ワインの造り方で、味わいはどう変わる? ― 2つの比較テイスティング(広報 浅原有里)
ワインの造り方による味わいの違いは、知識として知っていても、条件を揃えて飲み比べる機会はなかなかありません。今回のワインコラムプロでは、そんな違いを確かめる2つのプチ実験をご紹介します。
1つ目は、ドサージュ量の異なるシャンパーニュを約10年間熟成させた比較です。長い熟成を経たとき、ドサージュ量の違いは味わいにどのように表れるのでしょうか。
2つ目は、フィルター処理とSO₂や酵母の添加による味わいの比較です。同じワインで条件を変え、それぞれが味わいに与える影響を確認しました。
いずれも、普段飲んでいるワインの味わいと、その造り方との関係を考えるきっかけになる内容です。飲み比べて感じた違いを、順にご紹介します。
①ドサージュ熟成比較実験
NV Brut Reserve Carte d’Or / Gersende Lefevre (Etienne)
仏・シャンパーニュ、ピノ・ノワール75%、シャルドネ25%
- 2015年11月にデゴルジュマンを行い、ドサージュ量を0、3、6、8、20g/Lの5段階に設定
- 2016年3月にフィラディスのセラーへ入庫後、2025年2月の試飲までセラー保管
- 通常のドサージュ量は、6g/L
- ヴェルズネイを主体にヴェルジー、ボーモン、マイィをブレンドしたグランクリュ・シャンパーニュ

| ドサージュ量 | コメント |
|---|---|
| 0g/L | 非常にドライな印象。酸を非常に強く感じ、酸に全体の印象が引っ張られるよう。蜜リンゴやナッツ、ブリオッシュ、メイラード反応からくる甘やかな香りがあり、熟成感も出ている。 |
| 3g/L | 味わいの印象は0g/Lと似ている。ドライで酸を強く感じる。赤いリンゴやローストしたナッツ、メイラードからのトーストしたパンや甘やかな香りがあり、熟成感も出てきている。0g/Lよりも明るいニュアンスで、アフターに華やかさがある。 |
| 6g/L | 熟成の良さが出ており、アップルパイやカスタードのような香り。酸・ミネラル・果実味のバランスがよく、熟成感といきいきとした味わいが両立している。トップから甘やかなニュアンスを感じ、味わい全体を包むような甘美さがある。アフターに特に甘さを感じる。 |
| 8g/L | 上の3つとは少し異なる世界観。色調が3つよりも濃く、どっしりとした重心の低さを感じる。香りは6g/Lと同様にアップルパイやカスタードが前面に出ているが、酸は控えめになり、その分まとわりつくような甘さが目立つ。熟成の程度は6g/Lと同等。 |
| 20g/L | 8g/Lよりもさらにどっしり大柄で、ねっとりまとわりつくような甘さがある。色調は濃く、クリームブリュレやカラメル、リンゴ飴の香りが強く、酸は感じづらい。3g/Lや6g/Lにあったようなミネラルや酵母のニュアンスなど甘さ以外の要素は感じづらく、特にアフターの甘さが顕著。熟成の程度は他と変わらないが、丸みを帯びてヘビーさが増した印象。 |
スパークリングワインでは、ブドウ由来の甘さは前半に出て、ドサージュ由来の甘さはアフターに表れると言われていますが、今回のテイスティングでもその違いをはっきりと感じました。
0g/Lや3g/Lは、トップで蜜リンゴのような甘やかな風味がありましたが、アフターにはほとんど甘さが残りませんでした。6g/Lになるとアフターの甘やかさが明確になり、8g/L、20g/Lでは終始甘さを感じながらも、特にアフターに残る濃厚な甘さが目立ちました。
熟成の程度には、ドサージュ量による大きな差は感じられませんでした。ただし、熟成したワインの味わいの印象は異なり、ドサージュ量が多いものほど、丸みやボリュームを強く感じました。また、ドサージュ量の多いワインの方が熟成によってクリームブリュレやアップルパイなどの香りが出ており、一般的に好ましいとされる味わいになっているという意見もありました。
