ワインにおける土の世界

ワインにおける土の世界

「ワインの世界がブドウ品種に牛耳られるようになったのはここ30年ほどである」

ある書籍の中でこのような文言を見てはっとさせられました。確かにワインを勉強している私たちは、レストランなどでワインをオーダーする時、ブドウ品種を聞いてワインの味わいを想像してしまうことが多いかと思います。それはおそらく、ブドウ品種が持つ個性というのはある程度普遍性があると考えているからではないでしょうか。

しかしワイン生産において、普遍的な要素はブドウ品種の他にもあります。天候は毎年変化します。人が行う栽培、醸造、熟成も毎年あるいは代替わりによって変化します。

それでは、テロワールにおいて普遍的なものは何なのかと考えた時、出てくる答えの一つに土壌が思い浮かびます。
土壌が完全に普遍的かと言われるとそうではありません。今から数千年~数万年と経てば、きっと変化はあることでしょう。ただ、私たちが生きるせいぜい百年くらいであれば、普遍的と言って良いでしょう。

今回のニュースレターではそんな土壌にフォーカスして、栄養素・pH値・粒子・母岩の性質という4つの観点から土壌を分類・分析し、それぞれの役割・特徴などに関して記述し、土壌に対する理解を深めていきたいと思います。


栄養素から見る土壌

まず土壌を理解する上で、土壌の栄養素についての理解を深めたいと思います。

ブドウが土壌から摂取する栄養素は私たち人間の体と同じで、何かが不足しても何かを過剰摂取してしまっても、問題が起きる場合があります。特に欠乏によって大きな問題が頻発する恐れがあります。

ここでは、ブドウが土壌から吸収する栄養素の種類と役割を説明し、それらが欠乏してしまうとどのような影響があるかについて、ご説明していきます。

窒素
(Nitrogen)
ほとんどの植物にとって最も重要な栄養素。窒素が不足すると樹勢が弱くなり、収量が激減する。また葉っぱも小さくなり、悪化すると葉っぱが黄色くなることにより、最終的に光合成がうまくできなくなる。また、窒素は発酵時の酵母の働きもサポートするため、不足するとブドウ果実の発酵不良を引き起こしてしまうリスクがある。
カリウム
(Potassium)
ブドウの樹の中に水分をめぐらす役割を担う。欠乏するとブドウの房のサイズが小さくなり、粒の成熟にもばらつきが出る。収量は減り、クオリティも下がる傾向にある。またブドウの果実の酸の生成に影響を与えており、カリウムを多く取り込むとブドウの酸が下がる傾向にある。
リン
(Phosphorus)
細胞や遺伝的物質の構成の役割を担う。不足すると樹勢が弱まり、根が伸びなかったり、収量が減ったりする。また葉っぱがロール状に巻かれた状態なるなど、状態不良を起こす。
カルシウム
(Calcium)
土中のカルシウムの総量はpH値に影響を及ぼす。カルシウムが少ないと酸性の土壌になり、多いとアルカリ性が強い土壌になる。
マグネシウム
(Magnesium)
葉緑素を構成しており、糖の生産に関与する。欠乏すると葉っぱが黄色くなり、収量が下がり、また果実の成熟度も下がる傾向にある。
硫黄
(Sulfur)
タンパク質と葉緑素の構成をしており、酵素の機能やエネルギーの代謝においても重要な役割を担う。欠乏すると、葉っぱが黄色くなり、枝が伸びなくなる。

(Iron)
鉄はタンパク質と酵素を構成する。また葉緑素の生産にも関与しており、光合成や呼吸に影響が出る。欠乏すると、葉緑素不足のため若い葉が黄色化するとともに、糖の生産が制限され、収量が減る。カルシウムの多い土壌で欠乏を起こしやすい傾向がある。
マンガン
(Manganese)
葉緑素の生産と酵素の構成を担う。欠乏すると、鉄や亜鉛の不足と同様に葉が黄色化し、ブドウの樹と果実の生育を遅らせる。欠乏はカルシウムの多い土壌や砂質土壌で起こりやすい。
モリブデン
(Molybdenum)
窒素の代謝に寄与する。欠乏することはあまりないが、症状は窒素の欠乏と似ており、葡萄の樹の成長を阻害し、実がつきにくくなり収量が減る。

