線(黒):各年の平均気温の基準値からの偏差
太線(青):偏差の5年移動平均値
直線(赤):長期変化傾向。基準値は1991〜2020年の30年平均値。
出典)国土交通省 気象庁
このデータの通り、残念ながらきれいな右肩上がりになっており、地球温暖化が進んでいることを示しています。下のデータは、どれだけ上昇したかのランキングです。1位が2023年、3位が2020年、4位が2019年ですので、近年では地球温暖化の影響が著しくなっていることも分かります。こうした気候変動を前にして、生産者はどのように考え対応しているのか、伺っていきましょう。
世界全体において正偏差が大きかった年
1位 | 2023年 | (+0.54℃) |
2位 |
2016年 | (+0.35℃) |
3位 | 2020年 | (+0.34℃) |
4位 | 2019年 | (+0.31℃) |
5位 | 2015年 | (+0.30℃) |
Lancelot Pienne 地球温暖化によってどんな課題があってどんな対策が必要かを語るには、非常に長い時間を要しますので今回のセミナーですべてをお話しすることはできません。それくらい私たち生産者にとって深刻な問題であり、適応するための多くの変化が求められています。
特に難しい問題として挙げられるのが、ブドウの成熟の見極めです。収穫前はブドウの酸度と糖度のバランスに加え、フェノールとアロマという2つの要素の成熟具合も判断する必要があります。フェノールの成熟は、実際に収穫期にブドウをテイスティングしたり、成分分析をすることで糖度と酸度のバランスに加えフェノール類の成熟がベストなタイミングを見極めています。クラマン村のシャルドネはエレガントな果実味やテロワールを反映した精緻さが特徴ですので、温暖化によって糖度が上がりすぎてテロワール表現を崩さないように注意を払っています。
また、地球温暖化というと気温の上昇に注目しがちですが、それ以外にも晴れていたのにいきなり大雨が降るといった不安定な気候や、霜が出やすいなどの影響も出ており、過去の経験からはかることができないということにも悩まされています。
醸造段階では、まずプレスした後の果汁はしっかりと冷やすことが重要なのですが、以前より温度が高い中での作業となるためバクテリアの発生の懸念があります。私たちはステンレスタンクを使用しているため管理しやすいのですが、注意が必要なことに変わりはありません。
また、気温が上がって果実がしっかり熟す一方、酸は弱くなってしまいます。クラマンのシャルドネにとって酸のフレッシュさは重要な要素ですので、以前はすべてに行っていたマロラクティック発酵を一部の区画には行わないという選択をしています。一次発酵が終わった後にワインをテイスティングし、その出来に応じてすべきかどうかを判断します。
最後に、私たちは地球温暖化と日々戦っているのですが、クラマン村のシャルドネのピュアな果実味やフレッシュさ、精緻さ、エレガンスといった美点を守っていきたいと思っていますので、皆さまには私たちの仕事を見守っていただけたら嬉しく思います。
Pierre Paillard 私たちのワイナリーがあるブジー村はすべての畑が南向きの斜面に広がっており、シャンパーニュの中で最も糖度が高いピノ・ノワールが収穫されるため、地球温暖化は大きな問題です。ただ、そうは言ってもシャンパーニュはフランスの北限にある産地ですし、私たちのブドウにはチョーク(石灰)があるということは覚えておいてください。
山田さんが示してくれた表でも、2019年は正偏差が4番目に大きかった年だとありますが、シャンパーニュにおいて2019年は過去50年で最も良いと言われるグレートヴィンテージでした。2016年、2020年も良かったですし、この表のヴィンテージは比較的良い年だと言われています。
地球温暖化がシャンパーニュに良い影響をもたらすと言いたいのではなく、我々生産者は悲観的になりすぎずに、この地球の変化に栽培の面でも醸造の面でも適応していく必要があるということです。
一つ大事なのが、ブドウの収量コントロールです。量が多すぎるとブドウの成熟度合いや酸が薄まってしまうため、収量を下げてブドウのフェノール的成熟や酸をしっかり保持することが重要です。
そして我々の畑の母岩であるチョークは、ワインに酸味や塩味、フレッシュさなどのニュアンスをもたらします。私たちのワインを飲んでいただいた時に感じるフレッシュさは、もちろん果実由来の酸もありますが、チョーク由来のミネラルや塩味も大きく寄与しています。ミネラル感をしっかりワインに映し込むには、ブドウ樹の根を下方に伸ばし、母岩層にまで届かせなければなりません。それさえできれば、地球温暖化が進んでもワインにフレッシュさを与えることができると考えています。
Doyard 地球温暖化は、我々地球に生きる人間としては危惧しなければならない問題ですが、一人のワイン生産者としてはアントワーヌと同様にあまり恐れてはいません。
過去15年を見ても素晴らしいヴィンテージが続くようになりましたし(2023年だけは変なヴィンテージでしたがまだボトリング前の段階なのでどんなワインになるか判断できません)、素晴らしいシャンパーニュが造られているだけではなく、コトー・シャンプノワにとっても良い状況です。
私が覚えている限りでは、1987年の収穫は10月10日から始まりました。しかし、ここ数年は8月末に収穫が始まることも多く、収穫までの期間が1ヶ月近く短くなっていると実感しています。それだけブドウのハングタイムが短くなっているということであり、収量を減らすことでブドウの成熟度はありながらもアロマやフェノールを保持した良いブドウを収穫できることに繋がっています。
収量を減らすために、1995年の父の大改革の一環として行われたのがブドウ樹の仕立ての変更でした。特にピノ・ノワールにとって仕立ての管理は大きな意味を持ちます。ピノ・ノワールは、1本のブドウ樹にブドウの房を多くしすぎると一房一房がしっかりと成熟しなくなってしまうため、仕立てと剪定によって房の数をコントロールする必要があるのです。ジルには悪いのですが、シャルドネは比較的簡単で房の数が少しばかり多くても成熟してくれます(笑)。
私たちが採用したのは左から2番目のコルドン式剪定です。シャンパーニュのピノ・ノワールは基本的にこの剪定方法が採用されており、収量がコントロールしやすいという利点があります。
シャンパーニュのシャルドネは通常左端のシャブリ式剪定を行います。しかし、シャブリ式は収量が多くなりやすいため、私たちの所有する畑のうち90%を占めるシャルドネの畑でも、ピノ・ノワールと同じくコルドン式を採用しています。
そして地球温暖化がシャンパーニュに与える影響を考える際に忘れてはならないのが、我々シャンパーニュではいまだに根強くブレンドの文化が残っているということです。ブレンドが温暖化の問題を解決するわけではありませんが、一つの対応策にはなり得ます。
今は年々気温が上がり続けていますが、将来必ず寒い年がやってくるでしょう。その時に寒い年と暖かい年のブドウをブレンドすることで、私たちが求めるバランスを実現することができると考えています。
山田 温暖化が進む中で、収量が重要な意味合いを持つなど、非常に興味深いお話を伺うことができました。皆さま、ありがとうございました。
-
前の記事
ブドウ畑を陰から支える台木。その品種選択を探る。( ソムリエ 織田 楽さん寄稿) 2024.08.02
-
次の記事
ブドウ樹の病害と新しい対策について<後編>
-Pest / 有害生物- (仕入れ担当 末冨春菜) 2024.10.02