グラス選びは「何を飲むか」から「どう味わうか」へ トップソムリエ2人に聞いて見えてきた、プロのグラス選びの現在地 (広報 浅原有里)

グラス選びは「何を飲むか」から「どう味わうか」へ トップソムリエ2人に聞いて見えてきた、プロのグラス選びの現在地 (広報 浅原有里)

ワインの味わいを左右する「グラス」。
赤・白・スパークリングで使い分ける。ボルドー型、ブルゴーニュ型を揃える。さらに品種や産地、ワインのスタイルに応じて細かく使い分ける。といったように、レストランによって、その考え方も揃えるグラスの種類もさまざまです。

では、トップレベルのソムリエは、実際に何を考えてグラスを選んでいるのでしょうか。

今回お話を伺ったのは、東京・東麻布のミシュラン二つ星「Crony」のオーナーソムリエで、2025年「Asia’s 50 Best Restaurants」の「Beronia Asia’s Best Sommelier Award」を受賞した小澤一貴さんと、長年レコール・デュ・ヴァンで講師を務め、レストランや企業の飲料監修にも携わるワインディレクターの田邉公一さんです。

お二人には、フィラディスが正規代理店を務めるグラスブランド「Sydonios(シドニオス)」についてインタビューを行ったのですが、そのなかから見えてきたのは、プロフェッショナルがグラスを選ぶ際の基準や、その背景にある大変興味深い考え方でした。

ひとつは、プロになるほど「このワインなら、このグラス」という単純な対応だけでは考えていないこと。

もうひとつは、グラスの種類を増やすことだけが、必ずしも高度なグラス選びではないということです。

さらにその先には、「何のワインか」ではなく「このワインをどう味わいたいか」からグラスを選ぶ、新しい考え方も生まれています。

今回はお二人の言葉を手掛かりに、プロフェッショナルのグラス選びについて、あらためて考えてみたいと思います。


「この銘柄には、このグラス」とは決めない

小澤さんにCronyでのグラス選びについて尋ねたところ、最初に返ってきたのがこんな言葉でした。「このワインの銘柄にこのグラス、というのは特に決めていません」
もちろん、一般的なセオリーはあります。しかし小澤さんが実際のサービスで考えているのは、それだけではありません。

同じ銘柄、同じヴィンテージであっても、ボトルごとにコンディションは異なります。そのワインが今どれほど開いているのか。どの温度で提供するのか。香りを大きく広げたいのか、それともフレッシュな状態を保ちながら楽しんでもらいたいのか。

さらに、目の前のお客さまがどれほどワインに慣れているのか、その方がそのワインをどう飲みたいのかまで考えるといいます。

つまり判断材料は、「何のワインか」だけではなく、「今日、このワインを、この方にどう味わってもらうか」ということです。

品種や産地は、もちろん重要な情報ですが、トップレベルのサービスになると、それはグラスを決めるための「答え」ではなく、判断材料のひとつに過ぎないのかもしれません。

 

グラスによって、ワインの「どこを見るか」を変える

もうひとつ、小澤さんの話で興味深かったのが、料理とのペアリングにおけるグラスの考え方です。Cronyの料理について、小澤さんは、ひとつの素材をさまざまな調理によって「360度から感じてもらう」と表現します。そしてグラスにも、それと似た役割があるといいます。

ワイン全体のバランスを保ちながら、その中にある一部分をよりシャープに見せる。香りなのか、酸なのか、テクスチャーなのか。料理との組み合わせによって「どこに焦点を当てるか」を変えていく。
グラスは単にワインを入れる器ではなく、ワインの見せ方を調整する道具でもあるということです。

ボウルの大きさや最大径、リムの径、ワインが空気と接する面積、液面から鼻までの距離。こうした要素が変われば、香りの立ち方も、口に入ったときの印象も変わります。

だとすれば、グラス選びで考えるべきなのは、「このワインに合うグラスはどれか」だけではありません。「このワインの何を、今日は感じてもらいたいのか」という問いも必要になってきます。

 

目的が違えば、「良いグラス」の条件も変わる

ここで、田邉さんへのお話がひとつの視点を与えてくれました。
田邉さんが長年携わってきたワイン教育の現場では、品種や産地が異なるワインも、同じテイスティンググラスを使って比較します。皆さまにも馴染み深いと思いますが、INAOグラスを使ったテイスティングの方法です。