(Copper)
葉緑素の生産、細胞壁の代謝、光合成、呼吸への役割を担う。欠乏すると根や枝、葉が発育不全に陥ってしまい、果実もつきにくくなる。逆に銅が土壌に蓄積すると、リンと鉄の吸収を阻害する。土壌の不活性化にもつながる危険性がある。
亜鉛
(Zinc)
タンパク質やホルモン、果実の生産に影響を及ぼす。欠乏すると、葉が小さくなり、まだら模様になる。また、ブドウの樹が発育不全になり、果実がつきにくくなるとともに、ミルランダージュの房が発生しやすくなる。
ホウ素
(Boron)
健全なブドウの成長と、結実に影響を与える。欠乏することは多くないが、欠乏すると葉が黄色くなり、発育不全になって収量が落ちる。

これらのような栄養素を保持することができる容量を示す指標のことを陽イオン交換容量(Cation Exchange Capacity 略してCEC)と呼びます。CECが大きい土壌ほど肥沃な土壌になる傾向があります。一般的に粘土の含有量が多ければ、CECも大きくなる可能性が高いです。

ただし当然欠乏は避けなくてはなりませんが、高品質なワインを作るためには収量を制限する必要があり、肥沃であれば良いというわけでもありませんので、この辺りは誤解のないようにしてください。


pH値から見る土壌

pHというのはpotential Hydrogenの略で、pHが低い場合は酸性が強く、pHが高い場合はアルカリ性が強くなります。pH値は0-14の幅で表され、7が中性でこれより値が小さいものを酸性、これより値が大きいものをアルカリ性と呼びます。

土壌にとって理想的なpH値は作物によって異なりますが、ブドウの場合は一般的に6〜7くらいの弱酸性が理想的とされています。極端に高いもしくは低いpH値の土壌でブドウを育てるためには、そのpH値に適した台木を採用する必要があります。

アルカリ性土壌:

ブドウ果実へのカリウムの供給を制限し、結果としてpHの低いブドウジュース、すなわち酸の強いワインになる傾向があります。一方で、土壌がアルカリ性に傾きすぎると、鉄・マンガン・亜鉛のブドウへの供給を阻害する傾向にあり、欠乏症を引き起こす恐れがあります。

酸性土壌:

酸性に傾いた土壌では、マンガン・鉄・銅・亜鉛・ホウ素などの金属系栄養素が溶けやすく、これらの栄養素の過剰症になるリスクがあるとされています。また、根の伸長を強く抑制する(細胞分裂を停止させる)と考えられています。更に、リン酸と結合し不溶性のリン酸アルミニウムとなり、根からのリン酸吸収を阻害します。

生き物との共存:

良質な畑には1ha辺り4百万匹ものミミズが生息すると言われています。ミミズは年間約4.5kgの糞を排泄し、その糞は弱酸性の性質を持っており、畑のpH値を安定させる役割を担っています。良質な畑においてミミズの存在というのは非常に重要です。そのため、ミミズのような畑で共存する生物を死滅させないような農法というのが、良い畑、ひいては良いワインを生産するために非常に重要です。


粒子別の土壌の種類

土を粒子のサイズで大別すると、粘土・シルト・砂・砂利に分けることができ、これらの混合物が土壌と呼ばれます。

この大別された4種類の要素の混合比率に応じて、できあがる土の性質が変わり、異なる土壌として見なされています。例えばローム土壌であれば粘土が0~15%、シルトが20~45%、砂が40~65%で構成されると定義されています。

ではこのような土の粒子はどこから生まれるのでしょうか?