今回のテイスティングでは、ドサージュ量の違いは、熟成の程度よりも、甘さの残り方や味わい全体のバランスに表れているように感じました。
②フィルター&SO2&酵母の差異による比較実験
オーストリア・カンプタルのワイナリー、Weszeli(ヴェスリ)からサンプルをご提供いただき、3種類のワインをそれぞれ2つの条件で比較しました。フィルター処理やSO₂・酵母の添加条件の違いによって、香りや味わいにどのような差が表れるのかを確認しました。

テイスティング1:2020 Gruner Veltliner Steingarten
グリューナー・フェルトリーナー100%
| 条件 | コメント |
|---|---|
| フィルター処理有り SO₂は通常量 |
シトラスやレモンの香り、クリスピーでフレッシュ。輪郭がはっきりとしていて、イキイキしている。全体的に引き締まっており、すっきりとした印象。 |
| フィルター処理無し SO₂は通常より少量 |
色調は上のワインに比べて濃く、少しくすんでいる。レモンピールの香りにイーストや熟成のニュアンス。軽いタンニンがあり若干苦味がある。凝縮した旨味があり、酸と厚みのある味わいが力強さを感じさせる。複雑さを感じる反面、輪郭はやや曖昧。 |
テイスティング2:2020 Rose Eden
ツヴァイゲルト80%、カベルネ・フラン20%
| 条件 | コメント |
|---|---|
| フィルター処理有り SO₂は通常量 |
サーモンピンクのクリアな色味。あんず、オレンジピール、フレッシュなベリーの香り。クリーンで、中盤からアフターにかけて引き締まるような印象。 |
| フィルター処理無し SO₂は通常より少量 |
上のワインよりオレンジがかっており、濁りがある。香りの広がりは控えめで、揮発酸のニュアンスもある。酸を強く感じ、出汁っぽい旨味や若干の苦味など、複雑な要素がある。上のワインよりゆったりした飲み心地。 |
テイスティング3:2020 Pet Nat Rose
ツヴァイゲルト100%
| 条件 | コメント |
|---|---|
| デゴルジュマン時に SO₂を添加、酵母無添加 |
サーモンピンクのクリアな色味。気泡は細かい。ラズベリーやクランベリーのフレッシュな香り。泡が溌剌としており、酸もフレッシュで強い。下のワインと比べると熟成のニュアンスを感じる。 |
| デゴルジュマン時に 酵母を添加、SO₂無添加 |
ビビッドで濃い色調。気泡は大きめ。ラズベリーやクランベリーなど香りの要素は同じだが、熟度高く濃く感じる。加えて、ハーブなど青い要素もあり、複雑な味わい。泡は軽やかでふわっとしており、泡の存在感が穏やかな分、風味を強く感じる。還元のニュアンスがある。 |
今回の比較では、フィルター処理を行い、通常量のSO₂を添加したワインは、フレッシュな果実の香りと、輪郭の明瞭さが印象的でした。無濾過でSO₂の添加量を抑えたワインでは、味わいに厚みと複雑さを感じました。全体の締まりは穏やかで、力の抜けたゆったりとした飲み心地がありました。
ペット・ナットでは、泡と風味のバランスにも違いが表れました。SO₂を添加し、酵母を添加していないものは、溌剌とした泡とフレッシュな酸が印象に残りました。酵母を添加し、SO₂を添加していないものは、泡の感触が軽やかで、その分、ワインの風味を強く感じました。
今回は複数の条件を同時に変えているため、それぞれの処理の影響を個別に判断することはできません。それでも、醸造時の選択が、香りや味の内容だけでなく、輪郭、質感、余韻、そして各要素のバランスにまで表れることを実感できる比較でした。
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