重要なのは、なぜ同じグラスを使うかということです。グラスによる差をできるだけ排除し、条件を揃えることで、ワインそのものの違いを見る。つまり、客観的に比較・分析する場面では、グラスを「変えない」ことに意味があります。

一方、レストランで一杯のワインの魅力を最大限に引き出そうとすれば、逆にグラスという変数を積極的に利用することができます。同じワインを異なるグラスに注げば、香りや味わいの感じ方は変わる。

「正確に比較する」ことが目的なのか、「そのワインの魅力をどう表現するか」が目的なのか。目的が違えば、グラスに求める役割も異なります。この違いを理解して、意図的に使い分けることに、プロフェッショナルなグラス選びの一端があるように感じました。

 

「たくさん持つ」ことが、プロとは限らない

もうひとつ、お二人への取材を通じて考えさせられたのが、そもそも何種類のグラスを揃えるべきなのかという問題です。

かつて田邉さん自身、レストランでペアリングを担当していた時代には、非常に多くのグラスを使い分けていたそうです。品種ごと、スタイルごとに最適なグラスを探し、ペアリングのたびにグラスを変える。それ自体がゲストにとっての驚きや楽しみにもなります。

一方で、現在の田邉さんは「時代がシンプルに向かう中で、あえてグラスを絞っていく方法もあるのではないか」と話します。

例えば、ワインテイスターでソムリエの大越基裕さんのお店「An Di」では、基本的に木村硝子店の「サヴァ」一種類でワインを提供しています。このように、感度が高く軽やかで現代的なスタイルのお店などで、こだわり抜いたひとつのグラスを軸に、すべてのワインを提供しているのを目にすることも多くなってきました。

反対に、数十種類ものグラスを揃え、一本一本に応じて細かく使い分ける名店ももちろん数多くあります。

どちらが高度で、どちらが簡素という話ではありません。大切なのは、なぜその種類のグラスを揃え、なぜそのグラスを選ぶのか。種類の多さそのものではなく、そこに明確な考えがあるかどうかなのだと思います。

 

では、「産地でも品種でもない」グラスとは?

こうしてトップソムリエの話を整理していくと、グラス選びにはひとつの共通した考え方が見えてきます。

ワインをラベルだけで判断しないことです。

同じピノ・ノワールでも、若くタイトなワインと、熟成して柔らかくなったワインでは、グラスに求める役割は同じではありません。また、同じシャンパーニュであっても、ミネラルと酸が際立つ緊張感のあるスタイルもあれば、果実の厚みや熟成による複雑さを持つものもあります。

そこで興味深いのが、Sydonios(シドニオス)の考え方です。Sydoniosは、ブルゴーニュ用、ボルドー用、あるいはシャルドネ用、カベルネ・ソーヴィニヨン用・・・といった考え方からスタートしていません。出発点になるのは、ワインの構造やテクスチャー、キャラクター=ワインのプロファイルです。

ブランド立ち上げにあたり、100名以上のワインプロフェッショナルとともに試作とテイスティングを重ね、パワフル、タニック、軽やか、ミネラルといった特徴を持つ20〜25ほどのワインのプロファイルを検証。その結果から基本となる形状を導き出しています。

現在、その考え方は大きく3つのシェイプに整理されています。

  • フレッシュさ、ミネラル感、テンションを際立たせるシェイプ
    酸や緊張感、シャープな輪郭を感じたいワインに。
  • 力強さや構造、タンニンを受け止めるシェイプ
    パワフルで骨格があり、十分な広がりを必要とするワインに。
  • 柔らかさや繊細さ、熟成によるニュアンスを引き出すシェイプ
    タンニンが落ち着いたワインや、熟成による複雑さを丁寧に味わいたいワインに。

それぞれにミディアムとラージの2サイズが用意されていますが、基本となる考え方はこの3つです。

ここで重要なのは、「シャンパーニュだからこの形」「ピノ・ノワールだからこの形」と決まっているわけではないことです。例えば、若くミネラル感の強いシャンパーニュと、熟成を経てふくよかさを持つシャンパーニュでは、選択する形が変わり得ます。

つまりSydoniosが提示しているのは、「これは何のワインか」ではなく、「このワインをどう味わいたいか」からグラスを選ぶという発想なのです。

 