答えは、母岩です。母岩というのは土の底にある地球そのもののような岩盤のことです。この母岩に浸食、食搬、食磨、また微生物などが作用し、さらに生物の遺体が腐食して混ざるといった生物的な作用が加わり、岩盤が分解され土が作られていきます。最初は岩の塊の母岩が礫になり、砂利になり、砂になり、そして粘土へと分解されていくのです。

サイズ毎による分類と生み出されるワインの一般的な風味の傾向は、以下の通りです。

粒子サイズ 特徴 風味の傾向
粘土 粒子の大きさが0.002mm以下。分子レベルでは板が重なったような層状になっている。水分を保持し、乾燥した上部の土壌に水を与える能力が高い。 リッチ、錆びたような印象、どっしりとしている、芳醇、丸みがある。
シルト 粒子の大きさが0.002-0.02mm。砂よりも粒子が細かく、肥沃で、保水性が高い。岩粉とも呼ばれる。 一般的にバランスが取れ、果実味の豊かなタイプのワインとなる傾向がある。
粒子の大きさが0.02-2mm。ザルの様に水はけがよい。フィロキセラへの耐性がある。一方で、マグネシウム・マンガンが欠乏しやすい。 繊細なワイン、特に珪砂からのワインはシンプルになる。
砂利
(礫)
2mm以上。粒子の大きさは中礫(4-64mm程度)~大礫(64-256mm程度)。保熱性が高く水はけが非常に良い。色が明るいので太陽の反射光を獲得できる。 アルコール度数が高く、がっしりした骨格のあるワイン。

(参考)構成要素別土壌例

※新潟県庁発表 「新潟県における土づくりのすすめ方」(平成17年2月作成)『Ⅰ土壌の基礎知識(1)』より抜粋


母岩の性質別土壌の種類

最後は先ほどサイズ別の分類で少し触れた、土の元となっている母岩の性質について見ていきましょう。

母岩の成り立ち別に3分類され、その中でさらにいくつかの種類に分類されるのですが、ワインの味わいに関連するものをピックアップしてご紹介します。

火成岩(Igneous):

地球の血液であるマグマからできている。

火成岩は2つに大別することができ、地中のマグマが凝固したものを貫入岩、噴出したマグマが凝固したものを火山岩(噴出岩)と呼ぶ。

一般的に、火成岩質土壌から生産されるワインは際立ったテクスチャーがあり、ナーバス・センセーション(生命力あふれる感覚)といわれる特徴を持つ傾向にある。火成岩の有名な小分類は以下の通り。


a:  玄武岩 (basalt)

玄武岩

特徴 溶岩流が冷えて形成された岩石で、鉄を豊富に含む。また熱を放射するという特徴を持つ。元々は非常にきめの細かい分子のため、分解されると保水性が非常に高い土になる。雨や熱の影響で暗い黒色や赤色へと変色し、赤色はフェノール化合物の組成成分と濃度に影響を与える鉄を多く含む。
風味の傾向 一般的にワインは錆びたような印象、酸化っぽい酸、灰のような印象を持つ。
代表産地 エトナ、ウィラメットヴァレー、ソアヴェ

b:  花崗岩 (granite)

花崗岩

特徴 流紋岩質マグマが、地上へは噴出せずに、ゆっくりと冷却されてできると言われる。花崗岩質の土壌はPHが低い酸性土壌(Phが低い=マンガンやアルミニウムのような化学物質の濃度が高く栄養素が低い)になる傾向がある。栄養素が著しく低く、粘土の含有量が非常に少ないため水はけが非常に良い。石英が多いので、多孔質で空気をたっぷり含んでいる土壌になりやすいく、有益なバクテリアや菌類と共存しやすいという特徴もある。
風味の傾向 際立ったストラクチャーと刺すようなピリッとした酸味、さわやかさ(ミネラリティ)、より辛口、若いうちはアロマがおとなしめだが熟成とともに開くというような特徴を持つ。
代表産地 ボジョレー、ローヌ北部、ミュスカデ、リアスバイシャス

