【フィラディス実験シリーズ第30弾 】 『ニルヴァーナ・ニューヨーク』のモダン・インド料理と ワインの相性を考える。
近年モダン・キュイジーヌといえば、食材の風味を活かし、最先端の調理法を駆使した軽やかで華やかなお料理が定番になっています。その潮流を汲むモダン・インド料理が世界中で注目されつつあるのをご存知でしょうか?ニューヨークやイギリス、本場インドでは浸透してきているようですし、日本国内にも革新的なインド料理を提供するお店が増えつつあります。
そのお料理は、多種多様なスパイスや調理法などインド料理伝統の技術を使いながらも、決してスパイスが支配したり辛味が突出することはなく、食材の旨味・甘味や風味を引き立たせているという特徴があります。また、日本のモダン・インド料理店では日本の食材を意識的に多く使っていらっしゃるところが多いです。
今回はそんな日本のモダン・インド料理を牽引する存在である東京ミッドタウンのニルヴァーナ・ニューヨーク様にて、コース料理にワインを合わせたマリアージュ検証会の様子をご紹介します。
ニルヴァーナ・ニューヨーク 滋賀食材コース
ニルヴァーナ・ニューヨーク様では、期間限定の滋賀食材フェア『Local Fine Food Fair SHIGA』に参加されています。これは、第一線で活躍するシェフらが、滋賀県の素晴らしい食材を知り、その魅力を伝えるオリジナル料理を提供する期間限定の企画です。
今回いただいたのは、滋賀県の食材をふんだんに使用した10月から提供予定の特別コースです。アミューズから2種類のデザートまで全10皿を提供されますが、その中からメインとなる4つのお料理に合うワインを検証しました。
どのお料理もスパイスやハーブが繊細かつ印象的に使われており、インド料理と和食の要素が融合している印象を強く受けました。
マリアージュの判断方法
「ボリューム」「テクスチャー」「フレーバー」「五味(甘味・酸味・塩味・苦味・旨味)」について、以下のマリアージュポイントを参考にしながら分析する。
同調 (ワインと料理の個性の一部が寄り添うことで双方を高め合う)
中和 (お互いの個性を中和させて味わいのバランスをとる)
補完 (ワインと料理の双方が揃うことで、足りなかったものを補完する)
※マリアージュ理論の詳しい内容は以下よりご覧ください
合わせたワイン
フィラディスでは過去に様々なマリアージュ実験を行ってきましたが、インド料理やスパイスは初めての試みとなるため用意するワインの選定にはとても悩みました。
社内のスパイスカレー好きスタッフや経験豊富なソムリエの経験から、主要な品種は揃えつつ、出来るだけ果実の甘味が感じられる柔らかいテクスチャーのワインを用意しました。
結果
①高島市産小鮎の一夜干し
◎ 2020 Roero Arneis / Giacomo Grimaldi
黄桃のニュアンスと黒にんにく&はちみつ&スパイスが非常に相性良く、華やかなマリアージュ。清涼感や抜け感もあるのでバランスが良い。テクスチャーもGOOD。
◎ 2018 Touraine Amboise Blanc Clos du Pavillon / Dutertre
シュナン・ブランの豊満さ・甘味にはちみつのきいた黒にんにくソースの甘味が良く合い、小鮎の塩味が足されることで甘味が更に膨らむ。鮎の香りも活きており、美しい余韻が長く続く。
◯ 2018 Limoux Blanc Peyre Jac / Altugnac
フェンネルやガラムマサラとワインが好相性。お料理とワインの甘味は抑えられてしまう印象だが、美味しく食べ進められる。
②高島市産ビワマスのタルタル 梨とハーブのピックル
◎ 2020 Caprice de Clementine Rose / Ch. Les Valentines
これぞまさに王道のマリアージュ!ビワマスと調和し、料理にない要素とワインにない要素を補い合う補完のマリアージュのお手本のよう。膨らみがあり、甘味が増し、余韻も長い。全体的なトーンは落ち着いている。
◯ 2019 Falanghina / Vinosia
アタックで柑橘が香り、山椒のような爽やかさが広がる。徐々に甘味や膨らみが出てくる。