「答え」よりも「問い」を変えたSydonios

もちろん、品種や産地に対応したグラスが間違っているわけではありません。
長年の経験から導き出されたそれぞれの形状には理由があり、グラスによる味わいの違いを私たちに分かりやすく示してきました。

しかし、ワインそのものも変わってきています。同じ産地、同じ品種であっても、造り手やテロワール、醸造方法、熟成によってスタイルは大きく異なります。そう考えると、品種や産地だけを起点にするのではなく、今目の前にあるワインのキャラクターを見るというSydoniosの考え方には、現代のワインに合った合理性があります。

また、この発想は今回お話を聞いたトップソムリエたちの考え方とも重なります。小澤さんは、銘柄だけではグラスを決めません。ワインの状態を見て、料理を見て、お客さまを見て、「どう飲んでもらうか」を考える。田邉さんは、多くのグラスを使い分けてきた経験を持ちながら、現在は「絞る」という考え方にも可能性を感じています。

Sydoniosもまた、無数の品種や産地ごとのグラスを揃えるのではなく、ワインのプロファイルという別の切り口からグラスを整理しました。

共通しているのは、既存の分類にワインを当てはめるのではなく、まず目の前のワインを見るということではないでしょうか。

 

味だけではない。プロが見ている「グラスの機能」

さらに小澤さんの話からは、プロが見ているものが味覚だけではないことも分かります。Cronyでは、お客さまが2時間、3時間と食事を楽しむ中での「快適性」も重視しているとのこと。

どれほど美しいグラスでも、重ければ何度も持ち上げるうちに疲れます。ステムが高すぎれば、向かいの人と会話するときに視界に入り込むことでしょう。料理を食べ、会話をし、自然にグラスへ手を伸ばす、その一連の動作の中で、できるだけ存在を主張せず、ワインそのものを楽しませてくれることも、グラスの重要な機能だと小澤さんは考えています。

田邉さんもSydoniosを初めて使った際、「グラスが消えたよう」「液体が直接入ってくるよう」と感じ、それを評価したと話していました。

薄さや軽さは単なる高級感の演出ではなく、飲み手とワインの間にある介在物をどれだけ小さくできるかという考え方にもつながっています。

グラスの形状。
重さ。
リムの薄さ。
ステムの高さ。
テーブルに置いたときの佇まい。
そして、料理やサービスとの関係。

プロがグラスを見るときには、想像以上に多くの要素が検討されています。

 

「何のグラスが正解か」ではなく、「なぜそのグラスなのか」

今回、お二人にグラスについて話を伺って最も強く感じたのは、プロフェッショナルになればなるほど、「正解のグラス」を探しているわけではないということでした。

たくさんの種類を揃える店もあれば、ひとつのグラスを軸にする店もある。
同じワインでも、その日の状態や料理、お客さまによってグラスを変える人もいる。
客観的にワインを比較するときには、あえてすべて同じグラスを使う。
そしてSydoniosのように、品種や産地ではなく「どう味わうか」から形状を選ぶという考え方も生まれています。

結局のところ重要なのは、「何のグラスを使っているか」以上に、「なぜそのグラスを使うのか」。その問いを持つことなのかもしれません。

次にワインを飲むときには、「この品種だからこのグラス」と考えるだけでなく、このワインの何を感じたいのか。そんな視点からグラスを選んでみると、いつもの一本にも、これまでとは違う表情が見えてくるかもしれません。

 

Sydonios https://firadis.co.jp/sydonios/

 

 

 

CTA-IMAGE ワイン通販Firadis WINE CLUBは、全国のレストランやワインショップを顧客とするワイン専門商社株式会社フィラディスによるワイン直販ショップです。 これまで日本国内10,000件を超える飲食店様・販売店様にワインをお届けして参りました。 主なお取引先は洋風専門料理業態のお店様で、フランス料理店2,000店以上、イタリア料理店約1,800店と、ワインを数多く取り扱うお店様からの強い信頼を誇っています。 ミシュラン3つ星・2つ星を獲得されているレストラン様のなんと70%以上がフィラディスからのワイン仕入れご実績があり、その品質の高さはプロフェッショナルソムリエからもお墨付きを戴いています。 是非、プロ品質のワインをご自宅でお手軽にお楽しみください!