 堆積岩(Sedimentary) :

小川から海まで、あらゆる水域から生じた土砂が時間をかけて堆積し岩になったもの。


a:  砂岩 (sandstone)

特徴 石英もしくは長石を主体として構成される岩石。水はけがよく、CECが小さくなる傾向にある。
風味の傾向 ライトボディでさらっとしたテクスチャーのワイン。
代表産地 アルザスの一部、ピエモンテ、キアンティ

b:  火打石 (silex)

特徴 石英と同質の酸化ケイ素が白亜の層に含まれて化学変化したもの。金属の様に非常に固い。
風味の傾向 スモーキーな風味、燻製塩、火薬のニュアンスが感じられるワインが多い。
代表産地 サンセール、トゥーレーヌ

c:  石灰岩 (limestone)

特徴 恐らくワイン生産において最も知名度がある土壌。太古の海底堆積物とサンゴ礁が積み重なった岩石で、黄色がかった白色でチョークの様にもろく、いくつも小穴が空いたスポンジのような堆積岩。空気を多く含むため、土中の微生物との共存にも向いている。砕けやすく、場合によってはブドウの根が岩盤を割って入り込むこともある。
カルシウムが豊富で、生育期間終盤のブドウの酸度を保ってくれるため、一般的にしっかり熟しても酸が保たれたワインとなる傾向にある。ブドウの病害耐性も上げると言われる一方で、鉄・マンガンの欠乏を起こしやすい。また、カルシウムの豊富な土壌は粒子内部の保水性が高く、日照りの時期には土壌が水分を保つ一方で、粒子の間は水捌けが良く豪雨の時には雨水を適度に排出してくれるため、ブドウ樹は水浸しにならずに必要な水分を吸収することができる。このようにブドウ栽培においてメリットが多い。
風味の傾向 直線的なストラクチャーを持つ長い余韻、カルシウムによって酸が高くなるなどの特徴を持つ。
代表産地 シャンパーニュ、ブルゴーニュ、ヘレス、ロワール

変成岩(Metamorphic):

何百万年といった非常に長い期間、熱と圧力を受けて変成した岩石のことを指す。

葉状構造と非葉状構造に分けることができ、代表的な変成岩には大理石やラピスラズリ、ホルンフェルスなどがある。

一般的にワインは、豊かで力強くはっきりとした風味が感じられる、広がりのあるテクスチャー、果皮の厚いブドウになる傾向がある。


a:  粘板岩(slate)

特徴 比較的若い頁岩由来の岩石。色は黒っぽく、pH値はほぼ中性。片岩より熱も圧力も低い状態で形成されたため脆く砕けやすい。
風味の傾向 一般的な味わいは明確に把握されていない。
代表産地 プリオラート(llicorella),モーゼル地方(schiefer)

b:  片岩( schist)

特徴 比較的若い頁岩由来で、粘板岩よりもより熱く、高い圧力で形成された岩石。粘板岩よりもpH値は高く、密度も高く硬い。
風味の傾向 豊かでしっかりと酸を感じるはっきりとした味わい、仄かに鉄のニュアンスを備える、タンニンが強くなる。
代表産地 リベイラ・サクラ、ルーション

 


このように土壌にはいろいろな特徴・特性・役割があります。土壌だけを切り取ってワインの味わいを語るのは難しいですが、その風味の特徴がワインに反映されていると実感することは多々ありますし、私を含む多くのワイン愛好家の皆様は、ワイン産地の土壌には多くのロマンが積まっているように感じるのではないでしょうか。

ワイン選びの時にブドウ品種や国だけではなく、土壌でも選べるなんてマニアックな選択肢が生まれたら、ワインの世界はもっと楽しくなるかもしれませんね。

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