◯ 2019 Riesling Andlau / Guy Wach
レモンオイルが引き立ち爽やか。ワインのオイリーさが料理の柔らかいテクスチャーに合う。若干ワインが勝ってしまう。
◯ 2020 Moscatel / Juan Gil
非常にアロマティックなマリアージュ。梨やレモンオイル、すだちの泡とよく合うが、香りが強く出るのを嫌う人には苦手に感じられることも。
◯ 2018 Touraine Amboise Blanc Clos du Pavillon / Dutertre
凡庸でフラットなペアリングではあるが、料理の邪魔をせずに美味しく合わせられる。甘味で覆われてしまうという意見もあった。
③近江鴨のスープチェティナド 大根
おでんや鴨南蛮のようなイメージで、出汁の旨味+スパイスが味わえる軽やかなお料理
◎ 2018 Limoux Blanc Peyre Jac / Altugnac
バランスが良く、変に突出しない。テクスチャーが同調しており、スパイスが生き生きとして、旨味の余韻が長く感じられる。
◎ 2018 Rioja White / Valenciso
華やかでパワフルなマリアージュ。ワインのスモーキーさが大根や出汁の旨味にも合う。テクスチャーも良い。
◯ 2020 Caprice de Clementine Rose / Ch. Les Valentines
とにかくワインがカレーに良く合い、スパイシーさが活かされる。大根とも好相性。
◯ 2019 Riesling Andlau / Guy Wach
リースリングの主張が強すぎるという意見もあったが、甘味が引き出されて美味しく合わせられる。
◯ 2016 Raisins Migrateurs / Belliviere
ナチュラルワインならではの柔らかいテクスチャーが料理の出汁感に寄り添い、非常にしっくりくるペアリング。若干ワインが重くスパイスが活きないという意見もあったが、赤ワインでは最も良かった。
④高島市産 近江牛のタンドール
コースの中で最もスパイスと辛味を感じるお料理。タンドール調理だからか、牛肉に蒸されたようなしっとり感があり、通常のグリルとはテクスチャーが異なる。
◎ 2019 Pinot Noir Closerie des Lys / Altugnac
スパイスが活き、ピノ・ノワールの華やかな香りが相まってスタイリッシュなマリアージュ。牛肉が軽やかでしっとりしているため、テクスチャーも良く合った。キレイにまとまる。
◎ 2018 Rosso di Montalcino Campo di Marzo / Il Valentiano
果実味の甘やかさが足され、ワインの柔らかい質感と牛肉のしっとりした質感がピッタリ!ヨーグルトの乳酸系の香りやスパイスも上手に受け止め、満足感のある素晴らしいマリアージュとなった。
◯ 2016 Raisins Migrateurs / Belliviere
果実の甘味やジューシーさが足される。食べごたえが感じられる組み合わせ。
◯ 2012 Rioja Reserva / Valenciso
果実の甘やかさが足され、方向性が合っている。後半にタンニンのキュッと締まる感じが残るため気になるという意見も。
気になるボルドー品種勢ですが、ボルドーワインや熟成香は下方向に香りが広がるイメージである一方、スパイスは上方向へ広がる香りであるため根本的に合わないと感じました。また、しっとりした水分量の多い牛肉だったため、ワインとのテクスチャーの差も気になりました。
まとめ
今回の実験を通して分かったのは、香りの要素であるスパイスは必然的にトーンが高くなるため、ワインもどっしりと下方向に広がるものより、上方向の味わいを持つものの方が合いやすいということでした。また、当初の予想通り、柔らかさとほどよい甘味があるワインが活躍しました。もちろん使う食材によって変わりますが、一つの判断基準としていただけたら幸いです。
今後もマリアージュの応用編として、様々なお料理とワインとの相性を探っていきたいと考えています。「うちの料理にはどんなワインが合うの?」「お客様の満足度の高いペアリングとは?」といった疑問があれば、ぜひフィラディスまでお問い合わせください!